You Could Be Mine 【改訂版】

てらだりょう

文字の大きさ
102 / 160
そのじゅうよん

そのじゅうよん-7

しおりを挟む
「…天海さん、どうかなさったんですか?」

パーティションで仕切られた打ち合わせ室。

「いや…ちょっと寝不足で」

眼がちょっと腫れぼったい。

「眠れませんでしたか。まあ、確かに。わかります」

いつもより、若干高めトーンな松本氏。

賞の発表当日。

松本氏も少し、緊張気味。

まあ、緊張で眠れんかったワケやないけど。

そう言う事にしとこ。

「とりあえず打ち合わせ、進めましょうか」

松本氏が座り直した。

「このエピソード要らないんじゃないですか?」

「いや、要ります。小さいけど後の展開に必要なエピソードなんです」

「後の展開?ですか?」

「プロットでこういう流れ作ってますけど、ここに至らせるのに必要になるんです」

松本氏との打ち合わせ風景もだいぶ変わった。

あたしは自分の作る物語に自信が持てる様になった。

「それはちょっと違いませんか?」

「ここでは大きく話に絡んでくるわけじゃないんですけど、後半のこの部分の心理描写に絶対必要なんです」 

松本氏に言いたい事言う様になった。

松本氏には感謝しかない。

ひよっこのあたしを一から育ててくれて。

大きな賞の候補になるまでにしてくれた。

ホント。松本氏いなかったら。

バタバタと慌てた人の気配。

突然ドアが開いて。

「天海さんっ!いや、天海先生!」

編集長があたしの手をがっしり握った。

なんだ。キモいな。

いつも奥のほうのデスクで仏頂面してるくせに。

「たった今、連絡ありました!」

連絡って。

「やりましたよ!翠廉賞!今年は天海瞬に決まりました!」

編集長があたしの手握ったまま、ぶんぶん振る。

なんだか頭がぼんやりして。

松本氏を見た。

「おめでとうございます!」

初めて見る松本氏の。

すんごい笑顔。

「やりましたね、天海先生」

松本氏があたしの肩叩いて。

先生。

て、言った。

生まれて初めて。

記者会見しちゃったりした。

受賞者の発表直後、まだよくわからんままに会見会場に連れてこられ。

文学賞の会見にしちゃテレビらしきのがえらいこと多いな。

と思ったら。

「桂木さんには受賞の事伝えられたんですか?」

ワイドショーが来てやがった。

まあ、記事も出ちゃったしな。

冬馬くんからは電話あった。

あたしはぼんやりしたままの頭やったけど。

興奮気味の声で。

『すげえな!お前、マジすげえな!』

すげえな連発して。

『俺も負けてらんねえわ!俺もなんか賞とろ!』

冬馬くんらしい。

冬馬くんとなら。活動のジャンルは違うけど。

お互いを刺激しあって。

一緒に歩いていけるかな。

そんな風に思った。

それからはあちこちの取材やインタビューやらで。

ちょっとだけテレビなんかも出ちゃったりした。

執筆依頼がどかんと増えた。

「受けるのは先生ですけど、自分のペースを崩さない様によく考えて」

松本氏に言われた。

あたしも多少。書くのは早くなった。

作家としての自覚も持てる様になった。

小説家、として。

あたしの道。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

甘い束縛

はるきりょう
恋愛
今日こそは言う。そう心に決め、伊達優菜は拳を握りしめた。私には時間がないのだと。もう、気づけば、歳は27を数えるほどになっていた。人並みに結婚し、子どもを産みたい。それを思えば、「若い」なんて言葉はもうすぐ使えなくなる。このあたりが潮時だった。 ※小説家なろうサイト様にも載せています。

処理中です...