63 / 94
6章
第63話 ゴブリン・シャーマン
しおりを挟む
俺とエクレアが出会ったゴブリンは他のゴブリンとは違っていた。
普通のゴブリンが腰蓑を捲いたり、白い布をかけているだけなのに対して、今目の前にいるゴブリンは少し老けているようで深い緑色をしていたが、特殊な装飾や身なりにも気を遣っていた。
ましてや俺たち、むしろエクレアを見てもなお態度を一切変えない冷静さを控えていた。
このあまりに突出した通常種のゴブリンとは違う感じ方、おそらく役持ちのゴブリンだろう。
「男の方、どうか剣をお仕舞ください。皆、貴方方に危害を加える気はございません」
「「はっ!?」」
俺とエクレアは自然と構えてしまった。
ゴブリンが人間の言葉を喋ったのだ。
確かにモンスターの中には高い知能のおかげで、人間の言葉を理解して自分たちも使うことができる。
それを使えるということは話し合いができるということで、逆に言えば俺達を食ってかかる可能性があるわけだ。
「エクレア、気を付けろよ」
「う、うん……どうしよう」
何を悩んでいるんだ。
俺は迷わず剣の柄に手を掛けていた。
しかし向こうに敵意がないのも本当だ。しかも少女は向こうにいる。ここは話し合いに出てもいいかもしれない。
「一つ聞くが、その子は返してもらえるのか?」
「もちろんです。私たちが彼女を匿ったのには訳があるのですよ」
「匿った訳?」
一体どんな訳があったのか。
俺は少しだけ話をする価値があると思った。
剣を納めるとエクレアもパッと明るくなって、ゴブリンに声を掛けた。
「じゃあまずは自己紹介。私はエクレア、こっちは相棒のカイ君。えっと、ゴブリンさんは?」
「私に名前はありませんが、他のゴブリンからはシャーマンと呼ばれています」
「シャーマン? ってことはやっぱり知能が高い役持ちの種なんだな……面白い」
俺は少しだけ明るくなったが、すぐにミスったと思う。
エクレアのその顔を覗かれてしまった。これは面倒なことになるなと、脳内で直接警戒反応を出す。
「ううっ。話を戻すが、シャーマンは何のためのこの子を匿っているんだ。この際攫った何て言い方話だ」
「はい。実は今、我々の群れの中で一種の統率者が現れてしまい……それにより、舞台が二分してしまっているのです」
「部隊が二分している? と言うことは、片方は……」
「私が指揮している人間との共存を目的としている部隊です。とは言え、ほとんどは子供や雌のゴブリンで、雄のゴブリンは大変少なく……」
「戦力が乏しいというわけか。まさかその構想に巻き込むためにこの子を……」
「いいえ、それは違います! 私たちはただ平穏を送りたい。この群れが解体された後は、同志を募り森の奥に姿を潜めることにしています」
「なるほど。目的が明確に決まっているわけか……ならどうしてそうしない」
「……それは」
ゴブリン・シャーマンは言葉を詰まらせた。
するとエクレアがズバリと冷たい口で吐き出した。
「恐怖心に飲まれているから」
「えっ!?」
「はい。あのゴブリンは並の役持ちではありません。それ故、本能のままに欲望を解放するゴブリンたちはあのゴブリンに付き従っているのです」
「さっきのはそういうことか……確かに惨いやり方だったが、命の粗末感が否めなかったな」
ただ数だけバラ撒いたような生存競争を捨てた戦法と配置だった。
しかしあんな光景を目の当たりにした後だと、なおさらわからない。
恐怖に抗うことができないのはきっと知性があるからだろうが、それほど恐ろしいのだろうか? ゴブリン・シャーマンだとしてもそれなりに地位や権力をゴブリンの群れの中では有しているはず。本来、群れの長になれるだけの役持ち具合だ。
「だがこれではっきりした。行商人を襲ったのは食料のため。少女を匿ったのは二分されているゴブリンの群れに渡さないためだな」
「はい」
「はぁー。それはソイツらを倒さないと無理そうだな」
「そうだね。それじゃあそのゴブリンを倒そっか!」
俺とエクレアの意見が一致した。
しかしゴブリン・シャーマンは俺達の実力を知らないので止めようとしてくる。
「おやめください。流石にあのゴブリンを相手にするのは……」
「それはダメだよ。だって私たちも目を付けられているし、他の冒険者もみんなでゴブリンを狩っているんだもん」
「それではつまり!」
「どのみち抗争になる。それならさっさと倒した方がいい。エクレア、準備はできているな」
「もっちろん! 一瞬で倒しちゃうよ。久々に、《黄昏の陽射し》で倒したいもん!」
「お前は自由人だな」
「イェーイ!」
「褒めてないぞ」
エクレアのテンションに俺は溜息を吐いた。
その姿を見ていたゴブリン・シャーマンは俺たちのやり取りに唖然としていた。
「大したものです。ですが……」
ゴブリン・シャーマンは表情を硬くした。
普通のゴブリンが腰蓑を捲いたり、白い布をかけているだけなのに対して、今目の前にいるゴブリンは少し老けているようで深い緑色をしていたが、特殊な装飾や身なりにも気を遣っていた。
ましてや俺たち、むしろエクレアを見てもなお態度を一切変えない冷静さを控えていた。
このあまりに突出した通常種のゴブリンとは違う感じ方、おそらく役持ちのゴブリンだろう。
「男の方、どうか剣をお仕舞ください。皆、貴方方に危害を加える気はございません」
「「はっ!?」」
俺とエクレアは自然と構えてしまった。
ゴブリンが人間の言葉を喋ったのだ。
確かにモンスターの中には高い知能のおかげで、人間の言葉を理解して自分たちも使うことができる。
それを使えるということは話し合いができるということで、逆に言えば俺達を食ってかかる可能性があるわけだ。
「エクレア、気を付けろよ」
「う、うん……どうしよう」
何を悩んでいるんだ。
俺は迷わず剣の柄に手を掛けていた。
しかし向こうに敵意がないのも本当だ。しかも少女は向こうにいる。ここは話し合いに出てもいいかもしれない。
「一つ聞くが、その子は返してもらえるのか?」
「もちろんです。私たちが彼女を匿ったのには訳があるのですよ」
「匿った訳?」
一体どんな訳があったのか。
俺は少しだけ話をする価値があると思った。
剣を納めるとエクレアもパッと明るくなって、ゴブリンに声を掛けた。
「じゃあまずは自己紹介。私はエクレア、こっちは相棒のカイ君。えっと、ゴブリンさんは?」
「私に名前はありませんが、他のゴブリンからはシャーマンと呼ばれています」
「シャーマン? ってことはやっぱり知能が高い役持ちの種なんだな……面白い」
俺は少しだけ明るくなったが、すぐにミスったと思う。
エクレアのその顔を覗かれてしまった。これは面倒なことになるなと、脳内で直接警戒反応を出す。
「ううっ。話を戻すが、シャーマンは何のためのこの子を匿っているんだ。この際攫った何て言い方話だ」
「はい。実は今、我々の群れの中で一種の統率者が現れてしまい……それにより、舞台が二分してしまっているのです」
「部隊が二分している? と言うことは、片方は……」
「私が指揮している人間との共存を目的としている部隊です。とは言え、ほとんどは子供や雌のゴブリンで、雄のゴブリンは大変少なく……」
「戦力が乏しいというわけか。まさかその構想に巻き込むためにこの子を……」
「いいえ、それは違います! 私たちはただ平穏を送りたい。この群れが解体された後は、同志を募り森の奥に姿を潜めることにしています」
「なるほど。目的が明確に決まっているわけか……ならどうしてそうしない」
「……それは」
ゴブリン・シャーマンは言葉を詰まらせた。
するとエクレアがズバリと冷たい口で吐き出した。
「恐怖心に飲まれているから」
「えっ!?」
「はい。あのゴブリンは並の役持ちではありません。それ故、本能のままに欲望を解放するゴブリンたちはあのゴブリンに付き従っているのです」
「さっきのはそういうことか……確かに惨いやり方だったが、命の粗末感が否めなかったな」
ただ数だけバラ撒いたような生存競争を捨てた戦法と配置だった。
しかしあんな光景を目の当たりにした後だと、なおさらわからない。
恐怖に抗うことができないのはきっと知性があるからだろうが、それほど恐ろしいのだろうか? ゴブリン・シャーマンだとしてもそれなりに地位や権力をゴブリンの群れの中では有しているはず。本来、群れの長になれるだけの役持ち具合だ。
「だがこれではっきりした。行商人を襲ったのは食料のため。少女を匿ったのは二分されているゴブリンの群れに渡さないためだな」
「はい」
「はぁー。それはソイツらを倒さないと無理そうだな」
「そうだね。それじゃあそのゴブリンを倒そっか!」
俺とエクレアの意見が一致した。
しかしゴブリン・シャーマンは俺達の実力を知らないので止めようとしてくる。
「おやめください。流石にあのゴブリンを相手にするのは……」
「それはダメだよ。だって私たちも目を付けられているし、他の冒険者もみんなでゴブリンを狩っているんだもん」
「それではつまり!」
「どのみち抗争になる。それならさっさと倒した方がいい。エクレア、準備はできているな」
「もっちろん! 一瞬で倒しちゃうよ。久々に、《黄昏の陽射し》で倒したいもん!」
「お前は自由人だな」
「イェーイ!」
「褒めてないぞ」
エクレアのテンションに俺は溜息を吐いた。
その姿を見ていたゴブリン・シャーマンは俺たちのやり取りに唖然としていた。
「大したものです。ですが……」
ゴブリン・シャーマンは表情を硬くした。
0
あなたにおすすめの小説
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました
かにくくり
ファンタジー
魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。
しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。
しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。
勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。
そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。
相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。
※小説家になろうにも掲載しています。
異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編
スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~
きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。
洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。
レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。
しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。
スキルを手にしてから早5年――。
「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」
突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。
森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。
それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。
「どうせならこの森で1番派手にしようか――」
そこから更に8年――。
18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。
「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」
最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。
そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
(完結)魔王討伐後にパーティー追放されたFランク魔法剣士は、超レア能力【全スキル】を覚えてゲスすぎる勇者達をザマアしつつ世界を救います
しまうま弁当
ファンタジー
魔王討伐直後にクリードは勇者ライオスからパーティーから出て行けといわれるのだった。クリードはパーティー内ではつねにFランクと呼ばれ戦闘にも参加させてもらえず場美雑言は当たり前でクリードはもう勇者パーティーから出て行きたいと常々考えていたので、いい機会だと思って出て行く事にした。だがラストダンジョンから脱出に必要なリアーの羽はライオス達は分けてくれなかったので、仕方なく一階層づつ上っていく事を決めたのだった。だがなぜか後ろから勇者パーティー内で唯一のヒロインであるミリーが追いかけてきて一緒に脱出しようと言ってくれたのだった。切羽詰まっていると感じたクリードはミリーと一緒に脱出を図ろうとするが、後ろから追いかけてきたメンバーに石にされてしまったのだった。
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜
平明神
ファンタジー
ユーゴ・タカトー。
それは、女神の「推し」になった男。
見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。
彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。
彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。
その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!
女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!
さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?
英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───
なんでもありの異世界アベンジャーズ!
女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕!
※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。
※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる