異世界妖魔大戦〜転生者は戦争に備え改革を実行し、戦勝の為に身を投ずる〜

金華高乃

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第24章 オチャルフ要塞決戦編(後)

第6話 サンクティアペテルブルク強襲上陸作戦

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・・6・・
4の月15の日
妖魔帝国・サンクティアペテルブルク


 遂に人類諸国統合軍にとって岐路の日がやってきた。十五の日。『サンクティアペテルブルク強襲上陸作戦』の決行日である。
 この日、春の訪れを告げたかのように天候が良好だったことから、統合軍は当初の予定通りに空母より艦載機部隊を発進させてまずはサンクティアペテルブルクの軍事施設――外部との通信手段となる設備も含む――及び憲兵部隊の所在する建物へ空爆。全くの無防備だったサンクティアペテルブルク市内への空爆を成功させる。
 続いて、午前七時に陸軍及び海兵隊上陸部隊は事前の取り決めにあった上陸地点に到達。空爆の時間からさほど差は無かった為に初動に関してはほとんど被害を受けることなく橋頭堡の構築に成功する。
 この時の様子をとある兵士は、

「拍子抜けだった。てっきり海岸に待ち受けていたかと思ったらそんなことも無かった。こんなことなら上陸してから軽食の一つでも摂れるようにビスケットをくすねてこれば良かった」

 と日記に記していた。
 上陸部隊先遣隊が橋頭堡と簡易的な防衛陣地を構築していく間に後発の上陸部隊は次々と橋頭堡に到着。兵装のチェックなどを済ませると早々にサンクティアペテルブルク郊外に駐屯する帝国軍の撃滅とサンクティアペテルブルク市の包囲行動へと移っていく。
 同時に進んでいたのはサンクティアペテルブルク市内における反乱だ。
 潜入者及び扇動者は、

「パンをよこせ!」

「食い物をよこせ!」

「不当な食糧価格釣り上げ反対!」

 を合言葉に充満していた市民の鬱憤というガスに火をつけて爆発させる。元々お世辞にも優遇されていたとはいえない帝国北西部は憲兵に対する反感も強く、皇帝に対する忠誠心はあまり高くないこともあり、そこへ生活に直結する食糧価格の上昇に家族のどれだけかが徴兵されていくという複合要素であっという間に火は広がっていく。
 扇動者自体が潜入者が思っていたより多く集まっていたことに加え、反乱支援に統合軍の軍事施設への空爆は続いていたから市内の反乱はすぐに憲兵隊の対処能力を超えていった。
 当時の憲兵隊の記録は悲惨だった。

「通信施設が破壊され、外部との連絡が不能」

「暴徒と化した市民の対処は不可能」

「憲兵施設が爆撃され拠点機能を失っている」

「軍に支援を要請したくても通信施設がやられているから出来ない」

「むしろ軍の部隊の一部が反乱に加担している」

「もうおしまいだ」

「父さん、母さん、兄貴、さようなら」

 憲兵隊の組織的な機能は昼過ぎには喪失。民間人だけでなく帝国兵の一部も市民と共に反乱に加わったことにより、サンクティアペテルブルクは包囲前から反乱市民の手に落ちたも同然だった。
 郊外の帝国軍についてはこれよりももう少しは抵抗をしていた。
 当時、サンクティアペテルブルク郊外に展開している部隊は約三五〇〇〇。ただし前日朝にさらに約五〇〇〇が北部方面軍集団の援軍に向かっていたことにより実質約三〇〇〇〇であった。なお、これらの軍は一つの箇所に集まっていた訳ではなく、複数の駐屯地に分散しており戦闘準備など出来ているはずもなかった。
 このような状況の帝国軍に対し、統合軍は陸揚げした野砲やロケット砲による観測砲撃と歩兵と能力者兵による攻撃を真正面から受けることとなる。
 当然帝国軍は反攻など出来るはずもなく、特に統合軍から近い駐屯地にいた帝国軍部隊は瞬く間に制圧されていった。中には統合軍部隊が現れてすぐに降伏した部隊もあるほどである。
 この様子に上陸した現地旅団長はアルヴィンにこのような無線を入れている。

「対敵した帝国軍部隊は、砲撃を敢行した上で突撃した際に大半の部隊が降伏。ほぼ無血状態でこれを占領。サンクティアペテルブルク南東部地域は統合軍勢力下となる。部隊の損害は負傷者数名のみ。非常に円滑に行動は進み、帝国軍の武装解除も順調なり。ただし想定より捕虜の数が増える為、食糧の拠出は必要。当面は帝国軍食料庫を利用するが、一ヶ月以上の場合は想定を越える捕虜用食糧が必要になる為早期のうちに本国への要請を提案する」

 旅団長の無線にあるように、統合軍現地軍は強襲上陸作戦という性格上帝国軍の抵抗は特に作戦初期では薄く、ある程度の数の将兵が降伏するであろうことは予想していた。
 しかし、実際は統合軍が思っていた以上にあっけなく帝国軍部隊は降伏してしまったのである。これにはブカレシタを経験した事のある統合軍士官や下士官は驚いた。

「帝国軍はもっと抵抗すると思っていた」

「ブカレシタの気概ある帝国軍を知っているが故に拍子抜けが過ぎる」

「オチャルフでの実際の話や噂が流れてきていたから当然覚悟をしていたが、まさかほとんど戦わずに駐屯地を制圧できるなんて」

 手記、当時の会話の回想などから彼等の帝国軍に対する感想は多く残されているが、同じ部隊にいた者はほとんど似たような事を話すか書いていた。
 もちろんこのようなあっさりと戦闘が終わる部隊ばかりではない。中には後退の時間稼ぎや真っ向から挑むような勇気ある部隊も存在しており、こちらに関しては、統合軍も元より殺すか殺されるかの場所であるから躊躇なく攻撃を行った上で作戦を進めていった。
 本格的な戦闘は午前中から夕方にかけて行われた。午前中に続き夕方には二度目のサンクティアペテルブルク市への無血開城勧告が出され、遂にサンクティアペテルブルク市は無血開城を受け入れる。この時サンクティアペテルブルク周辺に駐屯していた軍の指揮官も市内にいた為、帝国軍は命令指揮系統が麻痺。夜になると戦闘は散発的になる。
 そして、日が沈んだ頃にはサンクティアペテルブルク強襲上陸作戦軍陸軍指揮官アルヴィンも上陸。設営中の仮設司令部へと移動した。
 時刻は午後八時半。アルヴィンは仮設司令部で戦況報告を受けていた。

「――以上が現時刻までにおける戦況です。包囲完了直後にサンクティアペテルブルク市は無血開城を受け入れた為、市内における大規模な戦闘は防げました。現在は市内に警備戦力を配備させ、治安維持を行い始めています。共和国軍部隊が炊き出しを行いたいと要請がありまして」

「いいんじゃないのか?    ピリピリしているところに腹が満たされるなら貧困層あたりは喜ぶだろ。市内はそこまで食糧不足じゃねえけど、心象を良くしとくに越したことはねえ。当面はほぼ手付かずで入った帝国軍の食料庫などを拠出すればいいし、後続含め輸送艦隊には強襲上陸軍が二週間は食えるだけの食糧を積んである。補給関連は帝国海軍が動き出したとしても護衛戦力以外を出せば対応出来る程度だからなんとでもなる。今はサンクティアペテルブルク市民への好感度を上げた方が得策だ。明日朝にでもやらせてやれ」

「はっ!   ありがとうございます!」

「ご苦労。下がっていいぞ。――次に作戦参謀長、帝国軍の様子はどうだ?」

「はっ。はい。帝国軍の現状ですが、サンクティアペテルブルク周辺に展開していた約三五〇〇〇の内、捕虜が約一五〇〇〇、反乱に加担した者が約四〇〇〇です。残りの約一六〇〇〇ですが、死傷者約三〇〇〇、一三〇〇〇は撤退しました。サンクティアペテルブルク周辺は急速に我々統合軍の支配下となりつつあります」

「いいことだ。随分順調に事が運びそうだな。ってことは、帝国軍は綻び生じ始めたってとこか」

「士官クラスどころか兵士クラスに至るまで拍子抜けだったそうです。頑なに抵抗する敵部隊もありまきたが、オチャルフに比べれば全く」

「質的低下は真実だったっつーわけだ。こっちの死傷者はどうだ?」

「約一〇〇〇程度です。内半数は治療すれば戦線復帰可能かと。我々自体に問題はございませんが、先程出ていった兵站参謀長曰く四半期以上の長期的な占領となると、より本格的な食糧輸送等は必要になるかと。早急に北部戦線と連絡をしなければ厳しいでしょう」

「分かってはいたことだな。本国には連絡をしておこう。最悪民間船舶へ要請をかけることになるかもしれんが、共和国軍あたりに輸送艦の手配が出来ないか掛け合ってもらわねえと」

「間違いありません」

「捕虜の方はどうだ?   これ、予測の倍近いだろ」

「捕虜は現状については随分素直です。統合軍はこんなにいい飯を食ってたのかという話も上がっておりまして、恐らくは主戦線と後方との差が皺寄せの形で出ているのでしょう。帝国軍は我々に比べて兵站線が貧弱ですから仕方ありませんが。問題はこの約一五〇〇〇の捕虜ですが、仮設収容所は元の駐屯地を使うしかありませんね。武装類は回収中ですが、完了次第進めていくと。食糧についてもアルヴィン大将閣下が仰っていたように当面だけなら問題ありません」

「分かった。諸種族連合共和国に問い合わせて、連絡線が構築され次第面倒見れないか聞いてみるか。潜入者や反乱扇動者との約束で、ここは落ち着き次第軍政から諸種族連合共和国の治世下へと移行させるつもりだ。これについても本国にも伝えておこう」

「よろしくお願い致します。――アルヴィン大将閣下」

「どうした?」

「この後、サンクティアペテルブルクを奪還しようとする帝国軍の動きはありますが、同時に北方方面軍と諸種族連合共和国軍が動き始めます。作戦は大成功と言っていいでしょう。戦争がこれで決すれば、少なくとも集結が早まればいいですね……」

「ああ、そうだな」

「恐れながら、自分は総力戦は恐ろしいものだと感じました。このような戦争、誰も幸せになりません。タイムリミットもありますし、自分は最善を尽くします」

「ったりめえよ。戦争なんざ誰だって好き好んでやりゃしねえ。俺らの国を守る為にやるもんだし、そんなんだから際限なくなる。だからよ、早く終わればって言うのは俺も同じだ。そのあたりは参謀本部やアカツキの奴がどうにかしてくれるだろ。あいつはとっておきをいつも持ってっからな」

「はい。オチャルフの反攻作戦も成功することを願いたいところであります」

 アルヴィンは夜空を見上げる。綺麗な星空だった。
 サンクティアペテルブルク強襲上陸作戦は成功した。この後に控える帝国軍の反攻と奪還作戦も予想より被害は少なかったし、北方方面軍と諸種族連合共和国軍が残していた余力を用いて制圧領域の連絡を予定している。
 それだけではない。アルヴィンは既にオチャルフの総司令部へこのように送っていた。

『サンクティアペテルブルク強襲上陸作戦は成功せり。我等は周辺部の制圧が終了次第、北部方面軍と協同して連絡線の構築と包囲の形成を行う。反撃材料の準備は完了。素材は揃った。――人類諸国に平和と栄光をもたらす為、今こそ反攻の時は来たれり』

 反攻作戦ペイバック・タイムの時は近い。
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