異世界妖魔大戦〜転生者は戦争に備え改革を実行し、戦勝の為に身を投ずる〜

金華高乃

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第18章 ドエニプラ攻防戦編

第5話 ドエニプラ近郊航空戦

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 ・・5・・
 午後2時過ぎ
 南部方面オルジョク上空
 人類諸国統合軍陸軍航空隊


「チッ、こいつら早すぎるし小回りが効きすぎる!! 周りこめもしねえったら!!」

「また一騎接近! 振り切れ――」

「るわけねえだろ!! あっちは三〇〇、こちとら二二五が限界だっての! なんとか追い払ってくれ!」

「了解!」

 第一航空師団麾下第一航空旅団第三飛行隊所属の飛行中隊中隊長、ドレニー中佐は後部座席に座る攻撃担当のデニング大尉に迫り来る光龍をどうにかするように操縦をしながら命じる。
 上空における乱戦の最中で会話を可能にしているのは後部座席がすぐ後方にしてあるよう設計されているのもあるが、機体に組み込まれている拡声術式によるものである。
 彼等の声は焦りが大いに滲み出ていた。
 当然である。出現自体は予期していたとはいえ、参謀本部の想定を上回る速度。旋回性能。そして攻撃能力。
 いずれも洗脳化されている事から全力は出せないという一種の楽観視が生み出してしまったのである。
 とはいえ、参謀本部の読み違いは半分ほどは責められない所があった。
 妖魔帝国軍が保有する洗脳化技術についてはジドゥーミラレポートや諜報などをもと分析した結果、洗脳前の全力は出せないと結論づけられた点。
 アカツキが予想していた時速三〇〇キーラはココノエなどからの聴き取りによれば、洗脳前の一般的な光龍族が龍化した際の速度であること。
 その他の能力についても洗脳化技術の限界から考察すると、せいぜいが洗脳前の平均七割くらいだという点。
 現場組のアレン中佐や組織中枢にいるリイナですら時速三〇〇に驚いたのも無理はない話であり、ともすれば最前線の彼等の驚愕たるや察するにあまりある話なのである。

「この際乱れ打ちでもなんでもしてくれ!! 前方は俺が機関銃でやる!! 後方は、ちくしょうまだいんのかよ!!」

「しつこい!! 寄るな!! 来るな!!」

「追尾術式でもダメなのかよ! なんて性能してやがる!」

 設立当初からパイロットのドレニー中佐は巧みな操縦技術で後方から迫る光龍の攻撃を回避し、至近命中する魔法もデニング大尉の魔法障壁で難を逃れられていた。
 だが、それだけである。反撃しようにも速度と旋回性能で上回る光龍は回避し、よしんば命中したとしても光龍特有の硬い鱗でなかなか通らない。機関銃を何連射浴びせてやっと撃墜、法撃が直撃して、墜落させるのに必要な半分のダメージという防御力である。これが魔法障壁無しの純粋防御なのだから末恐ろしい。

「こうなったら!! ――穿て!! 『ウィンド・スピア』!!」

「だぁぁぁぁ!! 前方からもかよ!! 墜ちろぉぉ!!」

 二人が搭乗する戦闘機AFー44は前方から非能力者でも使える機関銃をドレニー中佐が、後方ではデニング大尉が魔法銃で狙いすまし、切断系風魔法で射撃。装填してさらにもう一発放つ。

「やった!! 目標撃墜!!」

「よくやったぞ! こっちも敵の速度が落ちた! さらに叩き込む」

 匠と称されても良い程の操縦をドレニー中佐は行い、後ろについた状態でさらに機関銃を連射する。
 彼等からすると不思議な事に洗脳化された光龍は魔法障壁を展開していない。無論ない方がいいし、素の防御力ですら高いのだから有難い話ではある。
 この謎には答えが存在している。それは、洗脳化技術において極力元の性能を追求した結果の犠牲である。
 洗脳化は洗脳前の能力を完全には引き出せないのは人類諸国統合軍も知っている事実である。
 しかしレポートや諜報で得た情報はやや古いもので、最新の洗脳化技術は何かを犠牲――何が犠牲になるかまでは操作出来ないが――にして他の能力を洗脳前に近づけるという水準にまで発展していた。
 その結果が今回の洗脳化光龍族飛行隊である。速度・旋回性能・攻撃能力。これらは洗脳前に近い水準で運用可能となった。代償の犠牲は魔法障壁展開不可であるが、光龍自体素の防御力はある程度の攻撃を防げるから妖魔帝国軍技術者にとっては不満が残るもののまずまずの成果と言えた。
 しかし、魔法障壁がない分は撃墜されやすくなる。それが証拠に、ドレニー中佐のような設立当初からのパイロットはキルスコアは稼げていたのである。

「ターゲット撃墜! これで俺達はスコアプラス二だ!」

「確か累計スコア五でエース? でしたっけ? 英雄閣下が仰ってた制度です」

「おお、アレな。スコアが一定以上になると勲章貰えて休暇も貰えるってやつ。今いくつだった?」

「空中目標なら八ですよ。ドレニー中佐はエースです」

「そりゃいい! だが撃墜にはお前も関わってっからお前もエースだろ?」

「あ、確かに。実感湧かないなあ。何せこんな戦況ですし、――ドレニー中佐! 目標さらに接近! 空からの、アレです!」

「なんだぁ? やけに高度がある。 …………クソ、気になるがまたこっちに気づいたのもいる!」


「魔法無線装置は搭載と後部座席の負担面もですから受信専用ですからね。これがあるだけ十分助かりますが送信出来ないのがもどかしいです。味方に信号弾で知らせます!」

「頼んだぜ」

 ドレニー中佐は平静を装っていたが、胸騒ぎがする。
 地上では激しい攻防が繰り広げられているが、少し押されているのが空からだからこそ伺える。特に不安なのはチラリと確認できた北部方面。南部より後退距離が長く、状況が続くと南部方面が二方面からの攻撃を受けることにもなりかねない。
 クソッタレ、協商連合軍の口だけデカい方は役に立たねえと思いつつもドレニー中佐は自身の機体の操縦に集中する。
 が、気になるものは早めに解消しておきたい。

「おい、あの向こうの光龍の情報はあるか?」

「速度二五〇、数は一〇。エイジス特務官殿からの緊急割込情報です。少し足が遅いですね……」

「まずいな、嫌な予感しかしねえ。接近すんぞ」

「接近の一騎はどうするんです!?」

「んなもん撃ち落としゃいい!」

「相変わらずめちゃくちゃですね!? 了解しましたよ!」

「操縦は任せろ!」

「サー!! おっと、いい状況じゃないですか。これなら気付いてくれるでしょう」

 接近してくる光龍をデニング大尉が目標に狙いを定め、まずは最大射程で攻撃。
 命中はしなかったが、回避によって速度が一時的に低下する。
 するとデニング大尉の目論見通りの行動を友軍機がしてくれた。
 友軍機は光龍の横っ腹に機関銃を何連射も浴びせると、光龍は力なく地へと落ちていった。共同戦果である。
 だが、安心はしていられなかった。

「おいデニング大尉! 連中急降下し始めやがった! あれは……、不味いぞ!!」

 視力の良いドレニー中佐は分かってしまった。急降下する光龍が前腕に持つのは球体だ。そしてこの姿勢。
 座学で聞いた事がある。あれは確か、アカツキが一回だけ講義をした時の事だ。

『戦闘機にせよ、飛行体にせよ急降下する際は警戒が必要だ。何故ならば、SAでも確立されつつある、急降下爆撃だからだね。一度急降下し始めたら追いつくのは至難の業。位置エネルギーが運動エネルギーに変換されて速度が増す。AFー44も純粋な最大速度は二二五。けれど機体強度はそれ以上の速度が出せるようになされている。急降下した時の速度は最大速度を越えることもあるからね』

「あんにゃろう急降下爆撃だ!! 地上の味方があぶねえ!!」

「距離が離れてます!! 友軍にも連絡します!!」

 デニング大尉はすぐさま信号弾で急降下爆撃体勢に移った光龍を撃墜させるべく、友軍へ信号弾で知らせる。
 だが、少し遅かった。
 速度二五〇の光龍は高度二五〇〇以上からの急降下でみるみる加速していく。ドレニー中佐機からの距離ではとても間に合わない。
 それでも、途中光龍からの攻撃を受けても避けてみせて接近を試みる。友軍機も対応可能だった数機が同じように近付き、それらを護衛する機体が光龍を牽制する。

「間に合わねえ!! クソッ、頼むもっと加速してくれ!!」

 計器の針は最大速度の二二五に到達。これ以上の加速はエンジンがオーバーヒートして危険な領域となる。機体がガタガタと揺れる。
 それでも高度一〇〇〇まで低下した光龍の射程に到達し、力を込めて機関銃を連射する。続いて叫ぶように呪文を詠唱するデニング大尉。通過間際になんとか一騎は撃墜することが出来た。
 しかし、そこまでだった。時速三〇〇を優に越える敵に対して射線がズレる、目測の読み違いも起きており全てを撃墜することは叶わない。
 結果、数発が地上に投下され凄まじい爆発と音と、衝撃波が生じた。

「ちくしょうっっ!! 倒しきれなかった!!」

「申し訳ありません、あれが限界でした……」

「いや、いい。すまん。よくやってくれた……」

「いえ……。…………中佐、後方に光龍!!」

「な!?」

 加速姿勢を取る光龍。距離はまだあるが、高度を八〇〇まで下げていたのが仇となった。
 ただでさえ速度面で不利である上に今いる位置はやや妖魔帝国軍寄り。急降下爆撃を防ごうとしたのだから仕方ないが、あまりにも分が悪い。
 ぐんぐんと光龍は迫ってくる。再びエンジンをフルスロットルにするが、一度落ちた速度を最大にまで戻すには時間が必要である。おまけにこれ以上の東進は危険すぎる。敵の対空砲火まで受けかねない。
 しかし旋回して戻れば敵の攻撃を受ける可能性が高い。
 一か八か、回避するしか。
 ドレニー中佐は決めた。蜂の巣にされるのが決まっているより、賭けに出た方がいいと。

「反転して突っ切るぞ!!」

「っ……!! 了解!! 出来る限りの支援を……、そんな……、上空に光龍……。高度推定三〇〇〇以上……。急降下態勢……」

「嘘だろ……」

 運命は何と残酷か。
 デニング大尉は青ざめた顔で、唇を震わせていた。ドレニー中佐も、ここまでかと脳裏に過ぎる。
 旋回しつつある状況でデニング大尉が視認したのは、猛烈な勢いで急降下する光龍だった。ただき今まで対敵したのよりやや小さい気がするし色も白いのだが光龍には違いない。
 また、今までの光龍と違い頭部――額あたりだろうか――に連合王国の国旗色の布を巻いていた。

(白い光龍ってのもそうだが、何故光龍が国旗と同じ布を巻いているんだ……?)

 デニング大尉は疑問に思うが、すぐに思考はかき消される。それどころではないし、もしかしたら嫌味も込めた妖魔帝国軍の策、もしくはこちらでいう隊長機のようなものかもしれない。
 絶望的な状態で思考がネガティブに偏っていたデニング大尉。なんとか冷静を保っているが、撃墜される可能性が断然高いと思っていたドレニー中佐。
 彼等を追う光龍と相対する。上空には他とは違う変わった光龍。
 急降下する光龍の口が開くのが見えた。高度はおよそ一五〇〇前後。口部から眩い光が発せられる。これまでとは比較にならない、上級魔法クラスかと思わせる輝き。

「回避!! 回避するぞ!!」

 ドレニー中佐は思い切り操縦桿を横に倒す。攻撃準備体制に入った正面の光龍ではなく、上空の方の攻撃を避ける為の機動。
 白い光線が発する。
 ところがそれは彼等ではなく、光龍に命中し容易く貫通した。いや、貫通というよりかは真っ二つと言うべきその攻撃に彼らは。

『は……?』

 ポカンと口を開ける。
 このような光景を目の当たりにすれば、誰もが同じ反応をするだろう。
 しかし、事実として自分達を狙っていた光龍は落下していく。
 急降下していた光龍は急ブレーキをかけるかのように勢いを弱めると、彼等の搭乗する機体に並行する。しかも広域魔法障壁を発現させて自分達を範囲内にして、だ。
 状況がまるで掴めない二人。鋭い目付きだが、瞳は優しく微笑んでいるように思わせるものだった。
 さらに二人を驚愕させたのは次の瞬間だった。

「良かった! 間におうたか!」

『喋ったァァァァ!?!?』

「いやいや、何を言うか。妾達は光龍族ぞ?」

 ドレニー中佐にデニング大尉はもう訳が分からなかった。
 敵だと思っていたら同族を撃墜するし、この機体を魔法障壁の範囲内に入れてくるし、挙句の果てには流暢に人語を発する。しかも女性の声で自身を妾と称するのだ。雰囲気も相まって、目の前にいる光龍がやんごとなき身分の方だとは分かったものの、二人が理解するには少々の時間がかかった。
 魔法がある世界とはいえ、自分達が架空の世界に迷い込んだのではないかと錯覚していたからだ。
 だからドレニー中佐からやっと出たのは、

「そ、その……。か、感謝する……」

 という感謝の言葉だった。

「構わぬ。妾達の目的は友軍の援護。それに、同族を呪縛から解放させてやることじゃからの」

「そ、そうか……。待て。同族の解放……?」

「うむ。じゃがすまんの、あまり時間は無いようじゃ。そなたらを後方へ連れてから妾は戻らねばならぬ。そろそろ、燃料が限界じゃろ?」

「あ、あぁ……。確かに余裕は無いが……」

「じゃったら、妾が橋の方までは護衛する。なあに、妾以外にも忠臣が南北で戦うてくれておる。心配せずともよい」

「あの、良ければ貴女? のお名前を伺っても……?」

 デニング大尉が恐る恐る彼女に声を掛けると、彼女は誇らしげな表情でこう言った。

「うむ、許す。――妾の名は、ココノエ。光龍皇国龍皇。そして今は、『第一〇一能力者化師団直轄特務飛行隊』隊長のココノエでもある」

 後にデニング大尉は手記に、以下のような文章を残している。

『命の恩人がまさか侵略された国の皇族とは思わなかった。あの時彼女がいなければ自分達は死んでいただろうし、少なくとも航空隊の損害は甚大だったと思う。でも、当初こそ驚いたものの後々隊の名前を聞いて納得した。いやだって、第一〇一ってアカツキ閣下の師団だろう? なら、また閣下が隠し札を持っていてとっておきの時に出したんだって、思ったさ』
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