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そのじゅうよん

そのじゅうよん-7

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「…天海さん、どうかなさったんですか?」

パーティションで仕切られた打ち合わせ室。

「いや…ちょっと寝不足で」

眼がちょっと腫れぼったい。

「眠れませんでしたか。まあ、確かに。わかります」

いつもより、若干高めトーンな松本氏。

賞の発表当日。

松本氏も少し、緊張気味。

まあ、緊張で眠れんかったワケやないけど。

そう言う事にしとこ。

「とりあえず打ち合わせ、進めましょうか」

松本氏が座り直した。

「このエピソード要らないんじゃないですか?」

「いや、要ります。小さいけど後の展開に必要なエピソードなんです」

「後の展開?ですか?」

「プロットでこういう流れ作ってますけど、ここに至らせるのに必要になるんです」

松本氏との打ち合わせ風景もだいぶ変わった。

あたしは自分の作る物語に自信が持てる様になった。

「それはちょっと違いませんか?」

「ここでは大きく話に絡んでくるわけじゃないんですけど、後半のこの部分の心理描写に絶対必要なんです」 

松本氏に言いたい事言う様になった。

松本氏には感謝しかない。

ひよっこのあたしを一から育ててくれて。

大きな賞の候補になるまでにしてくれた。

ホント。松本氏いなかったら。

バタバタと慌てた人の気配。

突然ドアが開いて。

「天海さんっ!いや、天海先生!」

編集長があたしの手をがっしり握った。

なんだ。キモいな。

いつも奥のほうのデスクで仏頂面してるくせに。

「たった今、連絡ありました!」

連絡って。

「やりましたよ!翠廉賞!今年は天海瞬に決まりました!」

編集長があたしの手握ったまま、ぶんぶん振る。

なんだか頭がぼんやりして。

松本氏を見た。

「おめでとうございます!」

初めて見る松本氏の。

すんごい笑顔。

「やりましたね、天海先生」

松本氏があたしの肩叩いて。

先生。

て、言った。

生まれて初めて。

記者会見しちゃったりした。

受賞者の発表直後、まだよくわからんままに会見会場に連れてこられ。

文学賞の会見にしちゃテレビらしきのがえらいこと多いな。

と思ったら。

「桂木さんには受賞の事伝えられたんですか?」

ワイドショーが来てやがった。

まあ、記事も出ちゃったしな。

冬馬くんからは電話あった。

あたしはぼんやりしたままの頭やったけど。

興奮気味の声で。

『すげえな!お前、マジすげえな!』

すげえな連発して。

『俺も負けてらんねえわ!俺もなんか賞とろ!』

冬馬くんらしい。

冬馬くんとなら。活動のジャンルは違うけど。

お互いを刺激しあって。

一緒に歩いていけるかな。

そんな風に思った。

それからはあちこちの取材やインタビューやらで。

ちょっとだけテレビなんかも出ちゃったりした。

執筆依頼がどかんと増えた。

「受けるのは先生ですけど、自分のペースを崩さない様によく考えて」

松本氏に言われた。

あたしも多少。書くのは早くなった。

作家としての自覚も持てる様になった。

小説家、として。

あたしの道。
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