魔力ゼロのセブン王子、キスで無限パワー!

霧島

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3-4 祈りのキス ――星々が見守る夜に

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第3章3-4 祈りのキス ――星々が見守る夜に

 夜空は息をひそめていた。
 世界そのものが凍りついたように、風も、虫の声も止まっている。
 月の光だけが静かに降り注ぎ、サリーナとセブンを包んでいた。

 サリーナは地面に座り込み、腕の中の少年を見つめた。
 セブンの顔はあまりにも静かで、眠っているように見えた。
 だが、そのまつげは動かず、唇は青く、呼吸はかすかだった。

 「……セブン……」
 かすれた声が夜の中に消える。
 涙が頬を伝い、少年の胸の上に落ちた。
 その雫が、まるで星の光を反射するように淡く輝いた。

 「どうして、こんなに冷たいの……」
 サリーナの指が震える。
 彼の頬を撫で、額に手を当てても、温もりはほとんどない。

 彼がこの身を盾にして彼女を庇ったときの光景が、何度も脳裏によみがえる。
 あの小さな背中が立ちはだかった瞬間。
 稲妻のような閃光が走り、彼の身体が地に崩れ落ちた瞬間。

 「……どうして、あなたなの……」
 彼女は唇を噛みしめた。
 王家の長女として、これまで誰かを想って涙を流すことなどなかった。
 けれど今だけは、抑えきれなかった。

 「あなたの中に、光を感じたの。
  けれど私は、それを封じてしまった……」

 かつて、彼の魔力の流れを探ったとき、
 体の奥に“静かな光”が眠っているのを確かに見た。
 それが何かはわからなかった。
 けれど、どこか悲しいほど美しい光だった。

 ――あの時、もしその光を解き放っていたら。
 ――彼はどうなっていたのだろう。

 怖かった。
 その力が彼を壊してしまうのではないかと。
 だからサリーナは、封印を解くことを拒み続けた。
 “愛しているからこそ、近づけない”――そんな矛盾の中に閉じこもっていた。

 だが今、彼の息が消えかけている。
 もう、迷っている時間はない。

 「セブン……私は、あなたを信じるわ」
 サリーナは小さく呟いた。
 「あなたの力も、心も……全部、信じる」

 月光の中、彼女の長い金髪が静かに揺れた。
 風が戻り、草の葉を撫でていく。
 まるで夜そのものが“彼を助けてほしい”と願っているかのようだった。

 サリーナは彼の胸に手を当て、瞳を閉じた。
 掌の下で、かすかな鼓動が感じられる。
 その鼓動に、自分の鼓動を重ねるように深く息を吸う。

 「お願い……神様でも、運命でも、なんでもいい。
  この子を……この優しい少年を、連れていかないで」

 その祈りが、光となって胸から溢れた。
 柔らかな金色の光が二人を包み込み、空へと舞い上がる。
 星々が反応するように瞬き、夜空が淡く揺らいだ。

 サリーナはゆっくりと顔を近づけた。
 彼の唇は、まるで氷のように冷たい。
 彼女は一瞬ためらったが、次の瞬間、決意の色を宿した。

 「これは……奇跡を信じるキス」

 その言葉とともに、唇が触れた。

 ――光が弾けた。

 夜空が一瞬、昼のように明るくなる。
 星々が流れ、木々の葉が揺れ、地面から柔らかな風が吹き上がる。
 金色の花びらのような光が、二人の周りを舞い始めた。

 サリーナの頬を流れる涙が光の粒に変わり、空へと昇っていく。
 まるで天が祈りを受け取っているかのように。

 唇を離した瞬間――
 セブンの胸が大きく波打った。
 呼吸が戻り、彼のまつげが震える。

 「……サリーナ……?」

 かすかな声が、彼女の耳に届いた。
 サリーナの瞳が見開かれる。
 「セブン! セブンなのね!」

 彼女は思わず抱きしめた。
 セブンは戸惑いながらも、その腕の中で小さく息をついた。
 「ごめん……心配、かけたね」
 「謝らないで……もう何も言わないで……」

 彼女の声が震え、彼の胸に顔を埋める。
 その肩を包むように、淡い光が再び広がっていく。

 セブンの背から七つの光輪が浮かび上がった。
 柔らかく、温かく、そして神聖な光。
 その輪は風に揺れながら、夜空の星と同じ軌跡を描いて回転した。

 「これが……僕の中の光……?」
 彼が見上げると、星空がまるで微笑んでいるかのようだった。

 「あなたは、光そのものだったのよ」
 サリーナが呟いた。
 「ずっと前から、あなたの中にこの輝きがあった」

 セブンは小さく首を振った。
 「違うよ。君が……信じてくれたから。
  君が僕を“ゼロ”じゃないって言ってくれたから、僕は……」

 サリーナは微笑んだ。
 涙が、今度は幸せのしずくとして流れ落ちる。
 「いいえ。あなたは最初から“無限”だったわ」

 風が吹く。
 草原が波のように揺れ、夜空の星々が祝福するように瞬いた。

 ふたりはそのまま見つめ合い、手を取り合った。
 指先が触れ合うだけで、世界が再び息を吹き返したように感じた。

 夜が明け始める。
 東の空がうっすらと紅をさし、鳥の声が戻ってくる。
 セブンはそっと呟いた。
 「おはよう、サリーナ」
 サリーナは微笑み、涙を拭った。
 「おはよう、セブン。あなたの光が、朝を呼んだのね」

 その瞬間、最後の星が消え、夜は終わりを告げた。
 けれど、二人の間には確かな輝きが残っていた。
 それはもう、誰にも封じることのできない“無限の光”だった。
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