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5 ある休み明け(多紀視点)
八 大阪の甘えたがりの年上すっぴん美人
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仕事終わりに有楽町で西さんと牛丼を食べていたら、俺のスマホに葉子さんからメッセージが入ってきた。
「あ、葉子さん」
『おーい、相田くーん。いま何してるー? わたしら同期会なんだけど、近くならちょいと来ないー?』
葉子さんからの召喚。
「西さん、葉子さんがどこにいても今すぐ面貸せって」
「……手持ちあるかいな……」
テーブル席の向かいに座る西さんは財布の中身を確認している。元上司の西さんは彼らに呼び出されると顔出して何枚か置いていく人。
いい元上司すぎないか。あの人たちめっちゃ高給取りなのに。
俺は葉子さんに訊ねる。
『西さんと晩飯です! どこですかー?』
同期会やってるのは知ってるんだけどさ。
『銀座ー!』
「激近っす」
「ほな、ま、ちょっと行くかなー。相田くんどうする?」
和臣さんと険悪だ。会いたくないというわけではないけれど、しばらく口をききたくない気持ちがないでもない。
今朝はぺこぺこ頭下げてたけど。謝ればいいってもんじゃないだろ。明け方まで無理やり。
なんであーいうことするのかね。あの男は。めっちゃ眠いんだけど。
「行きます」
もやもやを抱えつつ、晩飯を終えて西さんと銀座に向かう。有楽町と銀座は歩いてすぐの隣町。葉子さんの誘いを断ることなんてできないし。
座敷の個室に入ると十人。
和臣さんもどうやら飲んでいるらしい。できあがってる。長テーブルの端っこで体育座りして膝を抱えながらロックグラスでウィスキーを呑んでる。
テーブルに空のグラス置きすぎ。顔色は変わってないけど、十杯は呑んだな。呑みすぎ。
西さんが後から入ってくる。そこで和臣さんは正座。
おい、やっぱり女子いるじゃん。しかもきっちり五対五。はあ? って感じ。
俺の同窓会と何が違うわけ?
だんまり決め込んでないで弁解してみろ。
「こんばんはー」
で、紆余曲折あって、話をするうちに、なんだか変な空気になった。
えっと、なんて言ったっけ。
ああ、そう。和臣さんとは、「委員会で一緒だっただけ」ってこと。
沈黙。
同期九人の視線が和臣さんに注がれている。
まずいことでも言った雰囲気。
和臣さんは、両手で顔を覆って俯いた。
絞りだすような声。
「あー……多紀くんには言わないで……。多紀くんは知らないんで、お願いします……」
和臣さんの一言で、九人が納得したように「了解」って頷いてる。葉子さんはにこにこしてる。あれ、「和臣の弱みを握った」って表情だわ。
あ、そうだ。
天使が誰かってこと……。
まさか、同期の方々、俺がその「天使」だって、気づいた?
委員会が一緒だったってこと、もしかして、和臣さん、言った?
俺も沈黙。
俺は知らないから言わないでってことは……俺たちの関係はバレてはないのか。和臣さんの一方的な気持ちってことにしたのかな。
たぶんそう。なんだかんだギリギリのラインで、俺のこと守ろうとしてるっぽい。
呑みすぎてるのによく頭回るなぁ……。
そこに西さん。
「あ、で、相田くん。大阪の彼女とは結局続いてるん?」
「何のことでしたっけ」
俺はこめかみを掻きつつ、とぼけた。
「え? 思い出してへんのん?」
「そうですね、そんな感じ」
「彼女のことを思い出してへんかったら、いったい何を思い出したっていうのん?」
西さん、空気読んで。それ言わないで。
「えーっと……まず仕事。というか、西さんそれ、明日説明するので……」
そこに葉子さん。
「相田くん、そういえば記憶失くしてたんだったね!?」
「はい。そのとおりです」
そこに西さん。
「いうて休み明けには思い出してたやん? 全部思い出したて言うてたやん」
「西さん! 待ってください!」
ぎゃー! 西さんに話したんだ。ゴールデンウィーク後に。
休み明けに出勤したら「おはようございます、所長!」とかいってデスクに『所長席』と書いた札まで用意して俺を騙そうとしてきたから、いや思い出してるんでって。
やりかけの仕事もあったし、西さんが東京に来るのは月の半分くらいだから、記憶ないふりなんてしてたら仕事に支障が出る。だから普通に仕事してた。
和臣さんを見る。
呆気にとられてる。
口をつけようとしていたロックグラスをテーブルに置く。大きな目がまたたいている。
俺はもう和臣さんの顔を直視できない。記憶がないふりしてベッタベタに甘えたり、好き好き言ったりしてたこと。
なんなら和臣さんに忘れてほしい。
「え? 多紀くん、思い出してた……?」
「え? 小野寺、知らへんかったん? なんで?」
訊かないで!
「多紀くん。なんで?」
もうやめて! 俺のライフはゼロです!
「あ、葉子さん」
『おーい、相田くーん。いま何してるー? わたしら同期会なんだけど、近くならちょいと来ないー?』
葉子さんからの召喚。
「西さん、葉子さんがどこにいても今すぐ面貸せって」
「……手持ちあるかいな……」
テーブル席の向かいに座る西さんは財布の中身を確認している。元上司の西さんは彼らに呼び出されると顔出して何枚か置いていく人。
いい元上司すぎないか。あの人たちめっちゃ高給取りなのに。
俺は葉子さんに訊ねる。
『西さんと晩飯です! どこですかー?』
同期会やってるのは知ってるんだけどさ。
『銀座ー!』
「激近っす」
「ほな、ま、ちょっと行くかなー。相田くんどうする?」
和臣さんと険悪だ。会いたくないというわけではないけれど、しばらく口をききたくない気持ちがないでもない。
今朝はぺこぺこ頭下げてたけど。謝ればいいってもんじゃないだろ。明け方まで無理やり。
なんであーいうことするのかね。あの男は。めっちゃ眠いんだけど。
「行きます」
もやもやを抱えつつ、晩飯を終えて西さんと銀座に向かう。有楽町と銀座は歩いてすぐの隣町。葉子さんの誘いを断ることなんてできないし。
座敷の個室に入ると十人。
和臣さんもどうやら飲んでいるらしい。できあがってる。長テーブルの端っこで体育座りして膝を抱えながらロックグラスでウィスキーを呑んでる。
テーブルに空のグラス置きすぎ。顔色は変わってないけど、十杯は呑んだな。呑みすぎ。
西さんが後から入ってくる。そこで和臣さんは正座。
おい、やっぱり女子いるじゃん。しかもきっちり五対五。はあ? って感じ。
俺の同窓会と何が違うわけ?
だんまり決め込んでないで弁解してみろ。
「こんばんはー」
で、紆余曲折あって、話をするうちに、なんだか変な空気になった。
えっと、なんて言ったっけ。
ああ、そう。和臣さんとは、「委員会で一緒だっただけ」ってこと。
沈黙。
同期九人の視線が和臣さんに注がれている。
まずいことでも言った雰囲気。
和臣さんは、両手で顔を覆って俯いた。
絞りだすような声。
「あー……多紀くんには言わないで……。多紀くんは知らないんで、お願いします……」
和臣さんの一言で、九人が納得したように「了解」って頷いてる。葉子さんはにこにこしてる。あれ、「和臣の弱みを握った」って表情だわ。
あ、そうだ。
天使が誰かってこと……。
まさか、同期の方々、俺がその「天使」だって、気づいた?
委員会が一緒だったってこと、もしかして、和臣さん、言った?
俺も沈黙。
俺は知らないから言わないでってことは……俺たちの関係はバレてはないのか。和臣さんの一方的な気持ちってことにしたのかな。
たぶんそう。なんだかんだギリギリのラインで、俺のこと守ろうとしてるっぽい。
呑みすぎてるのによく頭回るなぁ……。
そこに西さん。
「あ、で、相田くん。大阪の彼女とは結局続いてるん?」
「何のことでしたっけ」
俺はこめかみを掻きつつ、とぼけた。
「え? 思い出してへんのん?」
「そうですね、そんな感じ」
「彼女のことを思い出してへんかったら、いったい何を思い出したっていうのん?」
西さん、空気読んで。それ言わないで。
「えーっと……まず仕事。というか、西さんそれ、明日説明するので……」
そこに葉子さん。
「相田くん、そういえば記憶失くしてたんだったね!?」
「はい。そのとおりです」
そこに西さん。
「いうて休み明けには思い出してたやん? 全部思い出したて言うてたやん」
「西さん! 待ってください!」
ぎゃー! 西さんに話したんだ。ゴールデンウィーク後に。
休み明けに出勤したら「おはようございます、所長!」とかいってデスクに『所長席』と書いた札まで用意して俺を騙そうとしてきたから、いや思い出してるんでって。
やりかけの仕事もあったし、西さんが東京に来るのは月の半分くらいだから、記憶ないふりなんてしてたら仕事に支障が出る。だから普通に仕事してた。
和臣さんを見る。
呆気にとられてる。
口をつけようとしていたロックグラスをテーブルに置く。大きな目がまたたいている。
俺はもう和臣さんの顔を直視できない。記憶がないふりしてベッタベタに甘えたり、好き好き言ったりしてたこと。
なんなら和臣さんに忘れてほしい。
「え? 多紀くん、思い出してた……?」
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「多紀くん。なんで?」
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