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6. 拡散する策略
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深夜0:40。
いつしか消えた意識が…目覚めた。
(病院か…)
幾つかの擦り傷と軽い打撲。
アレンが庇ったおかげで、大きな怪我はない。
それよりも、心の傷が深かった。
(紗夜…紗夜、どこなんだ、全くもう)
アレンのボヤきが聞こえた。
近付いて来る。
点滴を抜き、起き上がる。
「っつ!」
アレンの重みで、肋骨にヒビが入っていた。
痛みとは裏腹に、いつになく体が軽い。
(なに?この感覚…)
明らかにいつもと違っている。
庇って貰ったとは言え、あの距離の2つの爆発で、この程度で済んだのも奇跡である。
「ここか?ありがとな、早く寝ろよ」
ドアの外にアレンを感じた。
紗夜が見つめる中、そっとドアが開き、頭に包帯を巻いたアレンが現れた。
「アレン」
「紗夜、良かった~。大丈夫か?」
どう見ても、こっちのセリフである💧
「だ、大丈夫よ私は。こんな夜中に何?」
(私のために…しかし…誰と話してた?)
爆発する間際、アレンの助けがなかったら、甚大なダメージを被《こうむ》っていたはずである。
「もう、顔認証の結果が出てるはず。少し気になることもあるから、こんなとこにいる暇はない」
あまりのショックに忘れていた。
「そうねアレン、ありがとう。出ましょう」
埃まみれのバッグとステッキを持ち、靴に履き替えて急ぐ。
「1階の厨房には、裏口があるはずだ」
丁度救急車が到着し、当直の看護師の注意もそちらに向けられていた。
厨房から裏口の鍵を開け、外へ出た。
「アレン、何とか車を」
「分かった、ここにいて下さい」
駆けて行くアレン。
直ぐに車が来て、降りたアレンが助手席のドアを開け、紗夜をエスコートする。
「少し高いから、気を付けて」
アレンも乗り込む。
「早かったわね」
「ま…まぁね💦」
(えっ?ウソっ!まさか…)
「こらっ、待ちなさい❗️」
誰かが走って来る。
慌てて発車するアレン。
真夜中のロスの街を、救急車が疾走する。
(……💧)
とりあえず、何も追求はしない紗夜であった。
~ロス市警本部~
途中の無線からの叫びは、無情にもアレンによって瞬時に引き千切られた。
この行動力に唖然としながらも、頼もしく思えた紗夜。
正面玄関に着いた救急車に、驚いた守衛が飛び出して来る。
「アレン刑事!ど、とうしたんです?」
「緊急なんだ、殺人課のロックを解除してくれ。あと、アレを裏へ」
アレ=救急車であることは間違いない。
「急いでるの、お願いします」
「わ…分かりました」
「紗夜、エレベーターへ」
「始末書で済むかしら?」
「マイシステムの成果次第だな💧」
殺人課のロックは外されていた。
手を引かれてアレンの城へ行く。
「よし、電源は切られていない」
セーブモードを解除し、結果を見る。
「やっぱり❗️」
「説明を、アレン!」
「一人は、ジニー・アトキンソン。国防総省本庁舎の海兵隊総司令部、副司令官だ」
「国防総省本庁舎《ペンタゴン》⁉️」
「まだあるぜ、似てると思ったんだよな。あと一人は、防衛長官ドリス・シャルマンの息子だ❗️名前は…ミック・シャルマン隊長」
「47部隊でも隊長を!」
「そういうことになるな。闇に葬られるのは間違いないってわけだ」
「国防総省《ペンタゴン》とは、厄介ね。でも尚更許せない!ロナウドがドリス長官を名指ししたのも当然ね」
軍の最高本部による隠蔽工作。
メリル・ターナーや、ロナウド・ジョンソン、そしてボブ。
決して癒されない痛みに、つい同情心を呼び起こしてしまいそうになる。
突然、アレンの携帯が鳴った。
「ぶぁ~かものぉおおお~❗️」
思わず耳から離すアレン。
静かなオフィスにこだました。
咄嗟の機転で、紗夜が携帯を奪う。
「警部、申し訳ございません。私のせいです」
目一杯の、申し訳ない 演技である。
「あっ…紗夜さんか…いや、しかしな💦」
逆に慌てるニール。
「本っとうに、ごめんなさい警部」
更なる追撃である。
「そうか…いや、それなら、し、仕方ない💧」
まだ謝っただけである。
隣で恐るべし紗夜と思うアレンであった。
「アレンのおかげで、47部隊の秘密と2人が分かりました。詳しくはまた明日報告しますね」
ちゃんとアレンを立てる。
「おお、そうか。でかした!じゃあ明日な」
さっさと電話を切る。
便利な紗夜が欲しいと思うアレン。
「とにかく、今日は帰りましょ。こんな格好だし💦」
入院コーデに、今更気付いた2人。
「じゃあ送ります」
「アレで?🚑。。。」
「まさか💧、車は誰かがホテルから駐車場へ運んでくれてたよ」
病院へ謝罪の電話をしたあと、帰宅した二人であった。
~バージニア州アーリントン郡~
ワシントンD.C.の外郭部に位置する、地上5階、地下2階の五角形のビル。
アメリカ国防総省本庁舎、通称ペンタゴン。
「ヤツの妹はまだ見つからないのか❗️」
「それが、Submarine《サブマリン》のロナウドがバックにいる様で、全く…」
ドリス長官の声に、ビクつくジニー副司令官。
「手段は選ばん、まずはあの邪魔な捜査官を殺れ。お前ならアイツを使えるだろう」
「…分かりました。必ず」
部屋を出たジニー。
自らも忍び寄る死の恐怖に怯えていた。
戦場を教えた後輩兵士、リチャード・ハミルトンへのメールへ、紗夜の写真載せる。
恐怖と同時に、彼の心を蝕《むしば》んでいた罪悪感が、躊躇《ためら》いの間を作る。
(彼女を殺すことに、何の意味が…)
復讐劇が止まる訳ではない。
しかし、長官の命に今更抗う道は無かった。
(許せ…)
送信ボタンを押す。
と、そのタイミングで、携帯が鳴った…。
~ロス市警本部~
当然ながらニールの部屋に呼ばれた2人。
紗夜に呼ばれたジョイスもいた。
怒鳴れないニール。
(紗夜め、なかなかやるな…)
「違うわよ」
座ったまま、ローヒールの踵《かかと》がアレンの靴にめり込む。
「グッ!」堪えるアレン。
「で、何を見つけたんだ?」
訳の分からないまま呼ばれたジョイス。
「昨日の会場で殺やれたのは、47部隊のラパス・チークとカイル・ボブソン。残るは6人。その内2人をアレンが見つけました」
「一人は国防総省《ペンタゴン》にいる、海兵隊総司令部の副司令官、ジニー・アトキンソン」
「何だと⁉️」
「ボス、驚くのはまだ早いですよ。顔認証システムを応用したシステムで、顔の特徴的な部位を比較検索したら、ミック・シャルマン元隊長が浮かび上がりました」
「シャルマンだと!まさか…」
「ジョイス、そのまさかよ。現国防長官ドリス・シャルマンの息子です」
「そんなバカな!ペンタゴンが裏にいると言うのか?」
ニールの表情に絶望感が漂う。
「考えて見てください。ロナウドが名指しまでした理由。調べたところ、長官の息子ミック隊長は、イラクやアフガンで幾つもの勲章🎖を得ていますが、軍内では『Grim Reaper』とまで言われてました」
「ヤツの勲章は、大勢の犠牲の上にぶら下がってるってことだ」
「とにかくアレン、分かった以上、まずはジニー副司令官を保護しないと」
「先ほどペンタゴンへ問い合わせましたが、丁度出かけた後でした。当然、個人携帯は教えてもらえません」
「ドリス長官の息子は?」
「これを見てください」
アレンが、ノートPCの映像をモニターに映す。
「これは、D.C.郊外の店や街頭などに設置されているカメラ映像です」
「ヤツか?」
素早くジョイスが見つけ出す。
「この辺りのカメラにいくつも映ってます。そしてそこにあるのがこの邸宅です」
高い柄に囲まれ、厳重な警備体制を敷いた豪邸が、広い敷地の真ん中にあった。
「ドリス長官の邸宅か?」
「間違いありません、奴はここにいる!」
その瞬間、圧倒的な権力の壁が、彼らの前に立ちはだかった。
FBI を持ってしても、国防総省を捜査するには上の判断が必要であり、それには明らかな証拠が不可欠となる。
47部隊の復讐劇は、状況証拠以外に何もない推論である。
「しかしアレン。どうやってこれを?」
「えっ💦この際、そんな事を言ってる場合じゃないでしょう…なぁ紗夜」
「そうね、ハッキングは罪だけど、それは後にして、ついでにD.C.の街から、ジニーを探して!」
「おいおい、紗夜捜査官。警察がハッキングだなんて、始末書じゃ済まんぞ💦」
「ニール警部、これは我々FBI の指示と言うことで、何とかします。アレン刑事、急いで下さい」
ジョイスに言われるまでもなく、すでに取り掛かっていた。
「ペンタゴン寄りに絞りますね」
瞬く間に、モニターに幾つものリアルタイムな映像が映る。
「あなた、犯罪者の方が似合ってるわ」
「おいおい…💧」
頭を抱えるニールをよそに、アレンの指先が、素早い動きでキーを叩き続ける。
ジョイスが必死で画像を見つめる。
「いた❗️」
3人の思念に集中する紗夜。
(また…なに?…この感覚)
3人が見ている状況が鮮明に思い描けた。
と同時に、右の掌に痛みが走る。
「オープンカフェね。時計を気にしている。誰かと待ち合わせを…」
痛みと同時に、嫌な予感がした。
(マズいっ、やられた❗️)
ジニーが顔を上げて、手を振った瞬間。
画像が…消えた。
「アレン、近くの他のカメラを!」
「よしっと、どうだ?」
オープンカフェが爆煙に包まれていた。
しかし…
多くの人々の目は、違うものへ向いていた。
「アレン!」
別のカメラが、その見詰める先を映し出す。
立ち並ぶビルの向こう側。
もくもくと立ち上がる煙。
時折り赤い炎も見えた。
しかも2箇所。
「あの方角は…」
アレンがカメラの現在地を中心に、ワシントンの地図を映す。
「やはり!国防長官の邸宅と、ペンタゴン❗️」
「そんな…ん?」
殺人課の皆が、テレビを見て騒付いていた。
ニールがテレビをつける。
「つい先程、ミサイルの様なものが、国防総省《ペンタゴン》とD.C.郊外のドリス国防長官宅へ撃ち込まれ、ここD.C.の街からも、その煙と炎が確認できます。また、ほぼ同時刻に、市街地にあるオープンカフェでも爆発があったとのことです」
カメラが高い位置から、D.C.郊外の炎と煙を映し出していた。
「まだ声明等は出ていませんが、国内反軍組織であるSubmarineによる同時テロの可能性が高いと考えます。私達は、今からペンタゴンへ向かいたいと思います。ワシントンD.C.より、メアリー・フランシスがお伝えしました」
「さすがメアリーだな。昨日のロナウドの発言から、早速ペンタゴンへ乗り込むつもりで動いたか。私は直ぐにD.C.へ向かいます」
ジョイスが紗夜を見る。
この時紗夜は、別のことを考えていた。
(何かが、おかしい…)
「あ、ジョイス、先に行って。私は少し確認したいことがあるから」
「分かった。ニール警部、失礼します」
ジョイスが出て行く。
「ボス、今回はロナウド達の仕業ですね」
その横で内線電話をかける紗夜。
疑問の目で、それを見るアレン。
「はい、テロ対策課です」
「危険物処理班のマーチンをお願いします」
「どうしたんだ、紗夜捜査官?」
ニールも不思議そうに見ていた。
同時テロ。
その言葉に、9.11の記憶が蘇る。
しかもその一つは、再び国防総省《ペンタゴン》である。
「はい、マーチンです」
「紗夜です。急いで昨日回収したダミーの地雷を持って、殺人課のニール警部の部屋へきて」
「紗夜捜査官!入院したんじゃ?」
「私は大丈夫だから、早くお願い」
電話を切る。
「どうゆうつもりなんだ紗夜?」
「ミサイル攻撃は、ロナウド達の仕業で間違いない。でも、カフェの爆発は恐らくあの椅子に仕込まれた地雷。つまりメリル・ターナーの復讐」
また、あの無表情の紗夜がいた。
その違いに気づいて、声が出ない2人。
「爆発する直前、待ち合わせていた誰かを見て、手を振った。あの目は親しい人を見るかの様に緩んでいた」
「そう言われれば…」
「昨夜、私はジニーの経歴を調べたの。彼は海兵隊で一時期、教官を務めていた。丁度モリス・ターナーが海兵隊で訓練してた頃よ」
「まさか、メリル・ターナーはジニー・アトキンソンと顔見知りか?」
「その可能性もある。確かなのは、47部隊のメンバーの情報源は、ジニーよ。訪ねて来たメリルに、彼の罪悪感がそうさせたのだと思う。自分と隊長のことは後回しにして」
「復讐に燃えるメリルに、自分を教えるわけはないか…」
「でもメリルは、それを知っていた」
そこへ、マーチンが来た。
「失礼します」
「ありがとう、マーチン。ダミーの地雷は持ってきた?」
「はい。爆薬は入っていますが、信管が外されていますから、爆発はしません」
「この椅子の上に置いてくれる?それから、ニール警部、チェアーマットを貸して下さい」
何で知ってるんだ?と思いながらも、椅子から外し、紗夜に渡す。
紗夜が、地雷の上にマットをのせ、躊躇《ためら》うことなく座った。
「カチャ」
微かな乾いた金属音を聴いた紗夜。
(同じ音)
一瞬驚く3人。
「音は聞こえましたか?」
「音?なんの?」
一番近くのアレンには、何も聞こえなかった。
「紗夜捜査官、この地雷はリモート機能が組み込まれてて、踏んだ時の音はほとんどありません」
紗夜の優れた聴覚でのみ、聞き取れた音。
「昨日、私はこの音を聴いた」
「聴こえるのか紗夜には?」
「はい。そして、座ったメアリーもこの音を聴いたと言いました」
「あり得ません!そんなこと」
昨日のことが、紗夜の頭の中で、目まぐるしく回想されていた。
(そうか!)
「メアリーは、あの椅子にこれが仕込まれていることを…知っていた。アレン!あなたのシステムで、メリルとメアリーの顔認証を❗️」
「そんな、まさか…」
呟きながらも素早く実行するアレン。
紗夜が、デスクの自分のバッグを持って来た。
まだ一部には土埃が残っている。
「バカな❗️」
アレンが叫んだ。
「当たりみたいね」
整形には限度がある。
かおの個性を示す基本要素の骨格は、年齢にもよるが、下手に手を加えると、復元しようとして、異常を来す可能性があった。
「整合率75%…同一人物だ!」
「そして、これ」
紗夜がバッグの奥に仕込まれていた、小型の盗聴器を取り出した。
「彼女が私に近づいて来たのも、椅子に地雷があることを知らせたのも、全て彼女の計画。そしてメアリーは、私の置き忘れたこのバッグを持ち出してくれた。盗聴器を仕掛けてね」
「メアリーが…メリル。整形してまで」
「今も聞いているはず。そうよね、メリル❗️」
叫んだあと、床に落として踏みつけた。
~ワシントンD.C.~
小さなカフェ。
(さすがは紗夜捜査官。でももう必要ない)
「マスター、サンキュー」
「メアリーさん、頑張って悪の根源をぶちのめしてくれ❗️」
「アハハ。任せておいて!」
そう言って出て行く、メリル・ターナーであった。
いつしか消えた意識が…目覚めた。
(病院か…)
幾つかの擦り傷と軽い打撲。
アレンが庇ったおかげで、大きな怪我はない。
それよりも、心の傷が深かった。
(紗夜…紗夜、どこなんだ、全くもう)
アレンのボヤきが聞こえた。
近付いて来る。
点滴を抜き、起き上がる。
「っつ!」
アレンの重みで、肋骨にヒビが入っていた。
痛みとは裏腹に、いつになく体が軽い。
(なに?この感覚…)
明らかにいつもと違っている。
庇って貰ったとは言え、あの距離の2つの爆発で、この程度で済んだのも奇跡である。
「ここか?ありがとな、早く寝ろよ」
ドアの外にアレンを感じた。
紗夜が見つめる中、そっとドアが開き、頭に包帯を巻いたアレンが現れた。
「アレン」
「紗夜、良かった~。大丈夫か?」
どう見ても、こっちのセリフである💧
「だ、大丈夫よ私は。こんな夜中に何?」
(私のために…しかし…誰と話してた?)
爆発する間際、アレンの助けがなかったら、甚大なダメージを被《こうむ》っていたはずである。
「もう、顔認証の結果が出てるはず。少し気になることもあるから、こんなとこにいる暇はない」
あまりのショックに忘れていた。
「そうねアレン、ありがとう。出ましょう」
埃まみれのバッグとステッキを持ち、靴に履き替えて急ぐ。
「1階の厨房には、裏口があるはずだ」
丁度救急車が到着し、当直の看護師の注意もそちらに向けられていた。
厨房から裏口の鍵を開け、外へ出た。
「アレン、何とか車を」
「分かった、ここにいて下さい」
駆けて行くアレン。
直ぐに車が来て、降りたアレンが助手席のドアを開け、紗夜をエスコートする。
「少し高いから、気を付けて」
アレンも乗り込む。
「早かったわね」
「ま…まぁね💦」
(えっ?ウソっ!まさか…)
「こらっ、待ちなさい❗️」
誰かが走って来る。
慌てて発車するアレン。
真夜中のロスの街を、救急車が疾走する。
(……💧)
とりあえず、何も追求はしない紗夜であった。
~ロス市警本部~
途中の無線からの叫びは、無情にもアレンによって瞬時に引き千切られた。
この行動力に唖然としながらも、頼もしく思えた紗夜。
正面玄関に着いた救急車に、驚いた守衛が飛び出して来る。
「アレン刑事!ど、とうしたんです?」
「緊急なんだ、殺人課のロックを解除してくれ。あと、アレを裏へ」
アレ=救急車であることは間違いない。
「急いでるの、お願いします」
「わ…分かりました」
「紗夜、エレベーターへ」
「始末書で済むかしら?」
「マイシステムの成果次第だな💧」
殺人課のロックは外されていた。
手を引かれてアレンの城へ行く。
「よし、電源は切られていない」
セーブモードを解除し、結果を見る。
「やっぱり❗️」
「説明を、アレン!」
「一人は、ジニー・アトキンソン。国防総省本庁舎の海兵隊総司令部、副司令官だ」
「国防総省本庁舎《ペンタゴン》⁉️」
「まだあるぜ、似てると思ったんだよな。あと一人は、防衛長官ドリス・シャルマンの息子だ❗️名前は…ミック・シャルマン隊長」
「47部隊でも隊長を!」
「そういうことになるな。闇に葬られるのは間違いないってわけだ」
「国防総省《ペンタゴン》とは、厄介ね。でも尚更許せない!ロナウドがドリス長官を名指ししたのも当然ね」
軍の最高本部による隠蔽工作。
メリル・ターナーや、ロナウド・ジョンソン、そしてボブ。
決して癒されない痛みに、つい同情心を呼び起こしてしまいそうになる。
突然、アレンの携帯が鳴った。
「ぶぁ~かものぉおおお~❗️」
思わず耳から離すアレン。
静かなオフィスにこだました。
咄嗟の機転で、紗夜が携帯を奪う。
「警部、申し訳ございません。私のせいです」
目一杯の、申し訳ない 演技である。
「あっ…紗夜さんか…いや、しかしな💦」
逆に慌てるニール。
「本っとうに、ごめんなさい警部」
更なる追撃である。
「そうか…いや、それなら、し、仕方ない💧」
まだ謝っただけである。
隣で恐るべし紗夜と思うアレンであった。
「アレンのおかげで、47部隊の秘密と2人が分かりました。詳しくはまた明日報告しますね」
ちゃんとアレンを立てる。
「おお、そうか。でかした!じゃあ明日な」
さっさと電話を切る。
便利な紗夜が欲しいと思うアレン。
「とにかく、今日は帰りましょ。こんな格好だし💦」
入院コーデに、今更気付いた2人。
「じゃあ送ります」
「アレで?🚑。。。」
「まさか💧、車は誰かがホテルから駐車場へ運んでくれてたよ」
病院へ謝罪の電話をしたあと、帰宅した二人であった。
~バージニア州アーリントン郡~
ワシントンD.C.の外郭部に位置する、地上5階、地下2階の五角形のビル。
アメリカ国防総省本庁舎、通称ペンタゴン。
「ヤツの妹はまだ見つからないのか❗️」
「それが、Submarine《サブマリン》のロナウドがバックにいる様で、全く…」
ドリス長官の声に、ビクつくジニー副司令官。
「手段は選ばん、まずはあの邪魔な捜査官を殺れ。お前ならアイツを使えるだろう」
「…分かりました。必ず」
部屋を出たジニー。
自らも忍び寄る死の恐怖に怯えていた。
戦場を教えた後輩兵士、リチャード・ハミルトンへのメールへ、紗夜の写真載せる。
恐怖と同時に、彼の心を蝕《むしば》んでいた罪悪感が、躊躇《ためら》いの間を作る。
(彼女を殺すことに、何の意味が…)
復讐劇が止まる訳ではない。
しかし、長官の命に今更抗う道は無かった。
(許せ…)
送信ボタンを押す。
と、そのタイミングで、携帯が鳴った…。
~ロス市警本部~
当然ながらニールの部屋に呼ばれた2人。
紗夜に呼ばれたジョイスもいた。
怒鳴れないニール。
(紗夜め、なかなかやるな…)
「違うわよ」
座ったまま、ローヒールの踵《かかと》がアレンの靴にめり込む。
「グッ!」堪えるアレン。
「で、何を見つけたんだ?」
訳の分からないまま呼ばれたジョイス。
「昨日の会場で殺やれたのは、47部隊のラパス・チークとカイル・ボブソン。残るは6人。その内2人をアレンが見つけました」
「一人は国防総省《ペンタゴン》にいる、海兵隊総司令部の副司令官、ジニー・アトキンソン」
「何だと⁉️」
「ボス、驚くのはまだ早いですよ。顔認証システムを応用したシステムで、顔の特徴的な部位を比較検索したら、ミック・シャルマン元隊長が浮かび上がりました」
「シャルマンだと!まさか…」
「ジョイス、そのまさかよ。現国防長官ドリス・シャルマンの息子です」
「そんなバカな!ペンタゴンが裏にいると言うのか?」
ニールの表情に絶望感が漂う。
「考えて見てください。ロナウドが名指しまでした理由。調べたところ、長官の息子ミック隊長は、イラクやアフガンで幾つもの勲章🎖を得ていますが、軍内では『Grim Reaper』とまで言われてました」
「ヤツの勲章は、大勢の犠牲の上にぶら下がってるってことだ」
「とにかくアレン、分かった以上、まずはジニー副司令官を保護しないと」
「先ほどペンタゴンへ問い合わせましたが、丁度出かけた後でした。当然、個人携帯は教えてもらえません」
「ドリス長官の息子は?」
「これを見てください」
アレンが、ノートPCの映像をモニターに映す。
「これは、D.C.郊外の店や街頭などに設置されているカメラ映像です」
「ヤツか?」
素早くジョイスが見つけ出す。
「この辺りのカメラにいくつも映ってます。そしてそこにあるのがこの邸宅です」
高い柄に囲まれ、厳重な警備体制を敷いた豪邸が、広い敷地の真ん中にあった。
「ドリス長官の邸宅か?」
「間違いありません、奴はここにいる!」
その瞬間、圧倒的な権力の壁が、彼らの前に立ちはだかった。
FBI を持ってしても、国防総省を捜査するには上の判断が必要であり、それには明らかな証拠が不可欠となる。
47部隊の復讐劇は、状況証拠以外に何もない推論である。
「しかしアレン。どうやってこれを?」
「えっ💦この際、そんな事を言ってる場合じゃないでしょう…なぁ紗夜」
「そうね、ハッキングは罪だけど、それは後にして、ついでにD.C.の街から、ジニーを探して!」
「おいおい、紗夜捜査官。警察がハッキングだなんて、始末書じゃ済まんぞ💦」
「ニール警部、これは我々FBI の指示と言うことで、何とかします。アレン刑事、急いで下さい」
ジョイスに言われるまでもなく、すでに取り掛かっていた。
「ペンタゴン寄りに絞りますね」
瞬く間に、モニターに幾つものリアルタイムな映像が映る。
「あなた、犯罪者の方が似合ってるわ」
「おいおい…💧」
頭を抱えるニールをよそに、アレンの指先が、素早い動きでキーを叩き続ける。
ジョイスが必死で画像を見つめる。
「いた❗️」
3人の思念に集中する紗夜。
(また…なに?…この感覚)
3人が見ている状況が鮮明に思い描けた。
と同時に、右の掌に痛みが走る。
「オープンカフェね。時計を気にしている。誰かと待ち合わせを…」
痛みと同時に、嫌な予感がした。
(マズいっ、やられた❗️)
ジニーが顔を上げて、手を振った瞬間。
画像が…消えた。
「アレン、近くの他のカメラを!」
「よしっと、どうだ?」
オープンカフェが爆煙に包まれていた。
しかし…
多くの人々の目は、違うものへ向いていた。
「アレン!」
別のカメラが、その見詰める先を映し出す。
立ち並ぶビルの向こう側。
もくもくと立ち上がる煙。
時折り赤い炎も見えた。
しかも2箇所。
「あの方角は…」
アレンがカメラの現在地を中心に、ワシントンの地図を映す。
「やはり!国防長官の邸宅と、ペンタゴン❗️」
「そんな…ん?」
殺人課の皆が、テレビを見て騒付いていた。
ニールがテレビをつける。
「つい先程、ミサイルの様なものが、国防総省《ペンタゴン》とD.C.郊外のドリス国防長官宅へ撃ち込まれ、ここD.C.の街からも、その煙と炎が確認できます。また、ほぼ同時刻に、市街地にあるオープンカフェでも爆発があったとのことです」
カメラが高い位置から、D.C.郊外の炎と煙を映し出していた。
「まだ声明等は出ていませんが、国内反軍組織であるSubmarineによる同時テロの可能性が高いと考えます。私達は、今からペンタゴンへ向かいたいと思います。ワシントンD.C.より、メアリー・フランシスがお伝えしました」
「さすがメアリーだな。昨日のロナウドの発言から、早速ペンタゴンへ乗り込むつもりで動いたか。私は直ぐにD.C.へ向かいます」
ジョイスが紗夜を見る。
この時紗夜は、別のことを考えていた。
(何かが、おかしい…)
「あ、ジョイス、先に行って。私は少し確認したいことがあるから」
「分かった。ニール警部、失礼します」
ジョイスが出て行く。
「ボス、今回はロナウド達の仕業ですね」
その横で内線電話をかける紗夜。
疑問の目で、それを見るアレン。
「はい、テロ対策課です」
「危険物処理班のマーチンをお願いします」
「どうしたんだ、紗夜捜査官?」
ニールも不思議そうに見ていた。
同時テロ。
その言葉に、9.11の記憶が蘇る。
しかもその一つは、再び国防総省《ペンタゴン》である。
「はい、マーチンです」
「紗夜です。急いで昨日回収したダミーの地雷を持って、殺人課のニール警部の部屋へきて」
「紗夜捜査官!入院したんじゃ?」
「私は大丈夫だから、早くお願い」
電話を切る。
「どうゆうつもりなんだ紗夜?」
「ミサイル攻撃は、ロナウド達の仕業で間違いない。でも、カフェの爆発は恐らくあの椅子に仕込まれた地雷。つまりメリル・ターナーの復讐」
また、あの無表情の紗夜がいた。
その違いに気づいて、声が出ない2人。
「爆発する直前、待ち合わせていた誰かを見て、手を振った。あの目は親しい人を見るかの様に緩んでいた」
「そう言われれば…」
「昨夜、私はジニーの経歴を調べたの。彼は海兵隊で一時期、教官を務めていた。丁度モリス・ターナーが海兵隊で訓練してた頃よ」
「まさか、メリル・ターナーはジニー・アトキンソンと顔見知りか?」
「その可能性もある。確かなのは、47部隊のメンバーの情報源は、ジニーよ。訪ねて来たメリルに、彼の罪悪感がそうさせたのだと思う。自分と隊長のことは後回しにして」
「復讐に燃えるメリルに、自分を教えるわけはないか…」
「でもメリルは、それを知っていた」
そこへ、マーチンが来た。
「失礼します」
「ありがとう、マーチン。ダミーの地雷は持ってきた?」
「はい。爆薬は入っていますが、信管が外されていますから、爆発はしません」
「この椅子の上に置いてくれる?それから、ニール警部、チェアーマットを貸して下さい」
何で知ってるんだ?と思いながらも、椅子から外し、紗夜に渡す。
紗夜が、地雷の上にマットをのせ、躊躇《ためら》うことなく座った。
「カチャ」
微かな乾いた金属音を聴いた紗夜。
(同じ音)
一瞬驚く3人。
「音は聞こえましたか?」
「音?なんの?」
一番近くのアレンには、何も聞こえなかった。
「紗夜捜査官、この地雷はリモート機能が組み込まれてて、踏んだ時の音はほとんどありません」
紗夜の優れた聴覚でのみ、聞き取れた音。
「昨日、私はこの音を聴いた」
「聴こえるのか紗夜には?」
「はい。そして、座ったメアリーもこの音を聴いたと言いました」
「あり得ません!そんなこと」
昨日のことが、紗夜の頭の中で、目まぐるしく回想されていた。
(そうか!)
「メアリーは、あの椅子にこれが仕込まれていることを…知っていた。アレン!あなたのシステムで、メリルとメアリーの顔認証を❗️」
「そんな、まさか…」
呟きながらも素早く実行するアレン。
紗夜が、デスクの自分のバッグを持って来た。
まだ一部には土埃が残っている。
「バカな❗️」
アレンが叫んだ。
「当たりみたいね」
整形には限度がある。
かおの個性を示す基本要素の骨格は、年齢にもよるが、下手に手を加えると、復元しようとして、異常を来す可能性があった。
「整合率75%…同一人物だ!」
「そして、これ」
紗夜がバッグの奥に仕込まれていた、小型の盗聴器を取り出した。
「彼女が私に近づいて来たのも、椅子に地雷があることを知らせたのも、全て彼女の計画。そしてメアリーは、私の置き忘れたこのバッグを持ち出してくれた。盗聴器を仕掛けてね」
「メアリーが…メリル。整形してまで」
「今も聞いているはず。そうよね、メリル❗️」
叫んだあと、床に落として踏みつけた。
~ワシントンD.C.~
小さなカフェ。
(さすがは紗夜捜査官。でももう必要ない)
「マスター、サンキュー」
「メアリーさん、頑張って悪の根源をぶちのめしてくれ❗️」
「アハハ。任せておいて!」
そう言って出て行く、メリル・ターナーであった。
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