魔女は言う。「復讐したい? なら新兵器の実験台になってくれないかしら?」と……  【鎧殻剣記】

熱燗徳利

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第7話 赤の鎧殻装兵

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 アルベクに火球を浴びせた魔術師たちは別の獲物を求めて、飛翔していった。

 
――倒れたアルベクのもとを男たちが去った後、しばらくして、一人の少女がその場所に現れる。 

「遅かったと思ったけど、あら……まだ息があるのね」
 
 焼け焦げたアルベクを見下ろしながら、そう呟いた少女は、セフィーネであった。ただ、アルベクの吐息はか細く、命の灯はいまにも消えそうだ。

「大丈夫、治してあげるわ」
 
 セフィーネは屈み、聞こえていないとわかりつつも、アルベクに語りかける。

「こういうのは、本人の許諾がいるのだけど、死ぬよりはマシよね」
 
 彼女はイタズラっぽく微笑むと、懐から眼球程の大きさの深紅の球状の物体をとり出す。彼女が開発した、新型の核玉《コア》だ。
 アルベクの身体に玉を近づけてみると、心臓のように鼓動する。

「やっぱり。睨んだとおりの適合者ね」

 嬉しそうに微笑むと、彼女はアルベクの胸元に核玉《コア》を落とす。すると、核玉《コア》は弾かれるどころか胸の中に吸い込まれていく。まるで、アルベクの肉体と一体になるかのように。

「さあ、目覚めなさい」
 
 次の瞬間、胸元が赤く輝いたかと思うと、そこから放たれた粒子がアルベクの身体全体を覆いつくす。そして、焼け焦げた肉体を瞬く間に修復する。折れた骨も元通りに生成しなおす。

 全身の負傷が完治したとき、アルベクの意識が覚醒する。

「かはっ……ゴホッ」
 堰き込みながら、アルベクは目を覚ます。そして、焼け焦げて半裸となった上体を起こす。

「あら、大丈夫?」
「……俺……は生きているのか? 」
「ふふ、核玉《コア》の力であなたを治したの」
 
 セフィーネは綺麗に治ったアルベクの頬を優しく触りながら言った。焼け跡は少しも見つかりはしない。

「核玉《コア》? そうか、これが核玉《コア》の感触か」
 
 アルベクは自分の胸に異質な器官が出来たような感覚を抱いていた。第二の心臓のように脈々と鼓動しているのを感じる。

「本来ならあなたの許可がいるのだけど、緊急時だったからコアを入れさせて貰ったわ」
「いや、おかげで助かったよ。てっきりもう死んだかと思った」

 アルベクがセフィーネと話していると、またしても遠くで爆発音がして、火柱があがる。

「あいつらが、まだ……」
「そう、でも今のあなたなら戦える。だって核玉《コア》を持っているのですもの」
 彼女はアルベクの顔を真っ直ぐ見つめ、微笑んだ。

「あいつらと戦えるのか?」
「ええ、充分戦えるわ。まだ生きている人たちを救いましょう」
「目の前で人が殺されたのに、何もできなかった…… 敵を討ってやる」
 
 拳に力を入れ、火の手が上がる方角を睨みつける。

「頼もしいわね。でもそういえば、人を殺せる?」
「それは……」
 
 十八年の歳月で、当然ながらそんな機会は一度たりともなかった。剣術を学んでいるといっても、それを実際に使い、なおかつ人を殺すという心理状態に至るには、高い壁が存在した。

「殺さず捕えることは出来ないか?」
「おそらく最初の段階では力をコントロールできないでしょうね。戦えば、確実に相手を殺してしまう」

(俺は相手が外道だからといって、人を殺めることが出来るだろうか?)

 だが、やらなければ、被害が拡大する。アルベクはそう自分に言い聞かせた。
 しかし、自分が誰かを殺す姿のイメージは、どうしても想像できなかった。

 アルベクが心の中に葛藤を抱えていたその時、空からまたしても異形の姿となった魔術師たちが飛来する。

「間違いない。やっぱり帝国の魔女だぜ」
「あの魔女を殺せば俺達の願いは叶う!」
「殺せ! 殺せ!」

 彼らはいきり立ちながらアルベクとセフィーネを取り囲む。

「あら、私の事もあちらにバレているのね。まあ、ちょうどいいわ。あなたの力を見せて」
「……ああ。やってやる」
 
 惑いながらも、こいつらを放置し、これ以上の犠牲者を出すわけにはいかなかった。

「てめぇ……さっき殺したはずだが?」 
 
 魔術師の一人が怪訝そうな声で言う。

 「魔女に助けられたんだろ? いいぜ、もう一回殺してやる」

 別の魔術師がそう吐き捨てると、右手が黒く光り、再び深紅の巨大な火球がアルベクめがけて飛んでくる。

――やられる。アルベクがそう思った時、アルベクの胸の中が発熱するのを感じた。そして、目に見えるすべての時間が停止しているような不思議な感覚に陥る。
 魔術師も、放たれた火球も静止したまま微動だにしない。アルベク自身も意識ははっきりしているが身体の自由はまったく効かない。

『敵からの攻撃を確認。強制的に装甲形態に移行します』
 
 その声は身体の内側から聞こえてくるようだった。瞬間、アルベクの胸部がまたもや赤く輝き、赤い粒子が発生する。

 アルベクの身体を念入りに確認するように粒子は纏わりつき、そして、徐々に確固とした実体を持ち始める。彼の頭部、胴体、四肢をそれぞれを守る強固な装甲へと姿を変えた。
 こうして、全身を赤い装甲で身を固めたひとりの戦士が顕現する。

 その装甲の表面は金属とは違った滑らかさを持っていた。
 ただ、顔を覆う部分の装甲には、敵を射貫くような鋭い目の造形をした覗き穴と額の部分から天に向けて伸びる二対の角のような部位だけが存在し、まるで、教会の壁画に描かれる、角の生えた悪魔を思わせた。
 
 また、首、上腕、大腿部の脇側など、各所にチューブ状のパーツもある。

 自分の身体に起こった変化をアルベクが認識すると、時間が停止したような感覚から解放される。刹那、魔術師が放った火球が直撃し、爆発する。噴煙があがる。

「はんっ! ざまぁみやがれ!!」

 しかし、装甲を纏ったアルベクに賊の火球は傷ひとつ付けることはおろか、後方へ仰け反らせることさえ出来はしなかった。アルベクはその場に立ちすくみながら、装甲の堅牢さに驚愕する。

 それは、必殺の攻撃を無効化された魔術師達も同じで、あたりに動揺が広がる。

「な、馬鹿な。こ、この」
「その姿……鎧核玉装兵だったのか……」
「関係ねぇ。ぶっ殺してやる」

 他の魔術師達も一斉に火球を浴びせかける。しかし、やはり深紅の装甲はビクともしなかった。よく見れば、装甲にはくすみさえ無い。

「なんだよ……こりゃあ……」
 
 魔術師達はたじろぎながらアルベクから距離を取る。こんな事は初めての経験であり、魔術師には装甲を纏ったアルベクが角の生えた怪物のように見えていた。

「これが私の開発した新型の核玉《コア》の力よ」
 
 セフィーネが勝ち誇ったように言った。
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