君に捧ぐ花

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第四章 太陽の庭

第十八話 田舎と評された町

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時刻通りに到着したオレンジ色のバスに乗り込み、緩やかな傾斜の着いた県道を、右へ左へと揺られること20分。路線の終点であるそのバス停が、杏子の目的地である太陽の庭への最寄りであることは、事前に調査済みであった。

(バス代が高い・・・。)

オレンジ色ベースのツートンカラーが特徴のこのバスは、杏子が普段地元で乗っていたバスに比べ、運行距離が短いにもかかわらず、料金は倍もした。余白だらけの時刻表が示していたとおり、利用者が極端に少ないために、これくらいの料金を取らねば採算がとれないのだろうと、杏子は妙に納得した。
バスを降りて辺りを見渡すと、真新しく整備された広い車道に、規則正しく並ぶ田畑、築年数の浅そうな洋風の家々に混ざって、伝統的日本家屋が点在していた。想像していたよりもずっと開けているではないか、というのが杏子の感想であった。

関東の都市部にしか住んだことのない杏子にとって、田舎とは、山奥の集落のようなイメージであった。しかしながら、人口およそ五千人、世帯数二千あまりのこの町の住民からすれば、少なくとも政令指定都市出身の杏子を前にしては、自らの居住地を田舎と評するに違いない。
町役場の住民誘致政策により、駅前の辺りには比較的新しい住民が多いものの、沿岸部から離れ背後に山林の迫るこの地区まで来ると、代々この地に根を下ろしてきた家族がほとんどである。そのため、隣近所が皆知り合いか、下手をすると親戚ということも少なくない。
確かに、杏子が抱いた印象通り、今風の洋式家屋が日本家屋に比べ優勢となっているのだが、これも、親元に住む若い世代を補助する行政の取り組みの賜物である。この地で育った子供達が、都市部へ移住することなく、この地に居を構え子育てしてくれるように、とのことである。
杏子がバスの車内で目にしてきた、綺麗に整備された道や田畑、数々のため池に災害対策施設、人口規模にふさわしくない立派な公共福祉施設などが備えられていることこそが、ある意味、この地が田舎と称するにふさわしい場所であることを証明していた。すなわち、行政がそこまでお膳立てをしなければ、人が居付かないのである。

もっとも、瀬戸内海を代表する播磨灘を南に臨み、背後には日本海の冷たい気候を寄せ付けない中国山地を控えるこの地は、年間を通して、日照時間が長く温暖で雨の少ない気候であることから、農産業にとっては絶好のロケーションであった。
当然、農作物にとって良い環境というのは、草木にとっても良い環境であるからして、杏子が以前に調べたとおり、ナツキのような園芸業を含む、花き産業の適地でもあった。

ナツキがこの町で輸入植物のネットショップを立ち上げた経緯については、杏子は何も知らなかった。親戚筋がお節介をやくのだという彼が溢した愚痴から察するに、代々この地に根を下ろしてきた家系の末端であるのだろう。
その辺りについても、本人の口から聞いてみたいものだと淡い期待を抱きつつ、杏子は足を進めた。
終点である最寄りのバス停から、しばらく県道に沿って進むと、左手に折れて山林の方角へ上がっていく旧道があるのだ。片側一車線のその舗装道路は、山林を蛇腹に登る500メートル程の路で、どん詰まりには地元の氏神である神社が鎮座する。いわば参道とも言えるその坂道に沿って、数件の農家が軒を連ねていた。

太陽の庭は、そのホームページ上に記載された所在地からすれば、山の中腹辺りに位置するはずである。
杏子は期待に胸を膨らませ、急峻な坂道を登り始めた。
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