甘くないケーキを半分こ

みつきみつか

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二 年末年始の誕生日ケーキ

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 第二章

   1

 年末年始は、意外と洋菓子が売れる。帰省の際に持っていく大人数向けの手土産にくわえ、和菓子やおせちなどにやや飽きてしまった勢力が洋菓子を求めてくるからだ。
 製菓工場の厨房には、スタッフの行き交う音が戻った。まったく新しい面子でも、レシピと動線がしっかりしていれば、滞ることなく業務は進むものなんだと俺は感心した。
 クリスマスのあと。寿人さんが人事や各店舗と調整し、新しいスタッフを募集して増やした結果、十二月三十日の年内最終日には、十人のスタッフが集まり、以前と同様の生産量を取り戻したのだ。
 と、生産量や進捗率の数字をわざわざA3の紙に印刷して、寿人さんが持ってきた。焼き上がったパウンドケーキをケーキクーラーで冷ました後、包装室にこもって真空機械にかけている俺のところに。

「すごいっすね」

 寿人さんは早口で得意気だ。

「スタッフの総入れ替えでしたから、一挙に業務効率化を進めました。こちら、また昨年同月の数字の分析ができたので比較したところ、やはり、歩留まりの改善だけが原因ではなさそうな異常がありました。仕入れ額と大幅に合わないことは御存知の通りです。商品ごとの数字としては缶類がとくに合わず、次にドライフルーツで、次が包装資材……」

 包装を終えて、パウンドケーキを並べていく。同じ種類を同じばんじゅうに入れる。
 プレーン、アーモンドスライスの散ったキャラメル、くるみとチョコ、ホワイトチョコをかけたいちご、ミックスフルーツ。
 寿人さんは俺のとなりに立ち、手元を覗き込む。

「真空袋のロスはどの程度ですか? 狭山さんの時と他のスタッフの時と」
「真空袋はですねぇ、設定温度が高すぎると、とじた箇所が焼き切れます。でも、最初に温度調節してテストしておけば、焼き切れることはないです。よほど長時間使ってヒーターが過熱したり、それを見過ごさない限り、微調整していけば袋のロスはありません。俺だろうが他の人だろうが変わりません。長時間の使用には注意です」
「なるほど。また今度、包装全般の工程を教えてください」
「わかりました。それが用件ですか?」
「あぁ、明日明後日は休みますという話をしたくて」
「お疲れ様です。久々のお休みでしょう。ゆっくりしてください」
「僕ではなくて狭山さんがです」

 寿人さんは怖い顔をしている。

「……片方は休みますよ。全社、三十一日と一日は休みですもんね」
「両方休んでください」
「まだ俺しかできない仕込みがあって……」
「両方休んで明々後日から作業でも間に合います。あのですね、狭山さん、ご自分の今年の出勤日数をご存知ですか? もし明日でたなら三百三十日です。年間休日三十五日。一ヶ月で三日弱」

 寿人さんは怒っていた。感情をあらわにすることがないと思っていたが、マイナスの感情は時々出てくる。というより、俺が、寿人さんの表情を読むことができるようになったのか。あるいは、寿人さんが、俺に対して、感情を見せるようになったのかもしれなかった。
 他のスタッフは、寿人さんと会話することがない。どうやら怖いそうで、寿人さんへの相談事は、俺に一任されている。

「日給月給ですから、正直助かってます」
「大きな声では言えませんが、今度特別手当がつきます。休んでもつきます。だから休んで」
「じゃあなおのこと出勤したいじゃないですか。日給プラス特別手当て」
「いい加減にしてくださいよ。僕に労基署対応という仕事を増やす気ですか?」
「だって寿人さんも他人のこと言えないでしょ」

 仰るとおり、俺は休んでいない。しかしこの一ヶ月少々、寿人さんを見ない日はなかった。住んでいるのではないかと思うほどここに詰めている。

「僕は経営者の一味なんです。従業員とは違います。出勤じゃなくて出禁にしますよ!」
「あはは」

 捨て台詞を吐き、寿人さんはこれ配送に持っていきますからねとぷんぷん怒りながら積み込み待ちのばんじゅうを台車に積み、軽バンの停めてある裏手に運んで行った。
 親切だった。
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