ひらひらのあつまり

獅子倉 八鹿

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さよならできるとは限らない

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 大学構内の休憩スペースで、1人深いため息を付く女子学生がいた。

 そんな、まさかね。女子学生はそう考えた。
 しかし考えれば考えるほど『彼』にそっくりなのである。

 時は女子学生の小学校の頃に遡る。
「あなたのことが、すきです!」
 小学生ながら勇気を出した告白だった。
「えー? 俺お前の事何とも思ってないし! じゃあね」

 女子学生はそこまで思い出すと髪をぐしゃぐしゃにしたい衝動に駆られた。

 なんで、どうして。
 小学校の頃出会った『彼』と、こんな場所で出会ってしまうのだろう。
 どうして――

「あ」

 『彼』は私に声を掛けてくるのだろうか。


「あ、あの……違ったら申し訳ないんだけど、小学校一緒だったよね? 先生に名前呼ばれてるところ聞いて思い出したんだけど」
 男子学生は笑顔を絶やさず女子学生に話しかける。

「そうですね、私の名前珍しいですし」
 対する女子学生は機械的に返答をした。目も合わさず、休憩スペースに貼ってあるポスターを見つめている。

 それを見た男子学生の笑顔は苦笑に変わる。
「やっぱり、あの日のこと覚えてる?」
「はい」

 その返答に男子学生も気まずくなったのか、しばらく無言が続いた。

「あの……」
「はい」
「小学校の頃とはいえ、あんなこと言っちゃってごめんね」

 男子学生の声のトーンが低くなる。ずっとポスターを見ていた女子学生も、思わず男子学生の方を向いた。

「いや、それは……」
「俺が悪かったよ。そんなに関わりのないクラスメイトだったもんね。気にしないでよ」
 女子学生が慌てて否定しようとするが、男子学生の言葉に遮られる。

「いやそれは『告白してくれたのに』あんな事言った私が悪いから!」

 小学生の頃。
 女子学生はお転婆で、クラスのガキ大将のようなポジションに君臨していた。
 兄の影響からか、自分のことも『俺』と言っており、言葉遣いも荒く、母によく怒られたものだ。

 対する男子学生は内気で、クラスの隅で本を読んでいるような少年だった。
 2人の接点はほとんどなく、顔と名前を一致させている程度だった。

「告白してくれたのに、あんな態度取っちゃって……今でも反省してる」
 そう言うと女子学生は頭を下げた。

「あの時はごめんなさい」

 あの告白の後、少年は家族の都合で引っ越してしまった。
 告白されたことを何気なく母親に言った後、鬼の形相で怒られ、自分の過ちを知った。
 何年も経った今でも、たまに思い出して後悔していた程だ。

「怒ってないの?」
「怒ってるどころか反省してる。  出来れば忘れてて欲しかったんだけど……恥ずかしいから」

 そう言う女子学生の顔は真っ赤だった。

「じゃあさ、これを機に仲良くしてくれないかな」
「え」
 予想外の反応に女子学生はうろたえてしまう。

「だって、仲良くしたいし」
 ダメかな、と女子学生の顔を覗き込む。
 幼い頃は頼りなく見えた内気なクラスメイトの雰囲気は残しながら、中性的な雰囲気を持ち合わせている。

「あ、もちろん……」
 女子学生の顔は、みるみるうちに赤くなる。

 そんな仕草をして、そんな言葉を連ねる。
 それを反則と呼ばずになんと呼ぼうか。

「じゃあ、改めてこれからよろしくね」
「う、うん」
 子犬のような顔で女子学生を見る男子学生。
  
 女子学生は、自分の胸が高鳴るのを感じた。
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