エリート先輩はうかつな後輩に執着する

みつきみつか

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再会編 ある夜(和臣視点)

二 四年ぶりの再会

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 街。夜。東京のド真ん中。
 お互いに出会うはずのない場所。再会。
 なまぬるい空気。雑踏の中、四年ぶりのタキくんと向かい合う。俺を見上げる笑顔。よく見ると、会わないうちに大人びている。
 泣きたくなるほど懐かしい。ずっと見ていた。だけど、本当は、見てほしかった。言葉を交わしたかった。
 喉が詰まりそうになる。声が出ない。

「偶然ですね!」
「……うん。あ、その、俺、この近くで働いてて」

 会社が近いのは事実。

「あ、そっか。大学卒業、おめでとうございます!」
「ああ、うん。あ、高校卒業おめでとう……」

 二年前だけど。タキくんは、ありがとうございますと礼をする。俺も礼をして、顔をあげる。
 目が合って、笑った。

「あはは! なっつかしー! カズ先輩! 漫才コンビ組んだの、覚えてますか?」
「カズ&タキ」
「です!」

 明るくて可愛い。漫才コンビなんて、些細な会話だったのに、覚えていてくれるなんて。懐かしいといって喜んでくれるなんて。
 抱きしめたいよ、もう。細い体を引き寄せて、無茶苦茶にかき抱いて、キスしたい。
 嬉しくてたまらない。

「タキくん! 元気にしてた?」
「はい! カズ先輩はどうですか?」
「元気だよ。タキくん、いつもこんな時間? 九時? 遅いね?」
「今日は早いくらいです!」
「そうなんだ。今夜、予定でもあるの?」
「いえいえ! 十時に上司が戻ってくる予定になっていて、それまでに皆で帰ろうって。上司に見つかったら仕事をいいつけられて朝になっちゃうんですよ。あ、俺もこの近くで働いてるんですけどね」

 そういうことか。よかった。誰かと待ち合わせではないんだ。
 なんでもいい、引き留める口実が欲しい。話題、話題……。

「晩ごはんは?」
「あ、食べちゃいました、パン二個ですけど。八時を回ってくるとおなかすいちゃって」
「……そっか」
「カズ先輩はまだなんですか?」
「まだ。今日少し忙しくて……。タキくん、この辺りのお店でどこか美味しいお店知ってる? 高くてもいいから何か美味しいもの食べたい気分……」

 すると、タキくんは少し目を細めて同情的に微笑んだ。どうやら社会人としての先輩面をしているらしい。可愛いな。きっと、俺が、会社で何か嫌なことでもあったのだと考えているのだろう。

「なにがいいですか? 焼肉、中華、カレー、寿司、洋食、和食、エスニック……」
「なんでも……やってるところで美味しければ」
「いちばん近いのは日本料理屋ですね。途中まで一緒にいきましょう」

 あっちです、と言って、タキくんと連れ立って歩いていく。肩を並べて。ふわふわした気分になる。
 高校のときにも並んで歩いた。頭の中で何度も反芻したあの場面を、二十歳と二十三歳で再現しているような、新しく始まったかのような。
 立ち止まって、この道を真っ直ぐです、と路地を示したタキくんに、俺は提案する。

「あのさ、あんまり食べられないかもしれないけど、タキくんもよかったらどう? タキくんの胃がまだ入りそうならで、いいんだけど。その、ひとりで食べるの味気なくて」

 タキくんは腕時計も見ずに言った。

「大丈夫ですよ。ご一緒させていただきます」
「ありがとう。俺が出すからね」
「えっ、それは気にしないでください。パン二個だから、途中で腹減ってたはずなんで」
「ううん。再会記念に。遠慮しないでほしい……。あっ、また、あらためてでもいいんだけど、今日疲れてるよね、ごめん。急だし、我儘だよね」
「そんなことないですよっ。再会記念、いいですね!」
「……一緒に行ってくれる?」
「じゃあ、お言葉に甘えて」

 胸が締めつけられるのは、タキくんが優しいせいだけじゃない。嘘を吐いて付き合わせることへの後ろめたさ。ごめんね、帰りたいだろうに。
 好きだということを再認識して、何も間違いじゃないとわかったせい。
 髪型だとか、顔かたちだとかの、容姿ではない。自然体。連日遅くて疲れているだろうに、何も訊かないでいて付き合ってくれる、心地好さ。
 ごめん、俺は知ってるんだ。タキくんが今日で三十連勤ということ。
 大宮から毎日満員電車で通っていて、朝九時から夜十時過ぎまで慌ただしく働くのが常態化していて、疲れ果てて、また混雑した電車で帰ること。時には徹夜で仕事をしたり、会社に寝泊まりしていること。

「それにしてもカズ先輩、変わりましたねー」
「えっ、そう? どこが?」

 タキくんはちょっと唇を尖らせている。可愛い。

「もともとかっこいいですけど、さらにかっこよくなってて。スーツめっちゃ似合いますし。しかもそんな素敵な笑顔まで身につけるなんて、向かうところ敵なしじゃないですか?」

 じゃあ、君は俺のことを好きになってくれる?
 君が仕事で疲れていることを知りながら付き合わせる、こんなずるくてひどい俺を。
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