エリート先輩はうかつな後輩に執着する

みつきみつか

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4 ある二月の雪の夜

九 心配になるらしい(※)

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 日曜日。午後五時。
 外はすでに暗くて寒い。
 そろそろ飯でも行ってカズ先輩を見送らないといけない。だけど、昼食後に少し散歩して帰ってきて、それから前戯に耽って、また本番を始めてしまった。
 全部脱いでベッドの上。やりすぎ。気持ちよすぎて毎回おかしくなる。
 四つん這いになって、後ろから、結局この土日のうちに何度もしゃぶったカズ先輩のそれが、少しずつ入ってくる……。
 優しいふりをした意地悪な声が降ってくる。

「多紀くん、腰動いてる。可愛い。自分から飲み込んでるよ」
「ふあっ、あ、は、はい、あっ」

 自分でも、こすりつけている自覚はある。広げられる感覚。もっとしてほしい。
 頭と体が完全に異なってる。性欲でいっぱいになる。
 全身が敏感になる。肌のどこに触れられても、びりびりしてきて、集中してしまう。血が集まる。
 興奮しすぎて自分が自分じゃない。酔っぱらっているときみたいにふわふわして現実感がない。
 体が欲しがってる。欲しい。気持ちよくなりたい。
 半年前に二日間ほぼエッチしてたことがあったけど、あのときよりも、体がこの快感を強く求めてる……。
 俺の体を、カズ先輩は快楽で支配してる。
 カズ先輩の作戦勝ちなんじゃないの。これ。

「やらしいな、可愛いな」

 小刻みにしながら、カズ先輩は少し動きを止める。俺は必死になって後ろに手を伸ばして、カズ先輩の太ももを引き寄せようとする。

「お願い、和臣さん、あっ、入れて、して、あっあっ」

 カズ先輩は俺の腰をぐいっとつかんで引き上げる。その拍子に全部入った。

「あああっ、あっ」

 頭が真っ白になる。体が悦ぶ。快感に襲われて、何も考えられない。理性は置き去り。
 カズ先輩はゆっくり動き始める。

「ああ……っ、和臣さん」
「多紀くん、エッチだね。俺のだけで済むのかな……」
「和臣さんのだけ、だから、あっ、気持ちい、もっとして、こすって……!」
「多紀くん、それやばい……」
「お願い、イきたい、して、気持ちいい、お願い……」
「するけど、あんまりねだられると、俺がイきそう……」

 カズ先輩はまた少し止まる。俺のほうからこすりつけてしまう。快感を追っていく。
 突かれて、出し入れされるたびに粘着質な音が立つ。ベッドの音も何もかも。

「欲しいです、ください……」
「何がほしいの? 多紀くんの好きなようにしてあげる」
「こすってほしい、中こすって、突いて」
「エッチ好き?」
「好き……イきたい、イかせてほしい」
「多紀くん、俺も好き、多紀くんの中でイくの好きだよ」

 カズ先輩はやっと激しくしはじめた。尻を何度か叩かれると、熱い。鷲掴みにして掘ってくる。
 俺はシーツに必死にしがみついて、耳を犯すような肉のぶつかる音と絶え間ない動きにタイミングを合わせながら、内側に起こる絶頂の兆しを捕まえて追っていく。

「あっ、あっあっ」
「俺とエッチするの大好きになったんだね」
「っ、好き……、気持ちいい、和臣さん、エッチ気持ちいい、んん、う、あ、ああっ」
「多紀くん、多紀くん。可愛い……可愛い可愛い」

 カズ先輩は深く打ち込みながら、俺の前に手を回して、指先で性器を激しく扱く。

「あっあっあっ、それ、されるとっ」
「気持ちいいね。びんびんになってる。これがいいの? エッチ気持ちい? ちんぽ好き? これが欲しかった? 入れられて大きくなっちゃったね?」
「ああっ、か、和臣さん、欲しい、気持ちいい、好きっ、和臣さんっ、あっあっ、欲しい、あっ、あっ、イく、イく……! あっ、出るっ」
「多紀くん、出てるよ、可愛い。いっぱい出てる」
「ああっ、気持ちい、あっ、あっ、もっと、して、こすって……!」

 何度も何度も求めた。カズ先輩が出すまで、何度も。
 終わって、汗だくになって抱き合う。お互いに、荒くなった息を整える。
 いま何時だろ……。
 カズ先輩は俺を強く抱きしめていて離れられない。俺はぐったりして、されるがまま。
 肩に腕を回されて、カズ先輩の胸にぐいっと抱かれる。心臓の音が重なるみたい。
 カズ先輩は唸るように言った。

「すーっごく心配。多紀くん、もしかして、こういうこと、他の男としたりしないよね……?」

 しないし。訊かれても困るよ。俺の体をこんな風にした張本人のくせに。
 俺は顔をあげて訊ねる。

「こんなこと、他の誰とするっていうんです?」
「俺とだけだよね?」
「……なんでそんなに心配するんですか?」

 カズ先輩は、誤魔化すように笑う。

「距離が離れてるし……多紀くんエッチ好きでしょ。だから」

 色々言いたいことはあるけど。
 とにかく、ひとつわかった。カズ先輩、海外赴任の件、俺に言わないつもりだな。
 金曜日は、けっきょく西さんも葉子さんもすっかりお開きで、お祝いとか忘れてたから、カズ先輩は俺が海外赴任の件を知らないと思ってる。

「また、来月にでも会います?」
「あー、会いたいんだけど、すごく会いたい。だけどごめん、いま仕事忙しくてさ。大阪来れないかな……」
「よかったら、東京まで行きますけど」
「ほんと? タキくんが? ……でも、嬉しいけど忙しくてさ。嬉しい。ごめん、そうだな、落ち着いて会えるのは、ゴールデンウィーク前後かな。またそのあたりで、会ってくれる?」
「ええ、会いましょうか」
「嬉しいな……」

 と、カズ先輩は幸せそうに、俺の手を取って、自分の頭の上に乗せはじめた。

「ごっこ遊びですか?」
「あ、ごめん。嫌だった?」

 カズ先輩は俺の手を元の位置に戻そうとする。

「嫌じゃないですけど」

 というと、また自分の頭の上に乗せる。俺はその髪の毛を指先で弄ぶ。
 カズ先輩はまた嬉しそうに笑う。

「多紀くんとこうしてるの、夢みたい……気持ちいい」
「だけど、そろそろ出ないと。終電何時だろう……」
「新幹線は、午後九時二十四分かな。もう少しだけ、あと少しだけ撫でてくれたら、嬉しいな……」

 俺はカズ先輩の望むとおりに、髪や、頬を撫でる。カズ先輩は気持ち良さそうに目を閉じた。
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