甘くないケーキを半分こ

みつきみつか

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一 クリスマスケーキの話

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 軽く仮眠をとりたかったものの二人ともが深く寝てしまうかもしれないという懸念により、寿人さんは俺に先を譲ってくれて、俺は休憩スペースで三時間ほど眠ることにした。
 休憩スペースは厨房に入る通路の途中の更衣室内にあり、床より一段高くなっている畳一畳分のスペースだ。
 やっと休めると思うと体の力が抜けて、倒れ込んで目を閉じたら意識を失くした。目覚めると睡眠不足を痛感するような鈍い頭痛がした。目が重い。時計を見ると、午前八時半過ぎだ。三時間だけのつもりが三十分も過ぎてしまった。
 俺は慌てて交代を呼びかけにオフィスに向かう。
 オフィスは更衣室から出入口に向かう途中にある一部屋で、便宜上オフィスと格好良く呼んでいるが、実態は事務作業用スペースという趣だ。工場を運営する上での事務方はすべてここで行われる。
 部屋の中央は事務デスクが四つ固まった島で、FAX機と複合機が入ってすぐの位置にあり、三方はすべてが棚で、レシピ、納品書、見積書、卸業者への発注書などを入れるのだが、入りきらなかった書類が棚から溢れて床に積まれている。
 奥のデスクで寿人さんがパソコンを眺めていた。

「すみません、遅れました」

 眼精疲労のためにしょっぱい目をしばたたかせながら声を掛ける。

「いえ、狭山さんには、本当はご自宅に帰ってもらいたいんですが、すみません」

 と、寿人さんは悔しさを少しにじませながら言った。たしかに、もう五日近くタイムカードの退勤を切っていない。泊まり込みである。
 寿人さんは作業着を脱ぎ、ワイシャツとスラックス姿だった。ネクタイこそしていないが、きちんとして見える。やはりデスクにスーツでいるほうが彼に似合う。背が高くて、作業台はかがまなければならず、つらそうだった。
 俺は言った。

「ほんと、いつ帰れるんですかねぇ?」

 と訊ねると、寿人さんは深刻な顔になり、眉頭を押さえ、俯いた。

「このまま年末年始に突入するかもしれません」
「えー!?」
「いま人事担当と調整中です。すみません。人手不足で……。本当に年末年始もこのままになりそうですが、年明けにはなんとか。泊まり込みだけは回避できるとは思うんですが」

 冗談だったのに、冗談ではなかったようだ。何連勤になるというのだろう。
 以前とった休日は、工場長は前任者である、寿人さんの従兄だったときだ。一ヶ月以上前、ということだ。かといって、工場の窮状を知りながら全てを放り出して帰るという時期は逸している。乗りかかった舟だ。

「……ま、どうせ帰ってもひとりですし、給料にちょびっと色でもつけてくれたらそれでいいですかねぇ、げへへ」
「はい」
「えっ、つけてもらえるんですか!? 残業代だけじゃなくて!?」

 寿人さんは不思議そうに首をかしげた。

「当然です。僕は現在この会社の経理、財務、労務の責任者です。前任工場長のトラブルと従業員の一斉退職後のクリスマスシーズンを一人で担当した狭山さんに特別手当をつけられないなら、こんな会社、見限ってやります」

 彼がそんなことを言うなんてと俺は意外だった。眠すぎて、どこかネジが一本外れてしまったのだろうか。さすがロボットとかコンピューターといわれるだけはある。

「えー!? 寿人さんが辞めたらまともな上層部がいなくなるじゃないですか!」
「従業員にそんなふうに言われるなんて……」
「あっ、すみません」

 冗談です、と寿人さんは笑った。俺は固まった。
 このひと笑うんだ。
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