異世界妖魔大戦〜転生者は戦争に備え改革を実行し、戦勝の為に身を投ずる〜

金華高乃

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第18章 ドエニプラ攻防戦編

第7話 危機回避に沸き立つも、問題は回避されたわけでなく

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 ・・7・・
 午後5時25分
 人類諸国統合軍ドエニプラ攻防戦における人類諸国統合軍橋頭堡


「南部方面、連合王国第一七師団が戦線の維持に成功! 当橋頭堡より五キーラ地点で敵の侵攻を阻止!」

「よしっ! よく踏みとどまってくれたよ! さっき到着して向かわせた法国第二三師団を投入! 連合王国一七師団の中でも被害の大きい部隊を後退させて!」

「法国第二五師団より要請! 損害の大きい一個連隊の即時後退を願い出ています!」

「下げさせて! 代わりにここにいる連合王国第一三師団を投入! 押し返せ!」

「了解! 師団本部に伝えます、アカツキ中将閣下!」

「南部方面カノン砲及びL1ロケット部隊、破壊された一部を除き一斉攻撃準備完了の報告あり!」

「ぶっぱなせ!」

「サー!!」

「第一〇一能力者化師団特務飛行隊、『ロイヤル・フライヤーズ』により航空優勢再奪還! 敵洗脳化光龍飛行隊の損害は甚大とのこと!」

「陛下に対して恩が増えたね。彼女達の事だから飛行可能時間いっぱいまでやってくれるはずだ。これが好機! 日没までに地上は押し返せ!」

 僕は笑みを浮かべながら、通信要員に次から次へと要請に対する返答と命令を送っていく。
 オディッサを上回る危機に陥っていた人類諸国統合軍は息を吹き返していた。
 妖魔帝国軍洗脳化光龍飛行隊による一時的な航空優勢奪取と爆撃、タイミングを合わせた地上での反転攻勢は人類諸国統合軍にとっては錯乱状態に入りかねない戦況だったけれど、それらを全てひっくり返したのは、祖国を喪ったココノエと部下達だった。
 彼女達の活躍は凄まじかった。
 友軍航空部隊が二四機被撃墜と初参戦最大の損害を出しながらも七騎しか洗脳化光龍飛行隊を撃墜出来なかったというのに、彼女等が参戦してからこれまでに既に約三〇から三五の撃墜報告が入っている。
 このデータは全て一時的に航空支援に行っており今は戻ってきているエイジスが観測したものだけど、乱戦故に敵の撃墜のみは若干の推定が入っている。
 それでも敵航空勢力の約三割以上を無力化させたのは確定事項。人類諸国統合軍にとっては士気を回復させるどころかより高めることになったし、逆に妖魔帝国軍にとっては攻勢を挫かせられる結果になった。
 たった、一〇騎でだ。
 鎧袖一触がいしゅういっしょくと言っても差し支えのない戦果に、リイナは強く感心した様子で、しかし当然と言った様子で、

「旦那様の地獄の訓練を耐え抜いたからかしらね。まるで人が変わったようだわ」

「いや……。あれはまるで、じゃなくて本当に人が変わったと思うよ……。僕もやりすぎたかもしれないって自覚はある」

「今更じゃなくて?」

「知ってる。一番過酷なのをって言われたからその通りにしたけど、本当に耐え抜くとは思わなかったよ。でもまあ、結果オーライだ」

 苦笑いしながらも、とはいえ切り札たる『ロイヤル・フライヤーズ』の予想以上の活躍によって人類諸国統合軍が救われたのは事実だ。
 僕がいる南部側は帝国軍の反転攻勢前まではいかないにしても押し返しつつあるし、崩壊の危機を迎えていた北部方面もようやく秩序ある後退を行えるようになり、交代として後方予備の師団を投入して橋頭堡を失陥する最悪の事態は回避出来た。
 もし『ロイヤル・フライヤーズ』がいなければ、ココノエ陛下達がいなければ、人類諸国統合軍は北部方面橋頭堡を失った挙句に包囲されて南部方面も取り返しのつかない損害を出すことになっていただろう。彼女達には感謝してもしきれない。
 通信要員から続々と好転する戦況報告を受けていると、エイジスが僕の傍らに近づいてきた。

「進言。『ロイヤル・フライヤーズ』の飛行可能時間は残り三〇分を切りました。なお、敵航空部隊は撤退を開始しております。これ以上の損失は看過できないからでしょう」

「退いてくれるのは助かったね……。最後の後方予備飛行隊も現場の飛行隊と入れ替わった頃だろうし、空の心配はいらないと思う。あと、飛行可能時間は彼女達も分かってるはず。着陸地点はここを指定しているからそろそろ戻ってくるよ」

「サー。空戦は落ち着き、陸軍航空隊のみで支えられるようになりました。あと一時間半で日没ですから、マスターの仰る通り『ロイヤル・フライヤーズ』はこちらへ向かってきているようです」

「到着予定時刻は?」

「何も無ければ全員が揃うのは十五分後かと」

「じゃあ、着陸予定地点に向かおうか」

「サー、マスター」

「了解したわ」

 僕の提案に二人は了承し、護衛の部下達数人だけを連れて前線司令部テントから出る。着陸予定地点はここから少し歩いた所にある、前世で例えるのならばヘリポートに比べればそこそこ広い空間だ。ここを着陸場にしてある。
 僕とリイナは歩いている内も戦況を気にかける会話を続ける。

「洗脳化光龍飛行隊の存在は予想していたけれど、まさかここまでとはね。流石に何もないと願いたい……。ていうか、何も起きないでほしい……」

「地上はオディッサと同じくらい、空に至っては全稼働航空機の一割を喪失したものね……」

 妖魔帝国軍が虎の子ならぬ光龍飛行隊の大損失を出したのと同じく、僕達人類諸国統合軍も無視出来ない損害を出している。
 リイナの言うように、数値だけで言えばオディッサで受けた奇襲の時と同じくらいの人的被害を出している。兵器類も空爆で破壊されている。
 さらに、これまで無敵とまで思われていた航空隊も全稼働機中一割を失ったんだ。いくら本国では生産が続いていると言っても、こっちに届くまでは今後の作戦計画にも影響を出しかねない喪失数でもある。
 そして、数値以上に痛いのは。

「失った機体とか兵器類は再生産すればまだなんとかなる。それよりも、貴重なパイロットやゴーレム搭乗魔法兵が今回の戦闘で戦死しているのは深刻だよ。この一回だけで済むのならともかく、今後こんなのが続出したら人的供給が追いつかなくなる。追いつかなくなった時は……」

「不可避事項。訓練された兵士を大量に失うことは、軍全体の練度低下。作戦計画の破綻にも繋がりかねません」

「専門兵科の大量喪失は大問題よね……。数学的技能も欲求される砲兵にロケット砲部隊。元々絶対数の少ない魔法兵とさらに数の限られるゴーレム搭乗魔法兵。そして、座学と実技訓練期間も諸兵科で最大の戦闘機操縦士。いずれも一朝一夕で補充が出来ないもの。喪失が補充を上回れば、結果は火を見るより明らかね……」

「物量で攻めてくる上に練度も向上しつつあり、戦略にも変化が生まれてきている帝国軍に質で負けたらおしまいだ。本国では人類諸国一丸で、といっても協商連合は怪しいけれど補充と育成を急いでる。共和国ですら一部の政治家は危機感を抱きつつあるから当面は大丈夫だろうけど……」

「旦那様としては何年で決着を?」

「長くて三年だね。五年の見積もりは甘いと今は思ってる」

「三年、ね。長いようで短そうだわ」

 リイナは夕焼けなりつつある空を見上げながら、遠い目をする。
 三年なんて戦争ではあっという間だ。帝国の領土が広大であるのならば尚更。
 今は帝国軍との戦略の読み合いで新兵器の投入や策を駆使して上回っているけれど、対抗策を早々に打ち出すようになってきているあたりいつまで持つかも分からない。
 今回はココノエ陛下達の活躍でオディッサ以上に戦況をひっくり返す事が出来た。あとは王道で押しつつも敵の読みを外した戦い方が出来るかどうかにかかっている。
 あらゆる面を分析しても、やはり冬が訪れる前に最低でもドエニプラは攻略しないとね……。
 僕は思案を巡らせつつもリイナやエイジスと会話を続け、数分後には着陸予定地点に到着した。
 待機している軍人達の敬礼を受けて、僕達もココノエ陛下達の到着を待つ。
 さらに数分後、光龍の姿が見えてきた。陛下と近衛の光龍の姿は分かりやすくその姿は白い。なおかつ額には連合王国の国旗と同色の布を巻いてあるから尚更判別はしやすかった。それでも戦闘空域では勘違いされるかもしれないけどね。
 彼女達は高度一〇〇メーラまでには速度を遅めていき、将兵達の大歓声を受けながら優雅に着陸をする。
 着陸をすると、一〇騎の光龍は光に包まれて見慣れている人間大の姿に戻った。一部の創作では服は破れていてなんてこともあるけれど、彼女達は違った。
 どういった原理なのかさっぱり――研究所の研究員もよく分からないらしい――だけど、光龍変身前の連合王国軍服を身につけたままだ。ココノエ陛下曰くこういうものらしい。光龍族の謎が深まるよね……。
 ココノエ陛下達は人間大の姿に戻ると、僕達のもとに集まり一列に並ぶ。口を開いたのはココノエ陛下だった。

「アカツキよ、『ロイヤル・フライヤーズ』総員何れも欠けず今帰還したのじゃ! 一人だけ負傷したのじゃが、なあに、かすり傷じゃったぞ。対して、妾達は大戦果じゃ!」

「陛下御自ら特殊任務の出撃、お疲れ様でした。地上からも確認致しました。我々人類諸国軍を救って頂き、誠にありがとうございます」

 僕は敬礼し、ココノエ陛下が人類諸国軍式の答礼をしてから感謝の意を伝える。
 彼女等は連合王国軍の制服こそ着ているが、階級はない。現段階では国を失っているとはいえ、国外人。かつ人数も少ないから階級章の部分には龍の絵がある。ココノエは金色で、彼女の部下は銀色。これで識別をすることにしているんだ。
 あと、単純に相手は国家元首。近衛の人達ならともかく、中将である僕よりココノエ陛下の方が上だから当然上位階級者として振舞っているわけだ。まあ、あの訓練の時は別だったけど。

「気にするでない。そなたらには祖国を解放する為に力を貸してもらっておる。これくらいならば、多くの借りの一部に過ぎぬ」

「陛下、貸し借りはお気になさらず。陛下や皆さんが空の支配権を再びこちらのものにして頂けて、陸軍を助けて頂いて本当に感謝しておりますから」

「うむ。そちがそこまで言うのであれば感謝を受け取っておこう」

「ありがとうございます、陛下」

「良いのじゃ。何せ、お主は師みたいなものじゃからの。のお、実朝?」

「はっ。アカツキ中将閣下は陛下に続く上官殿に御座いますから」

「というわけじゃ。かかっ! して、アカツキ。次はどれを殺せばよかろ? お主の命での任務ならばいつでも請け負うぞ?」

 鋭利な瞳で凶暴に笑うココノエ陛下。亡命時の力ない様子はどこへやらだ。すっかり特殊部隊員のようになった彼女に僕は思わず苦笑いをする。
 隣でリイナは「旦那様も罪な人よねえ。また一人、変貌させてしまったわ」とおどけるように笑っていた。
 うん、僕もやりすぎた自覚はある……。ここまで順応化するとは思わなかったんだよ……。
 ……気を取り直そう。

「陛下、ひとまずはここまでで」

「なんじゃ、僅かばかりの時間で終わりかえ? 三日連続稼働でも戦えるぞ?」

「余程非常時でない限りは連続しませんからね? ただ、帝国軍に陛下や近衛の皆さんの存在が割れた以上は隠す必要は無くなりました。今後は様々な任務を『ロイヤル・フライヤーズ』にお任せする予定でございます」

「うむ、任された! いつでも妾達を頼るが良いぞ! のぉ、皆の衆?」

『はっ!!』

 ココノエ陛下の微笑みに、近衛の彼等は一斉に敬礼する。

「頼もしい限りです」

 ドエニプラ近郊戦における危機は去った。
 人類諸国軍は損害の大きかった師団の後方配置転換と予備兵力の投入は余儀なくされるけれど、包囲殲滅される展開よりずっといい。
 今のところ、攻防戦における計画に大きな変更は生じない。
 何としても、冬を迎える前には名将が守るドエニプラを攻略しないといけないのだから。

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