異世界妖魔大戦〜転生者は戦争に備え改革を実行し、戦勝の為に身を投ずる〜

金華高乃

文字の大きさ
43 / 390
第3章第二次妖魔大戦開戦編

第8話 ノイシュランデへ

しおりを挟む
・・8・・
5の月28の日
連合王国北東部・ノイシュランデ市
ノイシュランデ中央駅

 戦争中だとは思えない晴天が広がり今は夕焼け空になりつつある、連合王国北東部の主要都市ノイシュランデ。
 早朝にアルネセイラを出発した軍用列車は夕方には僕の故郷であるノイシュランデに到着した。これまでに比べて六倍も早く着いたのには鉄道の凄さを実感するね。

「んんー、つーかれたー」

「お疲れ様、旦那様。鉄道は早かったけれど、これでも遅れていたのね」

「開通一ヶ月でやっと慣れてきたところにいきなり戦時輸送になったからね。混乱もするさ。むしろ一時間程度の遅延で済んでるのは優秀なくらいだね」

「鉄道本部の人達に感謝ね」

「ほんとね。さて、そろそろ停車だ」

 魔法蒸気機関車は減速しながら、ホーム進入の際に行う汽笛を鳴らして一分後には停車する。今回乗車したのは軍用列車なので降りる人物は全員が軍服を纏った軍人だ。
 僕とリイナは長距離移動に用いる大型の鞄を持って客車からホームに降りる。
 多くの人物がホーム上を行き交う中、僕はとある人達を見つける。

「父上、母上にお爺様! アルヴィンおじさんも!」

 僕をホームで出迎えてくれたのは父上達四人だった。父上とお爺様は背広に近い服を、母上はゆったりとした装飾が程々に施されたワンピースを、アルヴィンおじさんは戦時だけあって軍服を着用していた。

「おかえり、アカツキ。汽車は遅れると聞いていたけれど、あまり遅くならなくて良かったよ」

「おかえりなさい。戦争ですぐに行ってしまうのは寂しいし心配だけれど、あなたの顔が見られて嬉しいわ」

「ただいま戻りました、父上母上」

「アカツキや、よく戻ってきてくれたの」

「お爺様もご健康で何よりです。宣戦布告には驚かれたと思いますが……」

「全くの……。じゃが、アルヴィンが良くやってくれておる」

「よう、アカツキ。戻ってきた理由はマーチス大将閣下から聞いている。また出世だな」

「ありがとうございます。国を守るためにも、アルヴィンおじさんを全力でサポートするつもりです」

「そいつはありがてえ。お前が参謀なら心強いぜ」

 父上や母上、お爺様と挨拶を交わしてからアルヴィンおじさんにも同様にすると、アルヴィンおじさんは笑顔で肩を叩く。

「にしても綺麗な奥さんを貰ったと聞いていたけれど、実際に見ると美しい人だな。リイナだっけか。俺はノイシュランデから離れられなかっから初めましてだな。アカツキの事をよろしく頼むぜ」

「初めまして、アルヴィン中将閣下。リイナです。皆様と同じノースロードの姓を名乗らせて頂き、嬉しく思います。旦那様を支え、アルヴィン中将閣下とも親交を深めたいと思っておりますわ」

「こちらこそ。戦場ならともかく俺の事は中将閣下じゃなくてアルヴィンさんとでも呼んでくれていいぜ」

「アルヴィンおじ様はいかがでしょうか?」

「ははっ! 悪くねえな。じゃ、その呼び方で」

「かしこまりました、アルヴィンおじ様。御父様、御母様、御祖父様もよろしくお願いしますね」

「よろしく、リイナ。息子を頼むね」

「リイナさんならお強いから安心ね」

「うむ。孫をよろしくの」

 リイナは流麗な所作と言動でアルヴィンおじさんなど僕の親族と挨拶を交わす。仕事モードのリイナはプライベートと違って貴族の令嬢に相応しい振る舞いをしていた。こういう時の彼女は僕も美しいと思う。

「早速で悪いんだが時間が押してるからな。東部統合軍司令本部に向かうが構わないか?」

「はい、僕とリイナは荷物をひとまずは屋敷に運んで頂ければそれで構いません。父上達は?」

「ぼくは東から避難してきた民間人や領主としてやるべき事がある。けど、アリシアや父上が補助してくれているからアカツキは心配せずに軍務に集中しなさい。ここに来たのはお前の顔が見たかったからなんだ」

「分かりました、父上。ただどうかご無理なさらず。母上も、お爺様も」

 忙しい中でも迎えてくれた父上達の心遣いに感謝し、とはいえゆっくりと話す時間は無いので残念だけれど駅で別れて僕達は東部統合軍司令本部が設置されている陸軍第五師団本部に馬車で向かう。
 その道中、僕はある事に気付いた。

「アルヴィンおじさん。市内は思ったより混乱は少ないみたいですね。二百五十年振りの開戦で国境からそう遠くはないノイシュランデは最悪恐慌状態になっているかもしれないと想定していました」

「兄上の手腕のお陰だな。避難民はノイシュランデだけでもこの後数万人になるかもしれねえんだが、上手いこと呼びかけて最小限に抑えているんだわ。けどそれだけじゃねえ。事後報告になって悪ぃがお前とリイナの名前を使わせて貰った」

「僕に」

「私ですか?」

「おう。開戦にあたり、王国を守るため次期当主のお前と魔法能力者ランクA+のリイナが参戦する。改革を提案し現状成功させていて、『冷血の二丁拳銃』の二つ名を持つ次期当主と、強力な魔法能力者であり『絶対零度の氷雪姫』のリイナが来たからには勝利は間違いなしで案ずることは無いってな」

「二つ名はここでも広まっていましたか。……ならば責任重大ですね」

「私は旦那様を、ひいてはアルヴィンおじ様をサポートするのみ。頂いている名に相応しき行動をするのみです」

「アカツキの奥さんは肝が据わってんなあ。だが気に入ったぜ」

「由緒あるヨーク家の産まれですから。それに、私は旦那様に全てを捧げる所存ですので」

「げほっ、ごほっ!」

「おうおう、お熱いこって」

 僕はリイナの突拍子も無い発言に思わずむせてしまった。いい加減彼女の愛情表現には慣れたつもりだったけれど、今のは不意打ちだったよ……。

「あら旦那様。どうしたのかしら?」

「な、なんでもない……」

「ぷははっ! 普段は狼狽えねえアカツキの珍しい姿が見れたな!」

「そんな旦那様も私は愛しく思っております」

「リ、リイナ!」

「こいつは傑作だ! いいもん見れたぜ。平静を保ってるように見えるけどよ、仕方ねえが現場は突然の侵攻にどいつもこいつも冷静さを欠いちまってる。だがお前等が冗談言えるくらいには余裕があって助かるぜ」

「そこがリイナのいい所でもありますから」

「貴族が恐慌していては、庶民や兵達が不安になりますもの。ところでアルヴィンおじ様。確か統合軍本部にはお兄様が既にいらっしゃるのですよね?」

 和やかな会話をしていたけれど、それもここでおしまいのようだ。リイナが話を振ることで話題は軍務関係に移っていく。

「おうとも。リイナのお兄さん、ルークス少将なら今日の昼に到着したぜ。今までなら四日以上かかる所だが一日でノイシュランデ着だ。最低限のモノだけ持ってきて後は鉄路で輸送するらしい。鉄道様々だぜ」

「南部は東部と共に優先的に敷設させましたからね。最大時速は六十キーラ。これまでの五倍から六倍で移動可能です。今回の急速展開も鉄道あってこそです」

「お前の改革立案の功績だな。もし鉄道が無い状態で今を迎えてたと思うとぞっとするぜ……。――お、もう着いたみたいだな。司令室は一階だ」

 司令本部の正面玄関に到着すると、僕達は足早に指揮所になっている司令室へ向かう。
 司令室は統合本部のそれに比べて規模はやや小さいものの、統合情報管理司令支部だけあってかなりの広さだった。

「ルークス少将! 二人を連れてきたぞ!」

 アルヴィンおじさんは司令室の中央、戦況を示す地図や丸木型が置かれた大きなテーブルに傍にいたルークス少将に声をかける。彼は司令要員の一人と話していたけれどアルヴィンおじさんの呼びかけに反応すると、こちらを向き笑顔でやってきた。

「アルヴィン中将閣下、ありがとうございました! よくきてくれたよ、リイナ。それに、アカツキくんも」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

神は激怒した

まる
ファンタジー
おのれえええぇえぇぇぇ……人間どもめぇ。 めっちゃ面倒な事ばっかりして余計な仕事を増やしてくる人間に神様がキレました。 ふわっとした設定ですのでご了承下さいm(_ _)m 世界の設定やら背景はふわふわですので、ん?と思う部分が出てくるかもしれませんがいい感じに個人で補完していただけると幸いです。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

男爵家の厄介者は賢者と呼ばれる

暇野無学
ファンタジー
魔法もスキルも授からなかったが、他人の魔法は俺のもの。な~んちゃって。 授けの儀で授かったのは魔法やスキルじゃなかった。神父様には読めなかったが、俺には馴染みの文字だが魔法とは違う。転移した世界は優しくない世界、殺される前に授かったものを利用して逃げ出す算段をする。魔法でないものを利用して魔法を使い熟し、やがては無敵の魔法使いになる。

【死に役転生】悪役貴族の冤罪処刑エンドは嫌なので、ストーリーが始まる前に鍛えまくったら、やりすぎたようです。

いな@
ファンタジー
【第一章完結】映画の撮影中に死んだのか、開始五分で処刑されるキャラに転生してしまったけど死にたくなんてないし、原作主人公のメインヒロインになる幼馴染みも可愛いから渡したくないと冤罪を着せられる前に死亡フラグをへし折ることにします。 そこで転生特典スキルの『超越者』のお陰で色んなトラブルと悪名の原因となっていた問題を解決していくことになります。 【第二章】 原作の開始である学園への入学式当日、原作主人公との出会いから始まります。 原作とは違う流れに戸惑いながらも、大切な仲間たち(増えます)と共に沢山の困難に立ち向かい、解決していきます。

ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います

とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。 食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。 もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。 ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。 ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。

処理中です...