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最終章 明と暗
第四百二十五話 明と暗
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「えーーっ!? ちょっとまてーー!!」
俺は時計を見て声が出た。
九時どころか、まだ八時じゃねえか。
なんでコンサートをやっているんだよ。十時からだろー。
大勢の人が並んでいたから、我慢出来なかったのだろうか?
まあ、それしかないなあ。大勢の人に見てもらうため、コンサートの回数を増やすつもりなのだろう、体を壊さなければいいなあ。
「おい!! 待てーー!! くそがきーー!!!!」
人の通行が多くなってきた屋台通りで、大きな声が聞こえてきた。
「はなせーー!! はなせよーー!!」
「全く、このくそがき!! 何てことをするんだーー!!」
木の長い棒を持った治安隊の男が、一人の子供を捕まえている。
「あのー、どうしたのですか?」
「何だてめーは? さてはコスプレーヤーか? ブタミちゃんだな」
「はーーっ!! おれ……私は、この先で焼きそばの屋台をやっている八兵衛と申します」
たくよー、ブタミちゃんって何のアニメだよ。
そんなコスプレする奴がいるかーー!!
「なんだ、焼きそば屋台のボランティアのおやじかー」
「はい、そうです。いったい何があったんですか?」
「ちっ、しょうがねえなあ。みりゃあ分かるだろう!」
治安隊員が指をさした。
指の先を見ると、みすぼらしい少年の持っているカバンを指している。
カバンには、屋台の料理がパンパンに入っていて蓋が閉まらなくなっている。
「これが、何か?」
「これが何かっておめー、食べ放題では飯を食うのはいいが、お持ち帰りはマナー違反、禁止だろうがよう。皆が同じ事をしてみろ、食材がすぐになくなり皆が食べられなくなる。このがきは、料理をカバンに詰めて持ち帰ろうとしているんだ!!」
「ふふふ、なるほど。でも木田家の食べ放題は、お持ち帰りもOKですよ。ただし、食べ残しを捨てたり、もったいないことが禁止です」
「お前! 木田家はって、お前ごときが何を偉そうに言いやがるんだ。俺は上杉家の治安隊だ。ここでは、俺の方が正義だ。お持ち帰りはゆるさねえ」
そ、そうか、俺は八兵衛だ。さすがに偉そうだったか。
「なあ、ぼうず。それ、持ち帰ってどうするんだ?」
「う、うるせーー!! この、ブタミー!!」
くーーっ!! きつい一言だなあ。
だが、俺は怒らないぞ。
「そんなことを言っていると、せっかくの料理を取り上げられちゃうぞ。おじさんに理由を教えてもらえないかなあ。手助けをしたいんだ」
「ほ、ほんとー?」
「ああ、本当だとも」
「この料理は、持ち帰って病気で動けない兄弟に食べさせたいんだ。だめなのかな」
「いいや、駄目じゃない。ちゃんと食べるのなら問題ない」
「駄目に決まっている。俺がゆるさん。一人を許せば全員やるようになり歯止めが利かなくなる」
うーーん、この人も自分の正義で動いているし、どうしたものかなあ。
「なあ、あんた、一度自分のこととして考えてみてくれ。家で病気の家族が寝込んでいる。お祭りで普段食べられないようなご馳走が、いくらでも無料で食べられるんだ。それなら、持って帰って家族に食べさせてやりたいだろ。このお祭りは、木田の大殿が日本中の人に楽しんでもらおうと企画した物だ。こんな小さな子供が、家族のことを考えてやっていることだ。大殿なら、喜んで持って行ってもらうはずだ。そして、この少年の家族の笑顔を想像して喜ぶと思うのだがなー」
「いや、だめだ!!」
くーーっ!! こいつの融通の気か無さ具合は実に日本の警察官ぽくていいなあ。
「おっ、あれは信さんじゃねえか。丁度良いところに来てくれた。おーーい!! 信さーーん!!」
「信さんだとーー!! うおっ!!!!」
「どうしました。おおと……八兵衛さん」
信さんが大殿と言おうとするので素早く名札を指さした。
「こここここここここ、これは、上杉謙信……様」
そう、信さんは越後の雄、上杉謙信様なのだ。
上杉家の治安隊なら、さすがに顔を知っているだろう。
俺は、信さんに事のいきさつを耳打ちした。
「なるほど、そうですか。これは私としたことが。越後に大殿を迎えることが出来て、有頂天になり大事な事を忘れていました。本庄!! 今から上杉家家臣団総出で、祭りに来られない者を調べ、その家に祭りの食べ物を届けるようにしろ!! 少年、済まなかった。これは私の落ち度だ、許してくれ。そのカバンはこの治安隊の隊員に運ばせる。他に欲しいものがあれば言ってくれ」
信さんは、少年に頭を下げた。
治安隊の隊員は金魚のように口をパクパクしている。
さすがは、信さんだ。
弱き者を見捨てないなあ。女ならほれてしまいそうだよ。
「お姉さん、これだけあればいいよ。これ以上あっても食べきれない。もったいないことはしたくないんだ!!」
少年、さすがだなあ。君もちゃんと日本人だ。うれしくなる。
「かせっ!! 家まで運んでやる!! 家はどっちだ!!」
治安隊の隊員が少年のカバンを持ち運んでいる。
ふふふ、権力者に極度に弱い。これもまた日本人らしいなあ。
横を見たら、信さんが耳まで真っ赤になってクネクネしている。
何があった?? よくわからねえ。
「信さん、助かりました。私は屋台に戻ります。よかったら食べに来て下さい」
「ひゃ、ひゃい。今すぐ行きます!!」
「えっ!? 暇なの??」
「はい、今暇になりました。本庄!! 私は八兵衛さんの屋台で、美味しい物を食べてくる。後は頼んだ!!」
「ははっ!!」
俺は越後の殿様と、仲良く並んで屋台通りを歩いた。
うまそうな物があると、手に取って二人で食べた。
何と言っても、ここの屋台は全部無料だ。
誰でも楽しめる。祭りとはこうでなくちゃあなあ。
海外の観光客もいないし、日本人はみんな節度を持っているからトラブルもない。
あちこちから楽しそうな笑い声が聞こえてきた。
信さんも滅茶苦茶楽しそうだ。
俺は、楽しそうな秋祭りの中で一人だけ、心が暗く沈んでいた。
だが、それは知られてはいけない。
気付かれないように、楽しそうに振る舞った。
俺は時計を見て声が出た。
九時どころか、まだ八時じゃねえか。
なんでコンサートをやっているんだよ。十時からだろー。
大勢の人が並んでいたから、我慢出来なかったのだろうか?
まあ、それしかないなあ。大勢の人に見てもらうため、コンサートの回数を増やすつもりなのだろう、体を壊さなければいいなあ。
「おい!! 待てーー!! くそがきーー!!!!」
人の通行が多くなってきた屋台通りで、大きな声が聞こえてきた。
「はなせーー!! はなせよーー!!」
「全く、このくそがき!! 何てことをするんだーー!!」
木の長い棒を持った治安隊の男が、一人の子供を捕まえている。
「あのー、どうしたのですか?」
「何だてめーは? さてはコスプレーヤーか? ブタミちゃんだな」
「はーーっ!! おれ……私は、この先で焼きそばの屋台をやっている八兵衛と申します」
たくよー、ブタミちゃんって何のアニメだよ。
そんなコスプレする奴がいるかーー!!
「なんだ、焼きそば屋台のボランティアのおやじかー」
「はい、そうです。いったい何があったんですか?」
「ちっ、しょうがねえなあ。みりゃあ分かるだろう!」
治安隊員が指をさした。
指の先を見ると、みすぼらしい少年の持っているカバンを指している。
カバンには、屋台の料理がパンパンに入っていて蓋が閉まらなくなっている。
「これが、何か?」
「これが何かっておめー、食べ放題では飯を食うのはいいが、お持ち帰りはマナー違反、禁止だろうがよう。皆が同じ事をしてみろ、食材がすぐになくなり皆が食べられなくなる。このがきは、料理をカバンに詰めて持ち帰ろうとしているんだ!!」
「ふふふ、なるほど。でも木田家の食べ放題は、お持ち帰りもOKですよ。ただし、食べ残しを捨てたり、もったいないことが禁止です」
「お前! 木田家はって、お前ごときが何を偉そうに言いやがるんだ。俺は上杉家の治安隊だ。ここでは、俺の方が正義だ。お持ち帰りはゆるさねえ」
そ、そうか、俺は八兵衛だ。さすがに偉そうだったか。
「なあ、ぼうず。それ、持ち帰ってどうするんだ?」
「う、うるせーー!! この、ブタミー!!」
くーーっ!! きつい一言だなあ。
だが、俺は怒らないぞ。
「そんなことを言っていると、せっかくの料理を取り上げられちゃうぞ。おじさんに理由を教えてもらえないかなあ。手助けをしたいんだ」
「ほ、ほんとー?」
「ああ、本当だとも」
「この料理は、持ち帰って病気で動けない兄弟に食べさせたいんだ。だめなのかな」
「いいや、駄目じゃない。ちゃんと食べるのなら問題ない」
「駄目に決まっている。俺がゆるさん。一人を許せば全員やるようになり歯止めが利かなくなる」
うーーん、この人も自分の正義で動いているし、どうしたものかなあ。
「なあ、あんた、一度自分のこととして考えてみてくれ。家で病気の家族が寝込んでいる。お祭りで普段食べられないようなご馳走が、いくらでも無料で食べられるんだ。それなら、持って帰って家族に食べさせてやりたいだろ。このお祭りは、木田の大殿が日本中の人に楽しんでもらおうと企画した物だ。こんな小さな子供が、家族のことを考えてやっていることだ。大殿なら、喜んで持って行ってもらうはずだ。そして、この少年の家族の笑顔を想像して喜ぶと思うのだがなー」
「いや、だめだ!!」
くーーっ!! こいつの融通の気か無さ具合は実に日本の警察官ぽくていいなあ。
「おっ、あれは信さんじゃねえか。丁度良いところに来てくれた。おーーい!! 信さーーん!!」
「信さんだとーー!! うおっ!!!!」
「どうしました。おおと……八兵衛さん」
信さんが大殿と言おうとするので素早く名札を指さした。
「こここここここここ、これは、上杉謙信……様」
そう、信さんは越後の雄、上杉謙信様なのだ。
上杉家の治安隊なら、さすがに顔を知っているだろう。
俺は、信さんに事のいきさつを耳打ちした。
「なるほど、そうですか。これは私としたことが。越後に大殿を迎えることが出来て、有頂天になり大事な事を忘れていました。本庄!! 今から上杉家家臣団総出で、祭りに来られない者を調べ、その家に祭りの食べ物を届けるようにしろ!! 少年、済まなかった。これは私の落ち度だ、許してくれ。そのカバンはこの治安隊の隊員に運ばせる。他に欲しいものがあれば言ってくれ」
信さんは、少年に頭を下げた。
治安隊の隊員は金魚のように口をパクパクしている。
さすがは、信さんだ。
弱き者を見捨てないなあ。女ならほれてしまいそうだよ。
「お姉さん、これだけあればいいよ。これ以上あっても食べきれない。もったいないことはしたくないんだ!!」
少年、さすがだなあ。君もちゃんと日本人だ。うれしくなる。
「かせっ!! 家まで運んでやる!! 家はどっちだ!!」
治安隊の隊員が少年のカバンを持ち運んでいる。
ふふふ、権力者に極度に弱い。これもまた日本人らしいなあ。
横を見たら、信さんが耳まで真っ赤になってクネクネしている。
何があった?? よくわからねえ。
「信さん、助かりました。私は屋台に戻ります。よかったら食べに来て下さい」
「ひゃ、ひゃい。今すぐ行きます!!」
「えっ!? 暇なの??」
「はい、今暇になりました。本庄!! 私は八兵衛さんの屋台で、美味しい物を食べてくる。後は頼んだ!!」
「ははっ!!」
俺は越後の殿様と、仲良く並んで屋台通りを歩いた。
うまそうな物があると、手に取って二人で食べた。
何と言っても、ここの屋台は全部無料だ。
誰でも楽しめる。祭りとはこうでなくちゃあなあ。
海外の観光客もいないし、日本人はみんな節度を持っているからトラブルもない。
あちこちから楽しそうな笑い声が聞こえてきた。
信さんも滅茶苦茶楽しそうだ。
俺は、楽しそうな秋祭りの中で一人だけ、心が暗く沈んでいた。
だが、それは知られてはいけない。
気付かれないように、楽しそうに振る舞った。
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