異世界妖魔大戦〜転生者は戦争に備え改革を実行し、戦勝の為に身を投ずる〜

金華高乃

文字の大きさ
29 / 390
第2章 改革と戦争の足音編

第10話 実力者の片鱗を見せる残念美人は

しおりを挟む
 ・・10・・
「訓練? どういうことかしら?」

 ティーカップを片手で持ち、紅茶を口に含もうとしていたリイナは動きを止めて僕をじっと見つめる。表情はいつも僕に見せるような穏やかなそれだけど、目つきは少し鋭くなる。同時に僕の隣に控えるレーナも纏う空気が少々変化した。いつもと違うリイナの様子にややだけど警戒しているのだろう。

「そのままの意味だよ。君には話していなかったかもしれないけれど、空いた時間を見つけては自己練はしていたんだ。改革特務部の仕事に就き始めてから事務方の仕事ばかりで体が鈍っちゃうから、運動がてらね」

「道理で仕事だけの割には疲労が溜まっている時があったと思ったわ。それなりに魔力を消費していたというわけね」

「ご名答。なるべく差し支えがない程度にはしてあったけれど、体内魔力量を増やすにしても魔法を効率的に運用するにしても使わないと鍛えられないからさ」

「それで結果はどうなのかしら」

 リイナは紅茶を一口飲むと、ティーカップとソーサーをテーブルに置く。僕といる時のような残念美人な雰囲気はどこへやら。彼女の視線は鋭い刃物のようになっていた。ちらりと横を見てみるとレーナの眉間が険しくなる。

「先々週に計測してみたら1625。前に比べて85の上昇だね。予想よりは上がっているけれど、まだA-の範疇かな」

「前回の計測が二ヶ月半前と聞いたけれど、随分と増えたわね。魔力が伸びやすい体質だなんて羨ましいわ」

「有難い事だけれど、まだ足りないと思うんだ。僕自身も強くならないといけないけど、個人訓練だけじゃ限界がある」

「A-で足りない? ふふっ、多数の魔法能力者が卒倒しそうな台詞ね。けれど、どうしてそんなに強くなりたいのかしら? 先のリールプルの件にしても貴方は十分な力を発揮したと耳にしているけれど。専属メイドのアナタも知ってるはず?」

「はい。仰る通りアカツキ様のお付である以上お聞きしました。大変活躍されたことも」

「いや、まだ足りないと思う。実際に対峙して分かったけれど、魔人はやっぱり尋常じゃない。正直遭遇した双子の魔人と戦って勝てるかどうかは分からなかった」

「A-の旦那様でも、ね。分かったわ。だけど、ひとまず魔人の事は置いておくわね。なぜ旦那様は私に訓練をお願いしたのかしら?」

 妖しく微笑むリイナ。彼女は僕の思考を読んだ上で言っているのだろう。だったら早々に口にするべきだろう。

「A+ランク魔法能力者であり、『絶対零度の氷雪姫アブソリュート・プリンセス』の二つ名を持つリイナだからこそ、お願いしようと思ったんだ」

 そう、彼女はヨーク家の令嬢でありながら数少ないA+ランク魔法能力者でもあるんだ。
 A+ランクは魔力保有量が3000以上10000未満で、一万以上のSランク魔法能力者には劣るものの連合王国内でも百人に満たない者しか到達していない魔法を使う者にとっては目指したくても大抵は目指せない高みの存在だ。
 リイナはそのA+ランクの一人であり、『絶対零度の氷雪姫』と呼ばれる、いわゆる二つ名ネームド持ち魔法能力者。彼女の魔力保有量は最新データで4355。僕の三倍近い魔力を持っている。正直この差はデカイ。純粋な火力差で三倍なんだから。それだけじゃない。常人離れした魔力に裏打ちされた上級魔法も扱える上に四千越えともなれば連発すらも可能。ともすれば火力差は数倍じゃ効かなくなるだろう。
 けれど、だからこそ僕は彼女に頼んだわけなんだ。格上の相手であれば効率良く鍛えられると。
 僕がリイナのランクと二つ名を口にすると、部屋の中はしばし沈黙に支配される。それを破ったのはリイナだった。

「くふふ、くふふふふっ! くふふふふっ!」

 彼女は突然ネジが外れたかのように笑い出す。妖艶でありながら狂気の滲むその笑いに僕は恐怖より戸惑いを感じる。狂いが現れた割には身の危機を抱かなかったからだ。

「あのー、リイナさーん?」

「まさか私の力を知って、二つ名を知っていて訓練を一緒にしてくれという男が現れるとは思わなかったわ! 他の根性無しなんて誘ったら全力で断ったというのに!」

 そらそうでしょーよ。A+ランクのネームド相手なんて戦場を知らない貴族がするわけないって。

「それでこそ、それでこそ私の旦那様だわ! いいでしょう! その話乗ったわ!」

 いつの間にやら滲み出た狂気は消えて、子供のようにワクワクした様子でリイナは僕に言う。

「ありがとう、リイナ。御手柔らかにとは言わない、全力でよろしくね」

「アカツキ様?!」

「くふふふふっ! 最っ高に楽しみじゃない! 本当に本気を出しちゃっていいのね、旦那様?」

「もちろん。手を抜かれたら困るからさ」

「アカツキ様、リイナ様はA+ランクですよ?! 僭越ながらアカツキ様との魔力差が開きすぎです!」

 レーナは僕の身を案じてくれているのだろう、いくら訓練とはいえ怪我をしない保証はないんだ。ワンランク上ならともかく、ツーランクも上の相手に火をつける行為をする僕を止めようとしていた。

「心配してくれてありがとう、レーナ。けどね、戦闘は魔力差だけじゃ決まんないよ?」

「ですが……!」

「滾る事を言ってくれるじゃない? いくら惚れている旦那様でも手加減なんてしないし、私に小手先は通じないわよ?」

「それはどうかな? 泣いて謝ることになっても知らないよ?」

「たまらないわっ! まさに私の理想の旦那様! 可愛く、賢く、強く、そして物怖じしない! 楽しみにしてるわね?」

「僕も、ね」

 口角を曲げて凶悪に笑うリイナに、僕も不敵な笑みを返す。対して普段は冷静沈着なレーナは目眩を起こしそうな表情をしていた。

「アカツキ様がこんなにも好戦的な方だとは思いませんでした……」

 隣に立つレーナは頭を抱えながら消え入るような声で言う。相当動揺してもいるようだった。

「いいじゃない。可憐な見た目にも関わらず獰猛な意思を秘めるギャップは素晴らしいわよ?」

「いえ、そういうことではなく……」

「まあまあ。レーナが心配する気持ちは理解しているけれど、今後を考えれば僕も強くなるべきだからさ。国を、ノースロード領を、皆を守るためにもさ」

「…………アカツキ様が決められた事ですから私は止めません。しかし、どうかお怪我などなさらぬよう。アカツキ様はノースロード家の次期当主で、連合王国にとっても欠かせない存在なのですから」

「うん、分かってるよ。ありがとね、レーナ」

「……はい」

「リイナ、訓練の件よろしくね。今日は時間的にも無理だし、来週からってことで」

「分かったわ旦那様。それなら、この話はもうおしまいにしてあとはティータイムを楽しむとしましょう」

 僕のお願いが終わると室内は再び和やかな雰囲気に戻り、僕とリイナは魔法談義などをして過ごしたのだった。
 そして一週間後。僕とリイナは模擬戦闘訓練を行う事となった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~

ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。 コイツは何かがおかしい。 本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。 目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。

魔道具頼みの異世界でモブ転生したのだがチート魔法がハンパない!~できればスローライフを楽しみたいんだけど周りがほっといてくれません!~

トモモト ヨシユキ
ファンタジー
10才の誕生日に女神に与えられた本。 それは、最強の魔道具だった。 魔道具頼みの異世界で『魔法』を武器に成り上がっていく! すべては、憧れのスローライフのために! エブリスタにも掲載しています。

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

ステータス画面がバグったのでとりあえず叩きます!!

カタナヅキ
ファンタジー
ステータ画面は防御魔法?あらゆる攻撃を画面で防ぐ異色の魔術師の物語!! 祖父の遺言で魔女が暮らす森に訪れた少年「ナオ」は一冊の魔導書を渡される。その魔導書はかつて異界から訪れたという人間が書き記した代物であり、ナオは魔導書を読み解くと視界に「ステータス画面」なる物が現れた。だが、何故か画面に表示されている文字は無茶苦茶な羅列で解読ができず、折角覚えた魔法なのに使い道に悩んだナオはある方法を思いつく。 「よし、とりあえず叩いてみよう!!」 ステータス画面を掴んでナオは悪党や魔物を相手に叩き付け、時には攻撃を防ぐ防具として利用する。世界でただ一人の「ステータス画面」の誤った使い方で彼は成り上がる。 ※ステータスウィンドウで殴る、防ぐ、空を飛ぶ異色のファンタジー!!

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。

タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。 しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。 ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。 激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界に転生した俺は英雄の身体強化魔法を使って無双する。~無詠唱の身体強化魔法と無詠唱のマジックドレインは異世界最強~

北条氏成
ファンタジー
宮本 英二(みやもと えいじ)高校生3年生。 実家は江戸時代から続く剣道の道場をしている。そこの次男に生まれ、優秀な兄に道場の跡取りを任せて英二は剣術、槍術、柔道、空手など様々な武道をやってきた。 そんなある日、トラックに轢かれて死んだ英二は異世界へと転生させられる。 グランベルン王国のエイデル公爵の長男として生まれた英二はリオン・エイデルとして生きる事に・・・ しかし、リオンは貴族でありながらまさかの魔力が200しかなかった。貴族であれば魔力が1000はあるのが普通の世界でリオンは初期魔法すら使えないレベル。だが、リオンには神話で邪悪なドラゴンを倒した魔剣士リュウジと同じ身体強化魔法を持っていたのだ。 これは魔法が殆ど使えない代わりに、最強の英雄の魔法である身体強化魔法を使いながら無双する物語りである。

処理中です...