エリート先輩はうかつな後輩に執着する

みつきみつか

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第三部 1 ある事件直後の土日

九 多紀vs紗英 第二ラウンド

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 日曜日。午前十時。
 葉子さんから着信があって、俺は戦慄しつつ電話に出てみる。
 パーティーの騒ぎ、葉子さんの耳に入っていないはずがない。怖い。なに言われるんだろう。

「はい、相田です……!」

 すでに泣きそう。

「おーっす、相田くん! 和臣いるー?」
「いえ、出掛けました。日曜日の午前中は、お兄さんたちと勉強会なんです」

 東京と横浜に上のお兄さんと下のお兄さんがそれぞれいて、下のお兄さんの奥さんも含めて、日曜日は朝早くから勉強を教えてもらいに出掛けてる。
 昼過ぎには帰ってくる予定。

「急用であれば、直接連絡してもらったほうが早いんですが、俺でよければ伝えておきましょうか?」
「ううん! 相田くんに用事があるから、和臣がいないなら好都合!」

 俺か。俺だな。不在確認だな。
 俺だけ呼び出しだときゃつがうるさいから。
 指定する場所に来てよってことで、俺は昨日の反省を込めて、スマートカジュアル。ジャケットにシャツにチノパンで、マンションを出る。
 指定場所は、都内でも有数の高級ホテルのカフェラウンジ。到着して、スタッフが来る前に広いラウンジを眺めまわして葉子さんの姿を探すけれど見当たらない。

「相田さん」

 と呼ばれて、そちらのほうを見る。窓際。二人掛けの席。
 ぺこりと頭を下げたのは、紗英さん。昨日ぶりです。
 薄ピンクのロングワンピースに、黒いカーディガン。ヒール。本日も完璧な女子戦闘服。可愛すぎて眩しい。
 倉本さんを使ってみたり、葉子さんを通じてみたり、そろそろ仲介役のひとに申し訳ないから、連絡先を渡したほうがいいな。名刺は渡したけれど、個人の携帯電話番号はのってない。
 寄ってきたスタッフに断って、紗英さんのほうへ歩いていく。

「昨日はすみません」

 と言ったのは、紗英さんのほう。

「いえ……こちらこそ」

 ふたりで、席につく。
 とりあえずコーヒーかな。ホットにしよう。どうせ話してたらぬるくなる。アイスにすると氷が溶けちゃう。
 俺はメニューを開いた。
 白地に金色の美しい装飾で、イタリックみたいな書体のメニュー。
 ひっ、コーヒーが、一杯……二千円!?
 目ん玉が飛び出て大理石の床の上をころころ転がっていきそう。
 端から端まで目を皿にして探すものの、コーヒーが一番安い。おかわりは自由らしい。
 半分の量でいいのにと思いながらコーヒーを泣く泣く注文。
 手元にコーヒーが来るので味わう。おいしいんだかなんだかよくわかんない。
 紗英さんは先に注文していた紅茶を飲んでる。

「ここ、小野寺さんとお見合いしたホテルなんです」

 紅茶のカップを置いて、紗英さんは遠い目をしながらぽつりと呟いた。
 俺の頭に過ぎるのは、最低でも二千円×二名……。
 おなかがたぷたぷになるほどおかわりしなければという使命感に駆られそう。

「でも、目も合わせてくれなくて」
「はい……」

 紗英さんには言えないけど、それでも断らないつもりだったらしいよ。あいつ態度悪いね。紗英さんに関してだけは胡坐かいてるわ。
 いや、女性が苦手だから目が合わせられなかった可能性もあるな。それでも仕事はちゃんとしてるんだ。どうやってんだろ。
 ……お見合いか。その翌日に、俺は豊橋のホテルでやられたんだよな。紗英さんに追い詰められたせいかもね。
 下手に刺激せずにそっとしておいてくれたら、俺と和臣さんの関係は、ずっとただの仲良しの先輩と後輩だった。いや、ストーカーとその対象者か。
 いずれにせよ何の発展もしなかった。
 今となっては、それでいいのか、考えてしまうところではあるけれど。
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