暴走環状線

心符

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2章. 見えない捜査線

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~品川車両基地~

ここでの仕事は夜中がメインとなる。

仕事を思えた車両が、次々と帰って来る。
各駅で朝を迎える車両もあるが、定期的にはほとんどの車両がここで点検や改修を受ける。

「先輩、こんなことも仕事なんですか?」

先週入ったばかりの新人を連れて、品川駅近くの信号機の点検をする熊谷拓哉。

「全く、いつの時代のものですかこれ?」

新人が工具で、カンカンと叩く。

「バカ野郎❗️」

厳しいと聞いてはいたが、急に怒鳴られ驚く。

「丁寧に扱え!この信号の一つ一つが、大切な命を守ってんだ!」

「す、すんません」
(マジ恐ぇ~。逆らわないのが身のためか)
内心納得はいかないまでも、マジなトーンに萎縮させられていた。

(ふぅ~。何を神経質になってんだ俺は)

「悪ィ、つい怒鳴っちまった。早く済まて、車庫へ帰るぞ」

近年は、パワハラ含むメンタルヘルスも会社理念に加わっていた。

(やり難い世の中になっちまったぜ)

物思いに耽《ふけ》るかの様に、夜空を見上げた。




~岐阜県下呂市~

草津、有馬と並ぶ、日本三大名泉の下呂温泉。
夫が予約した有名な宿に泊まる2人。

「はぁ~いい気持ち」

「東京に戻りたくなくなりますね」

「恭子さん、お昼はご馳走様でした。お弟子さんとはいえ、さすが『鈴蘭』。私なんかじゃ説明がないと、何の料理だか分からないくらいでした」

「ありがとうございます。手は込んでいますが、和食ならではの食材の味は、シッカリ出しているつもりです」

「そうそう、食べてみるとよくわかります。しかし、板長さんまで挨拶に出て来て、かなりプレッシャーかかってたりして…」

事実、あの鈴蘭恭子が来てると知った厨房は、いつもより増して緊張感が漂よい、予定よりかなりグレードアップした料理が出されたのであった。

「アハッ。そんなことないですよ、私なんか。でも、すごい食材が沢山使われてて驚きました。旦那様の愛情でしょうね。お邪魔して良かったです」

「ないない💦そんなに気をまわせるほど、器用な人じゃないですから。あれは、きっと板長さんの恭子さんに対する挑戦ですよ。ハハハ」

さすがに良くお分かりで💧

「羨ましいですわ、仲の良いご夫婦で」

「失礼ですが、ご結婚は…?」

「あ、はい。一度しましたが、お互い忙しくて。話し合って別れました」

「そうでしたか。確かにお忙しいですものね。それではお子さんも…」

「ええ…いません」

「あら、私ったらごめんなさい。ついつい。夫の商売が移ったかしら💦。ちなみに、私達は話し合って、子供は作らないと決めたんです。無鉄砲な刑事ですからね、うちの人は、ハハ」

悲しげな表情に焦った雅恵であった。

「しかし本当に、いいお湯ね。なめらかな肌触りで、ツルツルするし。化粧水をつけたような美肌効果があるって書いてありましたわ。まぁ…恭子さんには必要ないかな」

「とんでもない。普段はお肌のことなんて気にもしてられないから、ここの温泉の素を買って帰ります」


思いもしなかった出逢いで、日頃のストレスを十分解消できた2人であった。



~警視庁対策本部~

ビル内の各部署が集結した合同会議である。

「え~それでは、連続している爆破事件について、対策会議を始める。まずは、各員報告を」

刑事課の富士本が進行を務める。

「刑事課の神崎です。まずは4件目までを再度確認しておきます」

神崎昴が、モニターに4件の写真を映す。

「最初の爆破は、池袋の信号で停車したワゴン車。次は原宿で路上駐車した軽自動車。3件目は、渋谷にある立体駐車場にバックで駐車したスポーツカー。4件目は新宿駅に停車した貨物列車。いずれも深夜に発生し、爆薬の規模も小さく、人的被害はありません。」

「刑事課の宮本です。この4件の被害者には、今のところ全く接点や共通点はなく、怨恨の筋も特に認められねぇ。対象物もバラバラだし、無差別と考えられます」

「同じく宮本紗夜です。犯罪心理的に分析すると、この4件に殺意はなく、逆に敢えて危害が人に及ばない様に配慮されています。また、対象に一貫性がないことから、試行的犯行と見て間違いないでしょう」

「試行…か。快楽的犯行ってことはないの?」

刑事課の鳳来咲が問う。

「はい。最初は普通に停車、次はゆっくり停車、次はバックで停車。そして最後は電車という振動が多い条件からの停車です。明らかに考え得るパターンを試しているもの、つまりは快楽的な要素は見当たりません」

「紗夜、犯人像はどう見る?」

単刀直入に、富士本が意見を求める。

「ここまでの犯行から見えるのは、犯人はかなりの知能犯。期間をかけて緻密に計画を立て、確実に実行できる、冷静かつ慎重な性格の持ち主で、犯行内容から年齢は30~40。更に言えば、我々警察の動きや反応にも精通している者が主犯と考えます」

会場内がざわめく。

「警察関係者だと言うのか?」

「いえ、警察関係者てなくても、今では情報はネット上から得ることができますので」

「紗夜、主犯ってことは、単独犯ではないってことね?」

咲が感情論議になるのを止めた。

「私の経験と知り得た事実から、実行者は別にいて、爆発物の知識、遠隔またはタイマー操作する電子的な知識、機械的な強度を導く知識、そして、それらを入手できる者。少なくとも単独犯では不可能と考えます」

(なるほど…。確かに。)
紗夜の実績は、皆が知るところであった。

「じゃあ、昨日の2件を頼む。鑑識班と科捜班は.後ほどまとめてお願いする」

富士本が淳一を見る。

「了解。昨夜遅く杉並署交通課から、信号無視しながら逃走する不振車の通報があり、我々が到着した時には、爆発炎上した後でした。話によると、逃走中は携帯で誰かと話してた様で、踏切で停車した途端に爆発したとのことです」

「同じ内容なので、続けるわ。それから少しして、練馬署交通課から同様な通報があり、信号無視で突っ込んだ交差点で、トラックと接触し、爆発しました」

紗夜が昴を促す。

「最初の車の持ち主は、加藤吾郎 33歳。暴力沙汰で数回の拘留はありますが前科は記録にありません。2台目の所有者は、浜田智久 35歳、こちらも前科はありません」




ここで富士本が鑑識班へ合図を送る。

「鑑識班の武藤です。2人共死因は爆発時の外傷による出血死。遺体が本人であるかは、今確認中です」

「科学捜査班の酉塚です。爆発の規模と残留物質から、液体爆弾…の可能性が高いと考えます。昨今のテロで良く使用されるもので、分量による爆発規模の調整が可能です」

「簡単に入手できるものでしょうか?」

昴は、西塚に微妙な蟠《わだかま》りを感じた。

「知識さえあれば、家庭にある洗剤や、ホームセンター等で扱う肥料等から製造は可能です。信管も携帯のフラッシュで代用できるものもあります…が、一般の方が入手できる情報ではないと思います」

「入手できる、或いは製造できるとしたら?」

「その分野の科学者や…軍事関連者、或いは爆発物処理を専門とする者…かと」

「はい。爆発物処理班の木下です。確かに、製造するには、かなりの知識が必要です。過去に国内で犯罪に使用されている物は、ダイナマイトやプラスチック爆薬の様に、完成品を入手できるものですが、爆発の規模を小さく調整することは不可能でしょう。液体爆弾は完成品を入手することはできませんが、製造と調整は可能です」

「なるほど、容疑者或いは協力者を抽出できるかも知れないな。木下さん頼む」

富士本の依頼に黙って頷く。

「科学捜査班の水樹です。起爆装置は、やはり遠隔操作式で、携帯から捜査可能と考えられます。また、残骸からの推測になりますが、一度入ると、解除用の回路はなく、起爆はスピードメーターによるものと考えられます」

「スピードメーターだって?」

「はい、宮本刑事。スマホアプリでもありますし、自転車用の小型メーターもあり、今回は、スピードゼロで爆発する設定の様です」

「便利な世の中が、犯罪まで楽にするとはな」

「あと、携帯電話ですが、本人の物ではなく、使い捨ての物で、メモリーは自動破壊されてました」

一通りの報告が終わり、あちこちが推論や議論でざわつき始めた。

「よし、分かった。現時点ではここまでとし、殺害された2人の調査と、車を逆に追い、爆弾がいつどこで仕掛けられたか、この調査を最優先に頼む!」

不毛な会議に意味はなく、的確な指示である。

「一つだけいいですか?」

「なんだね紗夜」

「この数日で事件は始まり、2人の標的が既に殺されました。つまりは、計画を実行する時が来たと言うことです。これから数日の出来事に注意して、犯人の最終目的を先に掴むことが、必要です」

「最終…目的…か。分かった、紗夜と昴はその分析に集中してくれ。必要なら科捜班が適任だろう。頼んだぞ」

「さて、私達は今分かる事実と、怨恨の筋で関連性を掴むわよ。未解決事件捜査部の皆さん、協力をお願いね!」

咲に指名された未解決事件捜査部の10名。
コツコツと出て行く、ミニスカ&ハイヒールの後ろ姿を目で追っていた。



咲は、浜田智久の調査にあたった。
派遣先での働きぶりは良く、同じ会社で契約を更新しており、正規採用の予定と聞いた。

事故の話を聞いた職場のショックは本物で、怨恨の手掛かりは全く見当たらない。

職場で慰留品を見せ、当人であることはまず間違いないが、念の為鑑識班を連れて、派遣会社が契約している浜田智久のアパートを尋ねた。

ミニスカ&ハイヒール&黒サングラス。
訝《いぶか》しげに咲を見る管理人。
警察手帳を見せても、信じたかどうか怪しい。

管理人に鍵を開けてもらう。

「彼女とか友人はいましたか?」
綺麗に整理された部屋である。

「いや~見かけたことはないなぁ。ここの住人同士も、あまり交流はないですしね。でも、浜田さんは、ちゃんと挨拶はするし、いい方でしたよ」

鑑識班が、髪の毛や歯ブラシを袋に入れる。

「あ、終わったら声掛けますね」

管理人を追い出す。

気になったのは、卓上の写真であった。
(大学…か。なるほどね)

親しげに映る男3人と女1人。
もう1人の犠牲者、加藤吾郎がいた。

さりげなくバッグに入れる。
(あとは…と、これかな)

ノートパソコンを外し、バッグへ。

「咲警部…」

「調査のためよ、何かかしら?」

「い、いえ、何も💦」
鑑識班でも、咲の怖さは知っている。

「さぁて、撤収!結果出たら、直ぐに教えて」

管理人に鍵を返して車に乗る。
さっきの写真を携帯で撮り、昴に送る。

「あ、もしもし昴、今送った写真の…多分まだ生きてる2人。住所調べて保護よろしく」

「分かりました。淳さんは、加藤吾郎がいた蔵崎組に会いに、新宿歌舞伎町のクラブ『ビューティナイト』へ行きました」

「分かったわ」

(ビューティナイト…美しい夜…💧趣味悪ぅ)

「もうそんな時間か。ついでに飲みに行くか」

呟いて、夜の新宿へと走り出した。


~新宿歌舞伎町~

実はあまり遊ばない真面目な淳一。
歌舞伎町になど、全く慣れてもいない。

「さすがに夜の歌舞伎町は、警察が来る場所じゃねぇな💦」

人は不安になると、独り言を言い出す。

「クラブ『ビューティナイト』これか!」

「いらっしゃいませ~お疲れ様です」

いきなり美女2人のお出迎え。
焦る淳一💦

「あ、いや、まぁ…入るしかないか」

警察手帳を出せる雰囲気ではない。
さらに、会うのはヤクザの蔵島組長である。

「く、蔵島組長はいるか?」

その声に、一瞬空気が張り詰める
…かと思った。

が…
「なんだ、蔵ちゃんのお友達なのね~」

「いや、お友達じゃないんだよ…💦」
(蔵ちゃん?なんなんだ、全く)

「こちらへどうぞ」

案内される前ままに、2階へ上がる。
フロアの両サイドには、黒服が2人。

「ほらほら、気にしないでこちらへ」

決してヤクザが怖いのではない。
店の華やかさと、ホステスが苦手なのである。

「蔵ちゃん、お友達ですよ」

「バカヤロウ、その呼び方やめろって」

奥のテーブル席に、蔵島満がいた。

「お楽しみのところ、悪ィな、俺は…」

警察手帳を出しかけた時、直ぐ右の部屋から出てきた女性とぶつかり、手帳を落とす。

「あら、ごめんなさい」

慌てて拾うその横を、見慣れたミニスカ&ハイヒールが通り過ぎた。

(まさかな…)

「蔵ちゃん、またなんかやらかしたの?」

そう言いながら、隣に座り脚を組む。

「はぁ~⁉️」

思わず叫んだ淳一の目が点になった。

(あっ…いやまてよ、潜入捜査ってやつか?)


「警視庁刑事課の宮本だ、加藤吾郎について話を聞かせてもらおうか」

とりあえず、潜入捜査を前提とした淳一。

「まぁ、座れよ刑事さん。神さんからあんたの話も聞いてるよ」

(そう言えば、飛鳥組の傘下とか言ってたな)
昴の話を思い出した。

「加藤の奴、またなんか迷惑かけたのか?」

「えっ、あ、いやそうじゃないんだ」
どうにもこうにもやり難い。

「アイツは音は優しいんだが、喧嘩も弱いくせして、短気でいけねぇ」

「多分だが、昨夜死んだんだよ、爆発で」

「何?冗談はよせや…」

「本当だ。殺された…多分な」

「な~んだと⁉️加藤が殺されたぁあ⁉️」

不意に胸ぐらを掴まれ、持ち上げられる淳一。

「誰だ❗️殺ったのはどこのどいつだ❗️」 

(なんでこうなるかなぁ…咲さん!)

「蔵ちゃん、ちょっと落ち着いて、放しなさいよ、それじゃ喋れないじゃない」

(演技うまっ❗️)呆れる淳一。

「クッ、すまねぇ、つい」


その時。

「蔵島組長ってのは、いるか❗️」

聴き慣れた声がした。

「えっ、どうなってんの、あっ、上に」

ホステスが慌てているのが分かった。
聴き慣れたヒールの音。

「なんだ淳、いたのね」

「えぇェええ~⁉️咲さん💦なんで❗️」

「あらら、お姉さん」

「あらら、美夜!どうしてここに?」

「私のお得意様なのよね。あっ、蔵ちゃん、これが、姉の咲警部」

「マジか~⁉️」×2(淳一&蔵島組長)

双子の姉妹、鳳来咲と鳳来美夜。
妹の美夜は、岩崎建設の営業をしている。


なんだかんだありながら、必要な情報は得た。

「いや~驚いたぜ、美夜。そっくりだな」

「美夜ぁ、あんたの奢りね❗️」

「冗談でしょ!咲すっごく飲むじゃない❗️」

「加藤の弔《とむら》い酒よ!俺が奢るぜ」

「さっすが組長!太っ腹ね、気に入った❗️」

「咲さんダメっすよ、警察がヤクザに…」

「ごちゃごちゃうるさい❗️飲め、淳!」

潜入捜査など、やるわけがない。
酒にヤクザも警察も関係ない。
…それが、鳳来咲なのである。



~東京足立区~

咲が絶好調になった頃。
閑静な住宅街を最終のバスが走っていた。

「おやすみ~」

運転手の声に、返事はない。

(あまり見かけない客だな…)

お客はあと女性が1人。
いつも一番後ろの席に座る。
そして、いつも次のバス停で降りる客である。


バス停が見えて来た。

(さて、今日の仕事も終わりだな)

誰もいないバス停へ、ゆっくり寄せ、ブレーキを踏み込んだ。


「ドドーン💥❗️」

突然バスの後部が爆発し、車体の後部が浮き上がる。

辺りの家の明かりが一斉に灯る。
運転席は無事である。

慌てて後ろを見た。
が…そこにあの女性はいない。

いや。
正確にはいた。
ただ…人の姿ではなくなっていたのである。




~警察官対策本部~

「紗夜さん、写真の2人見つけました」

「久米山勝《くめやままさる》と宮崎美穂」

そこで、刑事課の電話が2つ鳴った。

(昴外線へ)

「はい紗夜です」「はい警視庁刑事課」

「紗夜さん、咲さんの電話繋がらなくて。浜田智久のDNAが一致しました。咲さんに伝えてください」

「分かりました。連絡ありがとうございます」

(7人目…か)
鑑識班からの電話を聞きながら、昴の心に集中していた紗夜。

「女性?男性?」

「女性だそうです。バスの最後部に座っていて、爆破されました。運転手は無傷です」

「宮崎美穂…ね」

「住所とバス停の位置からみて、間違いないと思います」

「私は鑑識班と現場に行くから、昴は久米山勝を探して!」

走りながら電話を掛ける。

「紗夜です、今から鑑識班と科捜班の出動お願いします。正面玄関で!」

階段を降りながらもう一本。

「もしもし、淳❗️咲さんは?」

背後の声が聞こえた。
(ダメか…)

「紗夜、ちょっと今夜は無理だ」

「分かったわ、咲さんをお願い」

(何とかして、あと1人は守らないと!)

(彼は無事です。今は府中刑務所にいます)
紗夜の頭に、昴のが届いた。

(刑務所?)

(詳しいことは調べて、また後で)

玄関で鑑識班・科捜班と合流した。

「足立区のこの住所へ!」

携帯に表示させて、運転手に渡す。

「バスが爆破されて、女性が1人犠牲に!」


警察の捜査も虚しく、事件は犯人の計画通りに運んでいた…かのように思われた。

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