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27話 桃の香りの鷲②
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僕はナイフを手に取った。
一体何をするのか。リーファさんは、不思議そうにしている。
「それじゃあタイミングに合わせて、僕がナイフを落とすよ。そしたら、適当に風で煽って」
「わかりました。うーん、本当にやるんですか?」
「うん。やるよ」
僕は大真面目だった。
今からやろうとしていることは、普通に人間業ではない。
それこそ、暗殺術。
狂気さが滲み出ていて、流石に怪しいんだろうが、僕の中にも狂気性が流れているから、安心してほしい。
ナイフをそっと指先に乗せる。
十字の銀ナイフが、そっと指先の爪に触れた。
滲み出る赤い血。
ここまで趣旨は、ブレてない。
「よし、やろっか」
「わかりました。いきます!」
リーファさんは、風を起こした。
全く、詠唱なしの魔法なんてチートだよ。
僕はそっとナイフを落とした。
二本のナイフが、リーファさんが起こした風に揺さぶられて、優雅に空中に舞う。
ピント張ったワイヤー。
一応細くて丈夫な素材だ。暗殺に適している。
まるで見えない。
こう見ると、ただ浮かんでいるだけ。
ナイフがそっと空中に投げられて、踊っているように錯覚するも、やっぱり不気味なんだろう。
「浮かんでいるみたいですね」
「そう?」
リーファさんにそうみられるなら、かなり上達したのかも。
でもまだまだ。
微かに指先が動いちゃってる。このまま続けるのは、気持ち悪い。
僕とホズキ師匠は、崖にやってきた。
どうして崖なのかはわからないし、今日はナイフにワイヤーを引っ掛けていた。
「あのホズキ師匠、これから何を?」
「決まってる。ここで練習する」
練習?
まさか飛び降りて、ナイフと指先だけで、体を支えて這い上がるやつ!? もしそうなら、流石にムズいぞ。
けれど僕の予想はハズレな様子で、ホズキ師匠はナイフを垂らすと、それからバケツいっぱいに汲んだ水を、崖目がけて棄てた。
「ホズキ師匠、もったいないですよ?」
「大丈夫」
いや流石に大丈夫じゃないよ。
と、一瞬でも焦った僕が馬鹿だった。
ホズキ師匠は、その場から一歩たりとも、それこそ指先の一つも動かさずに、ナイフを駆使した。
それこそ魔力も使ってない。
にも関わらず、ホズキ師匠のナイフは、落ちていく水滴の一粒一粒逃すことなく、回収すると、バケツの中に戻した。
ここまでの動作、ほんの一瞬の間で起きたみたいで、僕の目には見えなかった。
そもそも追えない。
それだけに留まらず、そんなホズキ師匠は、
「はい、これやって」
「いや、無理ですよ。流石にこんなことできませんから!」
僕は速攻で否定した。
ここまでやったら、もはや神業の域を超えている。
そう思ったのも束の間、流石にこれをやるのではないみたいで、ほっと一安心。だが、
「これを使う」
「それって目薬ですか?」
「そう。これを一滴垂らして、回収。それができたら、少しずつ難易度上げる」
僕は言葉を失った。
もう、どうにもならない域にまできていた。
ホズキ師匠の無茶振りは、本当に呆れる。だけどやるしかない。やらないと、帰れないし、生きられない。
「わ、わかりました」
「最初は、指を動かしてもいい」
そう言われて、ホズキ師匠は目薬の入った小さくて四角い箱から、一滴落とした。
僕は慣れないナイフ技術をフルで動員。
指先の神経を酷使した。
「くっ。お、おっ。うわぁ!?」
指が攣る。
普通に指先以外の神経も、体を流れる血液も、余裕で滞って、頭が痛くて割れそうだった。
だけどナイフは何とか触れた。
でも触れただけで、掬い上げることはできなかった。
そんな僕を一目見て、ホズキ師匠は、
「及第点。でもまだまだ、次やる」
「そんなー」
僕は崩れ落ちた。
肩から力が抜けて、硬直し出す。
あー、しんどいしんどいよ。
そう言っていたのが懐かしい。
「ほら!」
僕の指先のナイフテクニックは、ホズキ師匠には遠く及ばない。
まだまだ何百倍も先だった。
だけど僕の投げたナイフは、風に煽られて急接近。
そのまま飛行し続ける、ピーチイーグルの羽を貫いて、ワイヤーが首に引っかかって、落とした。
バサバサ!ーー
鳥が落ちた。
近くの木にぶつかってしまい、絶命していた。
「ふぅ。何とかなってよかったよ」
「相変わらず凄いですね、天月さん」
「そんなことないよ。僕なんてまだまだ」
謙遜した。
だけどリーファさんの「人間離れしてますね」と言う言葉が、如何にもやっぱり歯痒くて響きがぐさっと刺さるんだ。
一体何をするのか。リーファさんは、不思議そうにしている。
「それじゃあタイミングに合わせて、僕がナイフを落とすよ。そしたら、適当に風で煽って」
「わかりました。うーん、本当にやるんですか?」
「うん。やるよ」
僕は大真面目だった。
今からやろうとしていることは、普通に人間業ではない。
それこそ、暗殺術。
狂気さが滲み出ていて、流石に怪しいんだろうが、僕の中にも狂気性が流れているから、安心してほしい。
ナイフをそっと指先に乗せる。
十字の銀ナイフが、そっと指先の爪に触れた。
滲み出る赤い血。
ここまで趣旨は、ブレてない。
「よし、やろっか」
「わかりました。いきます!」
リーファさんは、風を起こした。
全く、詠唱なしの魔法なんてチートだよ。
僕はそっとナイフを落とした。
二本のナイフが、リーファさんが起こした風に揺さぶられて、優雅に空中に舞う。
ピント張ったワイヤー。
一応細くて丈夫な素材だ。暗殺に適している。
まるで見えない。
こう見ると、ただ浮かんでいるだけ。
ナイフがそっと空中に投げられて、踊っているように錯覚するも、やっぱり不気味なんだろう。
「浮かんでいるみたいですね」
「そう?」
リーファさんにそうみられるなら、かなり上達したのかも。
でもまだまだ。
微かに指先が動いちゃってる。このまま続けるのは、気持ち悪い。
僕とホズキ師匠は、崖にやってきた。
どうして崖なのかはわからないし、今日はナイフにワイヤーを引っ掛けていた。
「あのホズキ師匠、これから何を?」
「決まってる。ここで練習する」
練習?
まさか飛び降りて、ナイフと指先だけで、体を支えて這い上がるやつ!? もしそうなら、流石にムズいぞ。
けれど僕の予想はハズレな様子で、ホズキ師匠はナイフを垂らすと、それからバケツいっぱいに汲んだ水を、崖目がけて棄てた。
「ホズキ師匠、もったいないですよ?」
「大丈夫」
いや流石に大丈夫じゃないよ。
と、一瞬でも焦った僕が馬鹿だった。
ホズキ師匠は、その場から一歩たりとも、それこそ指先の一つも動かさずに、ナイフを駆使した。
それこそ魔力も使ってない。
にも関わらず、ホズキ師匠のナイフは、落ちていく水滴の一粒一粒逃すことなく、回収すると、バケツの中に戻した。
ここまでの動作、ほんの一瞬の間で起きたみたいで、僕の目には見えなかった。
そもそも追えない。
それだけに留まらず、そんなホズキ師匠は、
「はい、これやって」
「いや、無理ですよ。流石にこんなことできませんから!」
僕は速攻で否定した。
ここまでやったら、もはや神業の域を超えている。
そう思ったのも束の間、流石にこれをやるのではないみたいで、ほっと一安心。だが、
「これを使う」
「それって目薬ですか?」
「そう。これを一滴垂らして、回収。それができたら、少しずつ難易度上げる」
僕は言葉を失った。
もう、どうにもならない域にまできていた。
ホズキ師匠の無茶振りは、本当に呆れる。だけどやるしかない。やらないと、帰れないし、生きられない。
「わ、わかりました」
「最初は、指を動かしてもいい」
そう言われて、ホズキ師匠は目薬の入った小さくて四角い箱から、一滴落とした。
僕は慣れないナイフ技術をフルで動員。
指先の神経を酷使した。
「くっ。お、おっ。うわぁ!?」
指が攣る。
普通に指先以外の神経も、体を流れる血液も、余裕で滞って、頭が痛くて割れそうだった。
だけどナイフは何とか触れた。
でも触れただけで、掬い上げることはできなかった。
そんな僕を一目見て、ホズキ師匠は、
「及第点。でもまだまだ、次やる」
「そんなー」
僕は崩れ落ちた。
肩から力が抜けて、硬直し出す。
あー、しんどいしんどいよ。
そう言っていたのが懐かしい。
「ほら!」
僕の指先のナイフテクニックは、ホズキ師匠には遠く及ばない。
まだまだ何百倍も先だった。
だけど僕の投げたナイフは、風に煽られて急接近。
そのまま飛行し続ける、ピーチイーグルの羽を貫いて、ワイヤーが首に引っかかって、落とした。
バサバサ!ーー
鳥が落ちた。
近くの木にぶつかってしまい、絶命していた。
「ふぅ。何とかなってよかったよ」
「相変わらず凄いですね、天月さん」
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