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村亡編

442.せっかくなので誘ってみた

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 ルカとシルヴィアは商店街を歩いていた。
 互いに付かず離れずで隣を行く。
 ピッタリ肩が付かないレベルの空間を開けると、商店街も半分を過ぎていた。

「悪いわね、わざわざ持ってもらって」
「別にいいよ。それより凄い荷物だね」

 ルカはシルヴィアの持っていた荷物を半分持ってあげていた。
 ずっしりとした重みが両腕に伝わる。
 中を見てみれば、とにかく食材が多かった。何に使うのか。まさか家族だけで一週間以上粘るのだろうか? ルカは色んな想像が働いたが、如何やら違うらしい。

「そうなのよ。急に伯父さん達が家に来るって話で」
「そうなんだ。だからこれだけの大荷物」
「そう言うこと。一応ライとダリアにも手伝って貰っているんだけどね」

 それならばこれだけの荷物のもが合点がいく。
 それならばと、ルカは少し踏み込んだ質問を投げかけた。
 もちろん興味が湧いたからだ。

「ちなみに伯父さん達って?」
「ああ、魔術省の重役よ。いわゆる官僚ね。私の目標」
「伯父さんも官僚なんだ。エリートだね」
「そうよ。って言っても、伯父さんはお父様とお母様みたいに直接魔術に関わる外交とは違うのよ」
「そうなんだ」

 魔術省には流石に興味はない。けれど両親だけでなく家系も魔術省の官僚とは驚きだ。
 シルヴィアが目指す理由の指針にもなっているとは思うが、如何にも役職が違うらしい。
 ルカは魔術省のことを全くと言っていいほど分かっていないので、どんな役職か訊いてみた。

「ちなみにどんな分野?」
「農業よ」
「農業。それは意外だね。だけどリューネラ家の魔力属性の系譜を見れば納得はできるよ」

 魔術と農業。一見して共通点は見当たらないし、接点もない。
 けれど紐解けば悉くが繋がる。
 農業にも魔術・魔法は応用が利く。それだけじゃない。リューネラ家の風属性の魔力は土地を豊かにする風を巻き起こしてくれる。
 まさに適していると言ってもいい属性の一つだった。

「ルカはそこまで読みきちゃうのね」
「もちろん。そこまで読み切れないと魔術師は名乗れないよ」
「うっ、そんなことを言われると私が馬鹿みたいじゃない」

 別に馬鹿にはしていないし、けなすつもりはない。
 けれど唐突に千年前の魔法使いの言葉。しかもかなり特殊な部類を持ち出してしまったせいで困惑している。

「気にしなくてもいいよ。今のは私からの比喩だから」
「ルカの比喩は高次元過ぎて伝わらないのよね」
「それは言わないでよ」

 無理やりにでも誤魔化そうとした。
 けれどシルヴィアには届かず、諦めの境地で綺麗さっぱり流してしまった。

「そうだシルヴィ」
「なによ? また変な話じゃないわよね?」

 ここは気分転換に別の話題を持ちかけよう。
 何がいいだろうか。悩んだルカだったが、一つ珍しい話をすることにした。
 もちろん乗って来る保証はない。けれど面白い話題ではあったので一応誘ってみる。

「シルヴィ。私、明日からなんだけどエルフの森に行ってみようと思うんだ」
「ん? 急になんの話?」
「エルフの森に行くんだけど、シルヴィ達も暇だったら来る?」

 ルカは“エルフの森”と言った。
 シルヴィアは一瞬戸惑う。と言うよりも、むしろ困惑していた。
 首を捻り、面白くもない冗談と流そうとする。

「って、暇じゃないよね。分かってた」
「ちょっと話が見えないわ」
「ナタリー校長に頼まれて、代理でエルフの同胞を救うことになった。一人で行ってもいいけど、みんなも誘おうかと思っただけだよ。まあ、単なる気まぐれと思ってくれて構わないよ」

 シルヴィアはやはりと言うべきか、いかんせんにピンと来ていない様子だ。
 けれど誰だってこうなる。ルカも分かっていたことなのであえて深堀はせずにスルーする。

「そう言うことじゃないんだけど」
「分かるよ。誘うならもっと前以って誘えってことでしょ?」
「それもそうだけど……あー、もう。なんで今なのよ!」

 シルヴィアは頭を悩ませていた。
 そんなに悩むことでもないと思うのはルカだからだ。

「えっ、エルフの森? ちょっと待って、当然嘘よね」
「もちろん本当だよ」
「嘘じゃないのよね?」
「嘘じゃないよ。ちゃんと書状もあるから」

 亜空間の中から本物の書状を取り出した。
 シルヴィアに手渡すと、神妙な顔付きになる。
 本物だと判ったことで緊張が伝わり、手汗が滲み始めた。

「ちょっと待ってよ。これ本物じゃない!」
「だから本物だよ」
「なんでこんなことになるのよ」
「それは私が知りたいよ。いつもいつも私にばかり押し付けられて……」
「それはご愁傷様だけど、参ったわね。エルフの森なんて、滅多に行けない場所でしょ」
「らしいね」

 千年前もそうだった。エルフは高貴な存在。穢れを嫌うのだ。
 ルカも千年前のこと。当初ナタリーのあったことを思い出した。
 ナタリーに誘われ、少しだけエルフの里に訪れたこともあった。
 その時も嫌悪感が滲んでいたが、きっと今では大丈夫だろう。そう信じたくて仕方がない。

「と言うわけで誘ったよ」
「えっ、それだけ?」
「それだけ。日時は明日の朝七時。場所は竜車広場。来なかったら勝手に行くから、後は好きにしてよ。あっ、ブルースターにも声を掛けておいてね。それじゃあ私は行くから。あっ、荷物はシルヴィアの家っぽいところに飛ばしておくから。じゃあね」
「ま、待ってよ。待ちなさいよ!」

 ルカは一向に立ち止まる気配は無かった。
 振り返ることもなく、荷物を転送した。
 とりあえずやることを済ませると、今度は自分の買い物に戻るのだった。
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