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第二百六十三話 同盟の行方

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 とうさんは、久美子さんの食事の邪魔にならないようにしながら、ここにいる木田家の人達の紹介をしました。
 全員の説明が終るのと、久美子さんの食事が終るのがだいたい同じになりました。

「魔王様、とても美味しゅうございました」

 あー、久美子さん、呼び方が魔王様になっていますよ。

「それはよかった。で、御用向きは何でしょうか?」

 とうさんは、気にならなかったようです。

「は、はい」

 美味しいと言ったときの嬉しそうな顔から、急に神妙な顔付きになりました。

「実は、同盟のお願いにまいりました」

「同盟ですか。新政府軍が強かったのですね」

 とうさんは、涼しい顔で言いました。
 もう全てわかっていると言う顔です。
 木田家の古参の人は、古賀さんの顔を見ました。
 古賀忍軍からの情報がとうさんに行っていると考えたのでしょうか。
 古賀さんは、首を振っています。

「あの、もうご存じなのですか?」

「九州の情報は調査していません。ですが、九州の雄藩から同盟の話しが来たことから推測出来ます」

「新政府軍は、私達の想像をはるかに超えていました」

 久美子さんは、とうさんの顔を見ました。
 興味があるのかどうか知りたかったのでしょうか。

「ふむ、詳しく教えて下さい」

「はい、九州雄藩連合軍は、新政府軍が関門海峡大橋を渡りきった所で叩き潰そうと、門司城跡に二万五千の兵士で待ち構えていました。新政府軍は三部隊編成で一万の兵士で渡ってきました」

「ふむ、主力の一番隊と二番隊、そして三番隊か」

 久美子さんは一瞬驚いた表情をしましたが、すぐに平静を装いました。
 とうさんは、勝手に想像して、言っただけなのでしょう。でも、それが見事に当たっていたようです。

「は、はい。各部隊の隊長はまさに鬼神の如き強さでした。ですがそれ以上の化け物がいました。桜木とサエコという二人です。この二人に五千人以上の兵士が瞬殺されました」

 その人数を聞くととうさんの顔が悲しそうになりました。
 その表情を見て、久美子さんがほっとしたような顔になりました。
 違いますよ、とうさんは新政府軍が大勢死んでも同じ表情をします。

「そうですか」

 とうさんは、声を出すのに少し時間がかかりました。

「九州雄藩連合軍は、二人の化け物により士気を失い逃げ出しました。新政府軍は逃げる我軍に西洋風の鎧を装備し、立派な剣をふるい襲いかかります。装備の面でもはるかに劣る我軍は、次々撃破され一万五千人以上の兵士の命を失いました」

「ふーーむ」

 とうさんは、ここまで聞くと腕を組んでうなり目を閉じました。

「あの、よろしいですか?」

 オオエさんが声を出しました。
 久美子さんが、とうさんの顔を見ると、とうさんはゆっくりうなずきます。

「どうぞ」

「はい。実は私にはサエコという娘がいます。化け物と言われたサエコとはどの様な特徴の人なのでしょうか」

「はい。かなりかわいい女性で、サイコキネシスと言うのでしょうか、宙に浮き我軍の兵士を手で触れることも無く次々吹飛ばしていました」

「私の娘と特徴が同じです。あの、パンツは?」

「はっ?」

「ミニスカートでパンツを丸出しで戦っていませんでしたか」

「いいえ。ズボンで戦っていたと思います」

「では、ちがいますね。私の娘はパンツ丸出しがポリシーですので」

「ははは。エスパー冴子さんと、カンリ一族の紗遠子さんとはそもそも字が違いますよ」

「そうですね。サイコキネキスを使うサエコなんて、きっと大勢いるのでしょうね。久美子さん、すみませんお騒がせしました」

 なんだか、エスパー冴子さんと、カンリ一族の紗遠子さんは同一人物のような気がします。
 サイコキネシスなんて、使える人がそもそもいませんからね。

「はい。いいえ、大丈夫です。そうですかあの女はエスパー冴子と言うのですか。魔王様はサエコのことまで知っているのですね。驚きました。我々は敵にあんなに凄い者達がいることすら知りませんでした」

「九州雄藩連合軍はよほど自分たちの強さに自信があったのだなあ」

「恥ずかしい限りです。それで、私達九州雄藩連合は木田家と織田家と三国同盟を結び、新政府包囲網を結成したいと考えるに至りました」

「なるほど、良い考え方だ」

「で、では」

 久美子さんが前のめりになり、笑顔がこぼれます。

「だが、断る!」

「なっ!! 何故ですか?」

「我が木田家は、じき織田家と戦うことになる。九州勢との同盟なら考えても良いが、織田家との同盟はあり得ない」

「そこを曲げてお願いいたします」

 久美子さんは引き下がりませんでした。
 とうさんが話しのわかる人と感じたのでしょうか。

「聞いてくれ久美子さん。織田家、柴田軍は、当家の上杉の保護する越中に攻め込み、兵士を皆殺しにした。それだけじゃねえ、住民まで皆殺しにしたんだ」

「それはひどい」

 久美子さんの表情が曇りました。

「俺は柴田を許せない」

「そうですね。罪の無い住民を殺すのは許せません」

「まあ、そういうわけだ。わかってくれ」

「でしたら……でしたら」

 久美子さんの目がクルクル動いて一生懸命何かを考えているようです。

「島津家と同盟を結んで下さい」

 久美子さんが、必死に即興で考えついた答えのようです。

「なっ!!!!」

 これには、まわりの人が驚きました。
 どういうことでしょうか。

「いいですねー。ですが、島津家のことを俺は何も知らない」

「うふふ、そのために私が来ました。私は、島津家からの人質です。煮るなり焼くなり魔王様のお好きにして下さい。その上で、もし島津が木田家を裏切った時には、私を切り捨てて下さい」

 な、何と言うことでしょう。
 私と同じです。
 政略結婚です。

「駄目です。木田家ではその様な事を許していません。恋愛は自由であるべきです」

 私はつい大声を出してしまいました。
 とうさんが優しい目で私を見てくれます。
 そして、肩を抱いてくれます。
 私は嬉しくなって、とうさんに抱きつきました。

 ――なーーっ!!

 とうさんの服がヌチャっとします。
 においを嗅いだら、ステーキのにおいがします。
 これは、あずさちゃんとアドちゃんがステーキを食べてベチャベチャになった口をとうさんの服で拭いたあとです。
 このいたずら小娘どもめーー!! やれやれです。
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