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賢者の章
14.旅立ちの一歩
しおりを挟むルドルの言葉の意味が分かったのは、村の入り口に到着した時だった。
「おっ!来たぞ!」
「う、うん」
村の入り口に、馬車が停まっていた。その馬車の前でアルトを待っていたのは、アルトの幼馴染の二人。
「何で………あの二人が……」
それはビリーとエリーゼの二人。
「おーいアルトーーッ!!」
ビリーがアルトの名前を大声で呼ぶ。その隣ではエリーゼが、自分の短い髪を手で弄って落ち着かない様子だった。
そんな二人を見て、アルトは踵を返したい気持ちに駆られる。
あの日以来、極力考えない様にしていたが、この二人の行為を見ながら自慰行為をしてしまった罪悪感は、未だにアルトの胸に深々と突き刺さっている。一体、どんな顔をして会えば良いのかが分からないのだ。
アルトが思わず立ち止まっていると、ビリーがアルトの元へと駆けて来た。エリーゼも、後ろからゆっくりと近づいて来る。
「よおアルト!これから出発か?」
「何で……」
何故知っているのだろうか。今日経つ事は、両親以外ではルドルにしか話していない。そのルドルにも、時間は伝えていなかったのに。
「何で知ってるってか?昨日お前の親父さんがコッソリ教えてくれたんだ!多分人知れず出て行く気だから、幼馴染の俺とエリーゼだけでも見送りしてやってくれってさ!」
「父さん………余計な事を………」
思わず舌打ちしそうになる所を何とか堪える。これはこれで、父の優しさだったのだと思うと恨むのも筋違いだ。二人と顔を合わせたくない理由は、全て自分の行いのせいなのだから。
「それでなアルト、俺とエリーゼも村を出る事にしたんだ。だから一緒に行こうぜ!」
「……………え?」
ビリーの言葉の意味が一瞬分からずに、思わず呆けてしまうアルト。そんなアルトを見ながら、エリーゼが頬を薄く染めながら口を開いた。
「ア、アルト……わたし達ね、王都へ行こうと思ってるの」
「エリーゼ………」
「ほ、ほら、ビリーの称号”鍛冶師”でしょ?この村に居ても仕事なんてほとんど無いし、わたしの称号も……あまりこの村では役に立たないし………」
確かエリーゼの称号は”会計士”だったかと思い出すアルト。確かに二人共、この村で仕事が出来るとは思えない称号だった。
「そうそう!だから俺さ、王都に行って鍛冶師になろうと思ってるんだ!エリーゼも会計士として助けてくれるしよ!」
「ちょっ、ちょっとビリー!それはビリーが勝手に………」
今のビリーの話で、アルトに有らぬ誤解を招いたのではと気が気では無いエリーゼ。まるで、田舎の村の男女二人が王都へ出て、共に頑張るのと言っている様に聞こえる。
もちろんその通りなのだが、アルトを前にして二人が『恋人』だと思われるのは嫌だった。身体の関係はあるが、厳密には恋人では無いのだから。
「って訳だからアルト、これから宜しくな!」
「ちょっ……そんな勝手に……」
「まあまあ!ほら、うちの馬車貰って来たからよ!これなら全然早く王都まで行けるぜ?」
「貰って来たって……」
ビリーの実家は商家を営んでいる。故に、ウルスス村の特産品などを近隣の村や、時にはグレノールの街まで売りに行き、その際に他の村の特産品やグレノールの街で商品を仕入れたりしてウルスス村に運んで売っている。ウルスス村の中では、かなりの金持ちなのだ。
「昔使ってた中古の古い馬車だけどな。でも屋根もあるし、雨風も凌げる。馬も力の強い奴をくれた。な?悪くないだろ?」
確かに、とアルトは思う。王都までは馬車でおよそひと月ほど掛かる。グレノールの街まで行けば王都への定期便の馬車があるが、そのグレノールまで徒歩で行くとなると、何週間掛かるか分かったものではない。しかし、ビリーの馬車に乗れば、一週間でグレノールに着ける。
一日でも早くセリナに会いたいアルトにとって、ビリーの話は魅力的だ。しかし、この二人と共に行くとなると、嫌でもあの日の事を思い出してしまう。
アルトが逡巡していると、エリーゼが恐る恐るアルトに話し掛けた。
「あの、アルト……アルトと一緒に行動出来たら……凄く心強いの」
「………え?」
「ほら、わたしとビリーじゃ……何かあってもどうする事も出来ないし………ア、アルトは冒険者目指してるから強いんだよね?だから………凄く図々しいんだけど……いざという時は助けて欲しいの」
幼い頃から知っているので、エリーゼが緊張しているのがアルトにも伝わった。きっと、断られるのではないかと、そう思っているからだろう。
先ほどルドルは言った。何かあった時は、お前が二人を守ってやれと。その二人とはビリーとエリーゼの事で間違い無い。
確かに、こんな田舎に盗賊など出る確率はほとんど無い。こんな田舎を根城にした所で、そもそも襲うべき荷物を積んだ商人の馬車など、ほとんど通らないからだ。盗賊にしても、もっとそういう馬車が行き交う街道を狩場にするだろう。
モンスターなどは更に出ない。モンスターの生息域は山奥や森の深い所、古い遺跡の中などだ。人の暮らす田舎の街道になど現れたりはしない。
それでも、どちらも絶対とは言えない。万が一にでもどちらかに襲われた時、ビリーとエリーゼでは何も出来ずに命を散らすだろう。そうなった時に、後でいくら後悔しても遅い。
そもそも、これから冒険者試験を受ける者が、個人的な理由で困っている人を助けないで良いのか?
それで冒険者試験に合格した所で、堂々と胸を張って冒険者を名乗れるのか?
自問した答えは否だった。そんなの、冒険者のする事じゃない。
そんなの、誰も冒険者だと認めてはくれない。
だからアルトは、こう二人に答えた。
「分かった。二人の事は俺が守るよ」
と。その瞬間、ビリーは喜びを爆発させ、エリーゼは瞳に涙を浮かべた。
「さっすが親友!宜しくなアルト!」
「あー、うん。でも俺、馬車の御者とか出来ないからビリー頼むぞ?」
「任せとけって!良し、じゃあ早速出発するから二人とも荷台に乗れ乗れ!」
ビリーに促されて、荷台に乗るアルトとエリーゼ。荷台が少し高いので、アルトが先に乗り込みエリーゼに手を差し出す。エリーゼは躊躇しながらも、頬を染めてアルトの手を取った。
「あ、ありがとう……アルト」
「う、うん」
久しぶりに握ったエリーゼの手は、小さくてスベスベしていた。アルトの鼓動が少しだけ早くなる。
しかし、すぐにエリーゼから目を逸らすと、照れ隠しの様に馬車の中を見回す。
馬車の一番奥に置かれた荷物は、ビリーとエリーゼの物だろう。左右には長椅子の様に木が打ち付けられていて、ゆったりと座れる様になっている。これなら、あと数人は余裕で乗れそうだなと、アルトは何とも無しに考えた。
「良し!じゃあ出発だぁぁぁーーーッ!!」
ビリーの威勢の良い声が聞こえて来たので、アルトとエリーゼは椅子に座る。そして、すぐに馬車が動き出した。
遂に村の外へと最初の一歩を進み出したアルト。目標は冒険者試験。そして想いはーーーーー、愛しいセリナに馳せて。
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