君に捧ぐ花

ancco

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第三章 自立への道

第十六話 夏樹という男

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太陽の庭のウェブサイトは、あっさりと、検索結果の最上位に表示された。杏子が、はやる気持ちを抑えてURLをクリックすると、画面一面に植物のアップ画像が表示された。かつてのナツキの言葉通り、なるほど、トゲトゲと表現するにふさわしい物体であった。中心から放物線を描いて外側にすらりと伸びた軸に、左右対称に広がる小葉。その小葉ひとつひとつを縁取るのは、まるで人の手を寄せ付けないがためのような厳めしい棘である。

(こんな植物の世話をしていたら、確かに顔や手を怪我するかもしれない・・・。)

そんな風に杏子が納得していると、画像が音もなくフェードアウトし、入れ替わりに別の植物の画像が表示された。そうして次々と変わる植物たちは、そのほとんどが、棘に縁取られた葉を有していたり、棘はなくても細長く尖った葉先を有していたりと、一見厳つい様子のものであったが、一方で、柔らかな放物状の曲線が醸し出す優美な雰囲気も兼ね備えていた。葉色は、高価な宝石を思わせるような艶のある深い緑色のものもあれば、産毛か何かで覆われているのか、シルバーがかったものもあった。植物に疎い杏子には、初めて目にする品種ばかりであったが、素直に、美しいと杏子は感じた。

トップページの植物の画像にしばらく魅入っていた杏子であったが、一通り目を通し終えると、今度はサイトの隅から隅まで確認し、少しの情報も逃さないようにと努めた。
杏子が全てのページを閲覧するのには、実に数時間を要した。というのも、会社情報や商品内容、販売ポリシーなどが記載されたホームページのみならず、日々の作業や納入の様子、宮部夏樹自身の植物に対する考えなどを綴ったブログまでもが併設されていたからである。これらを読み進めていく作業は、杏子にとって、正に驚きの連続であった。心の隅で期待していた宮部夏樹の顔写真は無かったものの、冒頭のアップ画像にあったようなトゲトゲたちが、今どきのお洒落な美容室やインテリアショップに配置されている写真や、美術館や植物園のような施設のガーデンに取り入れられている写真が、次から次へと出てきたのだ。
杏子が特に時間をかけて何度も読み返したのは、ブログの中で、宮部夏樹が、植物の輸入の難しさについて語っている箇所であった。


“利益だけを考えるなら植物の輸入はさして難しくない。無事に日本に着きさえすれば、こちらで格好良く土に植え直して客先に渡せば良い。残念なことに、実際にそうしている業者は多い。植物は輸入によって大きなダメージを受ける。土を落とされ、根を洗われ、暗いコンテナに長い間閉じ込められ息を潜めて日本にやってくるのだ。そんな彼らを労らず、ただ土の中に突っ込んでも、どうして根を下ろしてくれるだろうか。青葉を広げてくれるだろうか。彼らが日本の気候に適合し、大地に根を下ろしてくれるまでは、私は誰にも売るつもりはない。もちろん、日本でいくらか面倒を見る分、コストは余分にかかってしまう。当然、売値にも反映される。けれども、太陽の庭の植物の価値をわかってくれる人は必ずいると私は思う。余所よりも多少値が張ったとしても、買ってきてすぐ枯れてしまうような品質のものでは無く、自分の庭ですくすくと育つ確信が持てる植物が欲しいと言ってくれる人は、確かに居るのだ。だからこそ、私は今日も畑に向かうことが出来る。植物の持つ生命力と、それを大事に育んでくれた海外の生産者と、そして植物の真の価値を理解してくれるお客様とに、心より感謝を込めて。”


田舎で細々と園芸業を営む泥臭い男、ナツキはそんな風に自分を見せようとしていたように、杏子は感じていた。ところが、どうだろうか。この、太陽の庭というネットショップを営む宮部夏樹という男性は、洗練された美を解する粋な男であり、営利よりも植物の命に重きを置く職人魂のようなものを有する熱い男であり、一人で営む小規模事業とは思えないほど有名処への納入実績が多い有能な男なのではないか。
杏子は、自分の知るナツキが、果たして、この太陽の庭の宮部夏樹であるのか、だんだんと自信が揺らいでいくのを感じていた。状況証拠は全て、この人物がナツキであると指し示しているのに、杏子の心がそれを否定するのだ。

杏子は、もう、確かめずには居られなかった。
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