VRMMOのキメラさん~〜モンスターのスキルを奪える私は、いつの間にか《キメラ》とネットで噂になってました!? 【リメイク版】

水定ゆう

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4ー2:流れ、流され、川下り

◇144 進化するマグロ

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 この先に待っているのはゴールじゃない。
 ゴールという名の絶望。
 その史実を知った瞬間、顔色が青ざめた。

「ど、どうするの、この先滝だよ!」
「そうだな」
「そうだなじゃないよ。なんとか、なんとかしないと?」

 私は立ち上がってちょっとしたパニックになっていた。
 腕をブンブン振る。
 冷静にはとてもじゃないけどいられなかった。

「なんとかしたいのは山々だが……」
「方法が無いのよ。正直、この流れに沿うしかないわ」

 Nightとベルは諦めてはいないが、この状況に流されている。
 否、乗じているっていうのかな?
 何も解決しない気がするけど、私は黙るしかない。だって何も思い付いてないから。

「とりあえず落ち着け」
「うん。ごめんね」

 私はNightに宥められた。
 一旦冷静になることだけ考える。
 しゃがみ込んで肩を落とすと、雷斬が突如として首を伸ばし、喉を開いた。

「皆さん、なにか来てますよ!」
「なにかってなんだ?」
「アレは……はっ!」

 雷斬は何故か刀を握った。
 警戒している? 一体なにが来たの?
 視線を預ける私達は、さっきまでいた筈のモンスターを見かけた。

「ま、マグロ!?」
「えっ、どうして? どうして後ろに付いてるの!」

 分からないことが渋滞していた。
 現れたのは先程先に行って貰ったカワマグロ。
 何故か背中から突出したサメのような背びれが水を切り裂く。

「どういうこと? 一体いつ追い抜いたの?」
「待て。まだ別個体の可能性もある」
「その可能性が何処にあるのよ!」

 ここまでで出遭ったカワマグロは一匹だけ。
 つまりはこのカワマグロは同一個体。
 ベルの推測は当たると、Nightは渋々折れた。

「たとえ同一個体だとして、いつ追い抜いた?」
「それは分かりませんが、こちらに向かって来ていますよ」

 カワマグロは相変らずだった。
 私達の乗る筏の進行方向を目標に定めている。
 しかもとてつもない速度で水を掻き切っていた。

「凄い速さだね。もしかして、まだ私達を邪魔だと思ってる?」
「避けてやりたいのは山々だが」
「生憎と無理の様です」

 この状態でオールを動かすことはできても、筏を操縦することはできない。
 プロペラもほとんど意味を成していない。
 カワマグロには諦めて貰うしかなかった。

「仕方ない。このまま進もう」

 Nightの結論はあっさりしていた。
 だけどそれしかない。
 私達は腰を落ち着かせると、カワマグロに視線を配る。

「にしても凄い速さね」
「うん。もしかして、まだ興奮剤が出てるのかな?」
「どうでしょうか? 肉眼では漏れていないように思いますが」
「そうだな。興奮剤の類ではないんだろう」

 アウトリガーの中には興奮剤が仕込まれていた。
 そのせいでここまで酷い目に遭った。
 凄まじい冒険になったものの、興奮剤はほとんど水に溶けている。
 つまりは目の前のカワマグロが興奮して暴走する危険性は極めて低いのだ。

「うーん」
「どうしたの、Night?」

 それなのにカワマグロは追って来る。
 それが不思議でたまらないのか、Nightは唸り声を上げた。
 考え込む仕草に私は声を掛けてしまう。

「いや、このスピード。ドンドン増しているのは気のせいか?」
「気のせいじゃないと思うよー」
「フェルノ。お前の目から見てもか?」
「うん。ドンドン速くなってる気がするよー」

 ここでおかしな話だった。
 何故かカワマグロはスピードをドンドン増している。
 それだけ疲れているから水を掻くのが大変なのかな?
 普通に考えればその程度のことだと割り切れた。

 しかしここはゲーム。しかもCUのリュウシン大渓谷。
 何が起こるか情報がほとんど無い。
 色々と思考を探る中、Nightはポツリと呟く。

「この滝のモチーフは鯉の滝登り。カワマグロが鯉の代わりだとして……あり得ないか」
「さっきから何独り言言ってるの?」

 Nightの独り言についツッコんでしまった。
 それだけ暇な状況。同時に危険な状況。
 私達は目の前に迫る危機感から忘れようとしていた。
 その時だった。カワマグロの動きの変化にNightは敏感に気が付き、声を上げてしまう。

「まさか!」

 Nightは記憶を辿って一つの可能性に辿り着く。
 私達の視線がNightに注がれる。
 一体なにがあるの? 早く教えてと急かすと、カワマグロにも異変が起きた。

「光り出したぞ」
「光り出したって? なにバカなこと言って……本当に光ってる!?」

 ベルは呆れてしまった。
 溜息交じりに視線を飛ばす。
 するとカワマグロの体が突如として光り出すと、発光体として川の中に居た。

「なにあれ!? カワマグロなの」
「そうだな。どうやら試練を突破したらしい」
「試練? 一体なんのこと言ってるの?」

 意味が分からなかった。試練って一体なんのこと?
私達は置いてけぼりを喰らうと、カワマグロはグンと水の中に潜る。
 背びれまで完全に隠れてしまうと、まるで魚雷だ。
 一瞬にして水を切り裂き、自分だけの道を切り拓く。

「消えました!?」
「あはは、これってヤバくない?」
「そうだよ。何処から飛び出してくるか分からないよ」
「落ち着け。恐らくは筏の真下だ」

 焦る私達とは裏腹にNightは気が付いていた。
 筏の真下から光りが漏れる。
 如何やらカワマグロは進んでいる。滝の方へと。

 それから筏の下にカワマグロは悠々と潜り込む。
 しばらく出て来ないし、浮上して攻撃も仕掛けない。
 私達はカワマグロの姿を視界から消すと、直後に大きな水飛沫が上がる。

 バシャン!

「跳んだ!?」
「いや、飛んだんだ」

 突然カワマグロは水の中から飛び出した。
 かと思えば体が眩い光に包まれる。
 突然の発光は太陽の煌めきじゃない。
 鮮度満点のカワマグロの姿はみるみるうちに光に覆われる。

「なにが起きてるの!?」
「分からない……が、恐らくは進化だ」
「進化?」
「そうだ。これは珍しい光景が見られるぞ」

 Nightは楽しんでいた。
 全員顔を腕で覆い、直接的に何が起きているのかは分からない。
 しかし宙に跳び上がったカワマグロの体はみるみるうちに肥大化し、丸っこい形からヘビの様に細長くなっている。

「形が変わってるよ?」
「そうだ。コレが進化だ。来るぞ、龍が」
「「「龍!?」」」

 Nightの読みは完璧だった。
 頭の中にあった知識を披露すると、同時にカワマグロの姿は雄大に変わる。
 細長いヘビのような体は偉大な龍の姿になり、クロマグロのような色合いはそのまま黒龍のものになる。

「ドラァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!」

 高らかに吠えたカワマグロの声。
 今まで発して来なかった発声器官を手に入れる。
 それは太陽に向かって自分自身の成長をアピールするみたいで、煌めく龍の体に私達の視線は全部奪われた。
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