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第2章 改革と戦争の足音編
第8話 共和国大統領の苦労
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・・8・・
4の月9の日
フラスルイト共和国首都・フラスリュー
大統領府
アカツキ達のいるアルネシア連合王国の西方にある国、フラスルイト共和国。
約七十年前の革命により絶対王政から共和制に移行した通称共和国と呼ばれるこの国は、二百五十年前に勃発した妖魔大戦において国土を蹂躙される事なく派遣軍を出した程度で大した被害を受けてない国であり、首脳部にしても国民にしても人類諸国に比べて最も妖魔帝国に対して危機感の薄い国である。
その為、各国に比べて軍の規模はやや控えめで陸軍は二十三個師団。協商連合に次いで南方大陸に植民地を所有するものの海軍も二個艦隊である。しかも陸軍の三割は植民地に駐留させているので実際に本土に展開しているのは十六個師団程度であった。安全保障戦略も召喚武器に大きく依存しており、国民はともかく軍や上層部までもが平和のぬるま湯に浸かりきっていた。だからこそ自国の文化が隆盛しているのもあるのだが……。
そのフラスルイト共和国の首都、花の都フラスリュー。政治の中心地である大統領府の一室ではとある人物達が会談を開いていた。
一室とはフラスルイト共和国のトップの大統領の執務室で、とある人物達というのは四人いた。部屋の主である大統領とその筆頭秘書、陸軍大臣と海軍大臣であった。
共和国大統領の五十代後半の見た目はぱっとしない男は、目の前で苛立ちを隠せないでいる頭髪の寂しい陸軍大臣と、髭がやたらと立派で軍服にしてはやたら着飾っている海軍大臣を一瞥してため息をついていた。
「で、話というのはなにかい? 軍の大臣が揃って現れるなんて穏やかじゃないね」
「穏やかもへったくれもあるか! 件の由々しき問題である!」
「全くもって。我が国にとっては大問題よなあ」
「陸軍大臣、まあそうかっかせずに落ち着いて」
「落ち着いておられるとでも!? ったく、これだから文官は弱腰で困る」
「私はそこまで言わんけどねえ。だが、看過は出来んねえ」
大統領は、今度は悟られない程度にため息をつく。テーブル越しのソファに尊大な態度で座っている陸軍大臣にも辟易するが、口振りの割には偉そうにふんぞり返る海軍大臣も面倒な相手だからだ。
二人がここまで憤っているのは、ある件についてだった。
「二人が言いたい事は分かるさ。隣国、アルネシア連合王国の改革についてだろう?」
「分かっておるではないか。かの国が報道で発表した改革の内容は、大規模の軍拡なのであるぞ!」
「陸軍大臣の言うように、軍拡だなあ。海軍に大きな動きはないものの、陸軍は最新鋭のものへ短年度で切り替え、重火器まで同様にときたわけだ。さらには詳細は不明だが情報や兵站にも手をつけるわけだろう? 立派な大軍拡じゃあないか」
「両大臣の言わんとするのも理解するよ。だけど、武器の更新と関連設備の増強であって別に一挙に十個師団増やすってわけではない。それにだよ、鉄道を大々的に整備するのがメインという感じで報道したんだ。一概に軍拡とは決めつけられないんじゃないかい?」
「何を言うか! 鉄道が完成したら連合王国は劇的に輸送能力が向上する! 民需メインかもしれんが、それは隠れ蓑! 軍の輸送を担うやもしれんぞ! いいや、そうに決まっておる! これは大いなる懸念ぞ!」
「海軍としても連合王国の改革はやり過ぎだと思うねえ。まるで挑発するかのようだ」
「挑発とは、また。陸軍大臣がいう懸念というのは我が国に対する脅威としてだろう? それは私の名で正式に伝えたじゃないか。対して連合王国側の回答は魔物の出現増加の対策だと返してきた。真っ当な返事だと思うけれどね?」
「ふんっ。どうせ嘘に決まっておろう。新型ライフルやガトリング砲に大砲を導入してみろ。人数こそ増えておらんが、火力は幾倍にもなる。長年の平和を崩しかねない、これは共和国に対する侵略準備行為とも取れる!」
大統領は陸軍大臣の短絡的な思考回路に頭を抱える。二百五十年も戦争が無かった人類諸国で、金にも困っていない好景気の連合王国が共和国に戦争をふっかけるとは余りにもバカバカしかった。確かに改革の進め方については些か魔物対策にしては過剰と感じたが、大統領にも連合王国で魔人出現の噂は耳に入っている。西側諸国に比べて何倍も妖魔帝国に対して過敏な連合王国の事だから本当に魔物、ひいては妖魔帝国対策。少なくとも軍備増強の矛先は共和国に向かう事は無いだろうと大統領は考えているのだが、どうやら陸軍大臣のおめでたい頭はそうは思っていないらしかった。
本当に面倒だ、早くカフェタイムにしたいと思いつつも大統領は口を開く。
「じゃあ言わせてもらうけどね、陸軍大臣。鉄道の敷設はどっち重点だい? 連合王国陸軍の配置は?」
「ぐ……。鉄道の敷設は東部国境が重点で、連合王国陸軍は相変わらず東部に多く配置されておるが……」
「ならいつもと変わらないじゃないか。これで西部に幾つか移したというなら問題だが、そうじゃないんだろう?」
「だ、だがである! 海軍大臣も何か言ったらどうだね!」
「生憎、陸の事は詳しくないけどねえ、だけど警戒しとくに越したことはないと思うよ?」
「そ、そういう事である! 連合王国は好景気が続き、調子づいておるのだ! 拡張路線に走るやもしれんぞ!」
自身の理論が早くも破綻しかけているのにこの阿呆は気付いていないのだろうかと内心苛立つ大統領。しかし彼はあくまで冷静に言葉を返す。
「だからさ、我が国を攻めるなんて意図があるならとっくにもうしてるよあの国は。師団数の差がどれくらいあるか陸軍大臣ならよく知っているだろう? だけどしない。ってことは彼らの目線は常に東を向いているって訳だよ」
「しかしだな!」
「第一だ、もし侵略準備行為なんて事しようとする国が我が共和国に貿易の強化を持ちかけてくるかい? 経済通商大臣から聞いたけど、連合王国は西部国境に近い主要都市スィスィーやオランディアまで鉄道が開業したらこれを利用して互いの輸出入を活発化させたいと提案してきたんだ。自国の工業製品を輸出したいという強かさは相変わらずだけど、今より大量に輸送出来るからこっちの農産物の輸入量を増やしたいとも言ってきた。それも結構な規模だから経済通商大臣は喜んでいたよ?」
「ぐう……。もしかしたら経済侵略かもしれんではないか……」
「もしかしたらでしょう? まあそのなんだ、そんなに連合王国の侵略が心配なら陸軍大臣と海軍大臣の連名で予算割当の増加願いでも出せばいいじゃないか。今より強固な軍隊が必要だ! だからもっと予算を増やせ! ってね。どうせ通らないだろうけど。召喚武器を信奉する財務大臣相手じゃね」
「ならば財務大臣に提言するのが大統領の役目であろう!」
「前にも私は言ったと貴方に伝えたはずだけどね。結果、増えたのは召喚武器に必要な召喚石の採掘予算だったじゃないか。矛を向ける相手を見謝らないで欲しいな」
「ぐぬう……。分かった。大統領の言うことも一理ある。今日はこれにて失礼する」
「じゃあ自分もだねえ」
あれだけまくし立てておいて、分が悪くなるとそそくさと退散するように陸軍大臣と海軍大臣は大統領の執務室を後にしていった。
「はぁぁあ。私は疲れたよ……」
一気に緊張の糸が切れた大統領は執務椅子に深く腰掛ける。その顔には精神的疲労が滲み出ていた。
「お疲れ様です、大統領……」
「本当にね……」
大統領に声を掛けたのは三十代後半の麗しい外見を持つ筆頭秘書の女性だった。大統領は対して本日何度目か分からないため息を盛大についていた。
「コーヒー、飲まれますか?」
「うんと濃いのをくれるかな」
「かしこまりました。こうなると思って用意してありましたので」
筆頭秘書は慣れた手つきでコーヒーを作っていく。魔法で保温と風味を逃さないようにしてあった容器から丁寧にコーヒーカップへ移すと、ことりと執務室に置かれる。
「…………ああ、美味しい。気分が落ち着くよ」
「しかしとんだ災難でしたね。いきなりやってきて言いたい事だけ言って逃げ帰るとは」
「まったくね……。植民地獲得競走で協商連合に遅れを取っているからって、苛立ちをこちらに飛ばしてほしくないよねえ」
「外征させる限界の三割を投入して、統治が上手くいっていないのは現地軍の問題だとわたくしは思いますよ」
「私からもやり過ぎないように言っているんだが、近年の陸軍は独断専行で話を聞かなさすぎるよ。海軍も海軍で外征艦隊に資金を注ぎたいのは分かるけど、予算に限界がある」
「財務大臣は召喚武器にお熱ですからね。アレは強力に違いはないですけれど」
「おかげで予算を組む方と使う方の仲が険悪なのは困ったもんだよ。この世界が平和で良かったよね。しかも我が国は妖魔帝国からも遠いし」
「だからこそ南方大陸に目を向けられるわけですが。それにしても、連合王国は大胆な改革を実行しようとしていると思いますよ」
「最初に聞いた時はびっくりしたよね。鉄道だけでなく、軍の多岐に至るまで改革のメスを入れるなんてね」
大統領はコーヒーを口につけながら、隣国の改革について語る。外見こそ冴えない男ではあるが政治手腕は確かなもので、それが証拠に彼の大統領としての任期は四度目で十四年目に突入している。国民からもイマイチに見えて中々有能な大統領と思われているのだ。その彼が驚愕するのだから共和国の他の政治家や軍人達からしたら連合王国の改革は余程衝撃的だったのだろう。
「何れも莫大な予算を投入するみたいですよ。国土は広いとはいえ植民地も持たずにひたすら内需を高めていった結果、財政が潤っているあの国でも超大型の予算編成だそうです」
「そりゃそうだろね。鉄道だけでも一気に四桁キーラ敷設して駅も建設するんだ。お金持ち国家は羨ましいねえ」
「ペイバックが見込めるからだと思いますよ。鉄道は莫大な利益を生む論調は共和国にもありますし、協商連合だって慌てて国内での鉄道敷設の発表をしましたから。あの島国、どうやらもう敷設するだけの段階だったそうで先を越されたから余計に慌てたらしいです」
「我が国はその点で遅れを取っているよね。保守的な頭が多すぎるんだ」
「ええ、悲しい事に。対して連合王国は暫く安泰ですよ。少なくともあの国王が在位し続けるまでは」
「それはどうかな。私は国王が退位してもなお隆盛は続くと思うよ」
「何故ですか大統領?」
筆頭秘書の綺麗な声の問いに対して、大統領はコーヒーをまた口につけてから一息つくとこう言った。
「彼だよ、彼」
「彼、ですか? ああ、例の」
「そう。アカツキ・ノースロード君」
大統領は執務机の引き出しから紙を一枚取り出す。そこにはアカツキ・ノースロードについての情報が書かれていた。
アカツキ・ノースロード二十二歳。男性であるが小柄な体格で女性のような可憐な外見をして、その実はA号改革提案者かつ共和国では大臣クラスに匹敵する王宮伯爵を先日授与された。
彼は北東部のノースロード家の次期当主で魔法少佐であり、魔法ランクはAマイナス。召喚武器は保有するもAランクで目立った功績は見られない。有り体に言ってしまえば、それなりでしかない人物だった。それが突如として先進的かつ連合王国にさらなる飛躍をもたらすであろう改革を提案した。鉄道や情報、兵站に至るまで精通していてもあんな提案は簡単には出来ない。にも関わらず実行させたということは国王を説得してみせたというわけだ。
故に、大統領は思うのである。
「アカツキ・ノースロード。君は一体何者なんだい?」
4の月9の日
フラスルイト共和国首都・フラスリュー
大統領府
アカツキ達のいるアルネシア連合王国の西方にある国、フラスルイト共和国。
約七十年前の革命により絶対王政から共和制に移行した通称共和国と呼ばれるこの国は、二百五十年前に勃発した妖魔大戦において国土を蹂躙される事なく派遣軍を出した程度で大した被害を受けてない国であり、首脳部にしても国民にしても人類諸国に比べて最も妖魔帝国に対して危機感の薄い国である。
その為、各国に比べて軍の規模はやや控えめで陸軍は二十三個師団。協商連合に次いで南方大陸に植民地を所有するものの海軍も二個艦隊である。しかも陸軍の三割は植民地に駐留させているので実際に本土に展開しているのは十六個師団程度であった。安全保障戦略も召喚武器に大きく依存しており、国民はともかく軍や上層部までもが平和のぬるま湯に浸かりきっていた。だからこそ自国の文化が隆盛しているのもあるのだが……。
そのフラスルイト共和国の首都、花の都フラスリュー。政治の中心地である大統領府の一室ではとある人物達が会談を開いていた。
一室とはフラスルイト共和国のトップの大統領の執務室で、とある人物達というのは四人いた。部屋の主である大統領とその筆頭秘書、陸軍大臣と海軍大臣であった。
共和国大統領の五十代後半の見た目はぱっとしない男は、目の前で苛立ちを隠せないでいる頭髪の寂しい陸軍大臣と、髭がやたらと立派で軍服にしてはやたら着飾っている海軍大臣を一瞥してため息をついていた。
「で、話というのはなにかい? 軍の大臣が揃って現れるなんて穏やかじゃないね」
「穏やかもへったくれもあるか! 件の由々しき問題である!」
「全くもって。我が国にとっては大問題よなあ」
「陸軍大臣、まあそうかっかせずに落ち着いて」
「落ち着いておられるとでも!? ったく、これだから文官は弱腰で困る」
「私はそこまで言わんけどねえ。だが、看過は出来んねえ」
大統領は、今度は悟られない程度にため息をつく。テーブル越しのソファに尊大な態度で座っている陸軍大臣にも辟易するが、口振りの割には偉そうにふんぞり返る海軍大臣も面倒な相手だからだ。
二人がここまで憤っているのは、ある件についてだった。
「二人が言いたい事は分かるさ。隣国、アルネシア連合王国の改革についてだろう?」
「分かっておるではないか。かの国が報道で発表した改革の内容は、大規模の軍拡なのであるぞ!」
「陸軍大臣の言うように、軍拡だなあ。海軍に大きな動きはないものの、陸軍は最新鋭のものへ短年度で切り替え、重火器まで同様にときたわけだ。さらには詳細は不明だが情報や兵站にも手をつけるわけだろう? 立派な大軍拡じゃあないか」
「両大臣の言わんとするのも理解するよ。だけど、武器の更新と関連設備の増強であって別に一挙に十個師団増やすってわけではない。それにだよ、鉄道を大々的に整備するのがメインという感じで報道したんだ。一概に軍拡とは決めつけられないんじゃないかい?」
「何を言うか! 鉄道が完成したら連合王国は劇的に輸送能力が向上する! 民需メインかもしれんが、それは隠れ蓑! 軍の輸送を担うやもしれんぞ! いいや、そうに決まっておる! これは大いなる懸念ぞ!」
「海軍としても連合王国の改革はやり過ぎだと思うねえ。まるで挑発するかのようだ」
「挑発とは、また。陸軍大臣がいう懸念というのは我が国に対する脅威としてだろう? それは私の名で正式に伝えたじゃないか。対して連合王国側の回答は魔物の出現増加の対策だと返してきた。真っ当な返事だと思うけれどね?」
「ふんっ。どうせ嘘に決まっておろう。新型ライフルやガトリング砲に大砲を導入してみろ。人数こそ増えておらんが、火力は幾倍にもなる。長年の平和を崩しかねない、これは共和国に対する侵略準備行為とも取れる!」
大統領は陸軍大臣の短絡的な思考回路に頭を抱える。二百五十年も戦争が無かった人類諸国で、金にも困っていない好景気の連合王国が共和国に戦争をふっかけるとは余りにもバカバカしかった。確かに改革の進め方については些か魔物対策にしては過剰と感じたが、大統領にも連合王国で魔人出現の噂は耳に入っている。西側諸国に比べて何倍も妖魔帝国に対して過敏な連合王国の事だから本当に魔物、ひいては妖魔帝国対策。少なくとも軍備増強の矛先は共和国に向かう事は無いだろうと大統領は考えているのだが、どうやら陸軍大臣のおめでたい頭はそうは思っていないらしかった。
本当に面倒だ、早くカフェタイムにしたいと思いつつも大統領は口を開く。
「じゃあ言わせてもらうけどね、陸軍大臣。鉄道の敷設はどっち重点だい? 連合王国陸軍の配置は?」
「ぐ……。鉄道の敷設は東部国境が重点で、連合王国陸軍は相変わらず東部に多く配置されておるが……」
「ならいつもと変わらないじゃないか。これで西部に幾つか移したというなら問題だが、そうじゃないんだろう?」
「だ、だがである! 海軍大臣も何か言ったらどうだね!」
「生憎、陸の事は詳しくないけどねえ、だけど警戒しとくに越したことはないと思うよ?」
「そ、そういう事である! 連合王国は好景気が続き、調子づいておるのだ! 拡張路線に走るやもしれんぞ!」
自身の理論が早くも破綻しかけているのにこの阿呆は気付いていないのだろうかと内心苛立つ大統領。しかし彼はあくまで冷静に言葉を返す。
「だからさ、我が国を攻めるなんて意図があるならとっくにもうしてるよあの国は。師団数の差がどれくらいあるか陸軍大臣ならよく知っているだろう? だけどしない。ってことは彼らの目線は常に東を向いているって訳だよ」
「しかしだな!」
「第一だ、もし侵略準備行為なんて事しようとする国が我が共和国に貿易の強化を持ちかけてくるかい? 経済通商大臣から聞いたけど、連合王国は西部国境に近い主要都市スィスィーやオランディアまで鉄道が開業したらこれを利用して互いの輸出入を活発化させたいと提案してきたんだ。自国の工業製品を輸出したいという強かさは相変わらずだけど、今より大量に輸送出来るからこっちの農産物の輸入量を増やしたいとも言ってきた。それも結構な規模だから経済通商大臣は喜んでいたよ?」
「ぐう……。もしかしたら経済侵略かもしれんではないか……」
「もしかしたらでしょう? まあそのなんだ、そんなに連合王国の侵略が心配なら陸軍大臣と海軍大臣の連名で予算割当の増加願いでも出せばいいじゃないか。今より強固な軍隊が必要だ! だからもっと予算を増やせ! ってね。どうせ通らないだろうけど。召喚武器を信奉する財務大臣相手じゃね」
「ならば財務大臣に提言するのが大統領の役目であろう!」
「前にも私は言ったと貴方に伝えたはずだけどね。結果、増えたのは召喚武器に必要な召喚石の採掘予算だったじゃないか。矛を向ける相手を見謝らないで欲しいな」
「ぐぬう……。分かった。大統領の言うことも一理ある。今日はこれにて失礼する」
「じゃあ自分もだねえ」
あれだけまくし立てておいて、分が悪くなるとそそくさと退散するように陸軍大臣と海軍大臣は大統領の執務室を後にしていった。
「はぁぁあ。私は疲れたよ……」
一気に緊張の糸が切れた大統領は執務椅子に深く腰掛ける。その顔には精神的疲労が滲み出ていた。
「お疲れ様です、大統領……」
「本当にね……」
大統領に声を掛けたのは三十代後半の麗しい外見を持つ筆頭秘書の女性だった。大統領は対して本日何度目か分からないため息を盛大についていた。
「コーヒー、飲まれますか?」
「うんと濃いのをくれるかな」
「かしこまりました。こうなると思って用意してありましたので」
筆頭秘書は慣れた手つきでコーヒーを作っていく。魔法で保温と風味を逃さないようにしてあった容器から丁寧にコーヒーカップへ移すと、ことりと執務室に置かれる。
「…………ああ、美味しい。気分が落ち着くよ」
「しかしとんだ災難でしたね。いきなりやってきて言いたい事だけ言って逃げ帰るとは」
「まったくね……。植民地獲得競走で協商連合に遅れを取っているからって、苛立ちをこちらに飛ばしてほしくないよねえ」
「外征させる限界の三割を投入して、統治が上手くいっていないのは現地軍の問題だとわたくしは思いますよ」
「私からもやり過ぎないように言っているんだが、近年の陸軍は独断専行で話を聞かなさすぎるよ。海軍も海軍で外征艦隊に資金を注ぎたいのは分かるけど、予算に限界がある」
「財務大臣は召喚武器にお熱ですからね。アレは強力に違いはないですけれど」
「おかげで予算を組む方と使う方の仲が険悪なのは困ったもんだよ。この世界が平和で良かったよね。しかも我が国は妖魔帝国からも遠いし」
「だからこそ南方大陸に目を向けられるわけですが。それにしても、連合王国は大胆な改革を実行しようとしていると思いますよ」
「最初に聞いた時はびっくりしたよね。鉄道だけでなく、軍の多岐に至るまで改革のメスを入れるなんてね」
大統領はコーヒーを口につけながら、隣国の改革について語る。外見こそ冴えない男ではあるが政治手腕は確かなもので、それが証拠に彼の大統領としての任期は四度目で十四年目に突入している。国民からもイマイチに見えて中々有能な大統領と思われているのだ。その彼が驚愕するのだから共和国の他の政治家や軍人達からしたら連合王国の改革は余程衝撃的だったのだろう。
「何れも莫大な予算を投入するみたいですよ。国土は広いとはいえ植民地も持たずにひたすら内需を高めていった結果、財政が潤っているあの国でも超大型の予算編成だそうです」
「そりゃそうだろね。鉄道だけでも一気に四桁キーラ敷設して駅も建設するんだ。お金持ち国家は羨ましいねえ」
「ペイバックが見込めるからだと思いますよ。鉄道は莫大な利益を生む論調は共和国にもありますし、協商連合だって慌てて国内での鉄道敷設の発表をしましたから。あの島国、どうやらもう敷設するだけの段階だったそうで先を越されたから余計に慌てたらしいです」
「我が国はその点で遅れを取っているよね。保守的な頭が多すぎるんだ」
「ええ、悲しい事に。対して連合王国は暫く安泰ですよ。少なくともあの国王が在位し続けるまでは」
「それはどうかな。私は国王が退位してもなお隆盛は続くと思うよ」
「何故ですか大統領?」
筆頭秘書の綺麗な声の問いに対して、大統領はコーヒーをまた口につけてから一息つくとこう言った。
「彼だよ、彼」
「彼、ですか? ああ、例の」
「そう。アカツキ・ノースロード君」
大統領は執務机の引き出しから紙を一枚取り出す。そこにはアカツキ・ノースロードについての情報が書かれていた。
アカツキ・ノースロード二十二歳。男性であるが小柄な体格で女性のような可憐な外見をして、その実はA号改革提案者かつ共和国では大臣クラスに匹敵する王宮伯爵を先日授与された。
彼は北東部のノースロード家の次期当主で魔法少佐であり、魔法ランクはAマイナス。召喚武器は保有するもAランクで目立った功績は見られない。有り体に言ってしまえば、それなりでしかない人物だった。それが突如として先進的かつ連合王国にさらなる飛躍をもたらすであろう改革を提案した。鉄道や情報、兵站に至るまで精通していてもあんな提案は簡単には出来ない。にも関わらず実行させたということは国王を説得してみせたというわけだ。
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