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第454章『合流』
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第454章『合流』
『ボス、海兵隊基地が見えて来ましたよ!もう直ぐです!』
操縦手の声に操縦席へと身を乗り出してみれば、前方に見慣れた、そして何とも懐かしい建造物の数々がタカコの視界へと入って来る。さて、この後はどうするかと一瞬考えるが、考えが形になるよりも前に後ろから押し掛けて来た大和海兵隊の面々の大きな図体に押し潰され、抗議の声を上げようとしてもそれはやはり頭上と背後から上がる歓声に掻き消された。
重傷者は出たとは言えど不利な状況下からの全員揃っての生還。先程の勝利の興奮は未だ冷めやらず、上擦った声や涙声で口々に何やら喚いていた彼等だが、そんな向こうから聞こえて来た
「何だ、皆飛行初体験の割に案外平気なんですね」
という、多分に揶揄いの調子を含んだカタギリの声音に、頭上の騒がしさは一瞬にして消え、機体の上部と後部の回転翼の駆動音だけが機内に響き渡る。
「……おい、ギリ……思い出させるな……」
「無理、マジ無理……早く地面に下ろして、お願い……」
「こんな鉄の塊が空飛ぶとか有り得ない……妖術か何かなんだこれは……」
「今気付いたけど……誰だよ小便漏らした奴……」
それを聞いたタカコが数度鼻をひくひくとさせてみれば、汗や体脂や泥の臭いに混じって確かに漂うアンモニアの臭気、流石に一連の動きは強烈過ぎたかと噴き出せば、
「笑うんじゃねぇ!誰の所為だと思ってんだこのガチキチが!!」
と、脳天に拳骨が一つ落ちて来た。
そうこうしている内に機体は
『おい、少し高度を落としてくれ。市街地の状況を見たい』
というタカコの言葉に従い段々と高度を落とし、並ぶ屋根の直ぐ上空辺りを飛行し始め、タカコはそれを受けて扉の方へと移動し博多の街並みを見下ろしてみる。数ヶ月前迄は活気に溢れていた博多、今はその面影も無く荒れ果て、あちこちに戦闘の爪跡が刻まれている。制圧艦隊が到着した今、もう直ぐ戦闘は終わりを迎え後は政治家同士国家同士の話になるのだろうが、この街が以前の活気を取り戻すには長い時間が掛かるだろう。
『ボス、もう良いですか?生き残りがいないとも限りません、基地内に入る迄は高度を上げておいた方が』
『ああ、分かった。やってくれ』
タカコのその言葉の直後に再び高度を上げる機体、下から押し上げられる感覚に海兵達が押し黙り身を硬くする中、タカコの顔からは先程の笑みは消え失せていた。
数分もしない内に機体は基地内へと、仲間の無事の帰還を待つ高根達の前へと舞い降りるだろう。その後は先ずは負傷者を降ろし搬送し、その後は――、その先を考えて堪らなく気が重くなるのを感じながら、タカコは口元に僅かに力を込める。副長が、敦賀の父が未だにこの博多に残留し高根や黒川と行動を共にしている事は知っている、恐らくは着陸したその場にもいるのだろう。彼と交わした『身を引き、姿を消す』という約束を違えた事になる現状、しかも息子である敦賀の方は、何処をどう解釈しても自分が突然姿を消した事に納得がいっている様子は無い、何の因果か再会してしまった今となっては絶対に手放そうとはしないだろう。この状況で自分と敦賀と副長、この三者が顔を合わせる様な事になれば、短気な敦賀の事だ、職務等関係無い様な極個人的な修羅場が展開される事になっても不思議は無い。
さて、どうしたものか、個人的にも仕事の事でも気が重くなる事ばかりだと思いつつふと視線を下に向ければ、機体は丁度基地の柵を越えたところ、真下には本部棟が見え、その屋上に戦闘服を纏い狙撃銃を手にした人影が目に入る。戦闘服の模様は自分と同じもの、制圧艦隊の方から来ている筈の自分の部下の一人を配置する事にしたのかと思い至り、市街地の敵はほぼ無力化出来た様子だが用心するに越した事は無いなと考えつつ、視線を前方へと戻した。
「何だ、真吾も龍興も親父も前線に出てるのか……司令官が雁首揃えて何やってんだ。あの青い飛行機はお前のところのか?」
直ぐ脇から聞こえて来たのは敦賀の声、それに短く
「ああ」
と言葉を返し、その周辺にいる人影を一つ一つ見る。高根と黒川、小此木や横山、そしてやはり副長もそこにおり、その直ぐ近くで紺碧に塗装されたホーネットから乗り降りしているの自らの部下達の姿も認め、機体の無線機を使って艦隊内の指揮所と大和側との橋渡しをしているのかと見当を付けた。
『おい、久し振りだな。生きてやがったか』
《そりゃこっちの台詞だ馬鹿が。ボスや他の奴は無事なのか》
『ああ、命根性汚い上官殿で何よりだ。他の奴もぴんぴんしてやがる』
《全くだな。こっちの準備はもう出来てるぞ》
操縦手からの語り掛けに反応し、それに僅かに遅れて前方の人影が一斉にこちらへと身体を向け、夫々が大きく両腕を振り始める。少しずつ大きくそして近くなるその人影、やがて興奮気味の表情すら分かる様になったそれ等を見詰めながら、なる様にしかならんか、と、タカコは小さく呟いた。
やがて遂に基地内へと降り立った二機の機体、待ち構えていた仲間達はそれを遠巻きにして待機し、扉が開け放たれ中から負傷者が降ろされ始めると姿勢を低くして一斉に駆け寄り、傷付いた仲間を医療班の待つ天幕へと搬送し始める。タカコは最後迄機内に残り海兵達を手伝い、機体の内燃機の回転数が待機状態迄落ちる気配を感じつつ、扉を出て直ぐのところでこちらを向きじっと待っている敦賀から視線を逸らし、地面へと両足をつけた。
『ボス!御無事で!!』
『こちらはテイラー総司令の指示通り、艦隊指揮所との無線を繋いだところです!この後の指示をお願いします!!』
『不在の間よくやってくれた!総員、現時点を以て私の指揮下に復帰!』
『了解です!!』
『了解!!』
敦賀の存在を無視し部下達の方へと歩みを向ければ、懐かしい顔触れが駆け寄って来る。それに言葉を返しながら、今は個人的な事は未だ考えるな、任務に集中しろ、まだ終わってはいないのだ、と、タカコは自らに胸中でそう言い聞かせていた。
『ボス、海兵隊基地が見えて来ましたよ!もう直ぐです!』
操縦手の声に操縦席へと身を乗り出してみれば、前方に見慣れた、そして何とも懐かしい建造物の数々がタカコの視界へと入って来る。さて、この後はどうするかと一瞬考えるが、考えが形になるよりも前に後ろから押し掛けて来た大和海兵隊の面々の大きな図体に押し潰され、抗議の声を上げようとしてもそれはやはり頭上と背後から上がる歓声に掻き消された。
重傷者は出たとは言えど不利な状況下からの全員揃っての生還。先程の勝利の興奮は未だ冷めやらず、上擦った声や涙声で口々に何やら喚いていた彼等だが、そんな向こうから聞こえて来た
「何だ、皆飛行初体験の割に案外平気なんですね」
という、多分に揶揄いの調子を含んだカタギリの声音に、頭上の騒がしさは一瞬にして消え、機体の上部と後部の回転翼の駆動音だけが機内に響き渡る。
「……おい、ギリ……思い出させるな……」
「無理、マジ無理……早く地面に下ろして、お願い……」
「こんな鉄の塊が空飛ぶとか有り得ない……妖術か何かなんだこれは……」
「今気付いたけど……誰だよ小便漏らした奴……」
それを聞いたタカコが数度鼻をひくひくとさせてみれば、汗や体脂や泥の臭いに混じって確かに漂うアンモニアの臭気、流石に一連の動きは強烈過ぎたかと噴き出せば、
「笑うんじゃねぇ!誰の所為だと思ってんだこのガチキチが!!」
と、脳天に拳骨が一つ落ちて来た。
そうこうしている内に機体は
『おい、少し高度を落としてくれ。市街地の状況を見たい』
というタカコの言葉に従い段々と高度を落とし、並ぶ屋根の直ぐ上空辺りを飛行し始め、タカコはそれを受けて扉の方へと移動し博多の街並みを見下ろしてみる。数ヶ月前迄は活気に溢れていた博多、今はその面影も無く荒れ果て、あちこちに戦闘の爪跡が刻まれている。制圧艦隊が到着した今、もう直ぐ戦闘は終わりを迎え後は政治家同士国家同士の話になるのだろうが、この街が以前の活気を取り戻すには長い時間が掛かるだろう。
『ボス、もう良いですか?生き残りがいないとも限りません、基地内に入る迄は高度を上げておいた方が』
『ああ、分かった。やってくれ』
タカコのその言葉の直後に再び高度を上げる機体、下から押し上げられる感覚に海兵達が押し黙り身を硬くする中、タカコの顔からは先程の笑みは消え失せていた。
数分もしない内に機体は基地内へと、仲間の無事の帰還を待つ高根達の前へと舞い降りるだろう。その後は先ずは負傷者を降ろし搬送し、その後は――、その先を考えて堪らなく気が重くなるのを感じながら、タカコは口元に僅かに力を込める。副長が、敦賀の父が未だにこの博多に残留し高根や黒川と行動を共にしている事は知っている、恐らくは着陸したその場にもいるのだろう。彼と交わした『身を引き、姿を消す』という約束を違えた事になる現状、しかも息子である敦賀の方は、何処をどう解釈しても自分が突然姿を消した事に納得がいっている様子は無い、何の因果か再会してしまった今となっては絶対に手放そうとはしないだろう。この状況で自分と敦賀と副長、この三者が顔を合わせる様な事になれば、短気な敦賀の事だ、職務等関係無い様な極個人的な修羅場が展開される事になっても不思議は無い。
さて、どうしたものか、個人的にも仕事の事でも気が重くなる事ばかりだと思いつつふと視線を下に向ければ、機体は丁度基地の柵を越えたところ、真下には本部棟が見え、その屋上に戦闘服を纏い狙撃銃を手にした人影が目に入る。戦闘服の模様は自分と同じもの、制圧艦隊の方から来ている筈の自分の部下の一人を配置する事にしたのかと思い至り、市街地の敵はほぼ無力化出来た様子だが用心するに越した事は無いなと考えつつ、視線を前方へと戻した。
「何だ、真吾も龍興も親父も前線に出てるのか……司令官が雁首揃えて何やってんだ。あの青い飛行機はお前のところのか?」
直ぐ脇から聞こえて来たのは敦賀の声、それに短く
「ああ」
と言葉を返し、その周辺にいる人影を一つ一つ見る。高根と黒川、小此木や横山、そしてやはり副長もそこにおり、その直ぐ近くで紺碧に塗装されたホーネットから乗り降りしているの自らの部下達の姿も認め、機体の無線機を使って艦隊内の指揮所と大和側との橋渡しをしているのかと見当を付けた。
『おい、久し振りだな。生きてやがったか』
《そりゃこっちの台詞だ馬鹿が。ボスや他の奴は無事なのか》
『ああ、命根性汚い上官殿で何よりだ。他の奴もぴんぴんしてやがる』
《全くだな。こっちの準備はもう出来てるぞ》
操縦手からの語り掛けに反応し、それに僅かに遅れて前方の人影が一斉にこちらへと身体を向け、夫々が大きく両腕を振り始める。少しずつ大きくそして近くなるその人影、やがて興奮気味の表情すら分かる様になったそれ等を見詰めながら、なる様にしかならんか、と、タカコは小さく呟いた。
やがて遂に基地内へと降り立った二機の機体、待ち構えていた仲間達はそれを遠巻きにして待機し、扉が開け放たれ中から負傷者が降ろされ始めると姿勢を低くして一斉に駆け寄り、傷付いた仲間を医療班の待つ天幕へと搬送し始める。タカコは最後迄機内に残り海兵達を手伝い、機体の内燃機の回転数が待機状態迄落ちる気配を感じつつ、扉を出て直ぐのところでこちらを向きじっと待っている敦賀から視線を逸らし、地面へと両足をつけた。
『ボス!御無事で!!』
『こちらはテイラー総司令の指示通り、艦隊指揮所との無線を繋いだところです!この後の指示をお願いします!!』
『不在の間よくやってくれた!総員、現時点を以て私の指揮下に復帰!』
『了解です!!』
『了解!!』
敦賀の存在を無視し部下達の方へと歩みを向ければ、懐かしい顔触れが駆け寄って来る。それに言葉を返しながら、今は個人的な事は未だ考えるな、任務に集中しろ、まだ終わってはいないのだ、と、タカコは自らに胸中でそう言い聞かせていた。
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