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「ぐ……ぅう、あー……ぐぅう………」
墓場から蘇ったばかりのゾンビの産声のようなもので目覚めた。
ぼんやりしながら天井を見上げ、何処からか聞こえてくるゾンビの呻き声をバックミュージックにルベルカは虚無に陥っていた。
(何、寝てんだ、俺)
思い返しても思い返してもアオイにクリームを塗られたあたりまでしか記憶にない。
アオイが悪い、ただでさえ夜で、腹が膨れていて、風呂の後でベッドだったのに、毛布でくるんで優しく髪を拭い、その後ゆっくりとマッサージするようにクリームを塗って……あれで寝るなというほうが無理がある。
おそらくアオイなりに、ルベルカが吃驚しないように、怖がらないようにという配慮だろう。そういうところは好き。本当に好き。死ぬ。
それに、あんなにアオイに触れられたのも初めてで……大きくて温かい手が……
「ううあっ……あぐ……ゔゔ………」
その相手がベッドの下で転げ回って苦しみのたうち回っている状況にはついて行けない。
「アオイ……無事か」
「ぐぅう」
「毎朝これじゃ、あんたも大変だな……」
もしかしたら部屋を別にしたのも、これが原因かもしれない。
ルベルカはとりあえず下に降りてコーヒーを淹れ、パンに昨日の残り物を挟んで軽食を作り、部屋に戻った。
「アオイ、どんな調子だ」
「……だいぶ、よく、なった、な」
彼はもうソファに腰掛け、額をおさえる程度まで回復していた。
「どんな感じなんだ、低血圧って」
空きっ腹にカフェインを入れると胃に悪いので、先に軽食を渡してからルベルカはアオイの顔を覗き込む。
「ん……例えるなら金縛り状態で動こうとする感じ、かな」
「それって大分辛いんじゃ」
「まあ、もうずっとだからね。慣れたよ」
「体質か、遺伝か何かか?」
「あー……」
アオイは何とも言えない苦笑のままコーヒーをすすった。
「そうだな、夢魔特有の性質だ」
「夢魔って低血圧なのか……なんとなく吸血鬼のイメージだった」
「吸血鬼に低血圧症が多いのは、血を嫌う奴が多いからだよ。彼らは血液に含まれる必須栄養素があって定期的に摂取しないといけないんだけど、まあ、野菜嫌いみたいなものだな。体が必要としているモノが必ずしも美味いとは限らないんだよ。
そりゃ昔はそれしか栄養になるものがなかったから、彼らも疑問を抱かなかったけど、今は吸血鬼にとって美味しい食事は他に沢山あるからね」
「じゃあ、夢魔の性質ってのは?」
「うーん……」
困ったように、アオイは言葉を濁す。
「言ったら絶対にルベルカが気に病むから言わなかったんだけどね」
「え……」
「長期に渡るセックスレス……なんだ」
ルベルカは息を呑んだ。取り落しそうになった熱いカップをぎゅっと握る。
この十年というもの、ルベルカは誰とも肌を重ねていない。アオイが嫌がる素振りを見せたし、ルベルカが「適当な相手でも…」と呟こうものなら寝室に引きずっていかれて淫夢を見せられた。
アオイも、この十年、誰ともしていないらしい。アオイの性格からして、予想はつく。
だが淫夢を見せることでルベルカから精気は受け取っていたはずだ。
「淫魔って一口に言うけど、ルベルカや貧民窟にいる淫魔たちはミックスというか、いろんな淫魔の血が入っているんだ。
でも実は種類として色々いて……夢魔もそうだし、ダンピールとか、サキュバス、インキュバスなんかがいる。夢魔にも種類があるくらいでね。
俺はリリスとインキュバスの系譜で、ちょっと性欲が強いんだ。それと、雄型は相手の胎に精を注ぐことが本能の一部でね。それ以外の排出を続けると自律神経が狂うんだ」
衝撃の告白だった。
リリスの系譜といえば、ヤリ狂いと言っていい。それとインキュバス。どの程度の血の濃さかにもよるが、種族としてはスーパーハイブリッド夢魔と言える。
そんな相手に十年も体調を崩すほど耐えさせてしまった。ルベルカの胃の腑が重くなる。
「そんな顔しないでくれ。俺自身の我儘で、エゴの結果なんだ。君は決して俺に貞節を求めていた訳じゃない。お互い淫魔だ。それこそ適当な相手で済ませればいいことを、人間みたいに拘って、こんな羽目になった。だからルベルカのせいじゃないんだよ」
「なんで、アオイはそこまで俺を……」
愛されている自覚はある。というか、ここまでされて否定は出来ない。重すぎる程の愛だ。ルベルカには、その重さが嬉しすぎるほどに嬉しいが。
「ミックスと言われているルベルカたち淫魔はね、色々混じっていて特定しきれないんだけど、少なくともヴィルデフラウとグレモリの末裔なんだ。
グレモリは意中の相手を射止める力を持つ悪魔とされ、ヴィルデフラウは女性体しか生まれないから他種族の男と結婚する。つまり特定の相手を唯一の人とする性質があるんだけど、放蕩な淫魔の血が色々混じってるせいで、好きな人に怯えてしまうんじゃないかって言われてる」
「ずいぶん、詳しいな。俺でさえ自分のルーツなんてよくわからないのに」
「研究している人と知り合ってね、色々聞いたんだ」
話しているうちに調子を取り戻したらしいアオイは、いつもの笑顔でルベルカを見る。甘ったるくて優しい。ルベルカはこの顔を見るたび、胸がぎゅうと絞られる。
「ヴィルデフラウの血は自分と相性のいい相手を見つけ、グレモリの血は意中の相手を射止める。つまりな、ルベルカ。俺がこんなに君を好きなのは、君が俺を大好きだからなんだ」
「……なんか、相手も自分も不幸にするような力だな。相性のいい相手を縛り付けておいて、怯えて素直になれないなんて」
「淫魔は大抵、産み捨ての傾向があるんだけど、親の庇護を欲しがるのは生物のサガだ。予想外に淫魔の子孫が増えたけど、親に愛されなかったから子の愛し方が分からない。子は愛され方が分からないまま育つ。
それで、愛に怯えるようになってしまった。お母さんのことが瑕になっていたルベルカには分かるだろう? みんな苦しんでるんだ、ルベルカとおんなじように」
「因果だな……」
そもそも他種族に托卵するような種族が、増えて文化を持ってしまったこと自体が間違いだったのだろう。
「きっと……もっと知るべきなんだな、俺たちが、自分のことを。愛してくれた相手に期待して守られるばかりじゃダメだ」
「それも、ルベルカが頑張って勉強して、知識を得たからなんだよ。殆どの淫魔に今の話をしても、理解の範疇外だ」
確かに。貧民窟の淫魔の大半は、自分の名前すら書けない。書けたとしても契約書の関係で必要になったから自分の名前だけ書ける、ような者だ。金勘定だって出来ているのかどうか怪しい。多いか、少ないか。その程度の判断しかしない。
とにかくそういう途方も無い未来や他人のことはさておき―――
ルベルカは床に正座をし、打ち付ける勢いで頭を下げた。
「申し訳もございませんでした」
「いや、だからな、ルベルカ」
「言い訳はしない。慰めもいらない。この上は眠らせてブスっとやってくれ。初めてのセックスは大事にしたいとかそういう次元の話じゃない。体を悪くしてまで拘るようなことじゃないだろ」
「……そうだな。俺も初めてに拘りすぎた。君に想いを受け止めて貰ってから抱きたいと、そのことばかりで、俺がそのせいで体調を崩せば君が思い悩むことは分かりきっていたのに」
アオイはそう言うが、寝ている間に絶対触るなと約束させたのはルベルカだ。
とはいえ、自身の体調や性質について言わなかったアオイもアオイだ。
ここはお互いに拘りもプライドも捨て、為すべきことを為そうという方針になった。
「だが、せめて半睡だ。これは譲れない」
「散々寝た後だし、カフェインも摂ったし、それでいい。でも俺が完全に眠ったからといってやめないと約束はしてくれ。昨日だって俺が寝たからって我慢してやめなくて良かったんだ。あんたがあんなに苦しむ姿なんて、もう見たくない」
「ルベルカ」
きゅむと抱きしめられて「う」と呻く。アオイに触れられるのは、まだつらい。好きすぎて、つらい。体中の血が沸騰したようになり、好きの気持ちが強すぎて頭がパニックになる。なんて面倒くさい進化の仕方をしてくれたのか。先祖、許さない。
しかし、その緊張が徐々にふわりとした浮遊感と共に溶け消えていく。
自分が半睡状態だと気づいた時には抱き上げられて、本当に宙に浮いていた。すぐにゆっくりとベッドに横たえられたが。
「ルベルカ」
朝日の光の中でルベルカを覗き込むアオイが微笑む。
なんだかもう、涙が出た。
アオイはその涙を親指で拭い、ルベルカの唇にキスをした。
彼がベッドに乗り上げ、ガウンを脱ぐだけでえっちでドキドキしてしまう。本当に処女のような……いやバージンロストの時だってこんな感慨はなかった。というか一切記憶に残っていない。
一晩寝てくたくたになったルベルカのバスローブの胸元が開かれて肌が外気に触れる。半分寝ていてフワフワした頭でも、ツンと尖った自分の乳首がアオイの目に晒されていることが恥ずかしく、鼻から「ふくん」と甘えるような、懇願するような声が漏れた。
「……本当は色々言いたいけど、きっとルベルカは恥ずかしくて目が覚めちゃうだろうから、言わないでおくね」
頬にちゅっとされて「まったくだ」とぼんやりする頭で憤慨した。
ここで「美味しそうな乳首だね」とか「触って欲しそうだね」などと言われた日には飛び起きて逆エビ固めをかけてしまいかねない。
「はぅ…ぅん」
肌を撫でられて寝ぼけたような声がする。自分の声が遠くからするようだ。感覚だけが妙に鋭く、心地よさが染み込んでくる。
「ん! ん……ん、く」
乳首をちゅるんと呑み込まれて体がヒクヒクした。もう一方の乳首も、指で捏ねられる。
淫魔はエロに関しては都合良くできている。開発されなくとも乳首だけで何度もイケるし、後ろだけで空イキしまくる。しかし、ずっと発情したままでは外敵に殺されるので、普段は性欲を抑制出来るのだ。
しかし、抑制出来ると言っても「これからセックスです」ムードに突入すると、もはやどうにもならない。それも大好きな相手。半睡状態。
どうにでもして状態で自分から足を開き、アオイの頭を掻き抱いて、いやらしく腰を振る。
どのように鳴けば相手を煽るかも、本能がよくよく知っていた。
「ふぁ…くふぅ、ん」
「ル、ルベルカ。ルベルカ……まだ慣らしてないんだ、あんまり煽らないでくれ」
半分眠って理解出来ないルベルカに、アオイが何か言っている。その声は熱っぽく、息も荒い。
「ん、はふ…ぁぉぃ、はゃく、ぅ…いつもみたいに、して」
「いつも、みたいに?」
「ぃつもみたぃに、いっぱい、きすして、ぎゅってして、おれのなか、いっぱい」
「ルベルカ、ルベルカ……」
「んくぅ」
濡れた指がヒクつく襞に触れる。早く早くと尻を振ってねだるが。
「あっ……暫く誰ともシてないせいかかなりキツい…!」
アオイの焦ったような声がした。
「ルベルカ、これはちょっと馴らすのに時間がかかるぞ」
「やだ、いやだぁ。はゃく、はやくあおいのいれて」
いつも夢の中でアオイとまぐわっていたもので、セカンドバージンになっているという感覚がなかった。半睡状態なので尚更、気付けない。どうしてアオイがこんなに意地悪して焦らすのか、ルベルカはひぃひぃ泣いて腕で目元を擦った。
慎重に指がナカを探る感覚に「あぅ、はぅ」と嗚咽のような嬌声を漏らしながら快楽を求めて懸命に腰を捩る。
「ルベルカ、お願いだから、良い子にしてくれ。全く、俺も気づくべきだった。いくら淫魔でも十年誰とも交わらなければこうなるに決まっているのに」
「ぁぉぃ、なんで、いじわる、す……うぇ、ひっ」
「意地悪じゃないよ。よし、よし」
「ひえぇん」
夢の中を揺蕩いながらぼろぼろと涙を零すルベルカの髪ををあやすように撫でるのに、アオイは指で弄るだけだった。快感を与えるような動きではない。ルベルカは焦れて焦れて、過敏になって恥骨が痛くなるほどだった。
「困ったな。一度術を解くか? いやルベルカがショック死しかねないな……何とか頑張れ、ルベルカ。大丈夫、大丈夫だからな」
「ぁー…ぁー、ぁぅ……ぅぇ」
か細い声で子供のように泣く。
せめて、と言うようにアオイはルベルカの勃ちあがり濡れそぼって震えている男性器を握った。
「ふぎひ」
唐突に直接的な快感を与えられて腰が浮く。その拍子にアオイの指がナカのしこりを引っ掻き、散々煽られたルベルカは勢いで絶頂した。
「うぁああ……」
しかし、得られた快楽よりもアオイと一緒でなかったことが悲しいやら悔しいやらで、絶頂しながらぴいぴい泣き喚く。
「ひっく、ひぃ…うぇええあぁああ」
「泣かないでくれ、ルベルカ。ごめんな、ごめんな。本当はもう少し解したいけど、今挿れてやるからな」
はやく、と急かす声は嗚咽で言葉にならなかった。アオイは泣きじゃくるルベルカの腰を抱いて、太い粘膜をルベルカの窄まった粘膜にピトリと押し当てる。欲しがって欲しがって、勝手に襞がぱくぱくと蠢いた。
「あひ」
ずぬ、と塊が押し入ってくる。アオイだ。アオイの厚さで、熱さ。うれしい。うれしい。しあわせ。だいすき。
「くっ……きついな、やっぱり。でも、凄く気持ちいいよ、ルベルカ。あたたかくて……一生懸命縋り付いてくる。大好きって、伝わってくるよ」
「ぅん……すき。あおい、すき。は、ぅ」
一度太い頭が入ってしまえば、あとはそう辛くない。長く性交渉していなかったとはいえ、慣れた淫魔の体だ。
ナカを満たされて、いっぱいになって、質量を感じる。魂が胎にいるように感じた。
奥の奥、狭い扉を先端がノックする。ルベルカは大きな声を上げて鳴いた。アオイはゆるり、ゆるり、腰を動かす。
「ああ、中がうねる。激しく動かなくても凄く気持ちがいいよ」
「ふぁぁ…あんっ、んぁんん…! ヒッ……ィ、ぁああっ」
本当に、繋がっているだけで、とてつもない快感の波が押し寄せて、自分の中がうねり、蠢き、アオイを締め付けるのを感じる。
だから二人は一緒に達するまで、何度も口づけをした。一度すると止まらなくて、腰を動かすより夢中になって、確かめるように、伝え合うように、キスをした。
きもちいい。うれしい。とろける。しあわせ。
絶え間なく引いては寄せる快楽に溺れ、刺激される官能に酔い、放たれた熱に喜んで、ルベルカは意識を落とした。
―――あおい、だいすき。
「俺もだよ、ルベルカ」
夢の中で返事が聞こえた気がした。
***
ルベルカは基本的に夢の内容を覚えていない。
夢魔の術はそういうもの……と以前アオイに聞かされたが、実際はアオイがわざと記憶が残らないようにしているのではないか、と思う節があった。
ところが昨日の夢は鮮明で、ちょっと意地悪なアオイの焦らしプレイに泣きながら悶えるという内容で、
(わ、悪くない……!)
泣き喚きながら内心がっつり楽しんでいた。
更に半睡状態のルベルカの中ではかなり内容が変更されており、
「我慢できないなんて悪いコだね、ルベルカ……もっと頑張って、ホラ」
「良い子だねルベルカ(ねっとりボイス)」
などの言葉責めの数々が実装されている。
更に付け加えるなら、アオイは久々に男を受け入れるルベルカを気遣って緩いセックスで済ませたが、かなり強い快楽を(勝手に)拾っていたルベルカの脳内では容赦のない腰使いに変換されていた。
その後、はからずも二度寝になり、そこには術が関係していなかったので、これまたルベルカの幸せ一杯の夢が展開され、何が現実やら分からない状態に。
そして目覚めるとアオイの腕の中にいた。
裸に腕枕の添い寝。端正なアオイの健やかな寝顔。
「あばぁああああ!!」
絶叫と共に飛び起きた。ベッドから逃れたものの素っ裸だったのでクッションを抱え、へたりこむ。
アオイも驚いて目覚めたが、長いセックスレスゆえの自律神経の狂いは一朝一夕で治るものでもないらしく、額をおさえて呻いている。
その間にルベルカは何が起こったかを頭の中で整理した。カタカタと震えながら。
そう、アオイの体調問題もあって、半睡状態でセックスを決行。そのままおそらく寝入ってアオイの腕の中でオハヨウゴザイマス。パンパカパーン。
「ひぇ……」
自分の身に起こったことを受け止めきれず、目眩までしてきた。
こういう症状を何と呼べばいいのだろうか。幸せ酔い? バタバタとトイレに駆け込んで朝食を吐き出す始末。
回復したアオイが心配して「ルベルカ?」とトイレをノックしてくるも、ぐらぐらしてまともに応答も出来ず壁にずるずる凭れかかる。そのうちアオイが鍵を破壊してルベルカを救出した。
「半睡の術を使ってのセックスでも後がこれじゃあ、他の種族はきっと苦労するだろうな」
ベッドに寝かされ、知恵熱を出した額に濡れ布を貼ってもらい、ふうふうと荒く息をする。
他の用事のためか、アオイがベッドの側から離れようとするので、その袖を掴んだ。
「そばにいてくれ……」
「んんグッ」
アオイの喉から変な音が漏れた。なぜか顔を背けて口元を覆っている。
「な、なに? アオイも吐きそうなのか?」
「ああ……ちょっと蜂蜜が口から漏れそうかな」
「病気じゃないのか!?」
「十年前からなんだ、気にしないでくれ」
蜂蜜が漏れる病気とは何だろうか。体内で蜂を飼っているということだろうか。夢魔とは一体……リリスは精液と間違って牛乳を持っていくことがあると言うが。
とにかくアオイはベッドに腰掛け、ルベルカの手を握ってくれた。それをきゅうと握り返してほっと息をつく。このくらいの接触なら、安心できるようになったことが嬉しい。
「思うんだけどな。俺たち、セックスを急ぎすぎた気がする。恋人って、最初は手を繋いだり、軽いペッティングから始めるもんじゃないか?」
「………確かに」
「お互い淫魔だからついセックスから考えたよな」
忙しい日々に追われ先回しにして拗れ過ぎた。いくらなんでも十年はアレだ。
今日は、あたたかかった。南向きの部屋を日差しがほどよく温める。
穏やかな時間をアオイと過ごす。熱や興奮も少しずつ落ち着いてきて、心地いい。
「―――アオイはどうして売れ残ってたんだ?」
不意に以前からの疑問を口にしてみる。
アオイは「売れ残りって」と苦笑しているが、まずおかしな話なのだ。こんなに容姿も頭脳も完璧で、優しく我慢強い性格をした良い家柄の三男坊という優良物件が、ルベルカに出会った時点で恋人もなく結婚もしていなかったというのが。
「いやあもう、単純にゴーレムバカだったからね。ルベルカだって、三馬鹿だってそうだろ」
「まあ、確かに」
「独身が楽だったってのもある。それに、ゴーレムのことをわかってくれない女性と結婚しても意味がないなと思ってた。
ルベルカは俺の自慢で、可愛くて、俺のことが大好きで、意地っ張りで、面倒で、どんどん技術を成長させていって、えっちで、いつも俺の心を離さなかった」
最後の「えっちで」というのが何か引っかかったが、まあ淫魔なので褒め言葉を受け取っておく。
「―――淫魔ミックスの性質について自覚を広めるの、やってみようと思う」
寝たまま呟くと、アオイが目を丸くしていた。
「ゴーレムはさ、技術さえあればガラクタの寄せ集めだって機能するってところが好きなんだ。もちろん、あの人形みたいな製品は感触が重要だから素材が大事だけど……今あるムービーゴーレムって、高価で小さいだろ。だから空中に画像を出せないかなあって」
「空中に…?」
「陰影の認識システムについて考えてた時に思いついたんだ。インプットするより、アウトプットは楽だって」
それがきちんと見えやすいように出来るかは謎だが、構想はあった。
「もしもそれが安価で作れたら、各地方自治体に貸し出して教材やアニメを見せてやりたい。子供のころ、どうして淫魔は勉強出来ないのか凄く悔しかった」
「そうだ、ルベルカはどうやって学校に入ったんだ? まず字が読めないと話にならないだろう」
「字が読めるのは商人だ。だから貧民窟で商売してるおっちゃんにどうやって字を覚えるのか聞いたら、基本の文字表と簡単な物語の書かれた一枚の紙をくれた。破れた紙だったから、1ページ一作の絵本か教材から落ちたやつだろう。クマと、ウサギと、シカが力を合わせて家を建てる話だった。
異種が協力するなんて発想は子供の俺にとって刺激的だった。単語の前に小さな絵が描いてあって、わかりやすかった」
そこから字を覚え、次を学びたくなり、商人の手伝いをしてお小遣いを貰い、あるいは商人が土産に持ってきた使い古された絵本を貰って、勉強した。また商人は簡単な数字と計算も教えてくれた。
アオイは真剣に聞き、微笑んだ。
「ルベルカは凄いな。君の育った環境で学びたいと思い、そこまで行動できる子供は本当に稀なんだよ。学びたいと漠然と思っても、どうしていいか分からないで終わる子だってきっといる」
「うん。だから、俺、頑張ってみる」
「手伝うよ」
きゅっと強く握られた手が嬉しくて、ルベルカは笑った。
自分にはゴーレムしかない。アオイに嫌われたらどうしよう。そんなことばかり考えていた狭い世界の自分を知った。
あの商人に渡された二枚の紙きれからルベルカの世界は広がった。切欠は些細なことで、そして重要だ。
今度は自分が与える番だろう。
ルベルカはこんなにも、アオイや……そして母や仲間に与えられてきたのだから。
***
「そりゃあ、いい加減くっつけよとは思ってたけどさあ」
アトリエで製図台に向かいながらツグミがぼやく。
その背後、入り口付近では「おかえり、少し唇が荒れているね。ほら……」とルベルカの唇にしっとりと指でクリームを塗っている所長の姿がある。
最近は毎日こんな調子だ。いっそ濃厚ベロチューだの、オフィスセックスだのの現場を見た方が「お取り込み中のとこすいませんした」と逃げられるのだが、実際は痒いような甘ったるい接触を見せつけられている。
顔を真赤にした涙目のルベルカにキッと睨まれるところまでがワンセットだ。俺たちは何もしていない、やったのはお前の旦那さまだろうと。
一番アレだったのは所長が色々と吹っ切れたことだ。
「俺が引退するとき、ルベルカも退職する。だから後継にはしない。なんならこのラボは閉鎖する。引退したらルベルカとセカンドライフを満喫するからな」
後継にするなら、流石にそろそろルベルカに実権を持たせて彼方此方に顔出しをさせなければならない。場合によっては社交界などにも。
アオイはそれがイヤなのだ。ルベルカを自分の腕の中に囲っておきたいのだ。
ちなみに引退後は二人でリペアをメインにささやかなアトリエを開くそうだ。
一流王立ラボの所長と所長レベルの技術者がペアでやる「ささやかな」アトリエとは。
「好きな時に好きなものを作って好きな時間に閉店できる店がほしいんでしょ。所長、俺たちの監督してる間に浮かんだアイデアが溜まってるみたいだし」
「あーあ、俺も恋人ほしいなー。朝から晩までゴーレムだけが恋人だよ」
「………」
「えっ、なんでヴィルトレン黙るの?」
「休養日に行くバーで知り合ったコと付き合い始めたから」
「ハァー!? 抜け駆けかよ! シグマも何か言ってやれ!」
「俺、来月結婚する。幼馴染の娘」
「ハァアアア!?」
色気の欠片もないラボが一気に春模様になり、取り残されたツグミが頭を抱えている。
これに関しては、今までろくに休みもやらなかったのが悪いので、アオイが苦笑してツグミの肩を叩く。
「そこそこの富裕層のお嬢様がたとの集団お見合いパーティー、行ってみるか?」
「イグ」
そのがっついた妖精の様子を、淫魔のルベルカが冷ややかに見ていた。
ラボは少しずつ変わり始めた。
密封されたいたような、ここだけが世界だったような一種異様な状態だったのだと思う。
窓が開けられ、扉が開き、風が舞い込んでくる。
「―――さて、お集まりの皆さん。本日ご紹介するのは私の可愛いルベルカが発明した、」
口上の冒頭で隣に控えていたルベルカが「ンッグフ」とむせこんだ。アオイは生き生きと集まった企業マンたちの前でプロジェクタを紹介している。
何を言うにも「私の可愛いルベルカ」が枕につく。今すぐこの頭が春沸えした男の尻を蹴り飛ばしたい衝動を堪えながら、赤面したルベルカはぶるぶる震える。
「ご覧ください、こんなにも私の可愛いルベルカがくっきりと!!」
プロジェクタから大写しで彼シャツ上目づかいで寝ぼけた目を擦るルベルカの姿が浮かび―――
さすがにルベルカは回し蹴りをお見舞いした。
この「ルベルジェクター(アオイ命名」は各地の地方自治体に配布され、またオープンソースにして最も簡単な作り方、アップグレードなどを技術者全体で共有することにした。
今までコンテンツを独占していた企業の猛反発はあった。だが、彼らに正当な権利などなく、ルベルジェクターは世界中に広まり貧しい地域にも娯楽と情報と教養を与える礎となった。
アオイはルベルカとの時間を大切にしつつも、淫魔との恋愛に難儀している人々を応援するコミュニティの運営に参加しているらしい。
徐々に、ルベルカが三馬鹿を監督する役目―――かつてのアオイの立場にいることが多くなっていった。
「ここ後で絶対パスタ配線になるから今から直せ」
「えー、でもお」
「後から後から必要な線が出てきて手に負えなくなる。その前に」
「ぶーぅ」
「ルベルカは所長より細かいよね」
「お前らが大雑把すぎるんだ!」
三馬鹿は思いついたら「とりあえず試してみよう」と初めてしまう。とにかくゴーレムに触っていたいのだ。気持ちは分かるが、後から他人の配線を見て理解して直さねばならない此方の身にもなってほしい。
この、アオイが早く帰る日は、大抵休日の前だ。
ラボを出てレストラン街で待ち合わせをし、軽く酒を呑みながら食事をする。
(恋人みたいだ……)
ほろ酔いで対面のアオイを見つめ、そんなことを考えてから「いや恋人だった」と思い直して赤面する。
「ルベルカ。まだそんなに呑んでないのに顔が赤い。疲れてるのかな、早めに帰ろうか」
誤解されるも、ルベルカとしても早く帰って二人きりになりたいので黙って頷いた。
アオイの低血圧は最近、快方に向かっている。
理由はお察し頂きたい。
二人の家について、玄関でアオイの首に腕を回し、伸び上がってキスをする。
「ルベルカ、こら……まだネクタイもといてない」
「ネクタイっていいよな。首輪みたいで」
「首輪つけたいの、俺に」
腰を抱き寄せられて面白がるように覗き込まれ、ルベルカは薄く笑った。
「首輪どころか、脚の腱を切って閉じ込めておきたい」
率直かつ物騒な欲求を聞いて、アオイは嬉しそうに笑った。
「そんなことしなくても、俺はずっと君のものだったんだよ。ずっと前からね」
見つめ合って口づける。
その瞬間、何のスイッチが入ったのか掃除ゴーレムがブォオ…と音を立てて起動し、思わずルベルカとアオイは離れて目を丸くした。
どちらともなく笑い出す。
よかった、と思った。
この人を好きで、好きになってよかった。
「愛してる、アオイ」
アオイは「えっ」と声をあげた。半睡状態ではないルベルカからはっきりと、好意を伝えたのは初めてだった。
アオイは嬉しそうに、だらしないほど顔を緩め、ルベルカを抱きしめて顔中にキスしてくれた。
きっと、明日も。
明日も明後日もいつまでも、彼を好きでよかったと思うだろう。
墓場から蘇ったばかりのゾンビの産声のようなもので目覚めた。
ぼんやりしながら天井を見上げ、何処からか聞こえてくるゾンビの呻き声をバックミュージックにルベルカは虚無に陥っていた。
(何、寝てんだ、俺)
思い返しても思い返してもアオイにクリームを塗られたあたりまでしか記憶にない。
アオイが悪い、ただでさえ夜で、腹が膨れていて、風呂の後でベッドだったのに、毛布でくるんで優しく髪を拭い、その後ゆっくりとマッサージするようにクリームを塗って……あれで寝るなというほうが無理がある。
おそらくアオイなりに、ルベルカが吃驚しないように、怖がらないようにという配慮だろう。そういうところは好き。本当に好き。死ぬ。
それに、あんなにアオイに触れられたのも初めてで……大きくて温かい手が……
「ううあっ……あぐ……ゔゔ………」
その相手がベッドの下で転げ回って苦しみのたうち回っている状況にはついて行けない。
「アオイ……無事か」
「ぐぅう」
「毎朝これじゃ、あんたも大変だな……」
もしかしたら部屋を別にしたのも、これが原因かもしれない。
ルベルカはとりあえず下に降りてコーヒーを淹れ、パンに昨日の残り物を挟んで軽食を作り、部屋に戻った。
「アオイ、どんな調子だ」
「……だいぶ、よく、なった、な」
彼はもうソファに腰掛け、額をおさえる程度まで回復していた。
「どんな感じなんだ、低血圧って」
空きっ腹にカフェインを入れると胃に悪いので、先に軽食を渡してからルベルカはアオイの顔を覗き込む。
「ん……例えるなら金縛り状態で動こうとする感じ、かな」
「それって大分辛いんじゃ」
「まあ、もうずっとだからね。慣れたよ」
「体質か、遺伝か何かか?」
「あー……」
アオイは何とも言えない苦笑のままコーヒーをすすった。
「そうだな、夢魔特有の性質だ」
「夢魔って低血圧なのか……なんとなく吸血鬼のイメージだった」
「吸血鬼に低血圧症が多いのは、血を嫌う奴が多いからだよ。彼らは血液に含まれる必須栄養素があって定期的に摂取しないといけないんだけど、まあ、野菜嫌いみたいなものだな。体が必要としているモノが必ずしも美味いとは限らないんだよ。
そりゃ昔はそれしか栄養になるものがなかったから、彼らも疑問を抱かなかったけど、今は吸血鬼にとって美味しい食事は他に沢山あるからね」
「じゃあ、夢魔の性質ってのは?」
「うーん……」
困ったように、アオイは言葉を濁す。
「言ったら絶対にルベルカが気に病むから言わなかったんだけどね」
「え……」
「長期に渡るセックスレス……なんだ」
ルベルカは息を呑んだ。取り落しそうになった熱いカップをぎゅっと握る。
この十年というもの、ルベルカは誰とも肌を重ねていない。アオイが嫌がる素振りを見せたし、ルベルカが「適当な相手でも…」と呟こうものなら寝室に引きずっていかれて淫夢を見せられた。
アオイも、この十年、誰ともしていないらしい。アオイの性格からして、予想はつく。
だが淫夢を見せることでルベルカから精気は受け取っていたはずだ。
「淫魔って一口に言うけど、ルベルカや貧民窟にいる淫魔たちはミックスというか、いろんな淫魔の血が入っているんだ。
でも実は種類として色々いて……夢魔もそうだし、ダンピールとか、サキュバス、インキュバスなんかがいる。夢魔にも種類があるくらいでね。
俺はリリスとインキュバスの系譜で、ちょっと性欲が強いんだ。それと、雄型は相手の胎に精を注ぐことが本能の一部でね。それ以外の排出を続けると自律神経が狂うんだ」
衝撃の告白だった。
リリスの系譜といえば、ヤリ狂いと言っていい。それとインキュバス。どの程度の血の濃さかにもよるが、種族としてはスーパーハイブリッド夢魔と言える。
そんな相手に十年も体調を崩すほど耐えさせてしまった。ルベルカの胃の腑が重くなる。
「そんな顔しないでくれ。俺自身の我儘で、エゴの結果なんだ。君は決して俺に貞節を求めていた訳じゃない。お互い淫魔だ。それこそ適当な相手で済ませればいいことを、人間みたいに拘って、こんな羽目になった。だからルベルカのせいじゃないんだよ」
「なんで、アオイはそこまで俺を……」
愛されている自覚はある。というか、ここまでされて否定は出来ない。重すぎる程の愛だ。ルベルカには、その重さが嬉しすぎるほどに嬉しいが。
「ミックスと言われているルベルカたち淫魔はね、色々混じっていて特定しきれないんだけど、少なくともヴィルデフラウとグレモリの末裔なんだ。
グレモリは意中の相手を射止める力を持つ悪魔とされ、ヴィルデフラウは女性体しか生まれないから他種族の男と結婚する。つまり特定の相手を唯一の人とする性質があるんだけど、放蕩な淫魔の血が色々混じってるせいで、好きな人に怯えてしまうんじゃないかって言われてる」
「ずいぶん、詳しいな。俺でさえ自分のルーツなんてよくわからないのに」
「研究している人と知り合ってね、色々聞いたんだ」
話しているうちに調子を取り戻したらしいアオイは、いつもの笑顔でルベルカを見る。甘ったるくて優しい。ルベルカはこの顔を見るたび、胸がぎゅうと絞られる。
「ヴィルデフラウの血は自分と相性のいい相手を見つけ、グレモリの血は意中の相手を射止める。つまりな、ルベルカ。俺がこんなに君を好きなのは、君が俺を大好きだからなんだ」
「……なんか、相手も自分も不幸にするような力だな。相性のいい相手を縛り付けておいて、怯えて素直になれないなんて」
「淫魔は大抵、産み捨ての傾向があるんだけど、親の庇護を欲しがるのは生物のサガだ。予想外に淫魔の子孫が増えたけど、親に愛されなかったから子の愛し方が分からない。子は愛され方が分からないまま育つ。
それで、愛に怯えるようになってしまった。お母さんのことが瑕になっていたルベルカには分かるだろう? みんな苦しんでるんだ、ルベルカとおんなじように」
「因果だな……」
そもそも他種族に托卵するような種族が、増えて文化を持ってしまったこと自体が間違いだったのだろう。
「きっと……もっと知るべきなんだな、俺たちが、自分のことを。愛してくれた相手に期待して守られるばかりじゃダメだ」
「それも、ルベルカが頑張って勉強して、知識を得たからなんだよ。殆どの淫魔に今の話をしても、理解の範疇外だ」
確かに。貧民窟の淫魔の大半は、自分の名前すら書けない。書けたとしても契約書の関係で必要になったから自分の名前だけ書ける、ような者だ。金勘定だって出来ているのかどうか怪しい。多いか、少ないか。その程度の判断しかしない。
とにかくそういう途方も無い未来や他人のことはさておき―――
ルベルカは床に正座をし、打ち付ける勢いで頭を下げた。
「申し訳もございませんでした」
「いや、だからな、ルベルカ」
「言い訳はしない。慰めもいらない。この上は眠らせてブスっとやってくれ。初めてのセックスは大事にしたいとかそういう次元の話じゃない。体を悪くしてまで拘るようなことじゃないだろ」
「……そうだな。俺も初めてに拘りすぎた。君に想いを受け止めて貰ってから抱きたいと、そのことばかりで、俺がそのせいで体調を崩せば君が思い悩むことは分かりきっていたのに」
アオイはそう言うが、寝ている間に絶対触るなと約束させたのはルベルカだ。
とはいえ、自身の体調や性質について言わなかったアオイもアオイだ。
ここはお互いに拘りもプライドも捨て、為すべきことを為そうという方針になった。
「だが、せめて半睡だ。これは譲れない」
「散々寝た後だし、カフェインも摂ったし、それでいい。でも俺が完全に眠ったからといってやめないと約束はしてくれ。昨日だって俺が寝たからって我慢してやめなくて良かったんだ。あんたがあんなに苦しむ姿なんて、もう見たくない」
「ルベルカ」
きゅむと抱きしめられて「う」と呻く。アオイに触れられるのは、まだつらい。好きすぎて、つらい。体中の血が沸騰したようになり、好きの気持ちが強すぎて頭がパニックになる。なんて面倒くさい進化の仕方をしてくれたのか。先祖、許さない。
しかし、その緊張が徐々にふわりとした浮遊感と共に溶け消えていく。
自分が半睡状態だと気づいた時には抱き上げられて、本当に宙に浮いていた。すぐにゆっくりとベッドに横たえられたが。
「ルベルカ」
朝日の光の中でルベルカを覗き込むアオイが微笑む。
なんだかもう、涙が出た。
アオイはその涙を親指で拭い、ルベルカの唇にキスをした。
彼がベッドに乗り上げ、ガウンを脱ぐだけでえっちでドキドキしてしまう。本当に処女のような……いやバージンロストの時だってこんな感慨はなかった。というか一切記憶に残っていない。
一晩寝てくたくたになったルベルカのバスローブの胸元が開かれて肌が外気に触れる。半分寝ていてフワフワした頭でも、ツンと尖った自分の乳首がアオイの目に晒されていることが恥ずかしく、鼻から「ふくん」と甘えるような、懇願するような声が漏れた。
「……本当は色々言いたいけど、きっとルベルカは恥ずかしくて目が覚めちゃうだろうから、言わないでおくね」
頬にちゅっとされて「まったくだ」とぼんやりする頭で憤慨した。
ここで「美味しそうな乳首だね」とか「触って欲しそうだね」などと言われた日には飛び起きて逆エビ固めをかけてしまいかねない。
「はぅ…ぅん」
肌を撫でられて寝ぼけたような声がする。自分の声が遠くからするようだ。感覚だけが妙に鋭く、心地よさが染み込んでくる。
「ん! ん……ん、く」
乳首をちゅるんと呑み込まれて体がヒクヒクした。もう一方の乳首も、指で捏ねられる。
淫魔はエロに関しては都合良くできている。開発されなくとも乳首だけで何度もイケるし、後ろだけで空イキしまくる。しかし、ずっと発情したままでは外敵に殺されるので、普段は性欲を抑制出来るのだ。
しかし、抑制出来ると言っても「これからセックスです」ムードに突入すると、もはやどうにもならない。それも大好きな相手。半睡状態。
どうにでもして状態で自分から足を開き、アオイの頭を掻き抱いて、いやらしく腰を振る。
どのように鳴けば相手を煽るかも、本能がよくよく知っていた。
「ふぁ…くふぅ、ん」
「ル、ルベルカ。ルベルカ……まだ慣らしてないんだ、あんまり煽らないでくれ」
半分眠って理解出来ないルベルカに、アオイが何か言っている。その声は熱っぽく、息も荒い。
「ん、はふ…ぁぉぃ、はゃく、ぅ…いつもみたいに、して」
「いつも、みたいに?」
「ぃつもみたぃに、いっぱい、きすして、ぎゅってして、おれのなか、いっぱい」
「ルベルカ、ルベルカ……」
「んくぅ」
濡れた指がヒクつく襞に触れる。早く早くと尻を振ってねだるが。
「あっ……暫く誰ともシてないせいかかなりキツい…!」
アオイの焦ったような声がした。
「ルベルカ、これはちょっと馴らすのに時間がかかるぞ」
「やだ、いやだぁ。はゃく、はやくあおいのいれて」
いつも夢の中でアオイとまぐわっていたもので、セカンドバージンになっているという感覚がなかった。半睡状態なので尚更、気付けない。どうしてアオイがこんなに意地悪して焦らすのか、ルベルカはひぃひぃ泣いて腕で目元を擦った。
慎重に指がナカを探る感覚に「あぅ、はぅ」と嗚咽のような嬌声を漏らしながら快楽を求めて懸命に腰を捩る。
「ルベルカ、お願いだから、良い子にしてくれ。全く、俺も気づくべきだった。いくら淫魔でも十年誰とも交わらなければこうなるに決まっているのに」
「ぁぉぃ、なんで、いじわる、す……うぇ、ひっ」
「意地悪じゃないよ。よし、よし」
「ひえぇん」
夢の中を揺蕩いながらぼろぼろと涙を零すルベルカの髪ををあやすように撫でるのに、アオイは指で弄るだけだった。快感を与えるような動きではない。ルベルカは焦れて焦れて、過敏になって恥骨が痛くなるほどだった。
「困ったな。一度術を解くか? いやルベルカがショック死しかねないな……何とか頑張れ、ルベルカ。大丈夫、大丈夫だからな」
「ぁー…ぁー、ぁぅ……ぅぇ」
か細い声で子供のように泣く。
せめて、と言うようにアオイはルベルカの勃ちあがり濡れそぼって震えている男性器を握った。
「ふぎひ」
唐突に直接的な快感を与えられて腰が浮く。その拍子にアオイの指がナカのしこりを引っ掻き、散々煽られたルベルカは勢いで絶頂した。
「うぁああ……」
しかし、得られた快楽よりもアオイと一緒でなかったことが悲しいやら悔しいやらで、絶頂しながらぴいぴい泣き喚く。
「ひっく、ひぃ…うぇええあぁああ」
「泣かないでくれ、ルベルカ。ごめんな、ごめんな。本当はもう少し解したいけど、今挿れてやるからな」
はやく、と急かす声は嗚咽で言葉にならなかった。アオイは泣きじゃくるルベルカの腰を抱いて、太い粘膜をルベルカの窄まった粘膜にピトリと押し当てる。欲しがって欲しがって、勝手に襞がぱくぱくと蠢いた。
「あひ」
ずぬ、と塊が押し入ってくる。アオイだ。アオイの厚さで、熱さ。うれしい。うれしい。しあわせ。だいすき。
「くっ……きついな、やっぱり。でも、凄く気持ちいいよ、ルベルカ。あたたかくて……一生懸命縋り付いてくる。大好きって、伝わってくるよ」
「ぅん……すき。あおい、すき。は、ぅ」
一度太い頭が入ってしまえば、あとはそう辛くない。長く性交渉していなかったとはいえ、慣れた淫魔の体だ。
ナカを満たされて、いっぱいになって、質量を感じる。魂が胎にいるように感じた。
奥の奥、狭い扉を先端がノックする。ルベルカは大きな声を上げて鳴いた。アオイはゆるり、ゆるり、腰を動かす。
「ああ、中がうねる。激しく動かなくても凄く気持ちがいいよ」
「ふぁぁ…あんっ、んぁんん…! ヒッ……ィ、ぁああっ」
本当に、繋がっているだけで、とてつもない快感の波が押し寄せて、自分の中がうねり、蠢き、アオイを締め付けるのを感じる。
だから二人は一緒に達するまで、何度も口づけをした。一度すると止まらなくて、腰を動かすより夢中になって、確かめるように、伝え合うように、キスをした。
きもちいい。うれしい。とろける。しあわせ。
絶え間なく引いては寄せる快楽に溺れ、刺激される官能に酔い、放たれた熱に喜んで、ルベルカは意識を落とした。
―――あおい、だいすき。
「俺もだよ、ルベルカ」
夢の中で返事が聞こえた気がした。
***
ルベルカは基本的に夢の内容を覚えていない。
夢魔の術はそういうもの……と以前アオイに聞かされたが、実際はアオイがわざと記憶が残らないようにしているのではないか、と思う節があった。
ところが昨日の夢は鮮明で、ちょっと意地悪なアオイの焦らしプレイに泣きながら悶えるという内容で、
(わ、悪くない……!)
泣き喚きながら内心がっつり楽しんでいた。
更に半睡状態のルベルカの中ではかなり内容が変更されており、
「我慢できないなんて悪いコだね、ルベルカ……もっと頑張って、ホラ」
「良い子だねルベルカ(ねっとりボイス)」
などの言葉責めの数々が実装されている。
更に付け加えるなら、アオイは久々に男を受け入れるルベルカを気遣って緩いセックスで済ませたが、かなり強い快楽を(勝手に)拾っていたルベルカの脳内では容赦のない腰使いに変換されていた。
その後、はからずも二度寝になり、そこには術が関係していなかったので、これまたルベルカの幸せ一杯の夢が展開され、何が現実やら分からない状態に。
そして目覚めるとアオイの腕の中にいた。
裸に腕枕の添い寝。端正なアオイの健やかな寝顔。
「あばぁああああ!!」
絶叫と共に飛び起きた。ベッドから逃れたものの素っ裸だったのでクッションを抱え、へたりこむ。
アオイも驚いて目覚めたが、長いセックスレスゆえの自律神経の狂いは一朝一夕で治るものでもないらしく、額をおさえて呻いている。
その間にルベルカは何が起こったかを頭の中で整理した。カタカタと震えながら。
そう、アオイの体調問題もあって、半睡状態でセックスを決行。そのままおそらく寝入ってアオイの腕の中でオハヨウゴザイマス。パンパカパーン。
「ひぇ……」
自分の身に起こったことを受け止めきれず、目眩までしてきた。
こういう症状を何と呼べばいいのだろうか。幸せ酔い? バタバタとトイレに駆け込んで朝食を吐き出す始末。
回復したアオイが心配して「ルベルカ?」とトイレをノックしてくるも、ぐらぐらしてまともに応答も出来ず壁にずるずる凭れかかる。そのうちアオイが鍵を破壊してルベルカを救出した。
「半睡の術を使ってのセックスでも後がこれじゃあ、他の種族はきっと苦労するだろうな」
ベッドに寝かされ、知恵熱を出した額に濡れ布を貼ってもらい、ふうふうと荒く息をする。
他の用事のためか、アオイがベッドの側から離れようとするので、その袖を掴んだ。
「そばにいてくれ……」
「んんグッ」
アオイの喉から変な音が漏れた。なぜか顔を背けて口元を覆っている。
「な、なに? アオイも吐きそうなのか?」
「ああ……ちょっと蜂蜜が口から漏れそうかな」
「病気じゃないのか!?」
「十年前からなんだ、気にしないでくれ」
蜂蜜が漏れる病気とは何だろうか。体内で蜂を飼っているということだろうか。夢魔とは一体……リリスは精液と間違って牛乳を持っていくことがあると言うが。
とにかくアオイはベッドに腰掛け、ルベルカの手を握ってくれた。それをきゅうと握り返してほっと息をつく。このくらいの接触なら、安心できるようになったことが嬉しい。
「思うんだけどな。俺たち、セックスを急ぎすぎた気がする。恋人って、最初は手を繋いだり、軽いペッティングから始めるもんじゃないか?」
「………確かに」
「お互い淫魔だからついセックスから考えたよな」
忙しい日々に追われ先回しにして拗れ過ぎた。いくらなんでも十年はアレだ。
今日は、あたたかかった。南向きの部屋を日差しがほどよく温める。
穏やかな時間をアオイと過ごす。熱や興奮も少しずつ落ち着いてきて、心地いい。
「―――アオイはどうして売れ残ってたんだ?」
不意に以前からの疑問を口にしてみる。
アオイは「売れ残りって」と苦笑しているが、まずおかしな話なのだ。こんなに容姿も頭脳も完璧で、優しく我慢強い性格をした良い家柄の三男坊という優良物件が、ルベルカに出会った時点で恋人もなく結婚もしていなかったというのが。
「いやあもう、単純にゴーレムバカだったからね。ルベルカだって、三馬鹿だってそうだろ」
「まあ、確かに」
「独身が楽だったってのもある。それに、ゴーレムのことをわかってくれない女性と結婚しても意味がないなと思ってた。
ルベルカは俺の自慢で、可愛くて、俺のことが大好きで、意地っ張りで、面倒で、どんどん技術を成長させていって、えっちで、いつも俺の心を離さなかった」
最後の「えっちで」というのが何か引っかかったが、まあ淫魔なので褒め言葉を受け取っておく。
「―――淫魔ミックスの性質について自覚を広めるの、やってみようと思う」
寝たまま呟くと、アオイが目を丸くしていた。
「ゴーレムはさ、技術さえあればガラクタの寄せ集めだって機能するってところが好きなんだ。もちろん、あの人形みたいな製品は感触が重要だから素材が大事だけど……今あるムービーゴーレムって、高価で小さいだろ。だから空中に画像を出せないかなあって」
「空中に…?」
「陰影の認識システムについて考えてた時に思いついたんだ。インプットするより、アウトプットは楽だって」
それがきちんと見えやすいように出来るかは謎だが、構想はあった。
「もしもそれが安価で作れたら、各地方自治体に貸し出して教材やアニメを見せてやりたい。子供のころ、どうして淫魔は勉強出来ないのか凄く悔しかった」
「そうだ、ルベルカはどうやって学校に入ったんだ? まず字が読めないと話にならないだろう」
「字が読めるのは商人だ。だから貧民窟で商売してるおっちゃんにどうやって字を覚えるのか聞いたら、基本の文字表と簡単な物語の書かれた一枚の紙をくれた。破れた紙だったから、1ページ一作の絵本か教材から落ちたやつだろう。クマと、ウサギと、シカが力を合わせて家を建てる話だった。
異種が協力するなんて発想は子供の俺にとって刺激的だった。単語の前に小さな絵が描いてあって、わかりやすかった」
そこから字を覚え、次を学びたくなり、商人の手伝いをしてお小遣いを貰い、あるいは商人が土産に持ってきた使い古された絵本を貰って、勉強した。また商人は簡単な数字と計算も教えてくれた。
アオイは真剣に聞き、微笑んだ。
「ルベルカは凄いな。君の育った環境で学びたいと思い、そこまで行動できる子供は本当に稀なんだよ。学びたいと漠然と思っても、どうしていいか分からないで終わる子だってきっといる」
「うん。だから、俺、頑張ってみる」
「手伝うよ」
きゅっと強く握られた手が嬉しくて、ルベルカは笑った。
自分にはゴーレムしかない。アオイに嫌われたらどうしよう。そんなことばかり考えていた狭い世界の自分を知った。
あの商人に渡された二枚の紙きれからルベルカの世界は広がった。切欠は些細なことで、そして重要だ。
今度は自分が与える番だろう。
ルベルカはこんなにも、アオイや……そして母や仲間に与えられてきたのだから。
***
「そりゃあ、いい加減くっつけよとは思ってたけどさあ」
アトリエで製図台に向かいながらツグミがぼやく。
その背後、入り口付近では「おかえり、少し唇が荒れているね。ほら……」とルベルカの唇にしっとりと指でクリームを塗っている所長の姿がある。
最近は毎日こんな調子だ。いっそ濃厚ベロチューだの、オフィスセックスだのの現場を見た方が「お取り込み中のとこすいませんした」と逃げられるのだが、実際は痒いような甘ったるい接触を見せつけられている。
顔を真赤にした涙目のルベルカにキッと睨まれるところまでがワンセットだ。俺たちは何もしていない、やったのはお前の旦那さまだろうと。
一番アレだったのは所長が色々と吹っ切れたことだ。
「俺が引退するとき、ルベルカも退職する。だから後継にはしない。なんならこのラボは閉鎖する。引退したらルベルカとセカンドライフを満喫するからな」
後継にするなら、流石にそろそろルベルカに実権を持たせて彼方此方に顔出しをさせなければならない。場合によっては社交界などにも。
アオイはそれがイヤなのだ。ルベルカを自分の腕の中に囲っておきたいのだ。
ちなみに引退後は二人でリペアをメインにささやかなアトリエを開くそうだ。
一流王立ラボの所長と所長レベルの技術者がペアでやる「ささやかな」アトリエとは。
「好きな時に好きなものを作って好きな時間に閉店できる店がほしいんでしょ。所長、俺たちの監督してる間に浮かんだアイデアが溜まってるみたいだし」
「あーあ、俺も恋人ほしいなー。朝から晩までゴーレムだけが恋人だよ」
「………」
「えっ、なんでヴィルトレン黙るの?」
「休養日に行くバーで知り合ったコと付き合い始めたから」
「ハァー!? 抜け駆けかよ! シグマも何か言ってやれ!」
「俺、来月結婚する。幼馴染の娘」
「ハァアアア!?」
色気の欠片もないラボが一気に春模様になり、取り残されたツグミが頭を抱えている。
これに関しては、今までろくに休みもやらなかったのが悪いので、アオイが苦笑してツグミの肩を叩く。
「そこそこの富裕層のお嬢様がたとの集団お見合いパーティー、行ってみるか?」
「イグ」
そのがっついた妖精の様子を、淫魔のルベルカが冷ややかに見ていた。
ラボは少しずつ変わり始めた。
密封されたいたような、ここだけが世界だったような一種異様な状態だったのだと思う。
窓が開けられ、扉が開き、風が舞い込んでくる。
「―――さて、お集まりの皆さん。本日ご紹介するのは私の可愛いルベルカが発明した、」
口上の冒頭で隣に控えていたルベルカが「ンッグフ」とむせこんだ。アオイは生き生きと集まった企業マンたちの前でプロジェクタを紹介している。
何を言うにも「私の可愛いルベルカ」が枕につく。今すぐこの頭が春沸えした男の尻を蹴り飛ばしたい衝動を堪えながら、赤面したルベルカはぶるぶる震える。
「ご覧ください、こんなにも私の可愛いルベルカがくっきりと!!」
プロジェクタから大写しで彼シャツ上目づかいで寝ぼけた目を擦るルベルカの姿が浮かび―――
さすがにルベルカは回し蹴りをお見舞いした。
この「ルベルジェクター(アオイ命名」は各地の地方自治体に配布され、またオープンソースにして最も簡単な作り方、アップグレードなどを技術者全体で共有することにした。
今までコンテンツを独占していた企業の猛反発はあった。だが、彼らに正当な権利などなく、ルベルジェクターは世界中に広まり貧しい地域にも娯楽と情報と教養を与える礎となった。
アオイはルベルカとの時間を大切にしつつも、淫魔との恋愛に難儀している人々を応援するコミュニティの運営に参加しているらしい。
徐々に、ルベルカが三馬鹿を監督する役目―――かつてのアオイの立場にいることが多くなっていった。
「ここ後で絶対パスタ配線になるから今から直せ」
「えー、でもお」
「後から後から必要な線が出てきて手に負えなくなる。その前に」
「ぶーぅ」
「ルベルカは所長より細かいよね」
「お前らが大雑把すぎるんだ!」
三馬鹿は思いついたら「とりあえず試してみよう」と初めてしまう。とにかくゴーレムに触っていたいのだ。気持ちは分かるが、後から他人の配線を見て理解して直さねばならない此方の身にもなってほしい。
この、アオイが早く帰る日は、大抵休日の前だ。
ラボを出てレストラン街で待ち合わせをし、軽く酒を呑みながら食事をする。
(恋人みたいだ……)
ほろ酔いで対面のアオイを見つめ、そんなことを考えてから「いや恋人だった」と思い直して赤面する。
「ルベルカ。まだそんなに呑んでないのに顔が赤い。疲れてるのかな、早めに帰ろうか」
誤解されるも、ルベルカとしても早く帰って二人きりになりたいので黙って頷いた。
アオイの低血圧は最近、快方に向かっている。
理由はお察し頂きたい。
二人の家について、玄関でアオイの首に腕を回し、伸び上がってキスをする。
「ルベルカ、こら……まだネクタイもといてない」
「ネクタイっていいよな。首輪みたいで」
「首輪つけたいの、俺に」
腰を抱き寄せられて面白がるように覗き込まれ、ルベルカは薄く笑った。
「首輪どころか、脚の腱を切って閉じ込めておきたい」
率直かつ物騒な欲求を聞いて、アオイは嬉しそうに笑った。
「そんなことしなくても、俺はずっと君のものだったんだよ。ずっと前からね」
見つめ合って口づける。
その瞬間、何のスイッチが入ったのか掃除ゴーレムがブォオ…と音を立てて起動し、思わずルベルカとアオイは離れて目を丸くした。
どちらともなく笑い出す。
よかった、と思った。
この人を好きで、好きになってよかった。
「愛してる、アオイ」
アオイは「えっ」と声をあげた。半睡状態ではないルベルカからはっきりと、好意を伝えたのは初めてだった。
アオイは嬉しそうに、だらしないほど顔を緩め、ルベルカを抱きしめて顔中にキスしてくれた。
きっと、明日も。
明日も明後日もいつまでも、彼を好きでよかったと思うだろう。
10
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