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第18章 ドエニプラ攻防戦編
第6話 『龍乙女の女帝』、光龍ココノエ
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・・6・・
光龍皇国龍皇ココノエ及び近衛の生き残り十名。今彼女等は光龍皇国亡命政府軍唯一の部隊となっている。
またの名を、『第一〇一能力者化師団直轄特務飛行隊』。
師団直轄の特殊編成空戦部隊として設立された本部隊は異色づくしの部隊である。
まず、人類諸国軍唯一の光龍完全編成空戦部隊であること。
続いて、ココノエを除いて光龍の中でもよりすぐりのエースばかりであること。
そして、隊長が国家元首であること。
亡命当初は戦うことに一時は躊躇したココノエであるが、何故戦場の最前線に身を投じる事になったかは休戦条約期限切れ約一年前まで遡る。
「アカツキよ、妾は国家元首故に本来であれば後方より命令を下す身分にある。しかれども、妾達光龍皇国の者はここには妾を含めて僅かに十一。そちは言うた。祖国奪還の暁のためにも戦えと。妾は考えた。であるのならば、妾も戦場に身を投じるべきではなかろうかと」
「龍皇陛下。私は確かに戦えとは言いましたが、最前線に行けとまでは言ってはおりません。それとも、何か心境の変化でも?」
「うむ。マーチス元帥から色々と話を聞いた。参謀本部とやらに所属しておる者からも聞いた。…………祖国の事を」
元々人類諸国言語を話せたココノエ――部下達も含めて――はすっかり流暢に話せるようになっていた。その彼女は王宮内など限られた範囲ではあるが連合王国の様々な要人や軍人から祖国の現状を聞いたのであろう。
情報源はジトゥーミラレポート。妖魔帝国から仕入れた情報故に多少の誇張はあるものの光龍皇国についての情報も少なからずあった。さしものマーチスも龍皇であり祖国の現状を聞きたい一人物の願いは無碍には出来ず伝えたのである。
「祖国は今や、酷い搾取に遭っていると聞いておる。そして、戦力になりうるであろう妾達光龍達も……。妾の目標は祖国の解放。その為にはどうしてもそなたらの力を借りねばならぬ。あやつらの力を借りねばならぬ。それに、妾はただ椅子に座ってああしろこうしろと命ずるだけの立場ではない」
「…………」
アカツキは黙って彼女の話を聞いていた。言いたい事は何となく想像がついたからだ。
「故に、妾も戦いたい。じゃが、戦う術はほとんど知らぬ。護身程度じゃ」
「皇女であらせられたのであれば、それでも十分だと思われますが。私は陛下が戦う為に参謀本部から選抜された講師の、戦争の手ほどきも受けていたと聞いております。何せ私が組んだ話でもありますし」
「その件は感謝しておる。じゃが、敵をこの手で殺す手段は知らぬ」
「…………つまるところ、陛下は殺しの術を教わりたいと?」
「うむ。妾達の存在自体が機密である以上大っぴらには出来ぬであろ? 故に無理は言わぬ。無理は言わぬが、それでも願いたいのじゃ。頼めぬじゃろうか、アカツキよ」
ココノエはアカツキに頭を下げる。
いくら亡命者とはいえ、彼女はやんごとなき身分の人(龍)だ。
アカツキは頭をお上げください陛下。と、かしこまった言い方をする。そしてこうも言った。
「なぜ、そこまで戦う事を望まれるのですか? 失礼ながら、以前の陛下であればこのような発言はで出来ませんでしたが」
「妾も光龍じゃからじゃ。飛ぶ術も知っておる。龍皇の一族じゃから、一般的な光龍よりも力を持っておる。何より、父上も母上も戦ったのじゃ。妾が座して待つなど、妾が許さぬ」
「…………承知しました、陛下。マーチス元帥閣下に進言を致しましょう」
「その必要はないぞ、アカツキよ。既に取り付けてあるのじゃ」
不敵な笑みを浮かべるココノエに、アカツキは小さくため息をついた。亡命してから連合王国式の学ぶ機会を得た上で多少の交流もしていた彼女は流石は皇族とでも言うべきか、根回しも上手くなったらしい。
「お聞き致しますが、誰を教官にするおつもりでしたか?」
「無論、そちじゃ。そち以外有り得ぬ。ああ、あと妾だけではないぞ。近衛達もじゃ」
「なるほど。その為の根回しでしたか。かしこまりました。私、アカツキが訓練教官を致しましょう。どのようなモノをお望みですか?」
「そちが編成した部隊に施したアレでよい」
「…………はい? 通常訓練ではなく?」
「うむ」
アカツキは目を丸くする。
ココノエがアレと言ったのは、アカツキが前世でも受けた特殊部隊の訓練である。
軍隊の訓練は国によって多少の差があれど厳しいものだし、この世界においても軍隊の訓練は生易しいものではない。
だが、アカツキが前世の陸軍特殊部隊で受けたのは苛烈極まる訓練だ。何せ部隊長はまだ比較的正気だった頃の、転生する前のリシュカ。つまりは如月莉乃。
アカツキは今でもあの訓練を思い出すと苦笑いするくらいで、この世界における訓練が優しいように思えるほどなのだ。
彼はその訓練の一部をこの世界に合ったものへ変えて実行した。手ほどきを受けたのは、アレン中佐達等昔からの部隊や旧アカツキ旅団に能力者化師団の中でも選抜された人員で構成された本部付部隊達。いずれも今や最精鋭として名を馳せる者達である。
最も、彼等も訓練では音を上げそうになっていたくらいにえげつないものだったらしいが。
それをココノエ達は受けたいというのだ。アカツキも少しは躊躇うというものである。
「…………僭越ながら、あの訓練は陛下を人として扱わぬ事になりますが」
「構わぬ」
「蛆虫等と普通に言いますよ?」
「構わぬ」
「糞蝿等とも言うかもしれませんが」
「構わぬ。むしろ好きなだけ罵るがよい。妾達を人ではなく、ゴミとして扱っても良い」
どうやらココノエの意志は相当強いらしい。ここまで押し切られてはアカツキも拒否は出来なかった。
「承知致しました、陛下。場所の確保や訓練の用意、スケジュール調整がございます。しばしお時間を頂いても?」
「うむ、構わぬぞ」
こうして、ココノエ達はアカツキ訓練教官による特殊訓練が始まった。
アレン中佐が引き攣り笑いで思い出し、彼の部下達がもう二度と受けたくはないと言い、あのリイナですら、「旦那様は嗜虐主義者を越えた何かにしか見えないほど過激になる」と苦笑いする訓練の始まりである。
「糞虫共に許される返答はサー、イエッサーだけだ!! 分かったか糞虫共!!」
「糞虫共!! 貴様等の根性はその程度か!! 光龍の名が笑っちまうなぁ?」
「糞虫共に与える寝所などあるものか!! 食事? 片腹痛い!!」
「走れ糞虫!! また戦死だぞ!!」
「まるで蝿のようだな!! そら行軍追加だ!!」
「敵襲だぞクソ野郎共!! 死にたくなければ戦え!! はぁ? 銃などあるものか!! 己の身体で戦え!!」
「魔法は禁止だぞ糞虫の女王!! 徒手格闘で生き抜け!! そらそこにシャベルもあるではないか!!」
「今度は大隊規模の敵だ!! 憎き憎き妖魔共だぞ!!」
今のようなアカツキの過激な発言はあくまで一部に過ぎない。敵役アグレッサーを担当したアレン中佐達もドン引きなくらい、言いたい放題だったと言う。
さらにタチが悪いのが、途中からアカツキは嬉々として敵役として紛れ込んでエイジスと共にココノエ達に猛威をふるった。
そして、訓練期間満了の日。
「おめでとう、貴官等は今日より糞虫ではなく立派な軍人となった。祖国解放の為に命を賭して戦う栄光ある軍人だ。だが訓練は終わりではない。次は空戦だ。何故ならば、貴官等は光龍。空を支配する龍なのだから」
訓練期間満了後は、空戦指導になった。
この訓練については元々が空を自由に翔ける光龍達だ。ましてや皇女と近衛。前世で言えば近衛達は精鋭の航空部隊並に飛行時間を積んできたし、久しぶりの大空もあってかアカツキを驚かせる程に素晴らしい動きを見せた。ココノエも程々に飛行時間を重ねていたからか、はたまた地獄の訓練を乗り越えたからか飲み込みが早かった。
さらに付け加えるのならば、彼等の飛行にはアカツキが前世で培った経験がある。
アカツキは、陸軍特殊部隊にいた頃に数少ない個人携行型飛行装置で空を飛んだ経験者だ。空戦機動についての心得はあったし、さらには前世の航空機が取った機動についても覚えている。
彼はそれらの知識を活用して彼女等に伝え、彼女等は自己流に落とし込んだ。
その成果が初めて表舞台に上がったのが、ドエニプラ近郊航空戦なのである。
・・Φ・・
「同胞達よ、安らかに眠れ……」
光龍形態になったココノエはまた一騎同胞を呪縛から解放させる。洗脳解除の手段が現状ない以上、こうしてやる他ない。
『ロイヤル1へ。こちらロイヤル2。現在統合軍航空部隊の支援をしつつ、航空優勢の確保を進行中。そちらはいかがですか?』
『こちらロイヤル1。友軍を救出した。まもなく戦闘空域へ戻る。妾が戻った段階で、貴様を僚騎とする』
『御意に』
ココノエはロイヤル2、龍岡実朝から思念会話を受け取り作戦続行を命じる。
光龍には独特の会話方法があるのだが、それがこの思念会話だ。前世で例えるのならば無線通信とでも言うべきシロモノだ。妖魔帝国軍が運用している洗脳光龍はこれが使えない。洗脳化の弊害だ。
ちなみにアカツキはこの会話手法を聞いた時かなり羨ましそうな顔をしたのだが、当然だ。現状の魔法無線装置は会話までは出来ていない。
当手法については早い段階からアカツキの耳に入っており、次世代型魔法無線装置として開発出来ないか研究をしているが、現在も開発中なのである。術式が光龍皇国様式で独特かつ人類諸国が行使する魔法とは系統が違うというのが最も大きい。これについては近衛の中でも魔法研究に明るい女性衛士――彼女もまたこの大空を舞っているが――がアドバイザーにつき、ようやく研究最終段階にきたらしい。
今年の冬には試作品が完成するらしく、アカツキは量産出来ればまた戦場が大きく変わると期待していた。
閑話休題。
ロイヤル1ことココノエは友軍機を安全圏まで誘導すると、再び戦闘空域へと戻る。
すると、ロイヤル2が翼を左右に振る。
『北部空域もようやく取り戻しつつあるようじゃの』
『はっ。菊花が隊長となり友軍の航空支援も行っているようで、地上は立て直しつつあるとのことで』
『うむ。では妾達も友軍の支援を、そして洗脳に苦しむ同胞を救おう』
『御意』
合流した二騎は一気に加速する。速度はすぐに洗脳化光龍の最大速度たる三〇〇を越えた。
何故彼女達が三〇〇の壁を悠々と越えられるか。
それは時速三〇〇があくまで『一般的な光龍』の最大時速だからである。対して、近衛は光龍皇国でも選ばれし者達。ココノエも龍皇の一族。能力はずば抜けており、近衛達の最大時速は約四〇〇。ココノエに至ってはあの訓練を経験して才能を開花させたのか、はたまたタガが外れたのか時速四五〇に至る。
さらにはアカツキ仕込みの空戦術を自己流に改良しているから空戦技術には磨きがかかっていた。
結果、一時は航空優勢を奪取されていた当該空域は彼女等の八面六臂の活躍で取り戻しつつある状況になっていたのである。
「祖国を侵略し民達から搾取した挙句、同胞の自由まで奪い兵器にするなど万死に値する。死して償え、妖魔共」
ココノエは声を低くして、呪文を詠唱。
「――焼き払え」
口部から輝かしい光が出現すると、人類諸国軍を追っていた妖魔帝国の部隊へと光属性の光線を解き放つ。
「造作もないの」
「いい気味です」
「ふんっ、当然の報いじゃ。ちっ、同胞か。あのような姿にさせられてしまうとは、帝国軍はつくづく忌々しい。元は臣下よ、今楽にしてやるからの」
少しだけ悲しい瞳になったものの、ココノエはすぐに戦う者のそれへと変えて高度を上げていく。
次々と洗脳化光龍を撃墜していく彼女達。
オディッサ以上の危機に陥っていた人類諸国統合軍はこの戦いにおける切り札たる新部隊を投入したことにより、夕刻頃には戦況をひっくり返しつつあった。
ココノエ達、特務飛行隊。
後に彼女達は戦史に空の英雄として何度も名前が載ることになる。
そしてココノエ自身も、『龍乙女の女帝』として一躍有名になるのであった。
光龍皇国龍皇ココノエ及び近衛の生き残り十名。今彼女等は光龍皇国亡命政府軍唯一の部隊となっている。
またの名を、『第一〇一能力者化師団直轄特務飛行隊』。
師団直轄の特殊編成空戦部隊として設立された本部隊は異色づくしの部隊である。
まず、人類諸国軍唯一の光龍完全編成空戦部隊であること。
続いて、ココノエを除いて光龍の中でもよりすぐりのエースばかりであること。
そして、隊長が国家元首であること。
亡命当初は戦うことに一時は躊躇したココノエであるが、何故戦場の最前線に身を投じる事になったかは休戦条約期限切れ約一年前まで遡る。
「アカツキよ、妾は国家元首故に本来であれば後方より命令を下す身分にある。しかれども、妾達光龍皇国の者はここには妾を含めて僅かに十一。そちは言うた。祖国奪還の暁のためにも戦えと。妾は考えた。であるのならば、妾も戦場に身を投じるべきではなかろうかと」
「龍皇陛下。私は確かに戦えとは言いましたが、最前線に行けとまでは言ってはおりません。それとも、何か心境の変化でも?」
「うむ。マーチス元帥から色々と話を聞いた。参謀本部とやらに所属しておる者からも聞いた。…………祖国の事を」
元々人類諸国言語を話せたココノエ――部下達も含めて――はすっかり流暢に話せるようになっていた。その彼女は王宮内など限られた範囲ではあるが連合王国の様々な要人や軍人から祖国の現状を聞いたのであろう。
情報源はジトゥーミラレポート。妖魔帝国から仕入れた情報故に多少の誇張はあるものの光龍皇国についての情報も少なからずあった。さしものマーチスも龍皇であり祖国の現状を聞きたい一人物の願いは無碍には出来ず伝えたのである。
「祖国は今や、酷い搾取に遭っていると聞いておる。そして、戦力になりうるであろう妾達光龍達も……。妾の目標は祖国の解放。その為にはどうしてもそなたらの力を借りねばならぬ。あやつらの力を借りねばならぬ。それに、妾はただ椅子に座ってああしろこうしろと命ずるだけの立場ではない」
「…………」
アカツキは黙って彼女の話を聞いていた。言いたい事は何となく想像がついたからだ。
「故に、妾も戦いたい。じゃが、戦う術はほとんど知らぬ。護身程度じゃ」
「皇女であらせられたのであれば、それでも十分だと思われますが。私は陛下が戦う為に参謀本部から選抜された講師の、戦争の手ほどきも受けていたと聞いております。何せ私が組んだ話でもありますし」
「その件は感謝しておる。じゃが、敵をこの手で殺す手段は知らぬ」
「…………つまるところ、陛下は殺しの術を教わりたいと?」
「うむ。妾達の存在自体が機密である以上大っぴらには出来ぬであろ? 故に無理は言わぬ。無理は言わぬが、それでも願いたいのじゃ。頼めぬじゃろうか、アカツキよ」
ココノエはアカツキに頭を下げる。
いくら亡命者とはいえ、彼女はやんごとなき身分の人(龍)だ。
アカツキは頭をお上げください陛下。と、かしこまった言い方をする。そしてこうも言った。
「なぜ、そこまで戦う事を望まれるのですか? 失礼ながら、以前の陛下であればこのような発言はで出来ませんでしたが」
「妾も光龍じゃからじゃ。飛ぶ術も知っておる。龍皇の一族じゃから、一般的な光龍よりも力を持っておる。何より、父上も母上も戦ったのじゃ。妾が座して待つなど、妾が許さぬ」
「…………承知しました、陛下。マーチス元帥閣下に進言を致しましょう」
「その必要はないぞ、アカツキよ。既に取り付けてあるのじゃ」
不敵な笑みを浮かべるココノエに、アカツキは小さくため息をついた。亡命してから連合王国式の学ぶ機会を得た上で多少の交流もしていた彼女は流石は皇族とでも言うべきか、根回しも上手くなったらしい。
「お聞き致しますが、誰を教官にするおつもりでしたか?」
「無論、そちじゃ。そち以外有り得ぬ。ああ、あと妾だけではないぞ。近衛達もじゃ」
「なるほど。その為の根回しでしたか。かしこまりました。私、アカツキが訓練教官を致しましょう。どのようなモノをお望みですか?」
「そちが編成した部隊に施したアレでよい」
「…………はい? 通常訓練ではなく?」
「うむ」
アカツキは目を丸くする。
ココノエがアレと言ったのは、アカツキが前世でも受けた特殊部隊の訓練である。
軍隊の訓練は国によって多少の差があれど厳しいものだし、この世界においても軍隊の訓練は生易しいものではない。
だが、アカツキが前世の陸軍特殊部隊で受けたのは苛烈極まる訓練だ。何せ部隊長はまだ比較的正気だった頃の、転生する前のリシュカ。つまりは如月莉乃。
アカツキは今でもあの訓練を思い出すと苦笑いするくらいで、この世界における訓練が優しいように思えるほどなのだ。
彼はその訓練の一部をこの世界に合ったものへ変えて実行した。手ほどきを受けたのは、アレン中佐達等昔からの部隊や旧アカツキ旅団に能力者化師団の中でも選抜された人員で構成された本部付部隊達。いずれも今や最精鋭として名を馳せる者達である。
最も、彼等も訓練では音を上げそうになっていたくらいにえげつないものだったらしいが。
それをココノエ達は受けたいというのだ。アカツキも少しは躊躇うというものである。
「…………僭越ながら、あの訓練は陛下を人として扱わぬ事になりますが」
「構わぬ」
「蛆虫等と普通に言いますよ?」
「構わぬ」
「糞蝿等とも言うかもしれませんが」
「構わぬ。むしろ好きなだけ罵るがよい。妾達を人ではなく、ゴミとして扱っても良い」
どうやらココノエの意志は相当強いらしい。ここまで押し切られてはアカツキも拒否は出来なかった。
「承知致しました、陛下。場所の確保や訓練の用意、スケジュール調整がございます。しばしお時間を頂いても?」
「うむ、構わぬぞ」
こうして、ココノエ達はアカツキ訓練教官による特殊訓練が始まった。
アレン中佐が引き攣り笑いで思い出し、彼の部下達がもう二度と受けたくはないと言い、あのリイナですら、「旦那様は嗜虐主義者を越えた何かにしか見えないほど過激になる」と苦笑いする訓練の始まりである。
「糞虫共に許される返答はサー、イエッサーだけだ!! 分かったか糞虫共!!」
「糞虫共!! 貴様等の根性はその程度か!! 光龍の名が笑っちまうなぁ?」
「糞虫共に与える寝所などあるものか!! 食事? 片腹痛い!!」
「走れ糞虫!! また戦死だぞ!!」
「まるで蝿のようだな!! そら行軍追加だ!!」
「敵襲だぞクソ野郎共!! 死にたくなければ戦え!! はぁ? 銃などあるものか!! 己の身体で戦え!!」
「魔法は禁止だぞ糞虫の女王!! 徒手格闘で生き抜け!! そらそこにシャベルもあるではないか!!」
「今度は大隊規模の敵だ!! 憎き憎き妖魔共だぞ!!」
今のようなアカツキの過激な発言はあくまで一部に過ぎない。敵役アグレッサーを担当したアレン中佐達もドン引きなくらい、言いたい放題だったと言う。
さらにタチが悪いのが、途中からアカツキは嬉々として敵役として紛れ込んでエイジスと共にココノエ達に猛威をふるった。
そして、訓練期間満了の日。
「おめでとう、貴官等は今日より糞虫ではなく立派な軍人となった。祖国解放の為に命を賭して戦う栄光ある軍人だ。だが訓練は終わりではない。次は空戦だ。何故ならば、貴官等は光龍。空を支配する龍なのだから」
訓練期間満了後は、空戦指導になった。
この訓練については元々が空を自由に翔ける光龍達だ。ましてや皇女と近衛。前世で言えば近衛達は精鋭の航空部隊並に飛行時間を積んできたし、久しぶりの大空もあってかアカツキを驚かせる程に素晴らしい動きを見せた。ココノエも程々に飛行時間を重ねていたからか、はたまた地獄の訓練を乗り越えたからか飲み込みが早かった。
さらに付け加えるのならば、彼等の飛行にはアカツキが前世で培った経験がある。
アカツキは、陸軍特殊部隊にいた頃に数少ない個人携行型飛行装置で空を飛んだ経験者だ。空戦機動についての心得はあったし、さらには前世の航空機が取った機動についても覚えている。
彼はそれらの知識を活用して彼女等に伝え、彼女等は自己流に落とし込んだ。
その成果が初めて表舞台に上がったのが、ドエニプラ近郊航空戦なのである。
・・Φ・・
「同胞達よ、安らかに眠れ……」
光龍形態になったココノエはまた一騎同胞を呪縛から解放させる。洗脳解除の手段が現状ない以上、こうしてやる他ない。
『ロイヤル1へ。こちらロイヤル2。現在統合軍航空部隊の支援をしつつ、航空優勢の確保を進行中。そちらはいかがですか?』
『こちらロイヤル1。友軍を救出した。まもなく戦闘空域へ戻る。妾が戻った段階で、貴様を僚騎とする』
『御意に』
ココノエはロイヤル2、龍岡実朝から思念会話を受け取り作戦続行を命じる。
光龍には独特の会話方法があるのだが、それがこの思念会話だ。前世で例えるのならば無線通信とでも言うべきシロモノだ。妖魔帝国軍が運用している洗脳光龍はこれが使えない。洗脳化の弊害だ。
ちなみにアカツキはこの会話手法を聞いた時かなり羨ましそうな顔をしたのだが、当然だ。現状の魔法無線装置は会話までは出来ていない。
当手法については早い段階からアカツキの耳に入っており、次世代型魔法無線装置として開発出来ないか研究をしているが、現在も開発中なのである。術式が光龍皇国様式で独特かつ人類諸国が行使する魔法とは系統が違うというのが最も大きい。これについては近衛の中でも魔法研究に明るい女性衛士――彼女もまたこの大空を舞っているが――がアドバイザーにつき、ようやく研究最終段階にきたらしい。
今年の冬には試作品が完成するらしく、アカツキは量産出来ればまた戦場が大きく変わると期待していた。
閑話休題。
ロイヤル1ことココノエは友軍機を安全圏まで誘導すると、再び戦闘空域へと戻る。
すると、ロイヤル2が翼を左右に振る。
『北部空域もようやく取り戻しつつあるようじゃの』
『はっ。菊花が隊長となり友軍の航空支援も行っているようで、地上は立て直しつつあるとのことで』
『うむ。では妾達も友軍の支援を、そして洗脳に苦しむ同胞を救おう』
『御意』
合流した二騎は一気に加速する。速度はすぐに洗脳化光龍の最大速度たる三〇〇を越えた。
何故彼女達が三〇〇の壁を悠々と越えられるか。
それは時速三〇〇があくまで『一般的な光龍』の最大時速だからである。対して、近衛は光龍皇国でも選ばれし者達。ココノエも龍皇の一族。能力はずば抜けており、近衛達の最大時速は約四〇〇。ココノエに至ってはあの訓練を経験して才能を開花させたのか、はたまたタガが外れたのか時速四五〇に至る。
さらにはアカツキ仕込みの空戦術を自己流に改良しているから空戦技術には磨きがかかっていた。
結果、一時は航空優勢を奪取されていた当該空域は彼女等の八面六臂の活躍で取り戻しつつある状況になっていたのである。
「祖国を侵略し民達から搾取した挙句、同胞の自由まで奪い兵器にするなど万死に値する。死して償え、妖魔共」
ココノエは声を低くして、呪文を詠唱。
「――焼き払え」
口部から輝かしい光が出現すると、人類諸国軍を追っていた妖魔帝国の部隊へと光属性の光線を解き放つ。
「造作もないの」
「いい気味です」
「ふんっ、当然の報いじゃ。ちっ、同胞か。あのような姿にさせられてしまうとは、帝国軍はつくづく忌々しい。元は臣下よ、今楽にしてやるからの」
少しだけ悲しい瞳になったものの、ココノエはすぐに戦う者のそれへと変えて高度を上げていく。
次々と洗脳化光龍を撃墜していく彼女達。
オディッサ以上の危機に陥っていた人類諸国統合軍はこの戦いにおける切り札たる新部隊を投入したことにより、夕刻頃には戦況をひっくり返しつつあった。
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一つ一つ努力していけば、きっと開かれる未来は輝いているに違いない。
そう思っていたんだけど、俺、弱くない?
希少属性である闇魔法に目覚めたのはよかったけど、攻撃力に乏しい。
剣術もそこそこ程度、全然達人のようにうまくならない。
おまけに俺はなにもしてないのに悪魔が召喚がされている!?
俺の前途多難な転生人生が始まったのだった。
※カクヨム、なろうでも掲載しています。
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