はじめての契約つがい

みつきみつか

文字の大きさ
28 / 54
5 巣作りと発情期

五 抑制剤(※)

しおりを挟む
「尚くん?」

 声をかけられて、はっと目を覚ます。
 衣類の巣から外を覗くと、ベッドのふちに腰掛けたスーツ姿の文弥さんが、ネクタイをゆるめながら、俺を覗き込んでいた。今しがた、仕事から帰ってきたみたい。
 廊下の灯りはついていて、寝室は暗くて、逆光になってるけれど、表情はわかる。文弥さんは優しく微笑んで、俺を見ている。ことのほか優しい目をしている。

「ただいま」
「おかえりなさい……ごめんなさい……」

 文弥さんはくすくす笑いながらジャケットを脱いだ。

「これも使う?」

 と、ネクタイとジャケットを差し出してくれた。
 俺がそろりと手を伸ばして袖を掴むと、脱ぎたてのあたたかいジャケットからは文弥さんのにおいがふわっと漂って、俺は慌てて両方を自分の胸にかき抱いて、鼻を埋める。
 ほおずり。すき。このにおいがたまらなくすき。ジャケットのぬくもりに包まれたいけど、鼻を離せない。あたたかくて濃厚なうちに嗅ぎたい。ずうっと嗅いでいたい。
 皺にならないようにしなきゃ……。

「シャツと肌着もあるよ」
「ください……」

 文弥さんが脱いだものを渡してくる。これもすき。肌がびりびりする。欲しい。
 しばらく味わって、俺はやっと衣類の山を抜け出して、脱いだまま待っている文弥さんにまとわりつく。文弥さんのあちこちに鼻を寄せる。肌のにおいを直接感じる。あったかくて気持ちいい。
 文弥さんのにおい、いいなぁ。

「おかえりなさい……」

 跨って文弥さんの頰を両手でふわっと挟んで唇を吸うようにキスをしながら言うと、文弥さんは幸せそうに笑っていて、なんだか、多幸感で溶けそう。

「ただいま。くすぐったいよ。もっとして」
「ん……」
「尚くん、すんごく可愛いんだけど。どうするの? どうしたらいい?」
「文弥さん……好き……」
「僕の服でこんなことされて、そんなふうに言われたら、僕もう、きみのこと離せないよ」
「離しちゃやだ……」
「なんて。離す気ないけどね」

 夢中になってキスをした。

「ん、んぅ……」
「なおくん……」
「ふみやさん……」
「……尚くん、発情期乗り切ったんじゃないの? 途中で抑制剤を飲んでいたよね?」

 あ……、気づかれていたんだ。

「んと、最初、抑制剤やめて……、でも、具合が悪くなって、病院いって、強いの一回飲んで……そしたらおさまって……それきり……なにも飲んでないです……」

 でも、別荘に行ったときには、すっかりおさまっていた。別荘でセックスはたくさんしたけど、発情期という感じではなかった。
 そっか。これ、発情期なのか。どおりで熱いはずだ。
 頭がはたらかない。呂律も回らない。
 文弥さんのにおいだけで勃起がおさまらなくて、ずっと勃ってる。
 文弥さんは跨る俺を優しく抱き寄せ、背中を指先で撫でながら俺の首筋に口付けてくる。くすぐったくてぞくっとする。

「ひゃ」
「周期が乱れたのかな。α用の抑制剤も、尚くんの発情期を前にすると役立たずかも」
「???」

 文弥さん、α用の抑制剤、飲んでたんだ。
 体が熱くて、頭も熱くて、ぼーっとして何も考えられない。部屋も暑い。汗が噴き出してくる。熱。でも体がだるいわけではなくて、あそこがむずむずする。

「よくせいざい……?」

 文弥さんは苦笑した。

「Ωのヒートにあてられて、ラットを起こさないように、事故にならないように自衛するんだよ。αの周りには、事故狙いのΩがたまにいてね。発情期のΩは、αの人生を狂わせてしまうからって、学校では生徒指導が厳しかったよ」
「しどう……」
「なぜ、これほど克己心を持つように教育されてるのに、咬傷事故が後を絶たないのか、そんなのは結局、誘惑に負けたやつの甘えだと思ってた」

 でも、いまとなってはわかるなぁ、と文弥さんはため息を吐いた。その息も熱い。文弥さんも熱くなってるみたい。脱いでいるのに、体が熱い。
 先走りに濡れた俺のペニスを、文弥さんは片手で軽く扱いている。

「ぁっ、ん、っ」
「あー、すご……抗えないはずだ。すごいにおい」

 噛みつくようなキスをしながら、押し倒された。文弥さんは強引で、夢中になったら止まれない。そういうひとだけど、いまはなんだか様子が違う。汗がぽたぽた落ちてくる。
 目が怖い。怖いのに、食べられたい。

「尚くんのにおい」

 肩をつかんで、鎖骨を噛んだり、肌を食んでる。あちこち舐められるとびくびくして、下半身がずくずくと疼いた。早く、早く欲しい。貫いてほしい。早く。

「ごめん。挿れる。かわいすぎて、もう我慢できない」
「ほしいです、文弥さん」
「僕も尚くんが欲しい」

 文弥さんは、性急に挿入してくる。濡れたそこはやすやすと文弥さんを受け入れた。
 ずりゅっと一気に入る。文弥さんのペニスは、こんなにも太くて固くて長くて、なんでそんなの体の中に入るのって大きさなのに。
 途端、体の中に電気が流れる。強い快感が走った。

「ひっ、あああぁっ!!」

 あまりにも気持ちよくて、あげさせられた足が勝手に突っ張って、天井に向かって揺れる足は、指まで広がっている。

「っ、尚くん……っ」

しおりを挟む
感想 77

あなたにおすすめの小説

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

番解除した僕等の末路【完結済・短編】

藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。 番になって数日後、「番解除」された事を悟った。 「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。 けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

孕めないオメガでもいいですか?

月夜野レオン
BL
病院で子供を孕めない体といきなり診断された俺は、どうして良いのか判らず大好きな幼馴染の前から消える選択をした。不完全なオメガはお前に相応しくないから…… オメガバース作品です。

借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる

水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。 「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」 過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。 ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。 孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。

陰キャな俺、人気者の幼馴染に溺愛されてます。

陽七 葵
BL
 主人公である佐倉 晴翔(さくら はると)は、顔がコンプレックスで、何をやらせてもダメダメな高校二年生。前髪で顔を隠し、目立たず平穏な高校ライフを望んでいる。  しかし、そんな晴翔の平穏な生活を脅かすのはこの男。幼馴染の葉山 蓮(はやま れん)。  蓮は、イケメンな上に人当たりも良く、勉強、スポーツ何でも出来る学校一の人気者。蓮と一緒にいれば、自ずと目立つ。  だから、晴翔は学校では極力蓮に近付きたくないのだが、避けているはずの蓮が晴翔にベッタリ構ってくる。  そして、ひょんなことから『恋人のフリ』を始める二人。  そこから物語は始まるのだが——。  実はこの二人、最初から両想いだったのにそれを拗らせまくり。蓮に新たな恋敵も現れ、蓮の執着心は過剰なモノへと変わっていく。  素直になれない主人公と人気者な幼馴染の恋の物語。どうぞお楽しみ下さい♪

処理中です...