底辺おじさん、助けた異世界転生美少女の異世界魔法と異世界アイテムそして特殊能力ゴミ処理で世界を救う

覧都

文字の大きさ
425 / 428
最終章 明と暗

第四百二十五話 明と暗

しおりを挟む
「えーーっ!? ちょっとまてーー!!」

 俺は時計を見て声が出た。
 九時どころか、まだ八時じゃねえか。
 なんでコンサートをやっているんだよ。十時からだろー。
 大勢の人が並んでいたから、我慢出来なかったのだろうか?
 まあ、それしかないなあ。大勢の人に見てもらうため、コンサートの回数を増やすつもりなのだろう、体を壊さなければいいなあ。

「おい!! 待てーー!! くそがきーー!!!!」

 人の通行が多くなってきた屋台通りで、大きな声が聞こえてきた。

「はなせーー!! はなせよーー!!」

「全く、このくそがき!! 何てことをするんだーー!!」

 木の長い棒を持った治安隊の男が、一人の子供を捕まえている。

「あのー、どうしたのですか?」

「何だてめーは? さてはコスプレーヤーか? ブタミちゃんだな」

「はーーっ!! おれ……私は、この先で焼きそばの屋台をやっている八兵衛と申します」

 たくよー、ブタミちゃんって何のアニメだよ。
 そんなコスプレする奴がいるかーー!!

「なんだ、焼きそば屋台のボランティアのおやじかー」

「はい、そうです。いったい何があったんですか?」

「ちっ、しょうがねえなあ。みりゃあ分かるだろう!」

 治安隊員が指をさした。
 指の先を見ると、みすぼらしい少年の持っているカバンを指している。
 カバンには、屋台の料理がパンパンに入っていて蓋が閉まらなくなっている。

「これが、何か?」

「これが何かっておめー、食べ放題では飯を食うのはいいが、お持ち帰りはマナー違反、禁止だろうがよう。皆が同じ事をしてみろ、食材がすぐになくなり皆が食べられなくなる。このがきは、料理をカバンに詰めて持ち帰ろうとしているんだ!!」

「ふふふ、なるほど。でも木田家の食べ放題は、お持ち帰りもOKですよ。ただし、食べ残しを捨てたり、もったいないことが禁止です」

「お前! 木田家はって、お前ごときが何を偉そうに言いやがるんだ。俺は上杉家の治安隊だ。ここでは、俺の方が正義だ。お持ち帰りはゆるさねえ」

 そ、そうか、俺は八兵衛だ。さすがに偉そうだったか。

「なあ、ぼうず。それ、持ち帰ってどうするんだ?」

「う、うるせーー!! この、ブタミー!!」

 くーーっ!! きつい一言だなあ。
 だが、俺は怒らないぞ。

「そんなことを言っていると、せっかくの料理を取り上げられちゃうぞ。おじさんに理由を教えてもらえないかなあ。手助けをしたいんだ」

「ほ、ほんとー?」

「ああ、本当だとも」

「この料理は、持ち帰って病気で動けない兄弟に食べさせたいんだ。だめなのかな」

「いいや、駄目じゃない。ちゃんと食べるのなら問題ない」

「駄目に決まっている。俺がゆるさん。一人を許せば全員やるようになり歯止めが利かなくなる」

 うーーん、この人も自分の正義で動いているし、どうしたものかなあ。

「なあ、あんた、一度自分のこととして考えてみてくれ。家で病気の家族が寝込んでいる。お祭りで普段食べられないようなご馳走が、いくらでも無料で食べられるんだ。それなら、持って帰って家族に食べさせてやりたいだろ。このお祭りは、木田の大殿が日本中の人に楽しんでもらおうと企画した物だ。こんな小さな子供が、家族のことを考えてやっていることだ。大殿なら、喜んで持って行ってもらうはずだ。そして、この少年の家族の笑顔を想像して喜ぶと思うのだがなー」

「いや、だめだ!!」

 くーーっ!! こいつの融通の気か無さ具合は実に日本の警察官ぽくていいなあ。

「おっ、あれは信さんじゃねえか。丁度良いところに来てくれた。おーーい!! 信さーーん!!」

「信さんだとーー!! うおっ!!!!」

「どうしました。おおと……八兵衛さん」

 信さんが大殿と言おうとするので素早く名札を指さした。

「こここここここここ、これは、上杉謙信……様」

 そう、信さんは越後の雄、上杉謙信様なのだ。
 上杉家の治安隊なら、さすがに顔を知っているだろう。
 俺は、信さんに事のいきさつを耳打ちした。

「なるほど、そうですか。これは私としたことが。越後に大殿を迎えることが出来て、有頂天になり大事な事を忘れていました。本庄!! 今から上杉家家臣団総出で、祭りに来られない者を調べ、その家に祭りの食べ物を届けるようにしろ!! 少年、済まなかった。これは私の落ち度だ、許してくれ。そのカバンはこの治安隊の隊員に運ばせる。他に欲しいものがあれば言ってくれ」

 信さんは、少年に頭を下げた。
 治安隊の隊員は金魚のように口をパクパクしている。
 さすがは、信さんだ。
 弱き者を見捨てないなあ。女ならほれてしまいそうだよ。

「お姉さん、これだけあればいいよ。これ以上あっても食べきれない。もったいないことはしたくないんだ!!」

 少年、さすがだなあ。君もちゃんと日本人だ。うれしくなる。

「かせっ!! 家まで運んでやる!! 家はどっちだ!!」

 治安隊の隊員が少年のカバンを持ち運んでいる。
 ふふふ、権力者に極度に弱い。これもまた日本人らしいなあ。
 横を見たら、信さんが耳まで真っ赤になってクネクネしている。
 何があった?? よくわからねえ。

「信さん、助かりました。私は屋台に戻ります。よかったら食べに来て下さい」

「ひゃ、ひゃい。今すぐ行きます!!」

「えっ!? 暇なの??」

「はい、今暇になりました。本庄!! 私は八兵衛さんの屋台で、美味しい物を食べてくる。後は頼んだ!!」

「ははっ!!」

 俺は越後の殿様と、仲良く並んで屋台通りを歩いた。
 うまそうな物があると、手に取って二人で食べた。
 何と言っても、ここの屋台は全部無料だ。
 誰でも楽しめる。祭りとはこうでなくちゃあなあ。
 海外の観光客もいないし、日本人はみんな節度を持っているからトラブルもない。
 あちこちから楽しそうな笑い声が聞こえてきた。

 信さんも滅茶苦茶楽しそうだ。
 俺は、楽しそうな秋祭りの中で一人だけ、心が暗く沈んでいた。
 だが、それは知られてはいけない。
 気付かれないように、楽しそうに振る舞った。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

荷物持ちの代名詞『カード収納スキル』を極めたら異世界最強の運び屋になりました

夢幻の翼
ファンタジー
使い勝手が悪くて虐げられている『カード収納スキル』をメインスキルとして与えられた転生系主人公の成り上がり物語になります。 スキルがレベルアップする度に出来る事が増えて周りを巻き込んで世の中の発展に貢献します。 ハーレムものではなく正ヒロインとのイチャラブシーンもあるかも。 驚きあり感動ありニヤニヤありの物語、是非一読ください。 ※カクヨムで先行配信をしています。

魔道具頼みの異世界でモブ転生したのだがチート魔法がハンパない!~できればスローライフを楽しみたいんだけど周りがほっといてくれません!~

トモモト ヨシユキ
ファンタジー
10才の誕生日に女神に与えられた本。 それは、最強の魔道具だった。 魔道具頼みの異世界で『魔法』を武器に成り上がっていく! すべては、憧れのスローライフのために! エブリスタにも掲載しています。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

処理中です...