ひらひらのあつまり

獅子倉 八鹿

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文学少女と身近なギャル

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 私は、小説が好きだ。

 小説、というより純文学と伝えた方が正しい。

 やれ見目麗しい登場人物の挿絵だ、ネットを使った小説だとか、そんなものは眼中に無い。

 詩的で、感情を揺さぶり、想像力を掻き立て、読者を小説の中に飲み込んでいく。

 そんな純文学が好きだ。
 漫画のようなイラストやネットを活用するのは小細工以外の何物でもない。

 それなのに、私は何故。

「なんでライトノベルなんかを……」

 光を放つ刀を構えた少年が表紙を飾っている単行本を横目で見ながらため息をついた。



 教室に、まだ美味しい香りが漂っている頃。
 私はサンドイッチを片手に小説を読んでいた。
 私物の小説ではあるが、汚さないよう慎重に手と口を進める。

「マナちゃーん」

 前方からの声に、私はウエットティッシュで手を拭き、小説を机の中に仕舞う。

 満面の笑みでこちらに駆け寄ってくるのは、クラスでも一際目を惹くあの子。

三木みきさん」

 私の好きな小説には、高嶺の花やクラスのマドンナがよく登場するが、今の時代そんな人物は稀だ。
 私のクラスにも当然、該当する人物はいない。

 かといって、目を惹く人物がいない訳でもない。

 薄ら茶色のロングヘア。
 先生に目の敵にされているスカートの短さ。
 明らかに口紅で彩られた唇からは弾むような声が発せられる。

 高嶺の花ではなく、身近な花。
 マドンナというより、ギャル。

 三木有紗みきありさ

 そんな彼女は、ニコニコとしながら私の傍に駆け寄ってきた。

「英語の小テストの範囲、どこだっけ?」
「前回配られたプリントだけど……もしかしてプリント忘れた?」

 三木さんは素直に頷く。
 私は、ファイルからプリントを取り出し、三木さんに渡した。

「ありがとう! 助かるよー!」
「赤点だと補習あるもんね、頑張ろう」
「そうなんだよねー」

 三木さんは、私の前の席に座り、こちらの方を向く。
 私の机の半分にプリントを置き、指で単語をなぞっていた。

 私はその様子を眺めながら、残っていたサンドイッチを口に運ぶ。

「マナちゃん、また小説読みながら食べてたの?」

 プリントから顔を上げ、三木さんが丸い目で私を見つめる。

「うん」
「サンドイッチ好きなの?」
「いや、別に」
「じゃあ、小説読むため?」
「そうだね」
「ふーん……」

 手を止め、しばらく考え込む三木さん。
 サンドイッチを完食する頃に、人懐っこい顔に戻る。

「あのさ、映画いこうよ! 『おうなり』!」
「おうなり……?」
「そう! 『王子だった俺、成り上がったら魔王になったんだが』!」
「ああ……」

 その長ったらしいタイトルは覚えがある。
 本屋で目立つ所に並んでいたライトノベルだ。
 映画化されると書いてあった気がするが興味なく、その前を素通りしていつもの小説を見に行ったはずだ。

「あれ私好きなんだけど、誰かと行きたくて! いつも色々教えてもらってるお礼にお金出すよ! 原作小説だし、どう?」

 この人は、小説なら全部同じものだと考えているのだろうか。
 それは暴論でしかないのだが。

「私、読んでなくて」
「そうなんだ……。よく考えたら私、マナちゃんが何の本読んでるか知らないな」
「あ、そっか。カバーしてるから」

 私は、机の中の小説について思い出す。
 確かに、いつもカバーをかけて持ち運んでいる。

「『おうなり』って小説だし、もしかしたら……と思ったんだけどなぁ」

 肩を落とす三木さん。
 その姿を見て、私は口を開いた。

「『沈みゆく城下』」
「え?」
「私が、一番好きな小説」

 尻窄みな言葉だったが、三木さんはその言葉を受け取っていた。

 目を輝かせ、私に笑顔を向ける。

「『おうなり』、私好きなんだ! 原作貸すし、良かったら見に行こうよ」

 その笑顔は魔法のようで、私の頭はゆっくりと頷いていたのだった。



 刀を構える少年と目が合う。
 並ぶように、あの笑顔が思い出される。

「仕方ないな」

 ゆっくりと本を手に取り、ページをめくる。
 頬が緩んだのは、きっと気のせいだ。
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