異世界妖魔大戦〜転生者は戦争に備え改革を実行し、戦勝の為に身を投ずる〜

金華高乃

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第6章『鉄の暴風作戦』

第16話 戦勝するも、アカツキは未来を憂う

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・・16・・
10の月7の日
午後3時45分
ジトゥーミラ市内・連合王国軍臨時設営司令部大テント


 映画やアニメ、小説の類だと戦いに勝った! 大団円だ!
 と、締めくくられるけれど現実はそうはいかないものだ。
 戦闘が終わったら待ち受けているのは戦闘後の後処理。特に今回の市街戦のようなタイプとなると量は膨大で、そこへさらに捕虜まで付いてくるとなると参謀長たる僕の忙しさは戦闘前より増していた。
 戦いが終わって四日。ようやく捕虜の仮設収容先も定まった所で僕は引き続き書類とにらめっこをしていた。リイナは副官としての業務に飛び回っていて、ここにはいない。代わりに多くの士官軍人が忙しなく動いていた。

「アカツキ准将閣下。設置した二箇所の捕虜収容所の魔人達についての書類です」

「准将閣下。魔人の聴取についてのレポート。現状までを纏めたものをこちらに置いておきます」

「アカツキ准将閣下、度々すみません。魔物の方についても……」

「閣下。ジトゥーミラ復興状況についてはこちらに」

「おわっと、一度に四人かあ……。そこに全部置いといて。僕が通せば後はアルヴィン中将閣下とルークス少将閣下だけだし」

『申し訳ありません……』

「いいっていいって。戦いの後もまた戦いだから」

 僕はコーヒーを飲みながら、書類を届けてくれた兵や参謀達に返答をすると、彼等はすぐに次の職務をする為にここを後にしていった。

「ええっと、まずは……」

 早速積み重なった書類に目を通しながら片付けていく。読んではサイン欄に自分の名前を書ぬ単調作業。ああ、電子決裁が多かった前世が懐かしいよ……。
 黄昏ながら兵が用意してくれた甘みの少ないクッキーを齧りながらコーヒーをまた飲むと、テント内にいる佐官クラスの軍人達の話し声が聞こえる。

「降伏したのはいいけれど、魔物を皆殺しなんてなあ。しかも自殺させたんだろ?」

「ジトゥーミラの指揮官によれば、一定期間、特に長期間の洗脳を行ってから解除しても廃人みたいになって使い物にならないんだとさ」

「どこまで本当か分からんよな。でも、大多数を占める魔物がいなくなっただけ、収容する建築物も必要物資も使わず済むんだからいいだろうって言われれば……」

「その通りだよな。我々としては消費するだけの物資がその分いらなくなるから助かるっちゃ助かるけど……」

「生き残った魔物、簡単な意思疎通は出来るんだって? 報告書で読んだぞ」

「これまで俺らは魔物は排除するだけで興味無かったが、知能が低いって言ってもあるんだからそりゃ喋るか……」

「収容所は魔物と魔人で分けて正解だった。どっちからも文句が出るからな」

「しっかしこれからどうすんだか。いつまでも最前線のここには置けんだろう」

「さあね。中央が決めるんじゃないか?」

 耳を傾けて聞いていると、彼等が話していたのはやはりというか戦争で初めての捕虜についてだった。
 現在、捕虜収容所はモロドフ大佐が行った魔物への自決命令と、妖魔帝国にある魔人至上主義に配慮して魔物と魔人は別々の収容所に入れられている。数が多い魔人側は比較的早期に奪取した北側に、魔物は魔人達の目に入らないように南側だ。
 魔人については尉官クラスもそこそこいるから同地で聴取が順次行われていて、既に臨時設営された宿舎が使用されているから使われなくなった仮設建築物を増築した上でそこに収容されている。
 魔物の方は数が少ないので無事だった廃屋を修繕するなり、仮設した建物を作るなりでなんとかなり、食糧については用意していた分がごっそりいらなくなってしまったからと満足する量を提供出来ていた。もちろん、誰も同族が殺されたなんて話はしていない。
 ちなみに魔物については佐官達が話すように僕も少し驚いた、簡単な意思疎通が可能という記述が書類にあった。
 書かれていた内容によると。

「ニンゲン、ワルイヤツ、オシエラレタ。タタカイ、オレラ、タクサン、コロシタ」

「デモ、マケテモ、オレラ、メシクエル。コロサレナイ」

「ヨウマトハ、チガウ。ナグラナイ、ケラナイ」

「ニンゲン、ワルイヤツジャナイ? イイヤツカ?」

「メシクエル。ネラレル。ボウリョクシナイ。ナラ、ハタラク」

 ある程度の文法を用いて話せる上に、食糧を提供されて安眠まで出来るのならば捕虜としての労務も果たすとまで言ってきた。
 発言したのは魔物の中でも比較的賢い魔法を扱える者達だ。兵達も返答しない訳にもいかないからか、何度かこうやって会話を交わしたらしい。
 そこから見えてきたのは、妖魔帝国の魔人至上主義の蔓延と、魔物に対する差別の激しさだ。一体彼等はどんな待遇を受けてきたんだとこの四日間ですら兵達から同情が上がってきてすらいる。話せるか話せないかで印象は大違いになるのも仕方がないだろう。
 となると、兵達には魔人に対する意識が変わってくるんだけど……。

「失礼します。アカツキ准将閣下はおられますか?」

「ん? 僕かい? ここにいるけど」

 思考をぐるぐると回していると、僕を呼ぶ声が聞こえたので手を挙げるとやってきたのは若い男性士官だった。

「軍務中でしたか。失礼しました。アルヴィン中将閣下がお呼びですので、お知らせに」

「了解。すぐに向かうよ」

 僕はいくつかの書類を持って立ち上がると、アルヴィンおじさんがいる指揮官執務テントに向かう。
 外に出ると、ふよふよと浮いてやってきたのはエイジスだった。

「エイジス、おかえり。視察はどうだった?」

「サー、マスター。兵士の会話など、いくつかは記憶しました。魔人、魔物の様子についても見て回りました」

「そっか。その件は後でまた聞かせてくれるかな。ちょうど今からアルヴィンおじさんのとこに向かうんだ」

「了解」

 エイジスと合流してわずかでアルヴィンおじさんのいるテントに到着する。僕がいた所からほとんど離れていないからだ。

「アルヴィン中将閣下、アカツキです」

「おう、アカツキ准将か。入ってくれ」

 テント――テントとはいえちゃんとドアは付いているタイプのもの――の中に入ると、アルヴィンおじさん以外は誰もいなかった。

「おー、エイジスも一緒だったか。軍務途中にすまねえな。随分とせわしいだろ?」

「勝ったからこそ書類は無くなりませんから」

「ははっ、ちげえねえ。手に持ってるのも関係物だろ?」

「中将閣下に決裁して頂くものと、必要かと思って持ってきたものです」

「話が早くて助かるぜ。ま、そこに掛けてくれや。コーヒーはいるか?」

「はっ。先程飲んだので、少しミルクを多めに」

「おう。エイジスは」

「ワタクシは不要です。魔法粒子を頂いておりますから」

「ぷふっ、とうとう冗談まで言えるようになったのかよ。自動人形ってのはホントにすげえな」

 僕は敬礼すると執務机の横にあるテーブルと椅子の方に移り、アルヴィンおじさんは向かい側に座る。
 おじさんはさっき作ったばかりの冷たいコーヒーをカップに入れて、氷魔法で冷やしてあるビンからミルクを入れる。

「カフェオレだなこりゃ。ミルクを入れすぎた」

「構いませんよ。むしろ助かります。朝と昼、先程はブラックだったので」

「そうか。――さて、こっからだが軍務中の喋り方じゃなくてプライベートで構わねえ。その為に人払いもさせてある」

「…………分かりました、アルヴィンおじさん。まずはこちらの書類を。決裁物も混じっていますが」

「了解したぜ」

 アルヴィンおじさんに書類の束を手渡すと、彼はパラパラと捲ってさらりとではあるけど読んでいく。表情は和やかだったものが、少し険しくなっていた。

「どうですか」

「捕虜に関しては割と穏便に済んでいるようだな。魔人に対する聴取は順調に進んでるみてえだ。こうもあっさり、ペラペラと喋られるとは思ってなかったがな」

「帰る場所もないからでしょう。戻った所で待っているのは処刑ですから」

「まあな……。魔物については驚いたぜ。長年魔物となんざ話すなんて機会なんてある訳無かったからよ。稀に言語を解する魔物がいたなんて報告もあったっちゃあったが、例数が少ねえ。考えられるのは、こっち側に出ていた魔物と妖魔側の魔物に違いがあるってとこだろうな。妖魔側の魔物が言語を発する理由は掴めねえが……」

「連合王国など人類諸国領にいる魔物は土着。山脈を隔てて妖魔側にいる魔物には何らかの機会があったのかもしれません。こちら側にいた魔物は、僕達の文明発展に伴って駆逐された歴史もあります。最早差を知る理由は探れませんが……。仮定として、山脈越えする魔物もいたとしても、少数かと。こちらに来るまでに厳しすぎますから」

「だろうなあ。俺達なら補給を確立して軍を伴って行けばやれるが、だとしても準備が必要だからよ。っと、魔物についてはこれくらいにしとくか。今語るには難しい。ジトゥーミラレポートで知っちまったからな」

「ええ……」

 ジトゥーミラレポート。
 アルヴィンおじさんがこう呼んだレポートは、現在進行形で増えていっている妖魔帝国の実情についての記録文書だ。当然、ここには妖魔帝国内の実情を語ってくれて、今も語ってくれているダロノワ大佐からの情報がある。というより半分は彼女からの証言だ。
 内容はこれからますます増えていくだろうけれど、恐らくは多岐に及ぶ。
 妖魔帝国の人口や種族の大まかな割合。山脈を越えた側にどんな都市があってそららがどこにあるかの地理部門から、まだ大まかではあるかれど妖魔帝国の政治体制と貴族達についての政治部門。魔人と魔物について、魔人至上主義や迫害された種族達についての民族部門。
 流石に妖魔帝国軍の総勢力や軍配置までは機密もいいとこなのでまだ話してはくれないけれど、彼等は粛清された身で祖国に恨みを持つものまでいる。口を開かせるのは時間の問題だと思う。
 それにしても、軍事部門を除いてもこれまでさっぱり判明しなかった妖魔帝国について知る事を出来ているのは大きな成果だ。ジトゥーミラレポートは人類諸国にとって珠玉のレポートになると言ってもいい。
 これからも益々増えていくだろう情報に僕達は期待しているけれど、反面不安要素も大きかった。

「このレポートだけどよ、確かに俺らにとっちゃ貴重な情報源だ。山脈から西に展開している妖魔軍について、北側部分だけでも得られたのは大きい。中央と南は大して分かんなかったが、贅沢は言えねえ。これからも手に入る情報でお釣りが来るからな。だが、だ。敵国を知ったからこそ、やべえ話も聞いちまったってのある。アカツキが降伏勧告の日にしてた表情も納得だぜ」

「ジトゥーミラレポートの皇帝についての記述ですね」

「ああ……。お陰でジトゥーミラで勝っても素直に喜べねえ。こいつに関しては特級機密文書として早馬で四の日に送った。もうちとしたら中央も知るだろうよ。妖魔帝国皇帝は戦争狂。この戦争がまだまだ前座だってよ」

 アルヴィンおじさんは苦虫を噛み潰したような表情で言う。僕が問題視していたのと同様の事をおじさんは懸念しているんだ。

「連合王国軍としては、妖魔軍の尽くを撃破し旧東方領を奪還。われの戦力が妖魔軍を凌駕するのを見せつけて講和条約を結ぶ所謂短期決戦型の志向です。講和条約締結後も自軍を抑止力として当面攻め込んでこないようにするのも目的。よしんば魔人主体の軍が出てきたとしてもこれも全力を持って撃破すれば人間を侮っては来ずに侵攻を躊躇させる意図もあります。何せ、これまでに妖魔軍は数十万の損害を被り、領地を大きく後退させているんですから」

「ところが、皇帝レオニードはあくまでも現状の戦況をあくまで第一段階と捉え、民族浄化対象たる魔物を肉壁として俺らに消耗戦を敢行。魔物の総数が掴めねえがまだまだ駒はあるからぶつけていく。戦争は長期化し、俺らはその分だけ消耗していく。さらに、こっちが奪還すればするほど兵站線は伸びていく。しかも復旧や復興と並行でだ。連合王国については暫く耐えうるだろうが、法国軍も遅れて大軍を率いて奪還に乗じるはず。ただ、あいつらの補給ラインは改革で能力が大幅向上した連合王国軍ほどしっかりしてねえ。攻勢限界点に達し、ガタが来た所を」

「連合王国軍相手では犠牲が増えるので、南部峠を用いて法国軍に対し一挙に攻め入り戦線を崩壊させる。奪還軍が崩れれば侵攻は容易です。これまで奪われた地を奪い返し、そのまま法国に雪崩込む。僕が予想した筋書きですがこうなるのではないでしょうか。僕達は冬は動きづらいですが、南部なら冬でも進軍可能です」

「だとしたらやべえぞ。法国軍の事だ。神の御名のもとに領地奪還だと突き進み、勝利を重ねればひた進む。妖魔軍は虫以下だと思ってる魔物を使って負けを装って後退を重ね、法国軍を疲弊させる。そして、限界を迎えた所で」

「反転大攻勢でしょう。よくもまあ皇帝はここまで考えたものです。自国の領土が広大で駒も膨大なのを利用した、立派な戦略です。長期戦で耐え、後に倍返しどころかそれ以上を行う。だからこそ、こんなのを知ってしまえば……」

「連合王国軍は一から戦争計画の作り直しだな……。当たり前だが、法国や連邦。それだけじゃねえ協商連合や共和国、共和国の南のポルトイン王国にも情報共有しねえと……」

「まさに大戦ですね……。それも前回以上の……」

「この件は師団長クラスまでしかまだ知らねえ。だが、そろそろ届くだろえから中央は大騒ぎになるぞ」

「何にしても、ここで話して終わりの問題ではありませんね……」

「ちげえねえ……」

 僕とアルヴィンおじさんの間には、勝利したにも関わらず重苦しい雰囲気が漂う。それは未来を憂うものだった。
 果てしない戦争。終わりなき戦争を。
 とはいえ、このジトゥーミラにおいてはやる事はまだまだ山積みだ。

「この件は本国帰還後にしましょう。作戦は想定以上に早く完了しましたが、今度は入れ替わりの駐屯部隊が送られるはずです」

「いつまでも十万もここには置いておけねえからな。レポートの件もあれば尚更だ。それに、今回頑張った兵達を休息させねえと」

「はい。アルヴィンおじさんの仰る通りです」

「ったく、頭が痛いぜ。――っと、もうこんな時間になっちまったか。話し込んでいたら五時半だ。長いこといさせてすまなかったな」

 アルヴィンおじさんは頭を下げて言う。既に外は暗くなりつつあった。

「いえ。貴重な意見交換が出来ましたのでお気になさらず」

「おう。また呼ぶかもしれねえが、その時はよろしくな」

「はい。互いに早く帰れるといいですね」

「おうよ。そうだ、進軍の遅れていた連邦だがクソまみれがどうにかなって、ようやくジトゥーミラの北六十キーラまで着けたのは知っているよな?」

「ええ。三日後にはジトゥーミラに着と」

「また仕事が増えるが、覚えておいてくれ。互いの調整が必要になる」

「了解しました。参謀長としてしっかり仕事しておきますね」

「助かるぜ。持つべきは有能な部下で、頼もしい親類だな」

「はははっ、ありがとうございます」

「おうともよ。んじゃ、また」

「はっ」

 僕はアルヴィンおじさんのテントを後にして、夕焼けと宵闇が混ざる空を見上げる。

「ねえ、エイジス」

「なんでしょうか、マスター」

「この戦争、どうなるだろうね……」

「回答不可。言葉が抽象的過ぎて明確な返答が出来ません」

「だよ、なあ……」

 戦争には勝った。ルブリフ、法国に続いて三度目だ。
 だというのに、僕の心境は全然晴れやかではなかった。
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