VRMMOのキメラさん〜雑魚種族を選んだ私だけど、固有スキルが「倒したモンスターの能力を奪う」だったのでいつの間にか最強に!?

水定ゆう

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◇600 一陣の矢

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 Nightはボウガンの矢を射た。
 決死の想い、ここしかないと決めていた。
 しかしボウガンは意味を成さなかった。

 スープラッシュの体には確かに当たった。
 けれど当たっただけ。効果は無い。
 水泡に逃げられ、体をスルリと抜けてしまい、ボウガンの矢は地面に突き刺さる。

「参ったな……」
「あれ、負けを認めちゃうの?」

 姿は目視できていないが、声だけのやり取りが続く。
 スープラッシュはNightの手を完全に潰した。
 真価が発揮されていないとはいえ、一人でできることのほとんどはやり切ってしまった。
 HPも回復しない以上、Nightに手は無い。

「それじゃあそろそろ終わらせようかな?」

 スープラッシュは詰めに入った。
 穴熊状態のNightにとっては手痛い。
 メイスを抱え込み、指先を拳銃に見立てると、【水流弾】を蓄える。

 装填された水が弾丸の形を形成、水流弾を生み出す。
 指先に集め、今まで以上に無い特大の弾丸を用意した。
 ポコポコと気泡が水の中に上がると、今にも爆発してしまいそう。
 それを木の幹に突き付けるのだから、今まで以上の破壊力だろう。
 容易に想像が付くと、優しいスープラッシュは教えてくれる。

「この弾丸はさっきまでのとは威力も範囲も桁違いだよ。逃げるなら今の内、聡明なNightになら分かるよね?」

 完全に窘めている。Nightにとっては腹立たしいが、致し方が無い。
 ここは言葉に甘えて逃げを選択するのも一興。
 だがしかし、そんな敗北の味を啜る気にはなれない。

「……逃げないんだね。それじゃあ、死んで」

 スープラッシュの口調が冷たくなる。
 観察していたNightは目の色が変わったスープラッシュを見ていた。
 殺し屋の目。躊躇いを消し去り、暗殺者としての狙撃手としての本能を覚醒させた。

「バァン!」

 スープラッシュが口で効果音を付けると、水流弾は勢いよく放たれる。
 反動が強いのか、スープラッシの右腕が大きく上がる。
 肩が外れてしまいそうだったが、水流弾はもう自由の身。放たれると、目の前の木を狙っていた。当たれば確実に気を薙ぎ倒し、樹皮だけではなく風穴を開ける。
 そうなれば仮に無事でも損傷は免れない。Nightは逃げようとするが、絶望の弾丸はまだ残っている。

「見つけたよ」

 スープラッシュは第二の弾丸を隠していた。
 小さく残っていた弾丸の残りが、丸い鉛球に変わる。
 Nightの動きをよく捉え、ほんの少しの迷いさえ断ち切った。

「バァン!」

 最初から第一の弾丸は囮だった。
 本命は第二の弾丸。Nightが逃げると予想していた証拠だ。
 中々に食わせ物。頭の切れる相手に、Nightは笑みを浮かべる。
 正直、残ったHPやパラメータの差的にも、Nightに勝てる可能性は……

 バシュン!

 その瞬間、空気を切り裂く音がした。
 風切り音が耳鳴りのように聞こえ、Nightとスープラッシュは耳を押さえる。
 当然だが鼓膜は破けていない。音も広がらない。むしろ一瞬だけ、”弦を弾いたような音”が聞こえると、ソレは、全てを射抜く一陣の矢は放たれた水流弾を突き破った。

 パァーン!

 水流弾が破裂すると、大量の水飛沫が上がった。
 爆発物の要因だったが気泡が空気に解け出し、一気に広がってしまう。
 本来の働きを失った弾丸は散ってしまうと、霧散した中に一本の矢が落ちていた。

「えっ、一体何処から!? もしかして【水流弾】を狙ったの!?」
「この矢は……相変わらず、神業だな」

 こんな芸当ができる人間を、スープラッシュは知らない。
 いや、知っているのだろうが、その実情を知らない。
 圧倒的な神業を目にした二人は立ち止まると、何処からか声が聞こえた。

「ふぅ。間に合ったわね」

 木々達の奥の奥。遠く果てから少女の声。
 Nightは口角を上げるが、スープラッシュにとっては恐怖。
 突然の狙撃手に怯えると、震えた指を構えた。
 【水流弾】を放つ用意をすると、声を張り上げる。

「そこにいるのは誰ですか!」
「誰って、全く失礼ね」

 思いもよらない強気な返答。
 スープラッシュは動揺で目が泳ぐと、【水流弾】を蓄える。
 水が集まり、爆発物の気泡が内包されると、音も無くそれより早く矢が射た。

「誰!?」
「どうしてここにいるんだ」

 スープラッシュは視線を向けた。対してNightは顔を向けない。
 むしろ苛立った様子で、腹の奥で蒸し返す。
 何せここにいてはいけない仲間の一人だ。それが如何してここにいるのか、戻ってきたのか、Nightには分からなかった。

「お前、どうして戻って来た!」

 Nightは無性な怒りで声を荒げた。ここまで一人で戦って来た意味が無い。
 苦戦を強いられ、今にも術が無くなってしまいそうな中、戻って来てくれたせっかくの味方に対する仕打ちじゃない。
 それは分かり切っているので、少女は物申す。

「戻って来たって、助けてあげたんだから感謝しなさいよね」
「ふん、感謝か。……それより、戻って来たなら手を貸せ」

 Nightの口振りはかなり厳しかった。
 けれど少女はNightの隣に立った。

「本当可愛くないわね」
「悪かったな、可愛げが無くて」
「そんなこと言われると、私が悪いみたいでしょ? 分かったわよ。で、倒せばいいのよね?」
「そうだな。だが強敵だぞ」
「そんなの知ってるわよ。はぁ……それじゃあ行くぜ!」

 Nightの隣に立った少女は手にした弓を薙刀に変える。
 仮面を被り、正確も演じた。
 荒々しくなった少女ベルは薙刀を突き付けると、スープラッシュを威圧した。
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