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三年目の冬の話

八 何も知らない

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 午後八時。
 外は大雪だった。エマに呼び出され、ルイスとレンはマリアンヌを連れて、近くのファミリーレストランにやってきた。客は非常に少なく、スタッフの方が多いくらいだ。
 そこで初めて出会った、目の前に掛けている青年は、レンの目に、まだ少年のようにも見えた。彼は一人で来た。そして、ミシェルがマリアンヌを産んで死んだというエマの説明を黙って聞いていた。

「では、ミシェルとの子で間違いない?」
「……はい。産んでいたのは、知りませんでしたが」

 学校内の情報を頼りに、エマは彼を見つけた。日本人の男子学生だ。ミシェルは留学していて、学校で出会ったという。一年ほど付き合っていて、ある日、子どもができたといわれて、ミシェルはおろすと言ってそのまま消えたと彼は言った。
 真実かはわからない。ミシェルはもういない。
 野生のような眼差しの少年だった。不良のようではないが、家庭環境があまりよくないらしい。
 レンは窓際の席でマリアンヌを抱き、彼女を軽く揺らしたりしながら、対面の彼の話を聞いていた。聞くだけだ。
 彼との話は、レンの隣のエマとその向こうのルイスに任せている。

「すみません、ちょっとトイレ」

 と彼が席を立つ。
 三人と小さな一人になって、エマがため息を吐いた。

「親御さんと話さないとねー……」

 そこでルイスが顔をあげて気づいた。

「おい、待ちなさい。待て!」

 ルイスが立ち上がる。大声をあげて止める。
 レンも顔をあげる。
 青年はお手洗いではなく、出入口のドアを出て行こうとしていた。ふらふらと。彼のリュックさえ置き去りだ。
 ルイスが追いかける。エマもその場に立つ。
 レンはマリアンヌがいるので、席を離れられない。外は大雪だ。出ていけない。助けられない。事の成り行きを見守るしかない。ルイスに任せるしかない。
 彼ならなんとかなる、とレンは思った。
 窓際の席から見える。駐車場に出て、雪道をふらふらと出ていく青年を、走っていったルイスが捕まえる。
 腕を掴んだ瞬間、青年がその場に座り込んだ。
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