異世界妖魔大戦〜転生者は戦争に備え改革を実行し、戦勝の為に身を投ずる〜

金華高乃

文字の大きさ
387 / 390
終章 人類諸国の英雄と終焉の堕天戦乙女

第9話 ホルソフの戦いを一日でも早く終わらせる為に

しおりを挟む
・・9・・
5の月18の日
午前10時過ぎ
統合軍司令部から東・前線から6キロ離れた地点



 僕とリイナが九死に一生を得てから一週間が経過すると、戦況はさらに変化していた。
統合軍は七日間で包囲を狭め、前線はホルソフから約一五キーラを切り約一〇キーラに近づいてきていた。
 これにより作戦段階も進んだ。包囲が狭くなったことでロケットだけでなく大口径砲も射程内となった。さらには総司令部から連絡のあったAFー46二個飛行隊が到着し、市街地へは空爆を含む徹底的な攻撃と残された郊外部では野戦が続いていた。
 徐々に終わりに近づくことが出来ているホルソフの戦い。敵側でも、僕達の予測より早いペースで変化が生じていた。
 それはここ数日の間に入っている報告からもよく分かるくらいだった。

「アカツキ中将閣下、報告です。帝国軍は本日正午までに合計で一個大隊相当が投降致しました。中には二個小隊規模のまとまった部隊での投降もあったと、前線から連絡がありまして……」

「また?   ここ四日間、ずっとこんな感じだったよね」

「はっ。はい。三日前より日間で一個大隊から二個大隊程度の投降が続いております。このペースですと、今日までに連隊以上旅団未満の投降兵士が出ることになります」

「了解。今後の作戦計画にも関わりそうだから、すぐに参謀本部と会議をしてみるよ」

「はっ。承知致しました。自分はこれにて」

「報告ありがとう」

 報告をくれた士官に礼を言うと、僕は隣にいたリイナの方を向く。

「予定を変更して、参謀本部と打ち合わせをしよう。当初の予定を早めてビラを撒いてもいいかもしれないからさ」

「そうね。私達が思うよりずっと作戦が進んでいるわ。中心市街地まであと約一〇キーラちょっとだし、本格的に市街戦に入る前に行うべきだわ」

「肯定。反乱軍の士気は想定以上に低下しています。なお、ビラについては既に予定数の半分である約一五〇〇〇部の作成が完了。第一段として散布してもよろしいかと」

「そうだね。帝国軍は早く戦争にケリをつけたいのか、連日降伏を促す呼び掛けを各所で行っているみたいだし、それが効いているのかもね」

 決めれば即行動ということで、僕達は視察に来ていた最前線から前線司令部に戻ることにした。
 一時間近くかけて戻ると、司令部施設には参謀達が集まっていた。

「忙しいところ集まって貰って悪いね。早速だけど本題に。結論から言うと、僕の権限を使ってビラ散布を本日より五日後から変更して明後日にでも行うことにする。理由はここ四日間の前線からの報告だ。昨日までに約一個大隊から二個大隊相当が投降してる。昨日に至っては降伏しようとした部隊に反乱軍督戦部隊と思われる部隊が攻撃、我が軍と銃撃戦及び法撃戦になった。士気の低下は明白。決行しても問題無しと考えたからだ」

 僕の発言に、参謀の面々は余り驚きはしなかった。遂にか。まあそうなるだろうな。といった様子だった。
 反乱軍兵士に向けたビラ散布。それは以前僕が総司令部で提案した、作戦後半から最終段階で行うと提案したもので、既に許可の下りているものだ。
 そもそもホルソフの戦いはあの人が帝国本国を裏切って反逆者にさえならなければ起きなかった戦いだ。だから僕達統合軍は当然として帝国にとっても無くて良かった戦いで、無駄な争いってわけだ。なのでどっちも早く戦いを終わらせたい。
 しかし、投降兵が増えてきたとはいえまだまだ抵抗は続いていて参謀本部の見立てでは少なくとも半月、最悪の場合で一月半はホルソフの戦いが続くと予想している。
 そこで僕が提案したのはホルソフの反乱軍に対して統合軍が直接的に死傷者が出ない作戦であるビラ散布作戦だった。
 軍というものは追い込まれれば必ず降伏者が出る。前世で僕が所属していた日本軍の前身と言って差し支えの無い旧体制日本軍、つまりは旧日本軍なんだけどここは降伏者が少ないことで有名だ。それでも少なくない数の兵士は降伏している。だから、いくらあの人に心酔しているのか脅されているのかは別として降伏数が少ない――ここ数日は過去形になっているけれど――反乱軍にも効果ありと考え作戦が行われるところまでは決まっていた。
 さて、そのビラなんだけど内容はこんな感じだ。

①既に勝敗は決まっている。降伏せよ。

②このビラを持って降伏すれば統合軍は条約を適用して悪い扱いはしない。一緒に連れてきた者も同じ扱いにするから安心しろ。なお、終戦後に然るべき話し合いを行った上でお前達は解放されるから心配するな。

③降伏しない場合、叛逆者リシュカと同列の扱いとし、反乱に加担したとする。降伏勧告後に降伏してもこの扱いは変わらない。

④降伏しなかったらお前達の家族は反乱者の家族になるから悲しむぞ。降伏しろ。


 とまあこんなとこ。実際は帝国の識字率の問題からもっと内容を分かりやすくしているけれど、早い話がこんな戦いバカバカしいのでとっとと降伏しろってことだね。

「アカツキ中将閣下、決行は明後日とのことですが具体的にはいつ行われますか?」

「タイミングは統合軍側からの再度降伏勧告の前。既にビラの準備は出来ていて、後は航空機からばら撒くだけだ。飛行計画に変更が生じるものの、航空隊へは決行が早まる可能性もあると伝えてあるから調整は難しくないよ」

「ありがとうございます。作戦部としては閣下の提案には賛成です。正直なところ、この戦いは一日でも早く終結して欲しい戦いですから。前線の兵士もそう思っています」

「情報部も賛成です。最早我々が分析するまでも無く反乱軍の士気は低下しており、前進速度からもそれは表されております。早期決着に有効であれば、是非行うべきと愚考します」

「了解。本作戦について、マーチス元帥閣下より決定権が僕に与えられているから決行の方向で行こう。すぐ準備にとりかかろうか」

『はっ!!』

 こうしてビラ散布作戦は翌々日に行われることが決定した。
 この作戦で少しでも早くホルソフの戦いが終結してくれれば。統合軍の死傷者が一人でも減れば。
 誰もがその思いで動き始めていた。
 もちろん僕もその一人で、あの人は降伏なんて絶対にしないだろうし最後まで抵抗するだろうけど、それはあえて口に出さなかった。
 統合軍も僕も、終戦に向けて日々を費やしてきたし、ようやくそれが手の届くところまで来たのだとも思っていた。

 けれど、戦争というものは本当に予想がつかない。
 いつも想定外がやってくる。
 でもさ、まさか終戦がとある形でやってくるとは誰も思わないだろう?
 皆考えてもいなかったし、僕だってこれっぽちも考えていない結末だった。
 あまりにも、あっけない終わり方だった。
 それは先の会議からたった二時間後、昼も二時くらいの事だった。
 統合軍に反乱軍から暗号無しの通信が入る。
 送信主はオットー。リシュカ・フィブラの副官。
 内容はこうだった。

『当方、リシュカ・フィブラを捕縛。魔法拘束具及び身体拘束具による多重拘束を行った。多少手荒い形にはなったが、完全に無力化に成功。ついては、我々の総司令官リシュカ・フィブラの身柄を差し出すので馬鹿げた延長戦を終わりにしたい』
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

神は激怒した

まる
ファンタジー
おのれえええぇえぇぇぇ……人間どもめぇ。 めっちゃ面倒な事ばっかりして余計な仕事を増やしてくる人間に神様がキレました。 ふわっとした設定ですのでご了承下さいm(_ _)m 世界の設定やら背景はふわふわですので、ん?と思う部分が出てくるかもしれませんがいい感じに個人で補完していただけると幸いです。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

男爵家の厄介者は賢者と呼ばれる

暇野無学
ファンタジー
魔法もスキルも授からなかったが、他人の魔法は俺のもの。な~んちゃって。 授けの儀で授かったのは魔法やスキルじゃなかった。神父様には読めなかったが、俺には馴染みの文字だが魔法とは違う。転移した世界は優しくない世界、殺される前に授かったものを利用して逃げ出す算段をする。魔法でないものを利用して魔法を使い熟し、やがては無敵の魔法使いになる。

【死に役転生】悪役貴族の冤罪処刑エンドは嫌なので、ストーリーが始まる前に鍛えまくったら、やりすぎたようです。

いな@
ファンタジー
【第一章完結】映画の撮影中に死んだのか、開始五分で処刑されるキャラに転生してしまったけど死にたくなんてないし、原作主人公のメインヒロインになる幼馴染みも可愛いから渡したくないと冤罪を着せられる前に死亡フラグをへし折ることにします。 そこで転生特典スキルの『超越者』のお陰で色んなトラブルと悪名の原因となっていた問題を解決していくことになります。 【第二章】 原作の開始である学園への入学式当日、原作主人公との出会いから始まります。 原作とは違う流れに戸惑いながらも、大切な仲間たち(増えます)と共に沢山の困難に立ち向かい、解決していきます。

ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います

とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。 食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。 もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。 ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。 ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。

処理中です...