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第二百三十九話 急報

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 俺はいつもそうだ、運命の人とか言われて有頂天になっていた。
 俺のようなものは、生きていて運気を与えるだけの存在で、豚としてしか見てもらえていなかったんだ。
 それを人間扱いしてもらえていると勘違いした。

 あの時もそうだ、中学一年の時……。
 学年一の美少女で成績優秀、スポーツ万能の完璧少女が隣の席になった。
 その少女は俺に優しく接してくれたんだよなあ。
 人間扱いされていると勘違いしてしまったんだ。

 人と話をするのが苦手な俺は、いつも優しく接してくれる少女に手紙を書いたんだよなあ。
 ラブレターなんてものじゃなく、感謝の気持ちを書いただけなんだ。
 そしたら、それが黒板に貼り出されて、俺は身の程知らずの馬鹿と言われたんだよなあ。
 中学時代はずっと、クッキーと呼ばれていたんだよなあ。
 糞まみれのきたねー豚なんだってさ。略してクッキー、昭和だからなあ、あだ名で呼ばれた。

 そんなに豚顔がいけないのかようー。
 泣けるぜ。
 ふと見ると、羽柴が心配そうにのぞき込んでいる。
 ヘルメットが少し動いたからか、羽柴が俺の視線に気づいたようだ。

「だ、大丈夫か?」

 ははは、羽柴に心配されるとは、我ながら情けねえ。

「あんたは、彼女はいるのか?」

 こんな、みすぼらしい、猿ねずみ顔の男も女性にもてないだろうと思った。

「期待に添えなくて申し訳ねえが、俺には越前に嫁が三人いる。全員美人ばかりだ」

「な、なんだとーー!!」

 裏切り者めーー。

「ち、ちっきしょー、おぼえていろよーー」

 俺は、負けた悪者の様な捨て台詞を吐いて、安土城跡を後にした。
 おおよそ、正義の味方のセリフではない。
 涙がこぼれて、前がよく見えない。

「まったく、冴子というのは酷い奴ニャ」

「本当です」

 後ろから、追いかけてきた二人が慰めてくれた。
 よかった! ヘルメットをしていて。なさけない顔を見られずにすんだ。
 だが、俺はもう迷わない。女性に優しくされても、決して人間扱いなどされていない。
 肝に銘じておこう。次こそは、だまされねーぞーー。

「もう、絶対誰にもだまされねーーぞーー!!」

 俺は決意を口にした。

「何がですか?」

 桃井さんが聞いてくれた。
 むむ、この子はやさしいなあ。





 暗黒の大阪魔王城についた。
 天守閣の天辺の中央に立ち、仁王立ちになっている。
 暗い大阪の街が一望出来る。城と同様に暗黒だ。

 やな事があったときは、男同士がいいよな。
 そうだ、上杉の所へ行こう。

 俺の横には、アドと桃井さん以外の気配がある。
 きっと、城詰めの古賀軍団のメンバーだろう。

「上杉はどこにいますか?」

「ご案内します」

「頼む」

 上杉は、スケさんとカクさん、響子さんとカノンちゃんと五人で眠っていた。
 大丈夫なのかここで?
 上杉以外、全員女だぞ。まあいいか。

「大殿!」

「上杉、起こしてしまったか?」

「はっ、いいえ。大丈夫です」

「あと、大殿はやめてくれ、俺と上杉の仲だ、親しみを込めて八兵衛さんと呼んでくれ」

「は、はぁ」

「すこし、隣で横になってもいいかなあ」

「ひゃ、ふぇっ。ひゃい、ろうじょ」

 ん、上杉の奴、何を焦っているんだ。
 あー、良い匂いだ。
 美形の男は、体臭も良い匂いだ。
 まるで、花のような香りがする。

 俺は、男同士上杉の横なら快適に過ごせると思ったが、中学時代の美少女の夢を見た。
 それは、俺にとっては悪夢だった。
 久々に眠ったのに、悪夢とは……。がっかりだぜ。

「とうさーーん!! な、なにをやっているんですかー!!」

 朝、あずさの大声に起こされた。
 横を見たら、上杉が天井を見たまま目が充血している。
 まさか、律儀者の上杉は眠らずに起きていたのか。

「いや、すまん、すまん。上杉の事を考える余裕がなかった」

「上杉様、なにもされませんでしたか?」

 あずさが聞いている。

「はあーぁ、俺をなんだと思っているんだ。男に手を出すかよう。なあ上杉」

 まあ、女性にも同意が無ければ手は出しませんけどね。
 まあ、同意をしてくれる人もいないでしょうけどね。

「ひゃ、ひゃい。何もしていただけませんでした」

 はー、なにを言っているんだ。

「そう、よかった。朝食の準備が出来ました」

 全員があずさの引率で、特別室に案内された。
 本丸御殿には、大食堂が用意してあるが、少人数用の特別室もいくつか用意してある。
 その、一室に案内された。
 そこには、古賀さんとヒマリ、アメリちゃんの姿もあった。

「えーーっ」

 ヒマリがあずさの耳打ちで声を上げた。
 何を聞かされたのやら。
 全員の食事が済んだとき。
 部屋がノックされた。

「どうぞ」

 俺が言うと、恐る恐る古賀軍団の一人が入って来た。

「ほ、報告します」

「はい」

 古賀さんが答えた。

「清水様が重傷との事にございます」

「えっ!? あの清水に、怪我をさせることが出来る者がいるとは思えませんが、一体誰に?」

「はい。熊野衆を名乗る者が、和歌山城に立てこもり、その熊野衆の同盟関係のカンリ一族という者達にやられたとのことです」

 俺はすぐに立ち上がった。

「とうさん、もう行くつもりですか」

「あ、当たり前じゃ無いか」

「ふーっ」

 あずさが大きなため息をついた。

「治癒の薬もあります。生きているのなら、あわてなくて大丈夫です。まずは落ち着いて下さい」

「……」

 この場の全員があずさを見た。
 古賀さんと上杉が特に驚いた顔をしている。
 きっと、俺も驚いた顔をしているのだろう。
 あずさの方が俺より、よほどしっかりしている。

 あずさも四月から中学生かー。成長したなー。
 学校で隣が豚顔の男の子になったら。嫌わないでほしいなー。トラウマになっちゃうから。
 あずさの整った顔を見てそんなことを思った。
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