生贄にされた少年。故郷を離れてゆるりと暮らす。

水定ゆう

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59話 影を屠って、鬼を宥めて

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 僕は影の槍を破壊した。
 素手で粉々に砕き散らした。

 その破片は、おどろおどろしい影の残りになる前に、僕が少女の首元まで近づいたことで、動きを止めた。

「ナニ!?」
「いい加減にしようよ。もう勝負はついてる」

 僕の声は冷酷に少女の耳に入った。
 しかし、少女はギシギシと歯軋りを鳴らして、黒い影を二股の竜に変貌させて、僕の喉元を噛み付く。

 カブッ!ーー

 僕の首に影が二つ、噛み付いた。
 竜の口のような影は、そのまま僕の首の骨をへし折り、動脈を断ち切ろうとする。

(うわぁ、結構痛い。これ、骨折れてるね)

 僕の骨は断たれた。
 呼吸ができない。だけど、そのおかげで見えてくるものがあった。

 景色がより一層、鮮明になる。
 それだけじゃない。血液が脳に回らなくなって、酸素が供給されず、脳の回転が遅くなる。つまり、よりはっきりと、状況を見ようとした。

 赤い瞳は今は何色だろう。
 きっと黒い動向に変わっているはずだ、と信じて、僕の瞳は少女の隠れた髪の横、左右に伸びる鬼の角を見る。

「この角のせいか。えいっ!」

 僕は角をへし折った。
 両腕の自由が効いたので、簡単にスパッと切り落とした。手刀を舐めないでほしい、僕の手刀なら、人間の骨ぐらいは簡単に切れる。

「アアアアアアアアアアアアアアアッ!」

 少女の絶叫が、耳をつんざいた。
 鬼の角は感覚器官の一つ。一度壊せば、その機能の大半は失われるが、この影鬼族はその中でも奇抜で、から、問題なし。

 そもそも痛いのは一瞬。
 だって実際には角なんて、生えていないんだもん。あくまでも憎悪や狂気が、再臨して、その結果頭にくっついた感じの飾り。

 要は寄生虫みたいなものだった。

「大丈夫」

 僕は頭を撫でた。
 痛みを隠しながら、僕は優しい笑みで少女の頭を撫でる。

 ぶつくさではない。丁寧に、髪の毛をそっと撫でる。
 優しい手のひらをそっと頭に乗せて、ゆっくり撫でた。

「大丈夫大丈夫。そんなにその力は、怖くないよ。だから、自信を持って。怖がるのは、僕のことだけでいいからさ」

 ゆっくりと撫でる。
 すると少女の動きが止まった。ピタリと止まって、動かなくなる。

 何か悪いことしちゃったかな?
 不安になる僕に、少女は急に頭を抱えて、動き出した。

「アアアアアッ! ……」

 少女はばたりと倒れてしまった。
 意織を失うと、自然と影は消滅して、僕の首を噛み付いていた竜の形もなくなる。

「ふぅ。あー、あああ。ゴホッゴホッ! い、息ができない……」

 僕は口で呼吸ができないので、鼻で呼吸をしようとした。
 し歌詞骨が折れて、喉の血管が弾けていて、死にそうになる。

「せめて、自己再生……しない、と……」

 僕は意識が途絶えそうになった。
 緑が目の前に浮かぶ。僕は体が前方にのめり込んで、そのまま倒れ込んで、意識は消えた。
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