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二 年末年始の誕生日ケーキ
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三十一日の早朝に出勤すると、長らく本店勤務で先日異動してきたスタッフ一人が、残っている作業を片付けているところだった。今日は出勤はふたりだ。本日はオーブンは休みで、調理器具の掃除がメイン。俺の姿を見て苦笑しながら会釈してくる。
「おはようございます。休まれなかったんですね」
「おはようございます。いやー、どうも気になりまして……。俺も掃除しますね」
昨夜おこなった棚卸しの数字を確認しつつ、粉部屋をチェックしてから掃除をしていると、鬼の形相をした寿人さんがオフィスからすっ飛んできた。
「狭山さん!」
「寿人さん。おはようございます」
「おはようございます、ではありませんよ。なぜ出勤しているんですか。出禁って言ったでしょ!」
「気になることがあって……、それが終わったので、掃除してます」
「気が済みましたか?」
一人よりは二人のほうが捗りますね、と答えともいえない答えをいうと、寿人さんは舌打ちをしながら出ていった。
そのうち、寿人さんに告げ口したスタッフがやってきた。
「お疲れ様です。終わったので帰るように言われました」
「はーい、おつかれさまー」
「狭山さんも連れ帰るようにだそうです」
寿人さんの差し金である。仕方ない。気になることも終えたので引き下がるか。
俺は彼とともに着替え、工場の裏手に出た。一度どかっと積もった雪は、溶けることなく残って、道が氷漬けになっている。
「狭山さん、四十連勤なんですよね」
「あー、はい」
「奴隷契約とかですか?」
俺は噴き出した。
「なにそれ」
「だって狭山さんって、工場の前社長の息子さんなんでしょ。噂で聞いたんですけど。工場が買収されるときにセットで売られたんじゃないかって」
末端のスタッフまでほぼ正確に事情を把握しているのだから、知らないひとなどいないに違いない。
「現代社会に奴隷契約なんてないよ。ふつうに、家が近いから応募しただけ。それに、工場が買収されたのは二年前だし、俺が働き始めたの一年前だし」
そうなんですね、と彼は納得し、着いた駅で別れた。彼は何も考えていなさそうだった。だが、寿人さんはどうだろうか。二年前、潰れかけの洋菓子工場を安値で買収したら、破産した元社長の息子が、母方の苗字を名乗ってこっそり入り込んでいたら。
職人たちはそのまま引き継がれたので、長年いた職人は俺の素性に気づいた。口止めはしたが、人の口に戸は立てられないものだ。
「そろそろ、潮時かなぁ」
俺はひとりごちた。
三十一日の早朝に出勤すると、長らく本店勤務で先日異動してきたスタッフ一人が、残っている作業を片付けているところだった。今日は出勤はふたりだ。本日はオーブンは休みで、調理器具の掃除がメイン。俺の姿を見て苦笑しながら会釈してくる。
「おはようございます。休まれなかったんですね」
「おはようございます。いやー、どうも気になりまして……。俺も掃除しますね」
昨夜おこなった棚卸しの数字を確認しつつ、粉部屋をチェックしてから掃除をしていると、鬼の形相をした寿人さんがオフィスからすっ飛んできた。
「狭山さん!」
「寿人さん。おはようございます」
「おはようございます、ではありませんよ。なぜ出勤しているんですか。出禁って言ったでしょ!」
「気になることがあって……、それが終わったので、掃除してます」
「気が済みましたか?」
一人よりは二人のほうが捗りますね、と答えともいえない答えをいうと、寿人さんは舌打ちをしながら出ていった。
そのうち、寿人さんに告げ口したスタッフがやってきた。
「お疲れ様です。終わったので帰るように言われました」
「はーい、おつかれさまー」
「狭山さんも連れ帰るようにだそうです」
寿人さんの差し金である。仕方ない。気になることも終えたので引き下がるか。
俺は彼とともに着替え、工場の裏手に出た。一度どかっと積もった雪は、溶けることなく残って、道が氷漬けになっている。
「狭山さん、四十連勤なんですよね」
「あー、はい」
「奴隷契約とかですか?」
俺は噴き出した。
「なにそれ」
「だって狭山さんって、工場の前社長の息子さんなんでしょ。噂で聞いたんですけど。工場が買収されるときにセットで売られたんじゃないかって」
末端のスタッフまでほぼ正確に事情を把握しているのだから、知らないひとなどいないに違いない。
「現代社会に奴隷契約なんてないよ。ふつうに、家が近いから応募しただけ。それに、工場が買収されたのは二年前だし、俺が働き始めたの一年前だし」
そうなんですね、と彼は納得し、着いた駅で別れた。彼は何も考えていなさそうだった。だが、寿人さんはどうだろうか。二年前、潰れかけの洋菓子工場を安値で買収したら、破産した元社長の息子が、母方の苗字を名乗ってこっそり入り込んでいたら。
職人たちはそのまま引き継がれたので、長年いた職人は俺の素性に気づいた。口止めはしたが、人の口に戸は立てられないものだ。
「そろそろ、潮時かなぁ」
俺はひとりごちた。
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