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第24章 オチャルフ要塞決戦編(後)

第7話 いざ反撃の時

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・・7・・
4の月16の日
午前6時半過ぎ
オチャルフ要塞内統合軍前線総司令部


「サンクティアペテルブルク方面軍から連絡です!   『我、サンクティアペテルブルク市を完全掌握した後占領地域を拡大中。北部方面軍との連絡線構築の為の前進を開始』です!   サンクティアペテルブルク方面軍の作戦は現段階においては成功とのこと!」

「北部方面軍からも連絡!   『作戦兵力と予備兵力の計一個軍をサンクティアペテルブルク方面軍との連絡線構築の為に進軍を開始。偵察では帝国軍のかずは少なく対応しきれない模様。サンクティアペテルブルク方面の異変に気づいた帝国北部軍集団は攻勢強めるも、これを跳ね返す。残った予備兵力と温存兵力も含めて北部方面軍はいつでも反攻作戦移行可能』とのことです!」

「よし!!   よし!!   よし!!」

「やったわね!   これで全ての手札は揃ったわ!」

「作戦は完璧な成功だな!   申し分ないぞ!   素晴らしい!」

 僕は久しぶりに大声で喜色を表した。リイナだけでなく、総指揮官たるマーチス侯爵は諸手を上げて喜んでいたし、センターにいる参謀達も大歓声を上げていた。
 そう、遂にこの日がやってきたんだ。
今日に至るまで、僕達人類諸国統合軍はずっと耐えてきた。大幅な後退にも挫けず、帝国軍の攻勢を受けても倒れず、戦線の維持をずっと続けてきた。
 けど、それも今日で終わりだ。
 一五の日、サンクティアペテルブルク強襲上陸作戦は意外なくらいに大成功を収めた。潜ませていた扇動者と不満の溜まった市民に一部兵士の反乱によってわずか半日でサンクティアペテルブルク市は無血開城。さらに周辺兵力も抵抗する部隊が少なくあっさりと制圧。いくらか逃亡した兵力を逃したものの、かなりの兵力を無力化出来た。
結果、サンクティアペテルブルク周辺は完全に僕達人類諸国統合軍の勢力下となり今も方面軍が占領地域を拡大していっている。帝国軍は警備兵力と多少の展開部隊を除いてサンクティアペテルブルク周辺にほとんどいないこともあって進軍は順調。統合軍の勢いは強く、早々に降伏する部隊もあるくらいだ。
北部方面軍も帝国北部軍集団と接している部隊と反転攻勢用の後方予備兵力を除いて、サンクティアペテルブルク方面軍との連絡線構築の為に一個軍の進軍を開始。サンクティアペテルブルク方面軍と北部方面軍一個軍の計二個軍が包囲環形成と連絡線構築に動いており、帝国軍の対応は全く間に合っていなかった。
理由は明確。サンクティアペテルブルク方面が手薄なのもあったけれど、帝国軍も現在の主戦線に膨大な兵力をあてていたからだ。その主戦線も奇襲で同様をしているらしく、昨日までのような纏まりが薄くなっている。いくら名将のシェーコフでもこれは予想出来なかったんだろう。
とにかくだ。僕達の作戦はここまでは成功した。リイナの言うように手札は全て揃った。
ならば、やることは一つしかない。

「マーチス元帥閣下、今がまさに好機です。全てを動かしましょう!」

「おうとも!!   全軍に発令!!    これより反転攻勢、『勝利と栄光の為の逆襲』作戦を発動せよ!   これまで散々苦渋を舐め続けてきた!   今こそ逆襲の時!    蓄えた物資、弾薬、兵站部の準備も万端!   一気呵成に前進し、帝国軍を蹴散らせ!    目標地点はドエニプラ!    以前の最大進出地点であるドエニプラを再奪還し、帝国帝都進撃の足掛かりとする!」

『はっ!!!!』

マーチス元帥の命令で総員が一斉に動き始める。
司令センターは脳で、各部位に伝達がなされていく。
この作戦における反転攻勢の第一段階として、まずはムィトゥーラウまで向かわないといけない。その為には反撃開始時点で第二から第三防衛線は足がかりとなる部分は残しておきたかった。これについては前線の将兵の奮闘により、第二から第三防衛線は中洲部分の一部を死守。防衛線の四分の一は残っているから問題ない。
兵力についても許される限り第三防衛線以降の兵力として残してある部隊がそのまま転用可能だ。野砲類も移動可能なものは全て動かせるし、手段も手配済み。ただやられっぱなしなわけではない。
帝国軍はこれまでのオチャルフ要塞攻防戦で相当に疲弊しているのは報告されているし、大量の死傷者も出している。そこへさらにサンクティアペテルブルク方面軍という第二戦線の構築と包囲環の形成。
主戦線の陸上兵力で押して押して押しまくる。というのが作戦の根幹で非常にシンプル。末端の兵士に至るまで目的も明確だ。
だけど、もちろんこれだけな訳が無い。
反転攻勢作戦は、他の手札もあるんだ。

「マーチス元帥閣下。参謀本部を代表して新型戦術ロケット弾L3ロケット及び戦略型長距離ロケット弾L4ロケット投入を意見具申します。L3ロケットは北部及び南部軍集団の司令部攻撃を、L4ロケットは現状二発しかありませんが諸元通りなら約一二〇〇キーラ先の帝都がギリギリ射程に入ります。予備もありませんし、無誘導の為帝都の中心街に着弾の可能性は著しく低いですが、帝都に落ちればそれで構いません。敵の中枢を狙った事実だけで十分です」

「確かにこの戦況下であれば効果は大きいだろう。サンクティアペテルブルク方面に第二戦線の構築、我々主戦線の反転攻勢と帝国軍前線司令部への攻撃。それに加えて帝都までロケットが襲ったとなれば、帝国軍にとっては大打撃だ。よし、アカツキ。これまでオチャルフの西方に隠蔽しており既に準備中のL3ロケットに加えてこちらも準備中のL4ロケットも発射を許可する。敵前線司令部への直撃及び帝都直撃を持って戦況を一気にひっくり返す。作戦参謀長、L3ロケットの第一波発射時刻は何時だ?」

「はっ。今から一時間後には発射可能です。第二波は三時間後になるかと」

「L4ロケットはどうだ?」

「こちらも一時間後であります。L4ロケットについては発射準備に時間がかかりますから、ある程度進めておりました」

「あいわかった。念の為、両ロケットの発射まで防空を厳とせよ。洗脳化光龍の数は減り、反転攻勢直後にココノエ陛下方も動かれる。大丈夫だとは思うが、念には念をだ」

「了解致しました。では、槍と大槍を動かします」

「頼んだぞ」

作戦参謀長は事前準備作業を終え、あとは諸元入力など最終作業のみとしていたL3ロケットとL4ロケットの部隊に命令を送っていく。
L3ロケットは北部も南部も一波あたり一〇〇発で五波の予定。なので南北合わせて計一〇〇〇発。南部のみなら五〇〇発だ。これが帝国軍の司令部を直撃するんだ。ある程度のランク能力者はともかくとして、非能力者や司令部設備なんて無事で済むはずがない。
第二戦線の構築。
反転攻勢作戦。
中距離ロケットによる司令部直撃。
そして、長距離ロケットによる帝都攻撃。
これが全て成功すれば帝国軍は大打撃を被るし、終戦も早まるかもしれない。
いや、早まる。
早まるに違いない。
何故ならばこの日の為に全ての統合軍将兵は戦ってきたのだから。
時間はあっという間に経過する。攻勢準備攻勢を行いつつ僕が直轄で指揮をしている能力者化師団にも高速機動攻勢の用意を終えるよう命令を送り、北部方面軍にも攻勢強化を依頼。南北協同で進軍し、包囲環を形成出来るよう手はずを整える。
そして時はやってきた。

「特殊ロケット部隊から連絡!   L3、L4共に発射準備完了!   いつでもいけます!   帝国軍に察知された兆候は無し!」

「前線指揮官各員からはいつでもいけると応答多数!」

「マーチス元帥閣下、暗号文の活発なやり取りを帝国軍も掴んだかもしれませんが、単なる攻勢発起と勘違いしている可能性もあります。いけます!」

「よし!   やるぞ、アカツキ。行くぞ、諸君等!」

「はい!!」

『はっ!!』

「文明の槍を飛ばせ!   L3ロケットの目標は敵前線司令部!   L4ロケットの目標は帝都!   槍にて穿て!   帝国軍に目にものを見せてやれ!   これが我々統合軍だと!   『天の杖』作戦発動!」

マーチス侯爵は高らかに宣言する。
命令は後方特殊ロケット部隊へ。北部方面軍のロケット部隊にも伝わる。
この日、無誘導とはいえ世界で初めての戦術級以上のロケットが空高くに打ち上げられた。
魔法エネルギーで飛翔するロケットは甲高い音を上げて空を往く。まるで僕達に福音をもたらしているかのように。
四の月一六の日。逆襲の反転攻勢は始まった。
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