異世界妖魔大戦〜転生者は戦争に備え改革を実行し、戦勝の為に身を投ずる〜

金華高乃

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第2章 改革と戦争の足音編

第9話 婚約の話とアカツキのお願い

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 ・・9・・
 4の月28の日
 午後2時5分
 アルネセイラ・ノースロード家別邸

「今週も疲れた……」

 春の暖かい陽気が王都を優しく照らし、人々が活発に行き交う前世で言えば土曜日、こちらでは土の日の昼下がり。僕は疲れが抜けきらない体でリビングでだらけきっていた。
 改革特務部が始動してそろそろ一ヶ月が経つけれど、四十名も人員がいるにも関わらず多忙も多忙だった。多岐に渡る改革内容に関する業務はいざ始めてみると今の人数では手が回らない事が判明したんだ。お陰でこの一ヶ月全員が残業をしていた。
 前世の日本ではかつて苛烈な残業で問題になった事があった。アレほどではないにしても、二時間から三時間の超過勤務が常態化しつつあったんだ。
 今後も業務量は増え続けるであろうこの状況は不味いと考えた僕はすぐさまマーチス侯爵に増員を要請。すぐさまとはいかなかったものの、再来月中旬から選考の上追加で十五名が送られることになった。これで今より負担は減るだろう。
 あまり回らない頭の中でも僕は仕事について思案をしていると、扉をノックする音が聞こえる。声の主は専属メイドのレーナだった。

「失礼します、アカツキ様。紅茶をお持ちしました」

「んあ、ありがと」

 レーナは慣れた所作で紅茶と茶菓子を用意していく。今日の茶菓子は王都で有名なお店のクッキーだった。
 それを終えると、彼女は僕をじっと見て。

「……かなりお疲れのようですね」

「休みが二日あるだけいいけれど、忙しかったからね……」

「近頃、というより赴任してすぐから帰りが遅くなりがちでしたからね。疲労も溜まると思われます」

「君達にも迷惑をかけて悪いね。寝るのが遅くなるでしょ」

「いえ、私達はアカツキ様にお仕えするのが仕事ですから。深夜にお帰りになる訳ではありませんので問題ありません。むしろ、私達の間では日々の仕事に追われるアカツキ様をご心配する声もあるくらいですから」

「たはは……、使用人達にまで気遣われるとはね……。ああそうだ。遅くなる分の給金は弾むからそう伝えておいて」

「ありがとうございます。有難く頂戴致します」

「ん。じゃあ、ティータイムでも満喫しようかな」

 僕は体を起こすと、紅茶に砂糖とミルクを入れスプーンで回し、ティーカップとソーサーを持つとミルクティーを口に含む。優しい味は僕の疲れた心を解きほぐすようにリラックスさせてくれた。

「ふう、おいしい」

「ありがとうございます。本日の紅茶は南方大陸中部産のルクリラ産でございます」

「ルクリラ産か。南方大陸にも一度足を伸ばしてみたいね。連合王国は植民地を持っていないから難しいけどさ」

「南方大陸は大変暑い地域ですが、珍しい品々も多いようですよ」

「それは興味が湧くね。けど、暫くは仕事漬けだろうからそれどころじゃないなあ。あっちに行くには月単位で必要だし」

「いつか行けるといいですね」

「その時は君達も連れていくよ。せっかくだもん」

「楽しみにしておきますね」

 レーナは僕の発言に、少しだけ声を明るくさせて微笑む。彼女は基本感情の起伏はあまり無いけれど、たまにこうやって微笑してくれることがあるんだ。クール系美少女の微笑みって、いいよね。
 休日の午後、よく晴れた外からの陽射しは窓から暖かく降り注ぎ部屋の中はゆったりとした時間が流れていく。技術水準が一八五〇年代程度のこの世界ではまだレコードは実用化されていないし、当然前世のようなラジオやテレビの類はあるはずもない。だから室内には音を発する類の機械は無く、静かで穏やかな空気が流れていく。
 かつては電子機器に囲まれた生活だったから不便に感じることはあるけれど、異世界に転生して二ヶ月以上も経てば慣れたものでこんな風に過ごす休日もいいものだと思うようになった。
 紅茶を嗜み、茶菓子をたまにつまみ、のんびりと外の景色でも眺めてみる。緩やかな時間を過ごしていると、ふと見た時計の時間を目にして思い出す。

「時間的に、そろそろかな」

「そうですね。三時でしたらお約束の時間ですから」

 そろそろ、というのはこの時間にノースロード別邸へ訪問者が来るんだよね。レーナの言うように時計の針は昼の三時を指し示している。時間を守る相手だからもう来る頃だろう。
 すると、噂をすればなんとやらでドアがノックされた。入ってきたのは若い執事で、訪問者が到着した事を告げてくれる。
 じゃあ行くとしますか、と僕は腰を上げてレーナと正面玄関へと向かった。
 外へ出るとノースロード家の馬車より立派なそれが止まっており、中から出てきたのは菖蒲色の髪の毛の美女。彼女は僕を見つけるとぱあっと笑顔になって、うん予想がついた。

「昨日ぶりね! 会いたかったわ旦那様!」

「やあ、リイ――」

 駆け寄ってきた彼女は、僕が言い切る前に初めての出会いの時のように抱きしめる。

「むぐぅ……」

「あらら、私ったらまた。ごめんなさいね」

 くすくすとわらいながらも今回は割と早く解放してくれた彼女はリイナ。
 どうしてヨーク家の彼女がここに訪れたのか。その理由は丁度先週の土の日に遡る。


 ・・Φ・・
 僕とリイナの結婚については結論から言えば成立となった。
 これは予想していた通りだった。
 ノースロード家からしたら格上になる侯爵家の長女が嫁に来ることで侯爵家、それも格式高いヨーク家と強い関係を構築出来ることで家の権威はより盤石となり連合王国内での序列で優位に働く。
 ヨーク家も長女の嫁ぎ先がようやく決まる安心感と、今話題の改革提案者で期待されている僕の所へ娘が嫁げば今後のメリットも十分にある。家格も次期当主で王宮伯爵ならば問題ない。
 このように両者にとって利益が一致しているんだ。どっちも断る理由がないだろう。
 それが証拠に、僕とリイナに両家の父母が集まった席の際では歓迎ムードに包まれていた。
 父上は満面の笑みで、

「大変目出度いです。これで我がノースロード家も安泰ですね」

 と終始御機嫌の様子だったし、母上も。

「母として息子の結婚相手が決まったこと、お相手がヨーク家の令嬢であることを嬉しく思いますの。どうかよろしくお願いしますね」

 と、祝福してくれた。
 ヨーク家側もマーチス侯爵夫人は。

「こちらこそ。娘がやっと意中の人を見つけてくれて嬉しいですわ。これほど嬉しき事はありませんわ」

 とまるで我が事のように喜んでくれたし、マーチス侯爵も。

「初対面で娘が失礼をしたにも関わらず彼は許してくれた。なんと器の大きい人物かと思ったさ。それに、なんと言っても才気溢れる有能な若者であり、娘が認めた男だけあると感じたな。君がリイナの夫となるのならば大歓迎だ」

 と過剰なくらい評価してくれた。
 こうなれば話は早い。正式に互いの両親が認めた事で婚姻となり、近いうちにリイナの苗字はノースロードとなる。
 ただし、前世でも結婚式は相当な準備が必要であるのと同じように、いや貴族故にすぐさま式を挙げるという訳にはいかなかった。
 まず、今回の婚約は侯爵家と伯爵家の間で行われるのだけどこれは連合王国貴族達にとっても一大イベントとなる。
 侯爵家は王族を除けば最も位の高い爵位で伯爵はその次にあたる。連合王国貴族は数あれど侯爵と伯爵はかなり数が少ない上にノースロード家含めて歴史の古い名家揃いだ。故に結婚式は連合王国貴族どころか王家まで参加するという最早式典クラスに大規模化される。
 となれば、大規模式典となる式の準備は入念に行われるしスケジュール調整も相当に難しくなる。この場で行われる大雑把な想定でも、早くて来年の春か秋だろうということになった。
 来年の春か秋ならばA号改革の中でも一番忙しい鉄道が開通予定で、いざ運行開始となれば細かい部分は別として殆どは現場の連合王国鉄道へ移管される。この時期なら改革特務部の業務も一段落し、僕もリイナも仕事が落ち着くだろうという思惑もあっての判断だ。
 何はともあれ、大枠は決まった事でこの話は終わりというところで、リイナはこんな提案をした。

「私、もっともっと旦那様の事を知りたいし相応しい妻にもなりたいわ。これからノースロード別邸へ居を移すまでの間、毎週の休日のどちらかに別邸へ赴いてもいいかしら?」

 リイナの事だからこれまで通りの生活形態からいきなり同居までは予想していたけれど、存外段階を踏んだ提案に僕は逆に驚いた。前世で例えるなら結婚前提の彼女が彼氏の家に訪れる感覚になるのだろうか。リイナ曰く、別邸に住むまでは泊まりはしないし清らかな関係でいるとの事で、僕の両親もリイナの両親も彼女の案を快諾。僕も断る理由は無いから頷いた。
 これが、事の顛末。リイナが別邸に通う事になった理由なんだよね。


 ・・Φ・・
 リイナがこの家に到着してからは、今週が初めての訪問だという事で使用人達を紹介し家の中の案内をする事になった。その際に気になったのは、レーナの表情がいつも以上に堅いというか無表情だったって点なんだよね。メイドとしてやるべき仕事は完璧にこなすし、自己紹介の時も違和感を抱くような発言も無かったんだけど、どうも声のトーンが平坦なんだよなあ……。
 どうしてなのかを問うわけにもいかないし、わざわざ聞くほどでもないかなあとは思った僕はリイナに対して我が家の案内を続行する。
 それ自体はいくら貴族の屋敷とはいえ一時間もかかるわけはなく、半刻と少し程度で終了した。時刻は十六時過ぎ。僕にとっては本日二度目の、リイナにとっては一度目のティータイムとなり話に花を咲かせてしばらく、僕はリイナにこんな話を持ちかけた。それは、彼女のとある点を見込んでだ。

「リイナ、一つお願いがあるんだけどいいかな?」

「旦那様のお願い?! もちろんよ! 何だって聞くわ!」

 何だって聞く、と言い切ってしまうあたり僕に対する彼女の好感度が既に振り切っていることを改めて実感するけれど、だったら遠慮なくと言わせてもらう。

「これから週に一度、リイナには僕の訓練に付き合って欲しいんだ」
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