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5 ある休み明け(多紀視点)
一 ゴールデンウィークの直後
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あれ。鍵、どこに入れたっけ。
カバンを探る。サイドポケット。
あ、あった。
鍵を開けてドアを開ける。廊下には明かりが点いている。
「ただいまぁ」
「おかえり、多紀くん」
和臣さんは玄関に来ている。穏やかな声とやわらかい笑顔にほっとする。
こうして出迎えてもらえるって、それだけで一日の疲れを忘れるというか、安心するんだな……。
和臣さんはすでに部屋着に着替えている。でも食事はまだに違いない。
和臣さんにくっついていく。
「んー……」
和臣さんは俺を抱きとめて俺の髪を撫でる。
しばらく抱き合ったあと、少し離れると、キスがひとつ落ちてくる。
「多紀くん、おかえり」
「カズ先輩、早かったですね」
「うん」
午後八時。いつもは和臣さんも似たような時間なのに。
「すぐごはんにしますね!」
「あ、作ったよ。ちょうどできたところ。一緒に食べよう」
「えー! すみません!」
「ううん。できるほうがすればいいよ」
「ありがとうございます」
「おいで。おなかすいたでしょ」
優しいなー。晩飯作りは俺の担当なのに。
この人、エッチ以外は、とにかく柔和で優しくて癒やし系なんだよね。
外見は男の目にも保養。気弱そうで儚い雰囲気の甘いマスク。目が大きくて鼻が高くて、形の良い唇。ふんわりした笑みがよく似合う。
背が高くてシュッとしてて肩や背は広くてバランスがよくて、手足が長い。骨張った大きな手。指が長くてきれい。むかしは華奢だったけど、いまは、筋肉質なモデル体型。
落ち着いていて話し方はやわらかい。声も良くて、とげとげしさがなくて、話していて聞いていて、めっちゃ楽。
バンコク赴任中に比べても、いまは、ただの先輩と後輩として飯を食っていたときみたいにふわり幸せそうで穏やか。
なぜ下半身は別人格なんだろ……。
「多紀くん、仕事忙しいみたいだね。大丈夫?」
「あ、はい。新しい企画が進行してて、わからないことも多くて。今日は派遣先でトラブルもあって、気づいたらこの時間で」
そうはいっても午後八時。
むかし勤めてたブラック企業ならば、今頃はデスクで遅すぎる昼飯を食べてる時間帯かな。
「記憶ないと色々困るよね」
「い、いろいろ手探りですね」
「俺でよければ話も聞くからね。なんでも言ってね」
「ありがとうございます。今のところ平気です」
「……じゃあ、仕事のことは忘れて、ごはんを食べてお風呂に入って、ゆっくり休もう。あとでマッサージしてあげようね」
マッサージまでしてくれるのか……。
ゴールデンウィークが明けて、早一週間。
気を遣ってくれるし、落ち着いてるし、物静かだし、率先して色々してくれるし、暮らし方も丁寧で、かといって神経質でもなくて。
料理はうまいし、コーヒーいれてくれるし、洗濯や掃除もきちんとして、きれい好きだけど強要しない。
俺のスーツや革靴の手入れもしてくれて、洗濯物のほつれとか汚れなんかもすぐ気づいてくれる。
体調を気遣ってくれるし、マッサージもしてくれて、俺が嫌なこと全然しない。
くっついてくることもあるけどしつこくなくて、俺がくっついていくといつでもウェルカムで、俺のことが大好きだし、俺があとで帰ると出迎えてくれて……めちゃくちゃ居心地がいい。やさしい生活。控えめに言って最高。
誰かと暮らしてるとき、家に帰ってほっとすることなんてなかったな……。
十年前。誰かと暮らしていたときは、いつも顔色をうかがっていて、帰って誰もいないほうが気楽で、一人暮らしを始めたときは、家って安心できるんだって思ったものだ。
だけど和臣さんと暮らしてみると、考えが変わってきた。
おかえりに意味があるなんて知らなかった。帰ってきて嬉しいって顔をしているから、俺も、帰ってきてよかったなって思う。
ベッドの上では相変わらずとんでもないんだけどさ……。
革靴を脱いで揃える。廊下を歩く背中についていく。
ドアを開ける和臣さんの背中に抱きついてみる。
記憶を取り戻したことは伝えてないけれど、その分、好きだって伝えられたらいいなって思ってる。
何も伝えなくて不安にさせていたんだったら、いまの俺なら伝えられるはずだし。
和臣さんは立ち止まっている。くすくす笑ってる。
背中に額を擦り寄せる。
「多紀くん。甘えん坊?」
「いいですか?」
「大歓迎ー」
振り向いた和臣さんの胸の中におさまってまた抱かれる。
恥ずかしいけど、少し慣れてきた。
撫でられると気持ちいい。肩を抱かれたり、額につまばむようなキスが降ってくる。柔らかい唇。
「多紀くん、多紀くん。待ってた……寂しかった」
「寂しかったんですか?」
「うん。早く会いたいなって。多紀くんが帰ってくると安心する……」
「おんなじですねぇ」
「大好き……」
「俺も好きです」
「~~~!」
和臣さんは真っ赤な顔。悶絶してる。
俺は、かなり恥ずかしいのだけど、まあ喜ぶならいっか。
カバンを探る。サイドポケット。
あ、あった。
鍵を開けてドアを開ける。廊下には明かりが点いている。
「ただいまぁ」
「おかえり、多紀くん」
和臣さんは玄関に来ている。穏やかな声とやわらかい笑顔にほっとする。
こうして出迎えてもらえるって、それだけで一日の疲れを忘れるというか、安心するんだな……。
和臣さんはすでに部屋着に着替えている。でも食事はまだに違いない。
和臣さんにくっついていく。
「んー……」
和臣さんは俺を抱きとめて俺の髪を撫でる。
しばらく抱き合ったあと、少し離れると、キスがひとつ落ちてくる。
「多紀くん、おかえり」
「カズ先輩、早かったですね」
「うん」
午後八時。いつもは和臣さんも似たような時間なのに。
「すぐごはんにしますね!」
「あ、作ったよ。ちょうどできたところ。一緒に食べよう」
「えー! すみません!」
「ううん。できるほうがすればいいよ」
「ありがとうございます」
「おいで。おなかすいたでしょ」
優しいなー。晩飯作りは俺の担当なのに。
この人、エッチ以外は、とにかく柔和で優しくて癒やし系なんだよね。
外見は男の目にも保養。気弱そうで儚い雰囲気の甘いマスク。目が大きくて鼻が高くて、形の良い唇。ふんわりした笑みがよく似合う。
背が高くてシュッとしてて肩や背は広くてバランスがよくて、手足が長い。骨張った大きな手。指が長くてきれい。むかしは華奢だったけど、いまは、筋肉質なモデル体型。
落ち着いていて話し方はやわらかい。声も良くて、とげとげしさがなくて、話していて聞いていて、めっちゃ楽。
バンコク赴任中に比べても、いまは、ただの先輩と後輩として飯を食っていたときみたいにふわり幸せそうで穏やか。
なぜ下半身は別人格なんだろ……。
「多紀くん、仕事忙しいみたいだね。大丈夫?」
「あ、はい。新しい企画が進行してて、わからないことも多くて。今日は派遣先でトラブルもあって、気づいたらこの時間で」
そうはいっても午後八時。
むかし勤めてたブラック企業ならば、今頃はデスクで遅すぎる昼飯を食べてる時間帯かな。
「記憶ないと色々困るよね」
「い、いろいろ手探りですね」
「俺でよければ話も聞くからね。なんでも言ってね」
「ありがとうございます。今のところ平気です」
「……じゃあ、仕事のことは忘れて、ごはんを食べてお風呂に入って、ゆっくり休もう。あとでマッサージしてあげようね」
マッサージまでしてくれるのか……。
ゴールデンウィークが明けて、早一週間。
気を遣ってくれるし、落ち着いてるし、物静かだし、率先して色々してくれるし、暮らし方も丁寧で、かといって神経質でもなくて。
料理はうまいし、コーヒーいれてくれるし、洗濯や掃除もきちんとして、きれい好きだけど強要しない。
俺のスーツや革靴の手入れもしてくれて、洗濯物のほつれとか汚れなんかもすぐ気づいてくれる。
体調を気遣ってくれるし、マッサージもしてくれて、俺が嫌なこと全然しない。
くっついてくることもあるけどしつこくなくて、俺がくっついていくといつでもウェルカムで、俺のことが大好きだし、俺があとで帰ると出迎えてくれて……めちゃくちゃ居心地がいい。やさしい生活。控えめに言って最高。
誰かと暮らしてるとき、家に帰ってほっとすることなんてなかったな……。
十年前。誰かと暮らしていたときは、いつも顔色をうかがっていて、帰って誰もいないほうが気楽で、一人暮らしを始めたときは、家って安心できるんだって思ったものだ。
だけど和臣さんと暮らしてみると、考えが変わってきた。
おかえりに意味があるなんて知らなかった。帰ってきて嬉しいって顔をしているから、俺も、帰ってきてよかったなって思う。
ベッドの上では相変わらずとんでもないんだけどさ……。
革靴を脱いで揃える。廊下を歩く背中についていく。
ドアを開ける和臣さんの背中に抱きついてみる。
記憶を取り戻したことは伝えてないけれど、その分、好きだって伝えられたらいいなって思ってる。
何も伝えなくて不安にさせていたんだったら、いまの俺なら伝えられるはずだし。
和臣さんは立ち止まっている。くすくす笑ってる。
背中に額を擦り寄せる。
「多紀くん。甘えん坊?」
「いいですか?」
「大歓迎ー」
振り向いた和臣さんの胸の中におさまってまた抱かれる。
恥ずかしいけど、少し慣れてきた。
撫でられると気持ちいい。肩を抱かれたり、額につまばむようなキスが降ってくる。柔らかい唇。
「多紀くん、多紀くん。待ってた……寂しかった」
「寂しかったんですか?」
「うん。早く会いたいなって。多紀くんが帰ってくると安心する……」
「おんなじですねぇ」
「大好き……」
「俺も好きです」
「~~~!」
和臣さんは真っ赤な顔。悶絶してる。
俺は、かなり恥ずかしいのだけど、まあ喜ぶならいっか。
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