424 / 428
最終章 明と暗
第四百二十四話 新潟秋祭り
しおりを挟む
十月の下旬。木田領内は稲刈りも終わり、いよいよ越後秋祭りを開催する運びとなった。
新潟駅前に店を広げようとしたが、コンサート会場まで距離があるということで、白山駅が祭りの主要駅になり、そこから屋台がイベント会場までずっと続く。
「おつかれーー」
俺は前乗りをして、数日前から準備をしていた。その準備も丁度今終わった。
最後の屋台は白山駅前の焼きそば屋さんだ。
明日、俺はこの店のおやじになる。
あずさとヒマリが俺の横に来てニコニコしている。
「いよいよ、今晩は前夜祭だなぁ。二人は明日から忙しい、あまり夜更かししないようにな」
「はーーーーい!!!!」
ああっ、だめだ、ぜんぜん言うことを聞かない返事だ。
こいつらーー!! 明日倒れても知らないぞー。
「おおと……八兵衛さん」
信さんがイベント会場の方から走って来た。
俺は、いつもの黄色いジャージを着て、腹の大きな白いポケットの上に大きな名札を付けている。
名札には、はちべえと平仮名で書いてある。子供にも読めるようにした。
俺は、大殿と言いそうになった信さんに胸を突き出し指さして、名札をアピールした。
「ふーーっ、ふーーっ」
信さんが走って来たために息が切れているのか、いや、興奮しているのだろう鼻息が荒い。
でも、いい男の鼻の穴は、興奮しても俺のようにはおっぴろがらない。
「どうしました?」
「いよいよ、明日から祭りですね!!」
「はぁあーーっ!! 明日からじゃありませんよ!! 今からでしょう!! にひひっ!」
あずさとヒマリが声を合せて言った。
あかーん、ヒマリがあずさ化しているー。
響子さんに合せる顔がない。
お嬢様として上品に育ってきたのに、底辺のおっさんに育てられた、がさつな少女になってしまうーー!!
「さあ、越後秋祭り、前夜祭の開催じゃーーーーっ!!!!」
あずさとヒマリが大声をだした。
その言葉と同時に次々駅の屋台から順番に明かりが灯っていく。
あーーっ、なんだか幻想的だ。神様の通り道のようだ。
そう言えば、お祭りはもともと神事だったよなあ。ぼーっと、浮かび上がった道路と屋台の輪郭がぼやけてまるで絵画のようだ。
今日はまだ、ボランティアの店員さんがいないので、銀色の未来型ロボのようなアリスが店員をしている。
「あのー、私達も参加してよろしいのですか?」
気の早い観光客が、白山駅から降りてきて心配そうな顔をして聞いて来た。
「どうぞ、どうぞ。よろしければ、焼きそばを焼きますよ」
「いえ、あそこのハンバーグを食べてきます」
その言葉を聞くとアリスが、ハンバーグを熱々の鉄板の上に乗せた。
ハンバーグの焼ける音と、うまそうな香りがただよってくる。
がーーーーん、まさか俺は、とんでもないミスをしたのではないだろうか。
翌朝、俺は六時から屋台の前に陣取っている。
祭りは九時からなのだが、早く来た人の朝食を作ってあげようと思ったのだ。
あずさ達はピーツインのコンサートの準備の為にイベント会場の方に行ってしまったので、さみしく一人で店番だ。
「うわあ、私達のアイドルピーツイン、僕らのヒーローアンナメーダーマンショー、会場はこっちって書いてあるよーー!!!!」
最初のお客さんが駅から出てきた。母親と、男の子の親子だ。
駅の改札のまわりには手作りの看板が、所狭しと置いてある。
二人は一瞬、俺と目が合った。
「焼きそばは、いかがですかー。美味しいですよー」
俺はその一瞬を見逃さなかった。
「あーー、はい。あの、あそこのステーキを食べたいので……ごめんなさい」
「ねー、おかあさん。スッ、ステーーキーー!! あっ、でもステーキは高いよ! お金は大丈夫?? 焼きそばにしておく?」
男の子は目をキラキラ輝かせたが、すぐに暗い表情になった。
おいおい、俺の焼きそばは、美味いぞー。暗い顔になるなよな。
だが、焼きそばと言われて俺の目はキラキラ輝いていた。
「うふふ、ここのお祭りの食べ物は、全部無料なのよ。木田の大殿様はそれはそれは素晴らしい大殿様なの、私達が心から楽しめるようにして下さっているのよ」
「えーーっ、すげーーっ!!!! じゃあ、僕、ステーキとハンバーグ」
おいおい、その大殿様の焼く焼そばだよ、食べて欲しいよなあ。
「いいけど、欲張って残したら許しませんよ!! ご厚意の食べ物です。粗末にしては絶対いけませんからね」
お母さんが恐い顔をした。
さすがは日本人だ。わかっているなあ。
既に涙が出そうだよ。
「うん、わかった。じゃあハンバーグだけにする」
「では、八兵衛さん。ありがとうございました」
「じゃあね、はちべえさん」
んっ、言ってねえのになんで名前が分かったんだ。
……あーっ、胸にでかでかと書いてあるんだった。
親子連れは、ペコリと頭を下げると行ってしまった。
「はい、いらっしゃい」
うおっ、スケさんの声だ。
どうやら、ライバル店のステーキ屋さんはスケさんのようだ。
負けられない!!
と、思ったが朝から一人も食べてもらえない。
暇すぎる。
俺は、屋台を閉めて早々と散歩をする事にした。
十時からコンサートがあるはずなので、一目見ておこうとイベント会場にむかった。
「うわあああああああーーーーーーーー!!!!!!」
会場が揺れるほどの歓声が上がった。
「みんなーー、今日は来てくれてありがとーー!! 私達ーー駿河公認アイドルーー!! ピーーツイーーン!!!!」
「うわあああああああーーーーーーーー!!!!!!」
あーーっ、すげーー人気だなあ。美少女だもんなー。
……もう、俺の胸は一杯だよ。
駅から出て来た人よりはるかに多い。
楽しみにして、前乗りをしたのだろうなぁ。
コンサート会場には入れそうにもないので、もう一度屋台に戻ることにした。
新潟駅前に店を広げようとしたが、コンサート会場まで距離があるということで、白山駅が祭りの主要駅になり、そこから屋台がイベント会場までずっと続く。
「おつかれーー」
俺は前乗りをして、数日前から準備をしていた。その準備も丁度今終わった。
最後の屋台は白山駅前の焼きそば屋さんだ。
明日、俺はこの店のおやじになる。
あずさとヒマリが俺の横に来てニコニコしている。
「いよいよ、今晩は前夜祭だなぁ。二人は明日から忙しい、あまり夜更かししないようにな」
「はーーーーい!!!!」
ああっ、だめだ、ぜんぜん言うことを聞かない返事だ。
こいつらーー!! 明日倒れても知らないぞー。
「おおと……八兵衛さん」
信さんがイベント会場の方から走って来た。
俺は、いつもの黄色いジャージを着て、腹の大きな白いポケットの上に大きな名札を付けている。
名札には、はちべえと平仮名で書いてある。子供にも読めるようにした。
俺は、大殿と言いそうになった信さんに胸を突き出し指さして、名札をアピールした。
「ふーーっ、ふーーっ」
信さんが走って来たために息が切れているのか、いや、興奮しているのだろう鼻息が荒い。
でも、いい男の鼻の穴は、興奮しても俺のようにはおっぴろがらない。
「どうしました?」
「いよいよ、明日から祭りですね!!」
「はぁあーーっ!! 明日からじゃありませんよ!! 今からでしょう!! にひひっ!」
あずさとヒマリが声を合せて言った。
あかーん、ヒマリがあずさ化しているー。
響子さんに合せる顔がない。
お嬢様として上品に育ってきたのに、底辺のおっさんに育てられた、がさつな少女になってしまうーー!!
「さあ、越後秋祭り、前夜祭の開催じゃーーーーっ!!!!」
あずさとヒマリが大声をだした。
その言葉と同時に次々駅の屋台から順番に明かりが灯っていく。
あーーっ、なんだか幻想的だ。神様の通り道のようだ。
そう言えば、お祭りはもともと神事だったよなあ。ぼーっと、浮かび上がった道路と屋台の輪郭がぼやけてまるで絵画のようだ。
今日はまだ、ボランティアの店員さんがいないので、銀色の未来型ロボのようなアリスが店員をしている。
「あのー、私達も参加してよろしいのですか?」
気の早い観光客が、白山駅から降りてきて心配そうな顔をして聞いて来た。
「どうぞ、どうぞ。よろしければ、焼きそばを焼きますよ」
「いえ、あそこのハンバーグを食べてきます」
その言葉を聞くとアリスが、ハンバーグを熱々の鉄板の上に乗せた。
ハンバーグの焼ける音と、うまそうな香りがただよってくる。
がーーーーん、まさか俺は、とんでもないミスをしたのではないだろうか。
翌朝、俺は六時から屋台の前に陣取っている。
祭りは九時からなのだが、早く来た人の朝食を作ってあげようと思ったのだ。
あずさ達はピーツインのコンサートの準備の為にイベント会場の方に行ってしまったので、さみしく一人で店番だ。
「うわあ、私達のアイドルピーツイン、僕らのヒーローアンナメーダーマンショー、会場はこっちって書いてあるよーー!!!!」
最初のお客さんが駅から出てきた。母親と、男の子の親子だ。
駅の改札のまわりには手作りの看板が、所狭しと置いてある。
二人は一瞬、俺と目が合った。
「焼きそばは、いかがですかー。美味しいですよー」
俺はその一瞬を見逃さなかった。
「あーー、はい。あの、あそこのステーキを食べたいので……ごめんなさい」
「ねー、おかあさん。スッ、ステーーキーー!! あっ、でもステーキは高いよ! お金は大丈夫?? 焼きそばにしておく?」
男の子は目をキラキラ輝かせたが、すぐに暗い表情になった。
おいおい、俺の焼きそばは、美味いぞー。暗い顔になるなよな。
だが、焼きそばと言われて俺の目はキラキラ輝いていた。
「うふふ、ここのお祭りの食べ物は、全部無料なのよ。木田の大殿様はそれはそれは素晴らしい大殿様なの、私達が心から楽しめるようにして下さっているのよ」
「えーーっ、すげーーっ!!!! じゃあ、僕、ステーキとハンバーグ」
おいおい、その大殿様の焼く焼そばだよ、食べて欲しいよなあ。
「いいけど、欲張って残したら許しませんよ!! ご厚意の食べ物です。粗末にしては絶対いけませんからね」
お母さんが恐い顔をした。
さすがは日本人だ。わかっているなあ。
既に涙が出そうだよ。
「うん、わかった。じゃあハンバーグだけにする」
「では、八兵衛さん。ありがとうございました」
「じゃあね、はちべえさん」
んっ、言ってねえのになんで名前が分かったんだ。
……あーっ、胸にでかでかと書いてあるんだった。
親子連れは、ペコリと頭を下げると行ってしまった。
「はい、いらっしゃい」
うおっ、スケさんの声だ。
どうやら、ライバル店のステーキ屋さんはスケさんのようだ。
負けられない!!
と、思ったが朝から一人も食べてもらえない。
暇すぎる。
俺は、屋台を閉めて早々と散歩をする事にした。
十時からコンサートがあるはずなので、一目見ておこうとイベント会場にむかった。
「うわあああああああーーーーーーーー!!!!!!」
会場が揺れるほどの歓声が上がった。
「みんなーー、今日は来てくれてありがとーー!! 私達ーー駿河公認アイドルーー!! ピーーツイーーン!!!!」
「うわあああああああーーーーーーーー!!!!!!」
あーーっ、すげーー人気だなあ。美少女だもんなー。
……もう、俺の胸は一杯だよ。
駅から出て来た人よりはるかに多い。
楽しみにして、前乗りをしたのだろうなぁ。
コンサート会場には入れそうにもないので、もう一度屋台に戻ることにした。
0
あなたにおすすめの小説
スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~
深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】
異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活
シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
荷物持ちの代名詞『カード収納スキル』を極めたら異世界最強の運び屋になりました
夢幻の翼
ファンタジー
使い勝手が悪くて虐げられている『カード収納スキル』をメインスキルとして与えられた転生系主人公の成り上がり物語になります。
スキルがレベルアップする度に出来る事が増えて周りを巻き込んで世の中の発展に貢献します。
ハーレムものではなく正ヒロインとのイチャラブシーンもあるかも。
驚きあり感動ありニヤニヤありの物語、是非一読ください。
※カクヨムで先行配信をしています。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
魔道具頼みの異世界でモブ転生したのだがチート魔法がハンパない!~できればスローライフを楽しみたいんだけど周りがほっといてくれません!~
トモモト ヨシユキ
ファンタジー
10才の誕生日に女神に与えられた本。
それは、最強の魔道具だった。
魔道具頼みの異世界で『魔法』を武器に成り上がっていく!
すべては、憧れのスローライフのために!
エブリスタにも掲載しています。
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる