エリート先輩はうかつな後輩に執着する

みつきみつか

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2 ある年始のドタバタ

十 いなくならないで Side多紀

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 一月三日。
 午後二時に東京駅に着くと、雪はしっかり積もっていた。
 年末年始の真っ只中の降雪は、地方から東京に戻る帰省ラッシュに直撃。混み合っている。最寄り駅まで電車にして、いつもなら徒歩だけどタクシーを拾う。すぐにマンションに到着した。
 いろいろあったな……。
 部屋の鍵を開けて、和臣さんに先に入ってもらう。松葉杖を立てかけて、壁に手を付きながら。
 不自由そうにしつつも、動きに慣れてきたみたいで、わりとしっかり歩いている。

「あれ。明かりと暖房ついてる……」
「え!?」

 消し忘れてた!?
 リビングに入ると明かりがついてるし、ふつうに暖かい。
 あちゃー、失敗した。出掛けるとき、慌てていたものだから。

「すみません。消し忘れ。もったいない」
「大丈夫だよ、一日くらい。家にいたらついてたわけだし」

 あ、リビングに宝物入れやらテキストが開けっ放し。

「写真みてたの?」
「あっ、片づけます」

 宝物入れの写真。和臣さんには内緒。でも見られるし。和臣さんの写真もあるから、見られると恥ずかしい。かき集めて紙箱に入れる。
 写真も箱も、本も、なにもかもが放り出してあって、俺ときたら。どれだけ慌てていたんだよ。
 妹さんから事故にあったと聞いたとき、頭が真っ白になって、財布と携帯電話だけ持って飛び出してしまった。家の鍵を閉めた記憶もないから、閉まっていてよかったわ。
 和臣さんはコートを脱ぎながら、意外そうに笑ってる。

「多紀くんがそんなに慌てるなんて珍しいね。いつも冷静なのに」

 そうかな。
 冷静じゃいられなかったよ。
 数時間も連絡がつかなくて、ついたと思ったらバイクで事故、しかもこの雪。現場はさらに雪が降っている東北だし。救急車で運ばれて、容態は不明。最悪の事態を想像してもおかしくない。
 和臣さんはキッチンに入って、言った。

「あ、ごはん炊きっぱなし」

 うっわ。ごはんも忘れてた。

「昨日、晩飯で炊いてて……」

 いつもなら寝る前までに冷凍しておくけど、そんなことやる時間なかった。
 なにもかもやりっぱなしだ……。
 和臣さんは言った。

「このまま炒飯にしようか。晩ごはん」
「俺、作ります」
「大丈夫だよ。作れるよ。痛いのは左足だけだもん」
「痛いんだったら休んでてください。悪化したらどうするんですか!」
「あはっ、心配されて嬉しい」

 無邪気な顔をしている。
 じゃあお願いしよっかなぁといって、和臣さんは炊飯器に残っているごはんを皿にあけてる。そのいつもと変わらない姿を見ていたら、涙が溢れてくる。
 俺の様子に気づいた和臣さんが、お皿やしゃもじを置いて、抱きついてくる。

「多紀くん」
「心配させないでくださいよ。生きていてくれてよかったですけど、こっち、生きた心地がしなかった……」

 和臣さんがいなくなったら、どうするの。どうしたらいいんだよ。
 ひとりに戻るったって、そんな戻り方、最低最悪じゃん。別れるほうがよっぽどマシ。
 腕は力強いし、胸の音、呼吸音。体の厚み、指先で俺の髪を梳いてる。
 生きてる。一日前に戻って、不安で震えが止まらなかった俺に伝えてあげたい。和臣さんは生きているから大丈夫だって。

「ごめんね」

 ひとたび泣き始めたら涙が止められなくて、俺は和臣さんに縋りついて、いつもの和臣さんみたく号泣。
 心配すぎて、不安でたまらなくて仕方なかった。だから。俺が仙台に行ったところで何にもならないのに、すっ飛んでった。
 和臣さんはもらい泣きしてる。なんであんたが泣くんだよ。泣きたいのは俺のほう。

「ごめんね」
「いなくならないでください」
「……うん」

 そんな嬉しそうな顔しちゃってさぁ。
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