魔力ゼロのセブン王子、キスで無限パワー!

霧島

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4−2 戴冠と赦し ――光の王の誕生

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第4章2-2 戴冠と赦し ――光の王の誕生

 戦いの翌朝。
 世界は嘘のように静まり返っていた。
 空は限りなく青く、夜の名残を惜しむように一筋の星だけがまだ光っている。
 王都を包んでいた黒い雲は完全に消え、焦げた石畳には陽光が降り注いでいた。
 戦火で崩れた街並みの間から、小さな草の芽が顔を出している。
 ――まるで、この世界そのものが生まれ変わろうとしているかのようだった。

 丘の上、白い風に髪をなびかせながら、少年は静かに立っていた。
 セブン。
 かつて封印され、運命に抗い続けた少年。
 いまはもう、怯えも迷いもその表情にはなかった。
 ただ、光をまとった瞳がまっすぐに未来を見据えている。

 その傍らにはサリーナがいた。
 魔力の消耗と傷の痛みで体はまだ万全ではなかったが、彼女の瞳もまた、穏やかな安堵に満ちていた。
 「……終わったのね」
 彼女の囁きに、セブンは小さくうなずく。
 「うん。長かった。でも、やっと……ここまで来られた」
 「あなたがいたからよ。誰よりも、あなたがこの世界を信じ続けたから」
 「信じてくれたのは、サリーナだ。あの時、君が僕を呼び戻してくれた」
 そう言って微笑む彼の顔に、初めて年相応の柔らかさが戻っていた。

 遠くで鐘の音が響く。
 ――それは、再生の合図だった。
 瓦礫の街路に、避難していた人々が少しずつ戻ってくる。
 泣きながら抱き合う家族。崩れた家を見つめ、笑い合う子どもたち。
 誰もが疲れ切っていたが、その表情には“生きている”という希望が宿っていた。

 やがて人々の視線が丘の上の少年へと集まった。
 兵士たちが傷ついた鎧のまま、セブンの前に進み出る。
 誰からともなく、ひざまずき、頭を垂れた。
 「――陛下」
 その一言が波紋のように広がっていく。
 「陛下……」「光の王よ」「我らを導き給え!」
 歓声と涙とが入り混じり、丘の上は祈りのような熱気に包まれた。

 セブンはその光景を見つめながら、ゆっくりと首を振った。
 「僕は……まだ王じゃない。人々を救ったのは、僕ひとりじゃないんだ」
 「それでも」サリーナがそっと言う。「あなたがいなければ、この朝は来なかった」
 彼女の声は風に溶けるほど穏やかだったが、その言葉には誰よりも強い確信があった。
 セブンはその言葉に小さく息をのみ、そして一歩、前へ出た。

 その時――。
 群衆の中から一人の女性が歩み出てきた。
 黒いヴェール、白金の髪。
 彼女の足取りはゆっくりと、しかし迷いがなかった。
 彼女の瞳を見た瞬間、セブンは息を止めた。
 心の奥で、途切れたはずの記憶が一気に蘇る。
 抱きしめられた温もり。柔らかな声。幼い頃の夢。
 ――母だ。

 「……セブン」
 その一言で、彼の心の堤防は決壊した。
 「母さん……母さんなの?」
 涙が零れ、彼は駆け寄って彼女の胸に飛び込む。
 アリエルは震える腕で息子を抱き締め、頬に口づけた。
 「あなたを……ずっと、見守っていました。どんな闇にいても、あなたは光でした」
 「僕……もう、大丈夫だよ。ちゃんと、光を見つけたんだ」
 母と子の抱擁に、群衆の中からすすり泣きが広がる。
 それは悲しみではなく、救いの涙だった。

 やがて、王都の中央広場に人々が集まった。
 崩れた聖堂の跡地に、瓦礫を整えて仮の玉座が置かれる。
 焦げた石に白布を掛け、花々を飾った簡素な壇上。
 だがそこには、どんな黄金の玉座にも勝る荘厳さがあった。

 セブンはその前に立ち、深く息を吸う。
 アリエルが彼の肩に手を置いた。
 「あなたの歩んだ苦しみは、誰もが忘れない。
  けれど今、それを背負ったあなたが立つことに、意味があるのです」
 セブンはうなずくと、群衆へ向けて静かに言葉を紡いだ。

 「僕は……この国を、誰もが恐れず生きられる場所にしたい。
  光を持たぬ者を責めず、過去に囚われた者を裁かず、
  すべてを赦して、もう一度、共に歩く国に」

 その声は幼さを残しながらも、どこまでも澄んでいた。
 サリーナが一歩前に出て、杖を掲げる。
 「我らが見守るこの地に、いま新たな王が立つ。
  その光は、剣ではなく、祈りと赦しによって人々を導かん」

 風が吹き抜け、白い花びらが舞った。
 太陽が雲間から現れ、セブンの髪と王冠を照らす。
 アリエルがその額に口づけし、黄金の冠をそっと置いた。
 人々が息を呑み、次の瞬間、歓声が爆発した。

 「光の王、万歳!」
 「セブン陛下、万歳!」

 鐘が鳴り響く。鳩が舞い上がる。
 セブンは目を閉じて祈り、胸の奥に小さく呟く。
 (ありがとう、サリーナ。君がいたから、僕はここにいる)

 ふと見ると、サリーナが微笑んでいた。
 彼女は人混みを分け、玉座の前まで歩み寄る。
 「おめでとう、陛下。……いえ、セブン」
 「ありがとう、サリーナ。君の祈りが、僕の王冠だ」
 そう言って差し出された彼の手を、サリーナは静かに握り返した。

 丘の上に吹く風は、もう冷たくなかった。
 光と影が溶け合い、世界は再び動き始める。
 少年は王となり、祈りは現実となった。
 それは“勝利”ではなく、“赦し”によってもたらされた夜明けだった。


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