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79.右半分

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「危ない!」

 ハル目掛けて飛んできたモノを僕はとっさにペットボトルで叩き落とす。

 一体何が飛んできた?

「ピンポン玉?」

 トシが呟いた通り、僕が叩き落としたモノはピンポン玉だった。

 しかし、こんな山の中でいきなりピンポン玉が飛んでくるなんて絶対にありえないおかしなことなので、僕は飛んできた方向へと視線を向けた。

 そこには、頭に紙風船を乗せ、手にはピコピコハンマーを持った猿がいた。

「えっ?えっ?」

 予想外の姿をした猿の登場にハルがかなり混乱していた。

 僕も声に出すことはしなかったが、内心ではかなり戸惑ってはいた。

 だって、紙風船を乗せてピコピコハンマーを持つ野生の猿なんて絶対いないだろうからね!

「あれは!猿賊だ!」

 僕達の戸惑いをよそに、猟師さんが急に叫んだ。

「っ!!」

 猟師さんが急に叫んだことでハルが僕の腕に掴まってきたが、立ち上がらせるのにちょうどいいのでそのまま引っ張り上げて立ち上がらせると、倒れているユウの元へ向かった。

「猿賊ってなんですか?」
「猿賊とはこの山に住む猿達のことで、キノコや山菜を取りに来た人を襲っては収穫物を奪っていく山賊のような猿達のことだ!」

 そう言いながらも焦りはない猟師さん。

 というか、大声で危機感を出しているつもりなのかもしれないけど完璧に説明口調だし、おもむろに背負っていた大きなリュックを置いて何かを取り出そうとしているところを見ると、これも1つのアトラクション的なトラブルと考えていいだろう。

 そんな僕の考えは正しかったようで、猟師さんがリュックから取り出したのは人数分の紙風船がついたカチューシャとピコピコハンマー。

「さぁこれをつけてピコピコハンマーで応戦するんだ!」
「えっと、つまり紙風船を割られたら失格で、全員やられたらこれまで採ってきた山菜やキノコを没収されるということでいいのですか?」

 こういうのはしっかりとルール確認をしておかないとね。

「そういうことだね」

 僕が問いかけると猟師さんは普通に答えてくれた。

 だったら最初から演技なんてせずに普通にルール説明してくれたほうがよかったのだけど。

「ほら!猿賊が襲って………」

 再度演技を始めた猟師さんの言葉が止まり、驚愕に目が見開かれた。

 それもそのはずだろう。

 なぜなら、猿賊達は次から次へと姿をあらわし、最終的には30匹も出てきたのだから。

「なっ!ここまでの頭数かけるような相手なのか!?」

 なぜか猟師さんの驚愕の目は猿賊達にではなく僕達に向けられた。

 というか、さっきの猟師さんの言葉からして、この猿賊の頭数は相手によって変わるらしい。

 そうなると、裏で猿賊達を操っている人物が誰なのかは自ずとわかってきた。そして、これだけの頭数をかけてきた理由もなんとなくわかってくる。

 怒ってますアピールか、僕達の実力確認か。

 どちらにせよ不甲斐ない戦いは出来ないか。

「ユウ。寝てないで起き上がって自分の紙風船守るぐらいはしてよね」

 僕はユウの腕を軽く蹴った。

「テメーらのせいでこうなってるってことを忘れるな」

 文句を言いながらも起き上がったユウはカチューシャをつけるとピコピコハンマーを手に取った。

「だから、僕とリンで相手するけど、流石にこの頭数相手だと抑えきるのはムリだから守りくらいは自分でやってってことだよ」

 僕はハルの頭にカチューシャをつけると、僕の腕をまだ掴んでいる手を離させて代わりにピコピコハンマーを握らせた。

「トシとハルもユウの近くで固まりながらムリしない範囲で自分の紙風船を守っててね」
「大丈夫なの?」

 心配そうにまた僕の腕を掴んでくるハル。

「俺も少しは戦えると思うぞ」

 トシも戦う意志を見せてくれる。

 そんな2人に僕もリンも微笑みかけた。

「大丈夫大丈夫。2人のほうが動きやすいからな」

 気軽に言いながら肩を組んできたリンの肩へ僕も手を乗せた。

「そうそう。こういう荒事は慣れたモノだからね」
「慣れてるって」
「それはそれでどうなんだ?」

 ハルは戸惑い、トシは苦笑した。

「大丈夫だから見ててよ」

 僕はハルの手を離させるとリンを見た。

「僕が右半分でリンが左半分でいいね?」
「あぁ。問題ない」

 頷いたリンは肩を組むのを止めて拳を突き出してきたので僕も拳を突き出してぶつけ合わせた。

「それじゃあ、かかってこいや!」

 そうリンが叫ぶと、猿賊達は一斉に僕達へと向かってきた。
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