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5 ある休み明け(多紀視点)
七 泣き虫な恋人
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俺のことをさんざん犯して、俺はもう許してなんて懇願してなんとかやめてもらって、やっとのこと終わったけど、へろへろになった俺の体をがっちり閉じ込めるみたいに抱きしめながら、和臣さんはしくしく泣いてる。
泣きたいのは俺のほうだけど。
「多紀くんのこと、閉じ込めておきたい……」
また変なこと言ってるし……。現に手足で閉じ込めてるじゃん。
この状況で逃げることができるやつがいたら、そいつは軟体動物か、関節が外れる脱獄犯かなにかだろ。
「はあ……」
眠いし。
「女子もやだし、男もやだ。ほんとやだ……」
「少なくとも男に興味ないです」
とりあえず半数の可能性は消しておく。
和臣さんと付き合っていたって、他の男に興味が芽生えたことは一度たりともない。
どれだけヤッても、他の男はどうなんだろうとか一切思わない。ぜーんぜん興味ない。めざめてない。やめて。
女性は、やっぱり興味の対象だなとは思う。だけど、不思議なことに、なにも感じなくなった。惹かれない。
だってさあ、和臣さんのほうが見目麗しいし、肌もきめ細かくてすべすべだし、顔小さくて顔立ちも整ってて、すらっとしてて体つきのバランスがよくて眺めてて飽きないし、なにより俺のことが大好きだし。大切にしてくれてたし。
恋人としての理想像ではないけれど、こういう男になりたいっていう理想像ではあるんだよ。頭良くて育ちもよくて背が高くて高収入で、料理までできる。完璧。
生まれ変わったらこういう男になりたいな、みたいな。まあ、精神的に弱いし、強引すぎて非常識なところもあるけど。
とにもかくにも、恋人って現実のほうが不思議なんだわ。なんであなた、俺の彼氏なの?
ていうか、俺よりも和臣さんのほうが圧倒的にモテると思うんですけどね。俺のことだけを追及できるわけ?
相変わらず自信ないの?
いまフツーに好きだって言ってる恋人同士じゃない?
「カズ先輩が、俺のことを信じていないってことは、わかりました」
俺は言った。息も絶え絶えになりつつ。
俺、がんばってなかった?
そんな、欧米人みたく、恋人に熱い言葉を気軽に放ったりしないよ。純正の日本男児だよ。口から生まれたって言われて育ったけど、大人になって落ち着いたし。
好きだなんて言えないよ。なかなか。言えなかったよ。恋も知らない。恥ずかしい。
でも一緒にいたし、バンコクも行ったし、四回も。連絡だってしっかり取ってたし、連絡なかったら心配もしたし、指輪も買ったし、大阪ではお互いにあまり知り合いに会いそうにないのをいいことにちょっと手を繋いで街を歩いたりもしたし。
記憶がなくなって、また思い出して、でもそれは言えなくて、だから最大限好きだって言ってんのに。
記憶がないのをいいことに、甘えまくってるのに。好きだって、恥ずかしいけどかなり口に出してるのに。
恋人なのに。
そんなに疑われるいわれ、ないんですけど。
和臣さんときたら。だって、恋人なの、本当なのかまだわからないんだもんって顔してる。不安そう。
めんどくさい……。
だからって平日の明け方までこんなことするやつがあるかよ。
これ以上どうしろと?
「もう行きませんよ。そんなつもりで行ったんじゃないですけど」
高校の同級生と会うだけだ。友だち付き合い。
「いいんだよ、会いに行けば。わかってるよ。多紀くんにはそんなつもりはないってこと。でも、指輪してなかったし……」
「説明が面倒だっただけです……」
指輪、会社であれだけいじられるんだから、友だちの場合はもっと容赦がない。待ち受けのトカゲでさえ説明に困るのに。
だからしていかなかったんだよ。ただそれだけ。
和臣さんも指輪してないじゃん……。
でもまあ、和臣さんが不安になる気持ちも、わからないでもないか。逆の立場なら。
和臣さんだって、縁談もあったし、熱い視線に囲まれてたし、それはいまも変わらないだろうし。
いつか俺のことに飽きて、俺を好きじゃなくなって、別れる日がきたりするのかな。
よく考えると、男女の付き合いはやがて結婚して子どもができたり、親戚付き合いや、地域のコミュニティがあったりして、外から見ても夫婦ってことで認められるから、恋愛感情がなくても、愛情がなかったとしても、なんらかの繋がりがある。
いくら三組に一組が離婚してる時代って言われたって、やはり別れるのは一大事。
親が離婚してるからわかるけれど、夫婦って元はひとりずつのはずなのに、ひとたび夫婦になるとまたひとりずつに戻るのはことのほか大変で、引き剥がすみたいになる。別れるのって相当面倒なんだよ。
だけど、男同士は、けっきょく恋人同士だ。いろいろ制度はあるだろうけれど、戸籍上結婚することもなければ、周囲から手放しに祝福されることもきっとない。
別れるか別れないかを個人の意志で決めるだけ。どっちかの気が変わったら終わり。
恋心が枯れたら繋ぎ止めておくものがなくなる。心許ない気持ち。だから、相手の心を確かめるしかなくなるのか。
それを思うと、和臣さんよりも俺のほうが不安になってくるじゃん。俺は俺自身にそんなに魅力があるとは思わないよ。
もし和臣さんに、もう一度、断れない見合い話が舞い込んできたら……。
……そのときは、どうするかをふたりで話し合えばいいっていうのは楽観的なんだろうか。
そうでもないよな? ふたりで考えれば、いい解決方法が見つかるかもしれないじゃん。
起こってもないことや起こる可能性の低いことをあれこれと心配してひとりで悩んで苦しいよりも、お互いを信じ合えるように楽しく過ごしていって、いざとなったときに腹を割って本音でぶつかりあう関係を築くほうが、建設的じゃない?
なんでそんなに泣いてるわけ?
話し合いできない人?
「多紀くんが悪いんだ」
眠い。
もう限界。
たしかに前川さんからちょっとお誘いがあった。
もし俺がずるくて二股かけるやつだったり、和臣さんを想ってなくて、前川さんに乗り換えようとするなら、デートもしただろうし、付き合うこともあったかもしれないな。
だけど秒で断ったんだよ。
――誘ってくれてありがとう。嬉しい。でもごめん。彼女はいないけど、いま大事にしたい人がいるから
そう言ってきっぱり断った俺の気持ちのやり場がないんですけど。
この人の暴挙、そろそろなんとかならないかな。いつになったら誠実な人間になるんだろ。
別に、無理に体をつなげなくたっていいのに。そんなに不安なものなのかなぁ。
はあ。ねっむ……。
もう知らんわ。
泣きたいのは俺のほうだけど。
「多紀くんのこと、閉じ込めておきたい……」
また変なこと言ってるし……。現に手足で閉じ込めてるじゃん。
この状況で逃げることができるやつがいたら、そいつは軟体動物か、関節が外れる脱獄犯かなにかだろ。
「はあ……」
眠いし。
「女子もやだし、男もやだ。ほんとやだ……」
「少なくとも男に興味ないです」
とりあえず半数の可能性は消しておく。
和臣さんと付き合っていたって、他の男に興味が芽生えたことは一度たりともない。
どれだけヤッても、他の男はどうなんだろうとか一切思わない。ぜーんぜん興味ない。めざめてない。やめて。
女性は、やっぱり興味の対象だなとは思う。だけど、不思議なことに、なにも感じなくなった。惹かれない。
だってさあ、和臣さんのほうが見目麗しいし、肌もきめ細かくてすべすべだし、顔小さくて顔立ちも整ってて、すらっとしてて体つきのバランスがよくて眺めてて飽きないし、なにより俺のことが大好きだし。大切にしてくれてたし。
恋人としての理想像ではないけれど、こういう男になりたいっていう理想像ではあるんだよ。頭良くて育ちもよくて背が高くて高収入で、料理までできる。完璧。
生まれ変わったらこういう男になりたいな、みたいな。まあ、精神的に弱いし、強引すぎて非常識なところもあるけど。
とにもかくにも、恋人って現実のほうが不思議なんだわ。なんであなた、俺の彼氏なの?
ていうか、俺よりも和臣さんのほうが圧倒的にモテると思うんですけどね。俺のことだけを追及できるわけ?
相変わらず自信ないの?
いまフツーに好きだって言ってる恋人同士じゃない?
「カズ先輩が、俺のことを信じていないってことは、わかりました」
俺は言った。息も絶え絶えになりつつ。
俺、がんばってなかった?
そんな、欧米人みたく、恋人に熱い言葉を気軽に放ったりしないよ。純正の日本男児だよ。口から生まれたって言われて育ったけど、大人になって落ち着いたし。
好きだなんて言えないよ。なかなか。言えなかったよ。恋も知らない。恥ずかしい。
でも一緒にいたし、バンコクも行ったし、四回も。連絡だってしっかり取ってたし、連絡なかったら心配もしたし、指輪も買ったし、大阪ではお互いにあまり知り合いに会いそうにないのをいいことにちょっと手を繋いで街を歩いたりもしたし。
記憶がなくなって、また思い出して、でもそれは言えなくて、だから最大限好きだって言ってんのに。
記憶がないのをいいことに、甘えまくってるのに。好きだって、恥ずかしいけどかなり口に出してるのに。
恋人なのに。
そんなに疑われるいわれ、ないんですけど。
和臣さんときたら。だって、恋人なの、本当なのかまだわからないんだもんって顔してる。不安そう。
めんどくさい……。
だからって平日の明け方までこんなことするやつがあるかよ。
これ以上どうしろと?
「もう行きませんよ。そんなつもりで行ったんじゃないですけど」
高校の同級生と会うだけだ。友だち付き合い。
「いいんだよ、会いに行けば。わかってるよ。多紀くんにはそんなつもりはないってこと。でも、指輪してなかったし……」
「説明が面倒だっただけです……」
指輪、会社であれだけいじられるんだから、友だちの場合はもっと容赦がない。待ち受けのトカゲでさえ説明に困るのに。
だからしていかなかったんだよ。ただそれだけ。
和臣さんも指輪してないじゃん……。
でもまあ、和臣さんが不安になる気持ちも、わからないでもないか。逆の立場なら。
和臣さんだって、縁談もあったし、熱い視線に囲まれてたし、それはいまも変わらないだろうし。
いつか俺のことに飽きて、俺を好きじゃなくなって、別れる日がきたりするのかな。
よく考えると、男女の付き合いはやがて結婚して子どもができたり、親戚付き合いや、地域のコミュニティがあったりして、外から見ても夫婦ってことで認められるから、恋愛感情がなくても、愛情がなかったとしても、なんらかの繋がりがある。
いくら三組に一組が離婚してる時代って言われたって、やはり別れるのは一大事。
親が離婚してるからわかるけれど、夫婦って元はひとりずつのはずなのに、ひとたび夫婦になるとまたひとりずつに戻るのはことのほか大変で、引き剥がすみたいになる。別れるのって相当面倒なんだよ。
だけど、男同士は、けっきょく恋人同士だ。いろいろ制度はあるだろうけれど、戸籍上結婚することもなければ、周囲から手放しに祝福されることもきっとない。
別れるか別れないかを個人の意志で決めるだけ。どっちかの気が変わったら終わり。
恋心が枯れたら繋ぎ止めておくものがなくなる。心許ない気持ち。だから、相手の心を確かめるしかなくなるのか。
それを思うと、和臣さんよりも俺のほうが不安になってくるじゃん。俺は俺自身にそんなに魅力があるとは思わないよ。
もし和臣さんに、もう一度、断れない見合い話が舞い込んできたら……。
……そのときは、どうするかをふたりで話し合えばいいっていうのは楽観的なんだろうか。
そうでもないよな? ふたりで考えれば、いい解決方法が見つかるかもしれないじゃん。
起こってもないことや起こる可能性の低いことをあれこれと心配してひとりで悩んで苦しいよりも、お互いを信じ合えるように楽しく過ごしていって、いざとなったときに腹を割って本音でぶつかりあう関係を築くほうが、建設的じゃない?
なんでそんなに泣いてるわけ?
話し合いできない人?
「多紀くんが悪いんだ」
眠い。
もう限界。
たしかに前川さんからちょっとお誘いがあった。
もし俺がずるくて二股かけるやつだったり、和臣さんを想ってなくて、前川さんに乗り換えようとするなら、デートもしただろうし、付き合うこともあったかもしれないな。
だけど秒で断ったんだよ。
――誘ってくれてありがとう。嬉しい。でもごめん。彼女はいないけど、いま大事にしたい人がいるから
そう言ってきっぱり断った俺の気持ちのやり場がないんですけど。
この人の暴挙、そろそろなんとかならないかな。いつになったら誠実な人間になるんだろ。
別に、無理に体をつなげなくたっていいのに。そんなに不安なものなのかなぁ。
はあ。ねっむ……。
もう知らんわ。
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