翼を持った勇者たち―What did they see then―

古河さかえ

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 喜多の溜まり場といえば、喜多エリアの中でもさらに北側にあるすでに閉鎖された遊園地。今日も唯を中心とした喜多エリア所属の若者が集まっていた。
 四つのエリアは互いにいがみ合い、隙あらばいつでも攻め込むつもりでいる。今日の集会も、現在リーダー不在の美波にいつ攻め込むかというものだった。
 唯の隣で事実上の指揮を取っているのは、一番舎弟の亜純。美波のリーダーである前島玲は一年前に死亡した。誰が殺したのかは未だ分かってない。エリア同土の抗争だろうと、唯を含め、日河岸と仁志のリーダーは、日河岸警察署の八代警部に今も凝われている。リーダー不在の美波が何故今も崩壊せずに成り立っているかは不明だが、喜多と日河岸は美波を潰し、そのまま一気に他の二エリアを潰そうと企んでいる。

「――という計画が今の所最善の策だと思ますが。いかがでしょう辻本様」
「今はまだ動かない」

 周辺が一気にどよめいた。百人を超える喜多エリアの人間が、思ってもいなかったリーダーの言葉に動揺を隠しきれなかった。

「何故です? 辻本様」
「辻本様! まさかが自分の受験が大事だからですか!?」

 唯はその一言を言い放った男を鋭い視線で睨みつける。自分より年下の唯に圧倒され、男は情けなくも身を隠すように仲間の後ろに入った。

「なるほど……お前ら全員同じ意見か。いいだろう。俺の意見を聞かせてやる」

 そう言って唯は辺りを軽く見渡し、ようかくずっと座っていた柵から立ち上がった。亜純は自分が立っていた場所を唯に譲り、自分は集団の後ろへ回る。唯が中心に立った事で、辺りは一瞬の内に静寂に包まれる。

「攻撃をしかけないのは俺の受験の事だけではない。考えてもみろ。俺達にとって最も厄介な相手がいるだろう」
「仁志の……葛西さんですか?」
「ああ、葛西行成。アイツらの厄介な所は、仁志自体が金持ちの坊ちゃん嬢ちゃん連中の集まりで、買収という手が使えるからだ」

 唯がそう言っても、事情を飲み込めない人間は飲み込めないという顔のまま、ぽかんと唯を見上げていた。それを見た唯は露骨に嫌な顔をする。

「もしココと日河岸が同時に美皮へ攻め込んだらどうする。美波は潰せたとしても、こっちは体力を消耗する。その時、単細胞の集団である日河岸を仁志が買収してこっちに攻め込んできたらどうする。……喜多に勝ち目は無い」

 唯は更に続けた。

「喜多から美波に向かうには必ず日河岸か仁志を通らなくてはいけない。他には中央公園を通るという手があるが、そこで待ち伏せをされたら到底敵わない。となると一番確実なの日河岸と仁志の出方を待ち、二対一でこっちが一にならない位置を確保するんだ」

 すると突然遊園地中に十数人の男達が崩れ込み、集会中の喜多の集団を取り囲んだ。
 亜純を含む数人の男達が唯に背を向けてバリケードを作る。先程唯が言った『相手の出方を待つ』為、じりじりと迫ってくる男達に、自分達から攻撃をしかける事はなかった。
 男達全員の手に、見慣れた揃いのものがあった。先日、塾を出た時に唯に絡んできた二人の男が付けていた黒い革のグローブ。それと同じものを男達は表着している。これはまさしく――。

「添田……」
「久し振りだなぁ辻本の唯ちゃん!!」

 荒々しい怒声の主、添田が堂々と喜多のエリアに乗り込んできた。日河岸のリーダー、添田遊輝。

「……俺は江戸時代の人間か。名字と名前の間に『の』を入れるな」

 などとぶつくさと文句を言いながら、唯はバリケードを築いていた男達を押しのけて集団の先頭に出た。

「何の用だ添田。いくらお前が馬鹿でも、喜多と日河岸の境界か分からない程手遅れだと思わなかったな」
「何だと!? てめぇ黙って聞いてれば……!!」

 足早に唯へ詰め寄ろうとした日河岸の少年を、他の仲間が大慌てで止める。遊輝はその男を黙って見ている。唯はその遊輝の態度が気に入らないらしく、更に言葉をかけてみたくなった。

「珍しいな。日河岸の中で最も単細胞なお前がここまで我慢できるとはな」

 日河岸の男達は除々に殺気立っていた。今にも唯に殴りかかりそうな行相で、喜多の男達を睨みつけている。

「おい! 何か言ったらどうだ!!」
「待て、亜純」
「辻本樣!?」

 遊輝の前へ進み出ようとした亜純の目の前に、唯は腕をのばす。その腕に阻まれ、亜純はバリケードから出られない。その亜純に、唯はこっそりと声をかける。
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