異世界妖魔大戦〜転生者は戦争に備え改革を実行し、戦勝の為に身を投ずる〜

金華高乃

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第2部 戦間期に歩むそれぞれの道 第14章 戦間期編1

第5話 『威光輝きし五カ年計画』

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 ・・5・・
「『威光輝きし五カ年計画』ってか!! ふはははははっ!! そいつはご大層な名前じゃないか!!」

「皇帝陛下の御威光は人類諸国を除き遍く全てに広がっておられます。フィリーネ、貴女のレポートのタイトルには共感しますし、満足致しました。ですが、その名に相応しいなかみになっているのですよね?」

 フィリーネの発言。レポートのタイトルにレオニードとルシュカ、この国の頂点に立つ二人は笑い片や微笑む。がしかし、名が立派なだけに名前負けは許されるはずもない。二人の性格や所業故にゾリャーギは冷や汗が背中に伝い、二人の議長も息を呑む。

「勿論にございます皇帝陛下、皇后陛下。御三方も、まずはレポートの三枚目をご覧下さいまし。本レポートの概要が書かれております」

「三枚目か、どれどれ……。ほう、興味深いね」

「…………へえ。陛下より機密書物を読むことを許されるだけはあるようですね」

「なるほどの……。忌まわしい連合王国と並ぶ国で改革を通してきただけはあるようじゃの。我が国の痛いところ突きつつも解決策を出しておる」

「軍事は疎いですが、これならば分かりやすい。人類諸国にいたという別視点もあるからか。詳細を聞きたくなりますね」

 フィリーネが書いたレポートの三ページ目には改革の概要が記されているが、レオニードとルシュカ、二人の議長はいずれも好感のある発言をする。
 フィリーネは満足した様子で頷くと、

「お褒めに預かり光栄ですの」

 と言い、続けて概要にある一つ一つを語っていく。
 そこに書かれていたのは、以下のような内容であった。

『威光輝きし五カ年計画概要』
 1,本計画は妖魔帝国が量だけでなく質においても人類諸国を凌駕する為の計画である。

 2,妖魔帝国が人類諸国より遥かに巨大な軍事力を有しておきながら何故敗北を喫したか。それは科学技術に劣っていた面もあるが、魔人至上主義に毒され過ぎたからである。事実、人間は魔力に劣る。が、常に叡智を発展し続けてきた。ところが妖魔帝国は人類諸国をいつまでも格下として見てきた。特に指揮官クラスに蔓延る至上主義は深刻である。

 3,よって五カ年計画においてまず取り掛かるは意識改革である。いくら優秀な兵器と能力者個人が人類より優れていたとて、慢心していては宝の持ち腐れである。同じ轍を踏まぬ為にも、現場クラスから指揮官クラスに至るまで士官には人類諸国軍を対等かそれ以上の相手と見なすように意識させること。帝国士官学校においても同様で、とにかく士官クラスから至上主義の空気を払拭させること。初期段階として、聡明なる皇帝陛下は魔人至上主義の特に強い高級軍人を既に粛清しているので、順次有能な代替人物を入れ替えること。

 4,しかし、戦争は精神論だけでは勝てない。強固な精神は現場を支えるに必要であるが、人的資源たる兵は精神論より優秀な兵器を持たせるべきである。よって個人携行火器から重砲、魔法科学兵器に至るまで開発を促進せねばならない。特に、魔法銃の開発と生産は最優先事項である。魔法能力者の多い妖魔帝国において、人類諸国より威力は落ちたとしても安価で大量生産可能な魔法銃を開発し、全能力者兵士に行き渡らせれば火力主義の連合王国すら優に超える火力を手にする事が出来る。

 5,4から、妖魔帝国が今後持つべきドクトリンは徹底的な火力主義である。また、縦深攻撃も目指すべきであろう。人類諸国軍をかき集めてもそれを上回る兵力数を持つ妖魔帝国が人類諸国軍を越える火力を誇れば殲滅など容易い。火力主義と並行し、新たな戦略として縦深戦略をより発展させるべきであろう。

 6,ただし火力主義を体現する為には妖魔帝国のインフラを貧弱に過ぎる。兵器があれども銃弾や砲弾、食糧が無ければ戦えない。連合王国や協商連合が絶え間なく火力を投入し続け常に妖魔帝国を圧倒し、いつまでも兵士が飢えることなく良好な状況で戦争を進められたのは、確立されたインフラと兵站デポの設置など後方補給線を確保していたからである。よって妖魔帝国においても導入間近の鉄道を早期開通させ、鉄道を大動脈とした補給線を持つべきである。

 7,それでも妖魔帝国は人類諸国軍に比べ切り札を持たない。最たる例が召喚武器があるかないかである。私自身所有者であったし、妖魔帝国軍も身を持って知ったであろうが召喚武器は最高位ランクともなれば決戦兵器となる。がしかし、妖魔帝国はこれを持たない。魔力に優れる妖魔帝国軍であるから戦術級以上の魔法は人類諸国軍より使いやすいが、使いやすさはやはり召喚武器より劣る。よって、帝国魔法研究所など研究開発機関にて召喚武器に力負けせぬような、既存兵器の改良や新たな兵器開発を促進するべきである。

 8,一例として『ソズダーニア』である。私はソズダーニアをこの身で味わったが、現在『アジン』レベルの量産型の研究開発が来年で完了すると知った。ソズダーニアは強靭な大口径の銃を持たせるのも容易い力を持つ。そして、巨体である。故にもしこの量産型に野砲程ではないにしても四○ミルラ程度の砲のような銃を持たせたらそれは最早動く砲になるのではないだろうか。機動力を持ち、銃弾をものともしない砲になるのではないだろうか。これを仮称『ソズダーニア・タンク』と名付け、未だ人類諸国が持たぬ機動型重防御兵器を実現したい。

 9,また、SSランク召喚武器の火力並みの何かを保有するのも良いだろう。例として、超高純度かつ大型の魔石である。妖魔帝国は広大であり多くの占領地も抱えている為に魔石鉱山は多い。これらから超高純度かつ大型の魔石を探索し発見し、兵器として改良。安定化技術は必要だが高威力型魔石爆弾を保有することによって人類諸国を要塞一つ、都市一つ丸ごと破壊可能なものが望ましい。

 10,以上が『威光輝きし五カ年計画』の概要であるが実現の為には多大な投資が生じる上に参考となる前例の改革が必要である。私が行った改革は民主主義国家の方式である為全ては参考にならない。非常に癪ではあるが、アカツキ・ノースロードのA号改革は参考になるので限りはあるが諜報機関が得たものと私が知ったものを併せ参考にすべきである。が、妖魔帝国に向いた形での改革が良いだろう。

「以上が本計画の概要となりますわ。いかがでしょうか、陛下。皆様」

「くくくくく、くくくくくくっ! ふははははははははは!! 面白い!! 素晴らしい!! いやあ申し分ないぞフィリーネ・リヴェット!! やはり、やはりお前を妖魔帝国に拉致するようゾリャーギに命じた俺は間違っていなかった!! なあルシュカちゃん、貴様等、フィリーネが並べた計画は心踊らないか? いいや、踊らないわけないだろう!!」

「こんなに愉しそうな陛下を久しぶりに見ましたわ。私もとても心が踊ります。流石ですね、フィリーネ・リヴェット。私も貴女の事が気に入りました。復讐心から人類諸国を一人残らず根絶やしにしようとする決意も感じます」

「どうだアレンスキー! 粛清した能無しの軍首脳部では思いつかぬ案ばかりだろう!」

「目を通して驚き、実際に耳にして驚嘆しました。財務のモルエンフスキーは勘定に頭を悩ましそうですが、彼が目にかけていた親戚はブカレシタで戦死しています。喜んで予算配分をしてくれるでしょう」

「この際金に糸目は付けないぞ! 俺が勅令を出してでも捻り出す!」

「枢密院としても反対する理由がありませんな。改革には物流の変化が生まれるでしょうから経済改革にも繋がりますゆえ、人類諸国との戦争で不満など宣う臣民連中も好景気になれば黙るでしょうのお」

 フィリーネの改革提案に少なくともこの場にいる人物は反対する者は誰もいなかった。最高権力者たる皇帝のレオニードが大喜びする時点で事は決したも同然であり、後は財政と予算の問題だけだからだ。それも皇帝レオニードの強権改革で改善しているのだから不可能ではないだろう。
 人類諸国の裏切り者、という肩書きなど既に彼等にとってはどうでも良いことであった。それ程までにフィリーネの改革は衝撃的だったのである。
 これならば先の苦い思いをした人類諸国との戦争が再開した時、目にものを見せられると確信したのだから。

「よし、ならば事は一日でも早く動くべきだな! アレンスキー、デニーキン! 即刻勅令を出す! 貴様等も枢密院議決命令と評議会命令を出せ!」

「御意」

「陛下の御心のままに」

「ゾリャーギ、貴様の働きは俺を満足させた! 大満足だ! よって貴様にはヨマニエフ一等漆黒勲章を授与する。当然階級も昇進で、特等諜報機関員としこれまでの大佐級待遇を少将級にする。今は子孫がいないが末代まで皇帝の名において生活の保障もしてやる。それだけの事を貴様はやってくれた!」

「み、身に余るお言葉と名誉であります皇帝陛下……」

 ゾリャーギは驚愕し、とんでもない事になったと感じた。
 まず、ヨマニエフ一等漆黒勲章は妖魔帝国における勲章の中で最高位の皇帝の名が冠された勲章であり、一等漆黒勲章は特等漆黒勲章の次にある勲章。つまり妖魔帝国内で二番目に高い非常に名誉な勲章である。これが授与される事は滅多になく、故に授与者は例え公爵クラスの貴族であっても一目置かれ、臣民達からは尊敬の眼差しを受ける事となる。当然この勲章が持つ効力は凄まじく実質伯爵位と同等の扱いとなり、毎月一般的な臣民が一年は暮らせる金額が死ぬまでどころか末代まで転がり込んでくる。
 それだけではない。一等漆黒勲章を持つ者は皇帝の住居たる皇宮への出入りは自由に許され、あらゆる特権も付与されるわけだ。
 つまりはゾリャーギが皇帝の特にお気に入り。妖魔帝国が滅亡しない限りは特権階級者になるわけである。
 しかし、レオニードにとってはこれくらい安いものだと思っていた。何せ目の前にいるフィリーネは妖魔帝国を次こそは人類諸国を絶滅させる武と知を持つ傑物であり、しかも復讐が目的だけに命の危険も今のところはないし今後も著しくその可能性は低い。切り札中の切り札の駒を手に入れたのだから、当たり前の報酬だとレオニードは判断し言ったのである。
 もちろん、ゾリャーギだけではない。満足の行く結果を出したフィリーネへも報酬は惜しまなかった。

「さて、フィリーネ・リヴェット。俺が出した課題に対してお前は期待以上の働きをしてくれた。ここにあるレポートは詳細さえ纏めてしまえば後は俺が命じるだけで妖魔帝国が変貌を遂げる、俺の理想を叶えてくれる代物。となれば、お前には約束通り褒美をやらんとダメだろ?」

「感謝の極みにございますわ。偉大なる皇帝陛下は何をくださるのでしょうか?」

「そうだな……。まずはお前の身分だけど、俺直属の顧問である皇帝傍付特別相談役としよう。軍人としての階級は中将待遇にする。以前の少将階級では勿体なさすぎるからな」

「まあ素敵」

 ルシュカは両手を合わせ口元において口元と目元を緩め、アレンスキーとデニーキンはおお、と感嘆の声を上げる。ゾリャーギは目を見張っていた。
 皇帝傍付特別相談役とは枢密院のメンバーに匹敵するほどで、皇帝のあらゆる御言葉に対して助言をする立場である。

「あと、いつまでも人類諸国の名のままだとここでは不便だろ? 名乗りたい姓名を言え。許す」

「姓名、ですか……。そうですわね……。――でしたら、『リシュカ・フィブラ』を名乗らせて頂いてもよろしいですか?」

「フィブラ? リシュカはともかくどうして二つ目の月を姓にしたんだ?」

 フィブラ、二つ目の月。何故フィリーネがその姓を選んだのかは言うまでもない。どうせ名を変えられるのならば、あの彼が付き合う前に呼んでくれた苗字を、大好きだった前世の祖父と同じでありかつての自分の姓にしたかったからである。
 だが、真実を告げるわけもなくフィリーネは。

「なんとなく、ですわ。強いて言うならば思い入れがありまして」

「ふうん。まあ別にお前がどう名乗ろうと構わないさ。妖魔帝国風で違和感もないしな」

「ありがとうございます、陛下」

「あとは今の見た目も不便だ。俺の傍で働いて貰うには顔が割れすぎている。…………そうだ。代々継がれてきた宝物庫にちょうどいいものがあったな」

「宝物庫、ですか?」

「ルシュカちゃんなら知ってるだろ? アレだよアレ」

「ええ存じておりますよ陛下。いにしえより伝わる、アーティファクトの一つ。変装魔法と違い、姿形を一度限り完全に変えられる『変貌のチョーカー』の事ですよね?」

「そうそれだ。七代前の頃にはとっくにあったらしい闇夜のような黒色のチョーカーのアレ、他と違って大きな力を得る訳でもないから使う機会も無くてな。だけど、フィリーネお前にはぴったりの品だろ? 褒美の一つとしてくれてやる」

「畏れながら陛下。『変貌のチョーカー』はどのようにすれば姿を変えられるのですの?」

「仕舞われている箱の中にある紙片曰く、装着するだけで後は何もしなくていいらしいぞ。流石に性別までは変えられんけどな」

「興味深いアーティファクトですわね。ですが、今の私にとって欲しいアイテムですからとても嬉しいですわ。…………この姿はもう嫌。叶うなら――」

 誰の耳にも入らない小さな小さな声で彼女は呟く。そこには秘めている思いが感じられた。

「何か言ったか、フィリーネ・リヴェット?」

「いいえ、なんでもありませんの」

「気に入ってくれたようだな。よし、だったら明日装着してみろ。すぐに宝物庫よりここに持ってこさせる。だから今日は泊まっていけ。ゾリャーギ、お前もだ」

「じ、自分もですか?」

「当たり前だろ。貴様が拉致した奴だし、これから俺の帝国で暮らすには様々な面でこいつの世話役はいるだろ? あとこれは俺の勘だけどさ、恐らくこいつは俺含めて誰も信じちゃいないけど、お前の事だけは少しは信用してるように思える。そうじゃないか?」

 レオニードが飄々とした様子で言うが、反面ゾリャーギと当本人のフィリーネは背筋に寒気すら感じた。フィリーネに至っては自分の思考がほぼ正確に読まれていたのだから、生唾を飲み込むほどであった。
 しかしレオニードは二人の様子を知ってか知らず言葉を続ける。

「考えてもみてみろよ。こいつは人類諸国で散々同胞に酷い目に遭ったんだぞ? 祖国に裏切られ、軍に裏切られ、信じていた奴にも裏切らた。これで平気な奴の方がどうかしてる。アレンスキー、デニーキン。皇帝になる前の俺を知ってる貴様等ならこいつの心境は多少分かるだろ?」

「え、ええ……」

「さぞ深い闇をお抱えでしょうな……」

「そういう事だ。だから俺が他の世話役を寄越すより今のままゾリャーギ、貴様がフィリーネの面倒を見てやった方がいいと思うわけだ。なあ、フィリーネ・リヴェット?」

「…………畏れ多いですが、言葉を控えさせて頂いてもよろしいでしょうか」

「構わんさ。俺もお前と似たようなもんだったからな。書物で読んだろ? 返答はしなくていいぞ」

「…………ご配慮頂き、感謝しますの」

 フィリーネはこの時、皇帝レオニードは妖魔帝国の頂点に君臨するだけあると一種の畏怖を抱いた。粛清に次ぐ粛清、疑心暗鬼、似た経験をしたからこそ片鱗を感じる正妻ルシュカへの依存。狂っても仕方ない半生。
 だからフィリーネは同情なのか心遣いなのかよく分からないが、レオニードの配慮にとりあえずは感謝した。

「まあなんだ。せっかく人類諸国を裏切って俺の配下になってくれるんだ。これくらいはさせろよ。ってわけで、今日はここまでにしようぜ。ルシュカちゃん、部屋に戻ろうか」


「はい、陛下。お茶をお淹れ致しますね」

「おおそれは楽しみだな! じゃ、また明日にな」

 謁見当初こそ皇帝らしい雰囲気を漂わせたレオニードは、まるでカウンセラーが見せるような微笑みを向けて謁見の間をルシュカと共に後にしたのであった。
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