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2章. 見えない捜査線
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~品川車両基地~
ここでの仕事は夜中がメインとなる。
仕事を思えた車両が、次々と帰って来る。
各駅で朝を迎える車両もあるが、定期的にはほとんどの車両がここで点検や改修を受ける。
「先輩、こんなことも仕事なんですか?」
先週入ったばかりの新人を連れて、品川駅近くの信号機の点検をする熊谷拓哉。
「全く、いつの時代のものですかこれ?」
新人が工具で、カンカンと叩く。
「バカ野郎❗️」
厳しいと聞いてはいたが、急に怒鳴られ驚く。
「丁寧に扱え!この信号の一つ一つが、大切な命を守ってんだ!」
「す、すんません」
(マジ恐ぇ~。逆らわないのが身のためか)
内心納得はいかないまでも、マジなトーンに萎縮させられていた。
(ふぅ~。何を神経質になってんだ俺は)
「悪ィ、つい怒鳴っちまった。早く済まて、車庫へ帰るぞ」
近年は、パワハラ含むメンタルヘルスも会社理念に加わっていた。
(やり難い世の中になっちまったぜ)
物思いに耽《ふけ》るかの様に、夜空を見上げた。
~岐阜県下呂市~
草津、有馬と並ぶ、日本三大名泉の下呂温泉。
夫が予約した有名な宿に泊まる2人。
「はぁ~いい気持ち」
「東京に戻りたくなくなりますね」
「恭子さん、お昼はご馳走様でした。お弟子さんとはいえ、さすが『鈴蘭』。私なんかじゃ説明がないと、何の料理だか分からないくらいでした」
「ありがとうございます。手は込んでいますが、和食ならではの食材の味は、シッカリ出しているつもりです」
「そうそう、食べてみるとよくわかります。しかし、板長さんまで挨拶に出て来て、かなりプレッシャーかかってたりして…」
事実、あの鈴蘭恭子が来てると知った厨房は、いつもより増して緊張感が漂よい、予定よりかなりグレードアップした料理が出されたのであった。
「アハッ。そんなことないですよ、私なんか。でも、すごい食材が沢山使われてて驚きました。旦那様の愛情でしょうね。お邪魔して良かったです」
「ないない💦そんなに気をまわせるほど、器用な人じゃないですから。あれは、きっと板長さんの恭子さんに対する挑戦ですよ。ハハハ」
さすがに良くお分かりで💧
「羨ましいですわ、仲の良いご夫婦で」
「失礼ですが、ご結婚は…?」
「あ、はい。一度しましたが、お互い忙しくて。話し合って別れました」
「そうでしたか。確かにお忙しいですものね。それではお子さんも…」
「ええ…もういません」
「あら、私ったらごめんなさい。ついつい。夫の商売が移ったかしら💦。ちなみに、私達は話し合って、子供は作らないと決めたんです。無鉄砲な刑事ですからね、うちの人は、ハハ」
悲しげな表情に焦った雅恵であった。
「しかし本当に、いいお湯ね。なめらかな肌触りで、ツルツルするし。化粧水をつけたような美肌効果があるって書いてありましたわ。まぁ…恭子さんには必要ないかな」
「とんでもない。普段はお肌のことなんて気にもしてられないから、ここの温泉の素を買って帰ります」
思いもしなかった出逢いで、日頃のストレスを十分解消できた2人であった。
~警視庁対策本部~
ビル内の各部署が集結した合同会議である。
「え~それでは、連続している爆破事件について、対策会議を始める。まずは、各員報告を」
刑事課の富士本が進行を務める。
「刑事課の神崎です。まずは4件目までを再度確認しておきます」
神崎昴が、モニターに4件の写真を映す。
「最初の爆破は、池袋の信号で停車したワゴン車。次は原宿で路上駐車した軽自動車。3件目は、渋谷にある立体駐車場にバックで駐車したスポーツカー。4件目は新宿駅に停車した貨物列車。いずれも深夜に発生し、爆薬の規模も小さく、人的被害はありません。」
「刑事課の宮本です。この4件の被害者には、今のところ全く接点や共通点はなく、怨恨の筋も特に認められねぇ。対象物もバラバラだし、無差別と考えられます」
「同じく宮本紗夜です。犯罪心理的に分析すると、この4件に殺意はなく、逆に敢えて危害が人に及ばない様に配慮されています。また、対象に一貫性がないことから、試行的犯行と見て間違いないでしょう」
「試行…か。快楽的犯行ってことはないの?」
刑事課の鳳来咲が問う。
「はい。最初は普通に停車、次はゆっくり停車、次はバックで停車。そして最後は電車という振動が多い条件からの停車です。明らかに考え得るパターンを試しているもの、つまりは快楽的な要素は見当たりません」
「紗夜、犯人像はどう見る?」
単刀直入に、富士本が意見を求める。
「ここまでの犯行から見えるのは、犯人はかなりの知能犯。期間をかけて緻密に計画を立て、確実に実行できる、冷静かつ慎重な性格の持ち主で、犯行内容から年齢は30~40。更に言えば、我々警察の動きや反応にも精通している者が主犯と考えます」
会場内がざわめく。
「警察関係者だと言うのか?」
「いえ、警察関係者てなくても、今では情報はネット上から得ることができますので」
「紗夜、主犯ってことは、単独犯ではないってことね?」
咲が感情論議になるのを止めた。
「私の経験と知り得た事実から、実行者は別にいて、爆発物の知識、遠隔またはタイマー操作する電子的な知識、機械的な強度を導く知識、そして、それらを入手できる者。少なくとも単独犯では不可能と考えます」
(なるほど…。確かに。)
紗夜の実績は、皆が知るところであった。
「じゃあ、昨日の2件を頼む。鑑識班と科捜班は.後ほどまとめてお願いする」
富士本が淳一を見る。
「了解。昨夜遅く杉並署交通課から、信号無視しながら逃走する不振車の通報があり、我々が到着した時には、爆発炎上した後でした。話によると、逃走中は携帯で誰かと話してた様で、踏切で停車した途端に爆発したとのことです」
「同じ内容なので、続けるわ。それから少しして、練馬署交通課から同様な通報があり、信号無視で突っ込んだ交差点で、トラックと接触し、爆発しました」
紗夜が昴を促す。
「最初の車の持ち主は、加藤吾郎 33歳。暴力沙汰で数回の拘留はありますが前科は記録にありません。2台目の所有者は、浜田智久 35歳、こちらも前科はありません」
ここで富士本が鑑識班へ合図を送る。
「鑑識班の武藤です。2人共死因は爆発時の外傷による出血死。遺体が本人であるかは、今確認中です」
「科学捜査班の酉塚です。爆発の規模と残留物質から、液体爆弾…の可能性が高いと考えます。昨今のテロで良く使用されるもので、分量による爆発規模の調整が可能です」
「簡単に入手できるものでしょうか?」
昴は、西塚に微妙な蟠《わだかま》りを感じた。
「知識さえあれば、家庭にある洗剤や、ホームセンター等で扱う肥料等から製造は可能です。信管も携帯のフラッシュで代用できるものもあります…が、一般の方が入手できる情報ではないと思います」
「入手できる、或いは製造できるとしたら?」
「その分野の科学者や…軍事関連者、或いは爆発物処理を専門とする者…かと」
「はい。爆発物処理班の木下です。確かに、製造するには、かなりの知識が必要です。過去に国内で犯罪に使用されている物は、ダイナマイトやプラスチック爆薬の様に、完成品を入手できるものですが、爆発の規模を小さく調整することは不可能でしょう。液体爆弾は完成品を入手することはできませんが、製造と調整は可能です」
「なるほど、容疑者或いは協力者を抽出できるかも知れないな。木下さん頼む」
富士本の依頼に黙って頷く。
「科学捜査班の水樹です。起爆装置は、やはり遠隔操作式で、携帯から捜査可能と考えられます。また、残骸からの推測になりますが、一度入ると、解除用の回路はなく、起爆はスピードメーターによるものと考えられます」
「スピードメーターだって?」
「はい、宮本刑事。スマホアプリでもありますし、自転車用の小型メーターもあり、今回は、スピードゼロで爆発する設定の様です」
「便利な世の中が、犯罪まで楽にするとはな」
「あと、携帯電話ですが、本人の物ではなく、使い捨ての物で、メモリーは自動破壊されてました」
一通りの報告が終わり、あちこちが推論や議論でざわつき始めた。
「よし、分かった。現時点ではここまでとし、殺害された2人の調査と、車を逆に追い、爆弾がいつどこで仕掛けられたか、この調査を最優先に頼む!」
不毛な会議に意味はなく、的確な指示である。
「一つだけいいですか?」
「なんだね紗夜」
「この数日で事件は始まり、2人の標的が既に殺されました。つまりは、計画を実行する時が来たと言うことです。これから数日の出来事に注意して、犯人の最終目的を先に掴むことが、必要です」
「最終…目的…か。分かった、紗夜と昴はその分析に集中してくれ。必要なら科捜班が適任だろう。頼んだぞ」
「さて、私達は今分かる事実と、怨恨の筋で関連性を掴むわよ。未解決事件捜査部の皆さん、協力をお願いね!」
咲に指名された未解決事件捜査部の10名。
コツコツと出て行く、ミニスカ&ハイヒールの後ろ姿を目で追っていた。
咲は、浜田智久の調査にあたった。
派遣先での働きぶりは良く、同じ会社で契約を更新しており、正規採用の予定と聞いた。
事故の話を聞いた職場のショックは本物で、怨恨の手掛かりは全く見当たらない。
職場で慰留品を見せ、当人であることはまず間違いないが、念の為鑑識班を連れて、派遣会社が契約している浜田智久のアパートを尋ねた。
ミニスカ&ハイヒール&黒サングラス。
訝《いぶか》しげに咲を見る管理人。
警察手帳を見せても、信じたかどうか怪しい。
管理人に鍵を開けてもらう。
「彼女とか友人はいましたか?」
綺麗に整理された部屋である。
「いや~見かけたことはないなぁ。ここの住人同士も、あまり交流はないですしね。でも、浜田さんは、ちゃんと挨拶はするし、いい方でしたよ」
鑑識班が、髪の毛や歯ブラシを袋に入れる。
「あ、終わったら声掛けますね」
管理人を追い出す。
気になったのは、卓上の写真であった。
(大学…か。なるほどね)
親しげに映る男3人と女1人。
もう1人の犠牲者、加藤吾郎がいた。
さりげなくバッグに入れる。
(あとは…と、これかな)
ノートパソコンを外し、バッグへ。
「咲警部…」
「調査のためよ、何か問題かしら?」
「い、いえ、何も💦」
鑑識班でも、咲の怖さは知っている。
「さぁて、撤収!結果出たら、直ぐに教えて」
管理人に鍵を返して車に乗る。
さっきの写真を携帯で撮り、昴に送る。
「あ、もしもし昴、今送った写真の…多分まだ生きてる2人。住所調べて保護よろしく」
「分かりました。淳さんは、加藤吾郎がいた蔵崎組に会いに、新宿歌舞伎町のクラブ『ビューティナイト』へ行きました」
「分かったわ」
(ビューティナイト…美しい夜…💧趣味悪ぅ)
「もうそんな時間か。ついでに飲みに行くか」
呟いて、夜の新宿へと走り出した。
~新宿歌舞伎町~
実はあまり遊ばない真面目な淳一。
歌舞伎町になど、全く慣れてもいない。
「さすがに夜の歌舞伎町は、警察が来る場所じゃねぇな💦」
人は不安になると、独り言を言い出す。
「クラブ『ビューティナイト』これか!」
「いらっしゃいませ~お疲れ様です」
いきなり美女2人のお出迎え。
焦る淳一💦
「あ、いや、まぁ…入るしかないか」
警察手帳を出せる雰囲気ではない。
さらに、会うのはヤクザの蔵島組長である。
「く、蔵島組長はいるか?」
その声に、一瞬空気が張り詰める
…かと思った。
が…
「なんだ、蔵ちゃんのお友達なのね~」
「いや、お友達じゃないんだよ…💦」
(蔵ちゃん?なんなんだ、全く)
「こちらへどうぞ」
案内される前ままに、2階へ上がる。
フロアの両サイドには、黒服が2人。
「ほらほら、気にしないでこちらへ」
決してヤクザが怖いのではない。
店の華やかさと、ホステスが苦手なのである。
「蔵ちゃん、お友達ですよ」
「バカヤロウ、その呼び方やめろって」
奥のテーブル席に、蔵島満がいた。
「お楽しみのところ、悪ィな、俺は…」
警察手帳を出しかけた時、直ぐ右の部屋から出てきた女性とぶつかり、手帳を落とす。
「あら、ごめんなさい」
慌てて拾うその横を、見慣れたミニスカ&ハイヒールが通り過ぎた。
(まさかな…)
「蔵ちゃん、またなんかやらかしたの?」
そう言いながら、隣に座り脚を組む。
「はぁ~⁉️」
思わず叫んだ淳一の目が点になった。
(あっ…いやまてよ、潜入捜査ってやつか?)
「警視庁刑事課の宮本だ、加藤吾郎について話を聞かせてもらおうか」
とりあえず、潜入捜査を前提とした淳一。
「まぁ、座れよ刑事さん。神さんからあんたの話も聞いてるよ」
(そう言えば、飛鳥組の傘下とか言ってたな)
昴の話を思い出した。
「加藤の奴、またなんか迷惑かけたのか?」
「えっ、あ、いやそうじゃないんだ」
どうにもこうにもやり難い。
「アイツは音は優しいんだが、喧嘩も弱いくせして、短気でいけねぇ」
「多分だが、昨夜死んだんだよ、爆発で」
「何?冗談はよせや…」
「本当だ。殺された…多分な」
「な~んだと⁉️加藤が殺されたぁあ⁉️」
不意に胸ぐらを掴まれ、持ち上げられる淳一。
「誰だ❗️殺ったのはどこのどいつだ❗️」
(なんでこうなるかなぁ…咲さん!)
「蔵ちゃん、ちょっと落ち着いて、放しなさいよ、それじゃ喋れないじゃない」
(演技うまっ❗️)呆れる淳一。
「クッ、すまねぇ、つい」
その時。
「蔵島組長ってのは、いるか❗️」
聴き慣れた声がした。
「えっ、どうなってんの、あっ、上に」
ホステスが慌てているのが分かった。
聴き慣れたヒールの音。
「なんだ淳、いたのね」
「えぇェええ~⁉️咲さん💦なんで❗️」
「あらら、お姉さん」
「あらら、美夜!どうしてここに?」
「私のお得意様なのよね。あっ、蔵ちゃん、これが、姉の咲警部」
「マジか~⁉️」×2(淳一&蔵島組長)
双子の姉妹、鳳来咲と鳳来美夜。
妹の美夜は、岩崎建設の営業をしている。
なんだかんだありながら、必要な情報は得た。
「いや~驚いたぜ、美夜。そっくりだな」
「美夜ぁ、あんたの奢りね❗️」
「冗談でしょ!咲すっごく飲むじゃない❗️」
「加藤の弔《とむら》い酒よ!俺が奢るぜ」
「さっすが組長!太っ腹ね、気に入った❗️」
「咲さんダメっすよ、警察がヤクザに…」
「ごちゃごちゃうるさい❗️飲め、淳!」
潜入捜査など、やるわけがない。
酒にヤクザも警察も関係ない。
…それが、鳳来咲なのである。
~東京足立区~
咲が絶好調になった頃。
閑静な住宅街を最終のバスが走っていた。
「おやすみ~」
運転手の声に、返事はない。
(あまり見かけない客だな…)
お客はあと女性が1人。
いつも一番後ろの席に座る。
そして、いつも次のバス停で降りる客である。
バス停が見えて来た。
(さて、今日の仕事も終わりだな)
誰もいないバス停へ、ゆっくり寄せ、ブレーキを踏み込んだ。
「ドドーン💥❗️」
突然バスの後部が爆発し、車体の後部が浮き上がる。
辺りの家の明かりが一斉に灯る。
運転席は無事である。
慌てて後ろを見た。
が…そこにあの女性はいない。
いや。
正確にはいた。
ただ…人の姿ではなくなっていたのである。
~警察官対策本部~
「紗夜さん、写真の2人見つけました」
「久米山勝《くめやままさる》と宮崎美穂」
そこで、刑事課の電話が2つ鳴った。
(昴外線へ)
「はい紗夜です」「はい警視庁刑事課」
「紗夜さん、咲さんの電話繋がらなくて。浜田智久のDNAが一致しました。咲さんに伝えてください」
「分かりました。連絡ありがとうございます」
(7人目…か)
鑑識班からの電話を聞きながら、昴の心に集中していた紗夜。
「女性?男性?」
「女性だそうです。バスの最後部に座っていて、爆破されました。運転手は無傷です」
「宮崎美穂…ね」
「住所とバス停の位置からみて、間違いないと思います」
「私は鑑識班と現場に行くから、昴は久米山勝を探して!」
走りながら電話を掛ける。
「紗夜です、今から鑑識班と科捜班の出動お願いします。正面玄関で!」
階段を降りながらもう一本。
「もしもし、淳❗️咲さんは?」
背後の声が聞こえた。
(ダメか…)
「紗夜、ちょっと今夜は無理だ」
「分かったわ、咲さんをお願い」
(何とかして、あと1人は守らないと!)
(彼は無事です。今は府中刑務所にいます)
紗夜の頭に、昴の声が届いた。
(刑務所?)
(詳しいことは調べて、また後で)
玄関で鑑識班・科捜班と合流した。
「足立区のこの住所へ!」
携帯に表示させて、運転手に渡す。
「バスが爆破されて、女性が1人犠牲に!」
警察の捜査も虚しく、事件は犯人の計画通りに運んでいた…かのように思われた。
ここでの仕事は夜中がメインとなる。
仕事を思えた車両が、次々と帰って来る。
各駅で朝を迎える車両もあるが、定期的にはほとんどの車両がここで点検や改修を受ける。
「先輩、こんなことも仕事なんですか?」
先週入ったばかりの新人を連れて、品川駅近くの信号機の点検をする熊谷拓哉。
「全く、いつの時代のものですかこれ?」
新人が工具で、カンカンと叩く。
「バカ野郎❗️」
厳しいと聞いてはいたが、急に怒鳴られ驚く。
「丁寧に扱え!この信号の一つ一つが、大切な命を守ってんだ!」
「す、すんません」
(マジ恐ぇ~。逆らわないのが身のためか)
内心納得はいかないまでも、マジなトーンに萎縮させられていた。
(ふぅ~。何を神経質になってんだ俺は)
「悪ィ、つい怒鳴っちまった。早く済まて、車庫へ帰るぞ」
近年は、パワハラ含むメンタルヘルスも会社理念に加わっていた。
(やり難い世の中になっちまったぜ)
物思いに耽《ふけ》るかの様に、夜空を見上げた。
~岐阜県下呂市~
草津、有馬と並ぶ、日本三大名泉の下呂温泉。
夫が予約した有名な宿に泊まる2人。
「はぁ~いい気持ち」
「東京に戻りたくなくなりますね」
「恭子さん、お昼はご馳走様でした。お弟子さんとはいえ、さすが『鈴蘭』。私なんかじゃ説明がないと、何の料理だか分からないくらいでした」
「ありがとうございます。手は込んでいますが、和食ならではの食材の味は、シッカリ出しているつもりです」
「そうそう、食べてみるとよくわかります。しかし、板長さんまで挨拶に出て来て、かなりプレッシャーかかってたりして…」
事実、あの鈴蘭恭子が来てると知った厨房は、いつもより増して緊張感が漂よい、予定よりかなりグレードアップした料理が出されたのであった。
「アハッ。そんなことないですよ、私なんか。でも、すごい食材が沢山使われてて驚きました。旦那様の愛情でしょうね。お邪魔して良かったです」
「ないない💦そんなに気をまわせるほど、器用な人じゃないですから。あれは、きっと板長さんの恭子さんに対する挑戦ですよ。ハハハ」
さすがに良くお分かりで💧
「羨ましいですわ、仲の良いご夫婦で」
「失礼ですが、ご結婚は…?」
「あ、はい。一度しましたが、お互い忙しくて。話し合って別れました」
「そうでしたか。確かにお忙しいですものね。それではお子さんも…」
「ええ…もういません」
「あら、私ったらごめんなさい。ついつい。夫の商売が移ったかしら💦。ちなみに、私達は話し合って、子供は作らないと決めたんです。無鉄砲な刑事ですからね、うちの人は、ハハ」
悲しげな表情に焦った雅恵であった。
「しかし本当に、いいお湯ね。なめらかな肌触りで、ツルツルするし。化粧水をつけたような美肌効果があるって書いてありましたわ。まぁ…恭子さんには必要ないかな」
「とんでもない。普段はお肌のことなんて気にもしてられないから、ここの温泉の素を買って帰ります」
思いもしなかった出逢いで、日頃のストレスを十分解消できた2人であった。
~警視庁対策本部~
ビル内の各部署が集結した合同会議である。
「え~それでは、連続している爆破事件について、対策会議を始める。まずは、各員報告を」
刑事課の富士本が進行を務める。
「刑事課の神崎です。まずは4件目までを再度確認しておきます」
神崎昴が、モニターに4件の写真を映す。
「最初の爆破は、池袋の信号で停車したワゴン車。次は原宿で路上駐車した軽自動車。3件目は、渋谷にある立体駐車場にバックで駐車したスポーツカー。4件目は新宿駅に停車した貨物列車。いずれも深夜に発生し、爆薬の規模も小さく、人的被害はありません。」
「刑事課の宮本です。この4件の被害者には、今のところ全く接点や共通点はなく、怨恨の筋も特に認められねぇ。対象物もバラバラだし、無差別と考えられます」
「同じく宮本紗夜です。犯罪心理的に分析すると、この4件に殺意はなく、逆に敢えて危害が人に及ばない様に配慮されています。また、対象に一貫性がないことから、試行的犯行と見て間違いないでしょう」
「試行…か。快楽的犯行ってことはないの?」
刑事課の鳳来咲が問う。
「はい。最初は普通に停車、次はゆっくり停車、次はバックで停車。そして最後は電車という振動が多い条件からの停車です。明らかに考え得るパターンを試しているもの、つまりは快楽的な要素は見当たりません」
「紗夜、犯人像はどう見る?」
単刀直入に、富士本が意見を求める。
「ここまでの犯行から見えるのは、犯人はかなりの知能犯。期間をかけて緻密に計画を立て、確実に実行できる、冷静かつ慎重な性格の持ち主で、犯行内容から年齢は30~40。更に言えば、我々警察の動きや反応にも精通している者が主犯と考えます」
会場内がざわめく。
「警察関係者だと言うのか?」
「いえ、警察関係者てなくても、今では情報はネット上から得ることができますので」
「紗夜、主犯ってことは、単独犯ではないってことね?」
咲が感情論議になるのを止めた。
「私の経験と知り得た事実から、実行者は別にいて、爆発物の知識、遠隔またはタイマー操作する電子的な知識、機械的な強度を導く知識、そして、それらを入手できる者。少なくとも単独犯では不可能と考えます」
(なるほど…。確かに。)
紗夜の実績は、皆が知るところであった。
「じゃあ、昨日の2件を頼む。鑑識班と科捜班は.後ほどまとめてお願いする」
富士本が淳一を見る。
「了解。昨夜遅く杉並署交通課から、信号無視しながら逃走する不振車の通報があり、我々が到着した時には、爆発炎上した後でした。話によると、逃走中は携帯で誰かと話してた様で、踏切で停車した途端に爆発したとのことです」
「同じ内容なので、続けるわ。それから少しして、練馬署交通課から同様な通報があり、信号無視で突っ込んだ交差点で、トラックと接触し、爆発しました」
紗夜が昴を促す。
「最初の車の持ち主は、加藤吾郎 33歳。暴力沙汰で数回の拘留はありますが前科は記録にありません。2台目の所有者は、浜田智久 35歳、こちらも前科はありません」
ここで富士本が鑑識班へ合図を送る。
「鑑識班の武藤です。2人共死因は爆発時の外傷による出血死。遺体が本人であるかは、今確認中です」
「科学捜査班の酉塚です。爆発の規模と残留物質から、液体爆弾…の可能性が高いと考えます。昨今のテロで良く使用されるもので、分量による爆発規模の調整が可能です」
「簡単に入手できるものでしょうか?」
昴は、西塚に微妙な蟠《わだかま》りを感じた。
「知識さえあれば、家庭にある洗剤や、ホームセンター等で扱う肥料等から製造は可能です。信管も携帯のフラッシュで代用できるものもあります…が、一般の方が入手できる情報ではないと思います」
「入手できる、或いは製造できるとしたら?」
「その分野の科学者や…軍事関連者、或いは爆発物処理を専門とする者…かと」
「はい。爆発物処理班の木下です。確かに、製造するには、かなりの知識が必要です。過去に国内で犯罪に使用されている物は、ダイナマイトやプラスチック爆薬の様に、完成品を入手できるものですが、爆発の規模を小さく調整することは不可能でしょう。液体爆弾は完成品を入手することはできませんが、製造と調整は可能です」
「なるほど、容疑者或いは協力者を抽出できるかも知れないな。木下さん頼む」
富士本の依頼に黙って頷く。
「科学捜査班の水樹です。起爆装置は、やはり遠隔操作式で、携帯から捜査可能と考えられます。また、残骸からの推測になりますが、一度入ると、解除用の回路はなく、起爆はスピードメーターによるものと考えられます」
「スピードメーターだって?」
「はい、宮本刑事。スマホアプリでもありますし、自転車用の小型メーターもあり、今回は、スピードゼロで爆発する設定の様です」
「便利な世の中が、犯罪まで楽にするとはな」
「あと、携帯電話ですが、本人の物ではなく、使い捨ての物で、メモリーは自動破壊されてました」
一通りの報告が終わり、あちこちが推論や議論でざわつき始めた。
「よし、分かった。現時点ではここまでとし、殺害された2人の調査と、車を逆に追い、爆弾がいつどこで仕掛けられたか、この調査を最優先に頼む!」
不毛な会議に意味はなく、的確な指示である。
「一つだけいいですか?」
「なんだね紗夜」
「この数日で事件は始まり、2人の標的が既に殺されました。つまりは、計画を実行する時が来たと言うことです。これから数日の出来事に注意して、犯人の最終目的を先に掴むことが、必要です」
「最終…目的…か。分かった、紗夜と昴はその分析に集中してくれ。必要なら科捜班が適任だろう。頼んだぞ」
「さて、私達は今分かる事実と、怨恨の筋で関連性を掴むわよ。未解決事件捜査部の皆さん、協力をお願いね!」
咲に指名された未解決事件捜査部の10名。
コツコツと出て行く、ミニスカ&ハイヒールの後ろ姿を目で追っていた。
咲は、浜田智久の調査にあたった。
派遣先での働きぶりは良く、同じ会社で契約を更新しており、正規採用の予定と聞いた。
事故の話を聞いた職場のショックは本物で、怨恨の手掛かりは全く見当たらない。
職場で慰留品を見せ、当人であることはまず間違いないが、念の為鑑識班を連れて、派遣会社が契約している浜田智久のアパートを尋ねた。
ミニスカ&ハイヒール&黒サングラス。
訝《いぶか》しげに咲を見る管理人。
警察手帳を見せても、信じたかどうか怪しい。
管理人に鍵を開けてもらう。
「彼女とか友人はいましたか?」
綺麗に整理された部屋である。
「いや~見かけたことはないなぁ。ここの住人同士も、あまり交流はないですしね。でも、浜田さんは、ちゃんと挨拶はするし、いい方でしたよ」
鑑識班が、髪の毛や歯ブラシを袋に入れる。
「あ、終わったら声掛けますね」
管理人を追い出す。
気になったのは、卓上の写真であった。
(大学…か。なるほどね)
親しげに映る男3人と女1人。
もう1人の犠牲者、加藤吾郎がいた。
さりげなくバッグに入れる。
(あとは…と、これかな)
ノートパソコンを外し、バッグへ。
「咲警部…」
「調査のためよ、何か問題かしら?」
「い、いえ、何も💦」
鑑識班でも、咲の怖さは知っている。
「さぁて、撤収!結果出たら、直ぐに教えて」
管理人に鍵を返して車に乗る。
さっきの写真を携帯で撮り、昴に送る。
「あ、もしもし昴、今送った写真の…多分まだ生きてる2人。住所調べて保護よろしく」
「分かりました。淳さんは、加藤吾郎がいた蔵崎組に会いに、新宿歌舞伎町のクラブ『ビューティナイト』へ行きました」
「分かったわ」
(ビューティナイト…美しい夜…💧趣味悪ぅ)
「もうそんな時間か。ついでに飲みに行くか」
呟いて、夜の新宿へと走り出した。
~新宿歌舞伎町~
実はあまり遊ばない真面目な淳一。
歌舞伎町になど、全く慣れてもいない。
「さすがに夜の歌舞伎町は、警察が来る場所じゃねぇな💦」
人は不安になると、独り言を言い出す。
「クラブ『ビューティナイト』これか!」
「いらっしゃいませ~お疲れ様です」
いきなり美女2人のお出迎え。
焦る淳一💦
「あ、いや、まぁ…入るしかないか」
警察手帳を出せる雰囲気ではない。
さらに、会うのはヤクザの蔵島組長である。
「く、蔵島組長はいるか?」
その声に、一瞬空気が張り詰める
…かと思った。
が…
「なんだ、蔵ちゃんのお友達なのね~」
「いや、お友達じゃないんだよ…💦」
(蔵ちゃん?なんなんだ、全く)
「こちらへどうぞ」
案内される前ままに、2階へ上がる。
フロアの両サイドには、黒服が2人。
「ほらほら、気にしないでこちらへ」
決してヤクザが怖いのではない。
店の華やかさと、ホステスが苦手なのである。
「蔵ちゃん、お友達ですよ」
「バカヤロウ、その呼び方やめろって」
奥のテーブル席に、蔵島満がいた。
「お楽しみのところ、悪ィな、俺は…」
警察手帳を出しかけた時、直ぐ右の部屋から出てきた女性とぶつかり、手帳を落とす。
「あら、ごめんなさい」
慌てて拾うその横を、見慣れたミニスカ&ハイヒールが通り過ぎた。
(まさかな…)
「蔵ちゃん、またなんかやらかしたの?」
そう言いながら、隣に座り脚を組む。
「はぁ~⁉️」
思わず叫んだ淳一の目が点になった。
(あっ…いやまてよ、潜入捜査ってやつか?)
「警視庁刑事課の宮本だ、加藤吾郎について話を聞かせてもらおうか」
とりあえず、潜入捜査を前提とした淳一。
「まぁ、座れよ刑事さん。神さんからあんたの話も聞いてるよ」
(そう言えば、飛鳥組の傘下とか言ってたな)
昴の話を思い出した。
「加藤の奴、またなんか迷惑かけたのか?」
「えっ、あ、いやそうじゃないんだ」
どうにもこうにもやり難い。
「アイツは音は優しいんだが、喧嘩も弱いくせして、短気でいけねぇ」
「多分だが、昨夜死んだんだよ、爆発で」
「何?冗談はよせや…」
「本当だ。殺された…多分な」
「な~んだと⁉️加藤が殺されたぁあ⁉️」
不意に胸ぐらを掴まれ、持ち上げられる淳一。
「誰だ❗️殺ったのはどこのどいつだ❗️」
(なんでこうなるかなぁ…咲さん!)
「蔵ちゃん、ちょっと落ち着いて、放しなさいよ、それじゃ喋れないじゃない」
(演技うまっ❗️)呆れる淳一。
「クッ、すまねぇ、つい」
その時。
「蔵島組長ってのは、いるか❗️」
聴き慣れた声がした。
「えっ、どうなってんの、あっ、上に」
ホステスが慌てているのが分かった。
聴き慣れたヒールの音。
「なんだ淳、いたのね」
「えぇェええ~⁉️咲さん💦なんで❗️」
「あらら、お姉さん」
「あらら、美夜!どうしてここに?」
「私のお得意様なのよね。あっ、蔵ちゃん、これが、姉の咲警部」
「マジか~⁉️」×2(淳一&蔵島組長)
双子の姉妹、鳳来咲と鳳来美夜。
妹の美夜は、岩崎建設の営業をしている。
なんだかんだありながら、必要な情報は得た。
「いや~驚いたぜ、美夜。そっくりだな」
「美夜ぁ、あんたの奢りね❗️」
「冗談でしょ!咲すっごく飲むじゃない❗️」
「加藤の弔《とむら》い酒よ!俺が奢るぜ」
「さっすが組長!太っ腹ね、気に入った❗️」
「咲さんダメっすよ、警察がヤクザに…」
「ごちゃごちゃうるさい❗️飲め、淳!」
潜入捜査など、やるわけがない。
酒にヤクザも警察も関係ない。
…それが、鳳来咲なのである。
~東京足立区~
咲が絶好調になった頃。
閑静な住宅街を最終のバスが走っていた。
「おやすみ~」
運転手の声に、返事はない。
(あまり見かけない客だな…)
お客はあと女性が1人。
いつも一番後ろの席に座る。
そして、いつも次のバス停で降りる客である。
バス停が見えて来た。
(さて、今日の仕事も終わりだな)
誰もいないバス停へ、ゆっくり寄せ、ブレーキを踏み込んだ。
「ドドーン💥❗️」
突然バスの後部が爆発し、車体の後部が浮き上がる。
辺りの家の明かりが一斉に灯る。
運転席は無事である。
慌てて後ろを見た。
が…そこにあの女性はいない。
いや。
正確にはいた。
ただ…人の姿ではなくなっていたのである。
~警察官対策本部~
「紗夜さん、写真の2人見つけました」
「久米山勝《くめやままさる》と宮崎美穂」
そこで、刑事課の電話が2つ鳴った。
(昴外線へ)
「はい紗夜です」「はい警視庁刑事課」
「紗夜さん、咲さんの電話繋がらなくて。浜田智久のDNAが一致しました。咲さんに伝えてください」
「分かりました。連絡ありがとうございます」
(7人目…か)
鑑識班からの電話を聞きながら、昴の心に集中していた紗夜。
「女性?男性?」
「女性だそうです。バスの最後部に座っていて、爆破されました。運転手は無傷です」
「宮崎美穂…ね」
「住所とバス停の位置からみて、間違いないと思います」
「私は鑑識班と現場に行くから、昴は久米山勝を探して!」
走りながら電話を掛ける。
「紗夜です、今から鑑識班と科捜班の出動お願いします。正面玄関で!」
階段を降りながらもう一本。
「もしもし、淳❗️咲さんは?」
背後の声が聞こえた。
(ダメか…)
「紗夜、ちょっと今夜は無理だ」
「分かったわ、咲さんをお願い」
(何とかして、あと1人は守らないと!)
(彼は無事です。今は府中刑務所にいます)
紗夜の頭に、昴の声が届いた。
(刑務所?)
(詳しいことは調べて、また後で)
玄関で鑑識班・科捜班と合流した。
「足立区のこの住所へ!」
携帯に表示させて、運転手に渡す。
「バスが爆破されて、女性が1人犠牲に!」
警察の捜査も虚しく、事件は犯人の計画通りに運んでいた…かのように思われた。
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