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眼の前に広がる作りかけのゴーレムの山。いやもはや海か。
「ルベルカ、追加でこれもお願い」
背後からやってきて未完成のゴーレムを抱えてきた同僚の胸ぐらを掴み、壁に叩きつけた。
「いい加減にしろ……」
「えっ、まさかのマジ怒り?」
怒らいでか。
「なんでいつまでも俺が、お前らの尻拭いしなきゃならないんだ?」
「だって他人の作りかけのもん完成させられるのなんてルベルカだけだし」
「なんで自分で全部作らないんだ」
「飽きちゃうんだも……いたたたたサブミッションやめて」
細い妖精族の関節をぎりぎりと極める。いっぺん折ったろうか、とも思った。だが後の仕事が面倒なので最後の理性で離してやる。
ルベルカは王立ゴーレムラボの所員だ。小さなラボで所長を含め五人しか所属していないが、世界的なヒットを生み出してきた。ルベルカ以外が。
所員のバカどもはバカだが天才だ。上が言ってきた「まさか」の命令を全てではないが見事こなした例は少なくない。
たとえば潜水ゴーレム。たとえば空を飛ぶゴーレム。
それらは今や世界中のメーカーで作られているポピュラーな商品になりつつある。
しかしその大半は作りかけをルベルカが完成させた結果だ。
だというのに称賛されるのは設計図を引いた誰かで、ルベルカは共同制作者に名を連ねるだけ。その発想に至れたのが称賛される所以ではあるが、ほぼルベルカの功績であることも珍しくない。
「ルベルカが仕上げたほうが絶対いいって」
今日も今日とてへらへらと所員たちはルベルカに未完成品を押し付ける。
「で、今回のこれはなんだ?」
「なんと森の動物たちスタイルで敵を油断させる兵器ゴーレム……いたたたいたいたい関節極めないで!! これ上からの命令で作ったやつ!」
そういうことは稀にある。訳のわからん注文を出され、訳の分からないものに仕上がることが。ルベルカはツグミを離してやった。ツグミはひいひい言いながら肘をさすっている。
「なんにせよ、もう俺の手にも負えなくなってきてる。自分で作ったものは自分で仕上げろ」
「だって所長が途中で他のもの思いついた時はルベルカに投げていいって言ったもん」
あの野郎。
ルベルカは白衣を翻して廊下をとってかえし、工房へ足を向けた。
「所長このやろう! 後始末を俺にさせる命令出してやがったのか!」
ルベルカの剣幕に背の高い男が振り返ってうっそり笑う。
「だってそうだろう? 君に任せたほうが完成度が高い。こいつらに仕上げさせてはポンコツになる」
「だからって……俺が俺のゴーレムを作れないだろう」
「作らなくていい、君は」
ぽんと肩を叩かれ、ルベルカは目を見開いた。
「君は堅実で他三人のような飛んだ発想はできない。適材適所だろう。後でご褒美をやるから……」
耳元で甘くささやく声にかっとなり、離れようとするが、強い力で手首を掴まれ引き寄せられる。
「離せっ」
「名誉なんか本当はどうでもいいだろう、ルベルカ。だって君は淫魔なんだから」
「………っ」
「全く、こんなに強情な淫魔も君くらいだ」
違う。
淫魔だからと言ってなんでも言うことを聞かせられると思っているこの男が腹立たしいだけだ。
「ねえ、いちゃつくならよそでやっておくれよ」
工房で黙々と設計図を引く吸血鬼のヴィルトレンが顔も上げずに言う。余裕の表情の所長と睨むルベルカが黙り込み、小人のシグマがブラウニーたちと巨大な歯車を組み込む音だけが響き、
「待て待て待てシグマ。お前は何を作ろうとしてるんだ」
「ん……合体巨大ゴーレム」
「そのでかさの上に合体までするのか!」
手首をとられたままルベルカはシグマに怒鳴る。この小人は小さいからか何でも巨大に作ろうとして困る。
「あれもあんたが許可したのか、アオイ」
「ははは、所長と呼び給え。名前で呼ぶのはベッドの上でな」
「あんたとベッドを共にした覚えはない!」
「そうだったな」
「とにかく……! 俺の手では負えなくなってる! あんたも手伝え!」
「所長使いの荒いやつだ」
倉庫へ取って返し、ゴーレムをひっくり返して最も難解そうなブツを発掘し、所長に押し付ける。
「おや、これは……おやおやおや」
「手に負えないか?」
「なんとかやってみせよう」
こういうところが。
この男はルベルカ以上の成果を出すだろう。だから腹立たしい。
発想力では他三人に劣り、自分にできることは所長が上。自分はこのラボに不要なのではないかとすら思う。ただ所長には所長の仕事があるからルベルカを使う……これでは下請けのアルバイトと何ら変わらない。
ルベルカは、数をこなすためにとにかく簡単に仕上がるものから着手した。人工筋肉を張って術式線と繋げるだけのもの、歯車術式がめちゃくちゃになっているもの、術式線がこんがらがってしまっているもの、記述すべき術式が抜け落ちているもの。
未完成品を完成品に。ちぎっては投げちぎっては投げ。
「は……はぁ」
疲れた。身体が火照ってくる。額に手を当てて熱を冷まそうとする。
その手を所長―――アオイがとった。
「おい」
「今日はここまでだ、ルベルカ。もう休め」
「あんたはまだ終わってないだろ」
「こうなって俺なしで眠れるのか、君が」
「………」
「まあ食事をとって、風呂を浴び、部屋で待っていなさい」
秘め事のように囁く男を突き飛ばし、白衣を脱ぎ捨てて倉庫を出る。資材の入った木箱の多い廊下を足早に歩き、食堂へ向かう。
食堂には通いの料理人が定時にやってきて、五人分の定食を作って帰る。作り置かれたトレーを持って座席に座り、荒々しくそれを平らげていく。いわゆる自棄食いだ。
食べ終えて食洗ゴーレムに食器を放り込み、スイッチを押す。
魔動式のシャワーを浴びて備品のバスローブを着込み、しっかり自室に鍵をかけて横になった。
「はあ、ふぅ」
ベッドと机、試作ゴーレムだけがある部屋の中、熱を持て余して息を吐く。
いくら淫魔でも、毎日コントロールできない状態にまでなるのは珍しい。
自分が悪いのだ。分かっている。学費を稼ぐために売春して、時には客にクスリを使われた。すっかり身体が仕上がった後に、あの夢魔の男に出会ったのが運の尽き。
カチリ。鍵の開く音がする。
「……鍵を変えたはずなんだがな」
「気がついて合鍵を用意しておいた」
にこにこしながら新しい鍵を見せるアオイ。半分諦めて壁側に寝返りをうち、アオイに背を向ける。
「大丈夫だ、怖がるなルベルカ。いつも通り、夢を見せるだけだ。俺は君に何もしない」
「………やるならさっさとしろ」
吐き捨て、枕を抱きしめる。アオイが吐息で笑う声がした。
***
術をかけて少し。
ルベルカの寝息が聞こえてくる。
アオイは微笑み、ベッドに腰を下ろした。身を屈めてルベルカの少し汗で湿った額に額をつけ、本格的に術を行使する。
「ん、あ……」
ひくんとルベルカの意識のない身体が反応する。
「あ、あ……ふ、ふぅ、すぅ……ん、ぁ」
長い睫毛がふるふると震える。
夢魔の与える快楽は通常の何倍も大きい。薬物に頼らなければ自慰も出来なくなってしまった淫魔には縋り付きたくなるほどだろう。
だが、それでもルベルカは意地を張る。その意地が、アオイには可愛い。
「ん、んぅ……んぅ」
堪らなそうに足を擦るもので、バスローブの裾がはだけて腿が覗く。アオイは舌なめずりし、術の強度を上げた。
「は……っ! は、はぁ……っ。ひ、ん…! ひぅっ」
急速に息が上がる。ルベルカのぎゅうと閉じられた目から涙があふれる。
「あ、だっ……め、ああ、ああっ」
彼が、夢の中のアオイに何をされているかは、アオイも知らない。ルベルカも、朝になれば忘れてしまう。
「さぞ、夢の中の俺に可愛がられているのだろうな、ルベルカ……お前の望み通りに」
「っや、ぁ……やぁ」
「ルベルカ……」
熱っぽく眠る淫魔の名を呼び、頬を撫でる。何もしない、その約束は破らない。彼が欲しいとその唇で言うまでは。
「あっ、ぅん……ああっ……」
びくんと身がしなり、力を失うルベルカ。そのローブの間に手を差し込んで吐いた精を指に絡め、舐め取った。
「早くこの手に堕ちておいで、ルベルカ」
―――お前の想いなどお見通しだよ
「ルベルカ、追加でこれもお願い」
背後からやってきて未完成のゴーレムを抱えてきた同僚の胸ぐらを掴み、壁に叩きつけた。
「いい加減にしろ……」
「えっ、まさかのマジ怒り?」
怒らいでか。
「なんでいつまでも俺が、お前らの尻拭いしなきゃならないんだ?」
「だって他人の作りかけのもん完成させられるのなんてルベルカだけだし」
「なんで自分で全部作らないんだ」
「飽きちゃうんだも……いたたたたサブミッションやめて」
細い妖精族の関節をぎりぎりと極める。いっぺん折ったろうか、とも思った。だが後の仕事が面倒なので最後の理性で離してやる。
ルベルカは王立ゴーレムラボの所員だ。小さなラボで所長を含め五人しか所属していないが、世界的なヒットを生み出してきた。ルベルカ以外が。
所員のバカどもはバカだが天才だ。上が言ってきた「まさか」の命令を全てではないが見事こなした例は少なくない。
たとえば潜水ゴーレム。たとえば空を飛ぶゴーレム。
それらは今や世界中のメーカーで作られているポピュラーな商品になりつつある。
しかしその大半は作りかけをルベルカが完成させた結果だ。
だというのに称賛されるのは設計図を引いた誰かで、ルベルカは共同制作者に名を連ねるだけ。その発想に至れたのが称賛される所以ではあるが、ほぼルベルカの功績であることも珍しくない。
「ルベルカが仕上げたほうが絶対いいって」
今日も今日とてへらへらと所員たちはルベルカに未完成品を押し付ける。
「で、今回のこれはなんだ?」
「なんと森の動物たちスタイルで敵を油断させる兵器ゴーレム……いたたたいたいたい関節極めないで!! これ上からの命令で作ったやつ!」
そういうことは稀にある。訳のわからん注文を出され、訳の分からないものに仕上がることが。ルベルカはツグミを離してやった。ツグミはひいひい言いながら肘をさすっている。
「なんにせよ、もう俺の手にも負えなくなってきてる。自分で作ったものは自分で仕上げろ」
「だって所長が途中で他のもの思いついた時はルベルカに投げていいって言ったもん」
あの野郎。
ルベルカは白衣を翻して廊下をとってかえし、工房へ足を向けた。
「所長このやろう! 後始末を俺にさせる命令出してやがったのか!」
ルベルカの剣幕に背の高い男が振り返ってうっそり笑う。
「だってそうだろう? 君に任せたほうが完成度が高い。こいつらに仕上げさせてはポンコツになる」
「だからって……俺が俺のゴーレムを作れないだろう」
「作らなくていい、君は」
ぽんと肩を叩かれ、ルベルカは目を見開いた。
「君は堅実で他三人のような飛んだ発想はできない。適材適所だろう。後でご褒美をやるから……」
耳元で甘くささやく声にかっとなり、離れようとするが、強い力で手首を掴まれ引き寄せられる。
「離せっ」
「名誉なんか本当はどうでもいいだろう、ルベルカ。だって君は淫魔なんだから」
「………っ」
「全く、こんなに強情な淫魔も君くらいだ」
違う。
淫魔だからと言ってなんでも言うことを聞かせられると思っているこの男が腹立たしいだけだ。
「ねえ、いちゃつくならよそでやっておくれよ」
工房で黙々と設計図を引く吸血鬼のヴィルトレンが顔も上げずに言う。余裕の表情の所長と睨むルベルカが黙り込み、小人のシグマがブラウニーたちと巨大な歯車を組み込む音だけが響き、
「待て待て待てシグマ。お前は何を作ろうとしてるんだ」
「ん……合体巨大ゴーレム」
「そのでかさの上に合体までするのか!」
手首をとられたままルベルカはシグマに怒鳴る。この小人は小さいからか何でも巨大に作ろうとして困る。
「あれもあんたが許可したのか、アオイ」
「ははは、所長と呼び給え。名前で呼ぶのはベッドの上でな」
「あんたとベッドを共にした覚えはない!」
「そうだったな」
「とにかく……! 俺の手では負えなくなってる! あんたも手伝え!」
「所長使いの荒いやつだ」
倉庫へ取って返し、ゴーレムをひっくり返して最も難解そうなブツを発掘し、所長に押し付ける。
「おや、これは……おやおやおや」
「手に負えないか?」
「なんとかやってみせよう」
こういうところが。
この男はルベルカ以上の成果を出すだろう。だから腹立たしい。
発想力では他三人に劣り、自分にできることは所長が上。自分はこのラボに不要なのではないかとすら思う。ただ所長には所長の仕事があるからルベルカを使う……これでは下請けのアルバイトと何ら変わらない。
ルベルカは、数をこなすためにとにかく簡単に仕上がるものから着手した。人工筋肉を張って術式線と繋げるだけのもの、歯車術式がめちゃくちゃになっているもの、術式線がこんがらがってしまっているもの、記述すべき術式が抜け落ちているもの。
未完成品を完成品に。ちぎっては投げちぎっては投げ。
「は……はぁ」
疲れた。身体が火照ってくる。額に手を当てて熱を冷まそうとする。
その手を所長―――アオイがとった。
「おい」
「今日はここまでだ、ルベルカ。もう休め」
「あんたはまだ終わってないだろ」
「こうなって俺なしで眠れるのか、君が」
「………」
「まあ食事をとって、風呂を浴び、部屋で待っていなさい」
秘め事のように囁く男を突き飛ばし、白衣を脱ぎ捨てて倉庫を出る。資材の入った木箱の多い廊下を足早に歩き、食堂へ向かう。
食堂には通いの料理人が定時にやってきて、五人分の定食を作って帰る。作り置かれたトレーを持って座席に座り、荒々しくそれを平らげていく。いわゆる自棄食いだ。
食べ終えて食洗ゴーレムに食器を放り込み、スイッチを押す。
魔動式のシャワーを浴びて備品のバスローブを着込み、しっかり自室に鍵をかけて横になった。
「はあ、ふぅ」
ベッドと机、試作ゴーレムだけがある部屋の中、熱を持て余して息を吐く。
いくら淫魔でも、毎日コントロールできない状態にまでなるのは珍しい。
自分が悪いのだ。分かっている。学費を稼ぐために売春して、時には客にクスリを使われた。すっかり身体が仕上がった後に、あの夢魔の男に出会ったのが運の尽き。
カチリ。鍵の開く音がする。
「……鍵を変えたはずなんだがな」
「気がついて合鍵を用意しておいた」
にこにこしながら新しい鍵を見せるアオイ。半分諦めて壁側に寝返りをうち、アオイに背を向ける。
「大丈夫だ、怖がるなルベルカ。いつも通り、夢を見せるだけだ。俺は君に何もしない」
「………やるならさっさとしろ」
吐き捨て、枕を抱きしめる。アオイが吐息で笑う声がした。
***
術をかけて少し。
ルベルカの寝息が聞こえてくる。
アオイは微笑み、ベッドに腰を下ろした。身を屈めてルベルカの少し汗で湿った額に額をつけ、本格的に術を行使する。
「ん、あ……」
ひくんとルベルカの意識のない身体が反応する。
「あ、あ……ふ、ふぅ、すぅ……ん、ぁ」
長い睫毛がふるふると震える。
夢魔の与える快楽は通常の何倍も大きい。薬物に頼らなければ自慰も出来なくなってしまった淫魔には縋り付きたくなるほどだろう。
だが、それでもルベルカは意地を張る。その意地が、アオイには可愛い。
「ん、んぅ……んぅ」
堪らなそうに足を擦るもので、バスローブの裾がはだけて腿が覗く。アオイは舌なめずりし、術の強度を上げた。
「は……っ! は、はぁ……っ。ひ、ん…! ひぅっ」
急速に息が上がる。ルベルカのぎゅうと閉じられた目から涙があふれる。
「あ、だっ……め、ああ、ああっ」
彼が、夢の中のアオイに何をされているかは、アオイも知らない。ルベルカも、朝になれば忘れてしまう。
「さぞ、夢の中の俺に可愛がられているのだろうな、ルベルカ……お前の望み通りに」
「っや、ぁ……やぁ」
「ルベルカ……」
熱っぽく眠る淫魔の名を呼び、頬を撫でる。何もしない、その約束は破らない。彼が欲しいとその唇で言うまでは。
「あっ、ぅん……ああっ……」
びくんと身がしなり、力を失うルベルカ。そのローブの間に手を差し込んで吐いた精を指に絡め、舐め取った。
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